タックスヘイブンの問題点は? 対策についても解説
Tweetタックスヘイブンは「利用すると節税ができる」という印象がある一方、問題点を指摘されることもあります。タックスヘイブンにおいて問題視されるポイントはどこにあるのでしょうか。
本記事では、タックスヘイブンの仕組みや概要、問題点や、タックスヘイブンを使うメリットなどを解説します。
目次
タックスヘイブンの概要・仕組み
タックスヘイブンとはそもそも制度や節税の方法名ではなく、課税の免除や軽減がある地域を指す言葉です。そのため日本語では「租税回避地」や「低課税地域」とも呼ばれます。
所得税や法人税をゼロ、あるいはほぼゼロにすると海外の富裕層や企業からの投資が誘致できるので、国や地域にとって戦略的意味があります。パナマやドバイ、バミューダ諸島やシンガポール、香港やケイマン諸島などがタックスヘイブンの地域として有名です。
タックスヘイブン地域に法人を作ってそこに所得を移せば、法人税や所得税を大きく減らすことができます。また、タックスヘイブン地域には国外の収入に課税しない制度があることも多いので、日本での収入が非課税になるケースもあります。
タックスヘイブンについての詳細は、以下の記事も参考にしてください。
タックスヘイブンの問題点
タックスヘイブンを利用すること自体が法に触れるわけではありませんが、以下の問題点が指摘されています。
以降の項目で上記の問題点を詳しく解説します。
税収の減少
日本の富裕層や大企業がタックスヘイブンを利用するほど、日本は本来得られていた税収を失うことになります。
例えばスターバックスは、イギリス国内で大きな利益を上げていたにもかかわらず、タックスヘイブンを利用して10年以上も納税を回避し続けていたことがあります。また、MicrosoftやAmazonなど、誰もが知るようなグローバル企業もタックスヘイブンを使った税逃れをしていたことが明らかになっています。
脱税に利用される
前の項目で取り上げたのは租税回避の範囲ですが、タックスヘイブンは脱税に利用されることもある点が問題とされています。
日本でも大手パチスロメーカーの創始者がタックスヘイブンを使って脱税した例があり、数十億円もの申告漏れが明らかになりました。
脱税は違法行為なので、疑いがある場合は公的機関による調査が行われます。しかし、タックスヘイブン地域は資産情報への秘匿性の高さから、お金の流れを調査することが難しい特徴をもっています。また、外国の調査は主権侵害行為とみなされることもあるため、容易にはできません。さらに、脱税を行う側は告発を避けるべく知恵を巡らせるので、手段の巧妙化や複雑化も進んでいます。
マネーロンダリングや犯罪資金の温床となり得る
マネーロンダリングは日本語で資金洗浄と呼ばれる行為です。粉飾決算や脱税、犯罪行為などで得たお金を、架空の口座や他人の口座を利用するなどして何度も移動させたり、株式や債券を購入したりして資金の出所をわからなくするために実行されます。なお、資金洗浄という言葉が使われるのは、犯罪で得た「汚れたお金」を、それとわからなくすることから来ています。
タックスヘイブンは資産情報に関する秘匿性が高いので、マネーロンダリングに利用されるリスクが高く、犯罪資金の温床になることもあり得ます。
タックスヘイブンに関する事件
タックスヘイブンに関連する事件の中でも代表的な以下の4件の概要を解説します。
パナマ文書
パナマ文書とは、パナマの法律事務所から2016年に流出した内部資料を指します。パナマ文書は1,150万件もの機密文書の集合体で、この文書によって世界各国の首脳や政治家、富裕層がタックスヘイブンを使って資産の隠匿をしていたことが公表されました。
パナマ文書が世に出たことで、富裕層や権力者、大企業などが巨額の節税をしていることや、脱税をしている人もいることが明るみに出たため、政治家の辞任劇なども起こっています。
また、タックスヘイブンの利用によって税収が減っていることを問題視した国も多く、タックスヘイブンの監視を強化する動きや規制強化が活発化するきっかけになった事件としても知られています。
パンドラ文書
パンドラ文書とは、ICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)が2021年に公表した財務資料群です。内容としてはパナマ文書と同様に、世界各国の首脳やミュージシャン、政治家や起業家がタックスヘイブンを使って極秘裏に資産を蓄えていたことを明らかにした資料です。2016年に公表されたパナマ文書より件数やデータ量が多かったこともあり、各国で政治的・社会的な議論が繰り広げられました。
しかしその一方、パンドラ文書が一般のメディアで報道される率はパナマ文書流出時より少なかったともいわれています。タックスヘイブン地域の秘匿性の高さによって報道による調査が行われにくいため、パンドラ文書に名前が載っていても、本人から「違法性はない」と言われてしまえばそれ以上追及できない事案も多かったからです。
ガーンジー島事件
ガーンジー島はイギリス王室属領の島であり、タックスヘイブン地域でもあります。ガーンジー島事件とは、日本企業がガーンジー島に子会社を作ってタックスヘイブン地域の利点を利用し、日本の法人税率(当時30%)より低い税率(26%)を選択して納税していたことを背景としています。
日本の税務署は上記の企業の見解を認めず、企業が納めた税額以上の納税を要求しました。これを不服とした当該企業が裁判を起こし、係争は最高裁までもつれ込みます。裁判の結果としては原告である企業側の勝訴となりましたが、その後税制が改められ、日本ではガーンジー島を使った節税はできなくなっています。
デンソー事件
デンソーは自動車関連の部品やシステムを中心に提供する日本企業で、世界各地に拠点をもっています。
デンソー事件は、シンガポールに作られたデンソーの子会社に対して名古屋国税局がタックスヘイブン対策税制を適用したことで始まります。これは、当該子会社が同税制の適用除外基準のひとつである、事業基準を満たさないとの見解に基づく措置です。国税局の課税を不服としたデンソーが訴訟を起こした結果、二審では国税局の言い分が通りますが、最高裁ではデンソーの子会社に業務の実態があったとされ、デンソーが勝訴しました。
