ファミリーオフィスとは? 日本で注目を集める相続対策としての活用
Tweet「ファミリーオフィス」は日本での認知度が低い組織形態ですが、富裕層の一族が保有する資産を運用・保全し、一族の永続的な繁栄を目的として運営されています。この記事では、「ファミリーオフィス」の概要を説明し、注目されている理由、設立方法、日本の富裕層に適したサービスなどについて解説していきます。
目次
ファミリーオフィスとは?
ファミリーオフィスとは、資産が一定額以上の富裕層を対象に資産管理および運用サービスを提供する組織を指します。その額に明確な規定はありませんが、基本的には100億円以上の資産を保有している同族・一族が対象です。ファミリーオフィスの使命は、一族の持続的成長を促し、またファミリーを構成する各メンバーが密なコミュニケーションを通じて一族が持つ理念の共有をできるように促すことにあります。まずはファミリーオフィスの特徴について解説します。
資産管理の専門家を集めた「究極のプライベートバンク」
資産管理の手段として「プライベートバンク」があります。プライベートバンクは、顧客ごとにオーダーメイドの資産運用や投資アドバイスを行うもので、所有する資産を増やすのが主な目的です。そのため、金融関係の会社や専門家のコンサルティング契約や顧問契約が一般的です。
一方、ファミリーオフィスでは、一族の持続的成長を促すため、個人で保有する金融資産の管理だけに留まらず、子息の進学や法人の資産なども含めて、将来を見据えたより計画的な戦略を組む企業です。具体的には、法律・財務・教育など様々な専門家が1つのチームとなって取り組みます。特に、現金や株式といった特定の金融資産を対象にするのではなく、多様な視点からより包括的に管理を行う点がプライベートバンクとの大きな違いです。
ファミリーオフィスと資産管理会社の違い
ファミリーオフィスと似た役割を担うサービスを提供する「資産管理会社」が存在します。こちらは顧客となる一族のもつ株式や不動産などの資産を保有し、運用するための器としての役割に特化しています。
一方、ファミリーオフィスは、管理や運用の対象が一族の有形資産に加えて無形資産(一族が共有する価値観や使命、社会からの信用や評価など)の承継にまで及ぶという点で大きく違います。したがって、ファミリーオフィスが持つ役割のなかに、資産管理会社の果たすべき役割が含まれていると言えます。そのため、無形資産の形成に時間を割く余裕がない一族や、無形資産が個人レベルに留まっている現状を打破し、将来的に無形資産を大切にしながら永続化を試みようとする一族は、ファミリーオフィスの設立に向いていると言えるでしょう。
なぜ必要? ファミリーオフィスがいま日本で注目を集める背景
日本では、創業者の一族が企業経営を担っている、もしくは株式を保有している企業が全法人の9割以上を占めると言われています。しかし、100億円以上規模の資産を保有しているファミリー向けのサービスであっても、ファミリーオフィスの普及が進んでいないのが現状です。ここでは、日本では欧米のようにファミリーオフィスが普及しなかった理由と、日本のなかでのファミリーオフィスが今後どのように位置付けられていくのかについて紹介していきます。
欧米と比較して、ファミリーオフィスが普及してこなかった日本
日本の伝統的なファミリービジネスは長期的に経営が続いても、それに伴って規模が大きくなっているとは言えません。それどころか発展することなく現状維持または規模が縮小している企業が大半です。
つまり、売上高10億円に満たないファミリービジネス企業が多くを占める日本では、資産規模の大きい一族を対象とするファミリーオフィスの仕組みが欧米と比べて普及しませんでした。ほかにも、一族の事業の経営方針に対してコンセンサス(同意形成)をとる組織を新設することに対する懸念や、日本人の預金第一主義が資産運用への意識を低下させている現状も影響しているでしょう。これらの状況を踏まえると、日本でファミリーオフィスが普及してこなかった歴史にも納得がいきます。
一躍注目を浴びるきっかけとなった「アルケゴス問題」
日本では「ファミリーオフィス」はほとんど普及しておらず、秘密のベールに包まれた存在でした。それが一躍注目を浴びるきっかけとなったのが「アルケゴス問題」です。
これは2021年3月~4月にかけて、欧米や日本の金融機関が多額の損失や今後損失が発生する可能性を公表した事件です。その引き金となったのが、アルケゴス・キャピタルというファミリーオフィスが引き起こした投資の失敗でした。その影響は金融機関にまで及び、「クレディ・スイス・グループ」や「野村ホールディングス」などが多額の損失を計上する結果となりました。皮肉にも、この出来事が「ファミリーオフィス」の存在を日本に広め、注目されることとなったのです。
相続対策や資産管理、事業継承のために設立を検討する人が増加
前述した「アルケゴス問題」によって日本にも広まったファミリーオフィスは、相続対策や資産管理、事業継承など「資産を守る」ことを重視したい富裕層から注目を浴びるようになりました。特に、日本は相続税率が最大55%と海外に比べて非常に高いため、税金を納付するために資産を手放す事例や、相続人が増えることで発生する相続闘争によって一族の絆が崩壊するなど、事業継承がうまく進まない事例が散見されます。そのため、日本においても銀行や証券会社などの金融機関に見切りをつけ、資産を守るためにファミリーオフィスの設立を検討する人が増加しました。
ファミリーオフィスで提供されるサービスの例
ここからは実際にファミリーオフィスを設立する場合、顧客となる一族がどのようなサービスを受けることができるのかを項目別に説明していきます。
資産管理に関わる会計・経理事務
富裕層一族の資産はすべてが複雑に絡み合っており、例えば納税申告1つをとっても申告漏れや節税の恩恵を受けられないなどデメリットが多数存在します。そこで、ファミリーオフィスでは一族の資産に関する会計・経理業務・税務申告などに関わる管理を包括的に実施します。