この裁判では海外子会社の事業基準の該当性が争点となりましたが、最高裁がその判断を示したことで、日本企業が海外に拠点を置く際の基準ができたとされています。
タックスヘイブン問題への対策・取り組み
タックスヘイブンの問題点を緩和・解消するために、世界各地で以下のような対策や取り組みが行われています。
以降の項目で、これらの対策や取り組みを解説します。
外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)
外国子会社合算税制は別名でタックスヘイブン対策税制とも呼ばれる日本の取り組みです。この税制が初めて導入されたのは1978年ですから、すでに40年以上が経過しています。
海外にペーパーカンパニーを置くことなどによる租税回避に対処する税制で、時代の流れやタックスヘイブンに関連する事件の発生などを受けて何度か改正されています。
この税制について詳しく書いた記事があるので、ぜひ以下もご覧ください。
グローバルミニマム課税
OECD(経済協力開発機構)を主体とする約140の地域や国が合意している、国際的な課税制度です。一定額以上の年間収入がある国際的企業を対象として、最低税率を15%に定めることで、納税を回避する行為や、タックスヘイブン地域への過剰な利益移転を防ぐことを目的としています。
対象は年間収益が7.5億ユーロ以上の多国籍企業なので、該当する場合ご注意ください。
国際的な税務情報の交換協定の締結
日本政府や国税庁は、海外取引に関連する課税逃れや脱税を防ぐために、多数のタックスヘイブン地域と税務情報の交換協定を締結しています。
例えばイギリスの領土であるケイマン諸島とは、2010年に政府間交渉を行って協定の基本合意を得ています。この協定では脱税や課税逃れを防ぐために租税情報の交換を行う一方、退職金などの個人所得をケイマン諸島の税制で課税免除することを認めて、ケイマン諸島側にもメリットを提示しました。
ケイマン諸島との協定はほんの一例であり、日本は2021年4月現在で、パナマやマカオなどのタックスヘイブン地域を含む143の国や地域と租税条約を締結しています。租税条約は脱税や租税回避への対応を容易にするだけでなく、海外進出する企業が自国と進出先で二重課税されるのを防ぐことにも役立っています。
ブラックリスト制度
EU(欧州連合)は税務面での協力に後ろ向きな国や地域をブラックリストやグレーリストに掲載する動きを2016年に開始しています。ブラックリストに掲載されると金融取引に関する監視が強化されるため、資金的に不利な状況に陥ります。しかし、税務面に非協力的な状態を改善するとブラックリストから除外されるので取引上の支障が減り、結果的に各国や地域での税務が良好になる仕組みです。
2018年には租税回避防止の要件が新たに加えられるなど、さまざまな工夫が随時行われています。また、必要に応じてリストへの追加や除外も行われており、多数の国や地域に租税ガバナンスの導入が進められています。
デジタル課税
インターネット環境の普及、発達によって、支店や子会社などの物理的拠点をもたなくてもグローバルに事業を展開する企業が増えました。そのようなデジタル企業はタックスヘイブンを利用することも多く、租税回避が横行していましたが、従来の制度ではその制限が難しい状況にありました。
デジタル課税は上記の問題に対応するために作られた国際的な課税制度です。これによって物理的拠点をもたないケースでも、収益に対して消費者がいる国や地域で課税を行うことが可能となりました。
デジタル課税の対象となるのは大規模な事業を展開する多国籍企業で、AmazonやGoogle、AppleやMicrosoftなどが代表的存在です。
法人がタックスヘイブンを利用するメリット
ここまで解説してきたように、タックスヘイブンに関する報道では「事件」や「脱税」、「マネーロンダリング」など不穏な言葉が使われがちで、多方面から問題点も指摘されています。
とはいえ、企業としては海外での取引を行った際に、その国と自国の両方で課税される二重課税を避けることに役立ちます。また、タックスヘイブン地域では会社をスピーディーに立ち上げることができるため、迅速に事業を進めたいときに便利です。
さらに、タックスヘイブン地域はそもそも産業や資産が少ない発展途上国、あるいは面積の小さいエリアが海外資本を取り込んで生き残る手段として形成されています。そのため、タックスヘイブンを利用することはそうした地域の発展に役立つ側面もあり、グローバルな目線からのメリットも存在しています。
もちろん脱税や犯罪目的でのタックスヘイブン利用は行うべきではありませんし、税制や法を知らないまま利用して本来得られるメリットを得られないのでは意味がありません。
したがって、関連する法や税制、メリットやリスクを踏まえて利用することが重要です。
タックスヘイブンは違法ではない
タックスヘイブンを利用することは違法ではなく、適切に利用すればメリットも多数あります。
その一方で、過去の報道のイメージもあって、利用している事実が企業としての評判を下げるリスクも考えられます。また、正しい知識がないまま利用すると、「いつの間にか脱税になっており、巨額の無申告加算税を課された」といったこともないとはいえません。
これを踏まえて、タックスヘイブンを使う際は、税制の専門家に相談することが必須と考えてください。
おわりに:タックスヘイブンを賢く活用するためには専門家に相談しよう
タックスヘイブンは収入に対する課税がゼロだったり大きく優遇されていたりする地域で、節税のために利用する企業や富裕層が多数存在します。ただ、税逃れや脱税、マネーロンダリングなどに利用されるという問題点もあるため、報道上のネガティブイメージも伴いがちです。
正しく利用すると企業としてメリットも多数ありますが、そのためには税の専門家の協力を得ることが欠かせません。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表