その際に会計や税務など各種専門サービスに対して個別で会計士や税理士を雇用すると、コストの面で負担が大きくなってしまいます。しかし、ファミリーオフィスのように一族全体の資産を総合的かつ包括的に管理する方法であれば、コストや管理の煩雑さを軽減できるのは確実です。また、税務については行政事務に加えて法務手続きなども必要であり、資産額に応じてその煩雑さは増していきます。特に、資産税は高度な知識と経験が必要で、これは一般的な税理士には対応の難しい場合もある業務であり、その道のスペシャリストに依頼するしかありません。
投資に関する助言・アドバイス
ここで述べるアドバイスとは、単に金融資産や不動産への投資の関する情報を提供するだけではなく、一族に適した金融機関を選定し、監視する業務も含みます。例えば、金融機関の中には一族の莫大な資産を狙い、金融機関にとって都合のいい投資信託や株式など紹介してくるケースがあります。これを鵜呑みにして金融機関へ投資全般を丸投げすると、金融機関にとっての「金のなる木」と化してしまう恐れがあるため注意が必要です。そうした不利益から守る役割も担います。
資産・事業継承に関する計画の策定、および実行
欧米の国々と比較して相続税の負担が大きい日本においては、資産・事業継承に関してより適切で効果的な計画の立案と実行が求められます。例えば、金融資産と不動産の相続税負担には大きな違いがあるため、事業本体への影響を最低限に留めながら、これらの組み換えを行い、最適な資産承継を実現するといったサポートが挙げられます。
医療や教育(ライフスタイルサービス)に関する助言や監視
資産内容に適した医療や教育(ライフスタイルサービス)に関する助言を提供する一方で、それらを提供する委託先を選定し、監視するという役割も担います。具体的には、趣味や嗜好品に合わせてクルーズ船や高級車などの贅沢品や、ジュエリーなど高価なコレクションの取得をサポートすること、子供や孫に英才教育を施すこと、常に安全を確保できるようセキュリティを万全にすることなどのコンシェルジュ・サービスが代表的です。近年は、医療体制の確保を重視するニーズが多く、ありとあらゆる状況に対応できるように「救急医療・重篤な症状に対する最先端で最高峰の医療技術」を提供するサービスを重視するファミリーオフィスも増えています。
一族の人間関係の調整、絆の強化
見落とされがちですが、富裕層一族の中での争いを処理し、調整するソフト面の対応も極めて重要な業務のひとつです。特に、今現在の経営者と後継者との間に入って、双方の「対話」を引き出さなければなりません。実の親子、従兄弟、義父母など案件によって立場が異なるため、状況に応じた調整役としての機能は一族にとって大変重要です。個々で性質が異なるメンバーが一族として集合しているため、その調整が困難を極めることは想像に難くありませんが、その存在が一族の絆をより深い次元へと導くことでしょう。
ファミリーオフィスの主な種類
ここからはファミリーオフィスの種類について、資産規模やそのニーズを解説していきます。
一族が単独で運営する「シングル・ファミリーオフィス」
はじめに、一族が独自に運営する「シングル・ファミリーオフィス」について紹介します。こちらは資産規模100億円以上が目安で、超富裕層の一族が財産の管理を目的に設立する専属の組織です。
この形式では、独立した法人に専門的人材を雇用し、運用成果のチェック、会計の記録や決算・税務申告などを包括的に徹底的に管理します。また、富裕層一族の資産を狙う商品やサービス等の売り込みに対して「ゲート・キーパー」の機能も併せ持ちます。他にも、一族の価値観を次世代に承継していくため、慈善活動や子どもの教育など多岐に渡るサービスを提供してくれます。
複数の一族が顧客となる「マルチクライアント・ファミリーオフィス」
次に複数の一族が顧客となる「マルチクライアント・ファミリーオフィス」について解説します。こちらは資産規模50億円~100億円程度を保有する複数の一族の資産を管理する組織です。具体的な業務はシングル・ファミリーオフィスとほぼ同じです。
中には、資産規模の拡大を目的にして既存のシングル・ファミリーオフィスにほかの富裕層一族が合流し、影響力の大きな組織を築く場合もあります。ただし、これらのファミリーオフィスは、知識と経験に優れた専属スタッフを永続的に雇うため、報酬や運営コストが大きく、資産規模50億円以下の一族にとってハードルが高い形態と言えるでしょう。
プライベートバンクや金融機関のサービスを活用する「コマーシャル・ファミリーオフィス」
最後に、資産規模10億円~50億円程の一族を対象とした「コマーシャル・ファミリーオフィス」を紹介します。こちらは、プライベートバンクや金融機関・会計事務所の担当者などが、資産運用や事務管理サービスを提供するものです。実態として法人が存在するわけではないため、厳密に言うとファミリーオフィスではありません。
しかし、資産管理役を選任し、実績のある専門家が集いチームを構築することで、お互いの考え方を共有し、より強固な体制を構築します。そのため、簡易的なファミリーオフィスとしてコマーシャル・ファミリーオフィスのニーズが近年高まっています。
大切な資産を守るために。 これからファミリーオフィスを設立する方法
ファミリーオフィスの設立は、大切な資産を守り一族を永続的に成長させることが最大のミッションです。したがって、「資産が多い」=「ファミリーオフィス設立」という考え方ではなく、一族のビジョンを明確にした上での設立を検討するとよいでしょう。最後に、実際にファミリーオフィスを設立する方法を解説します。
持ち株会社へファミリーオフィスの機能も担わせる
シングル・ファミリーオフィスを設立する方法として、一族が株主で、なおかつ一族の事業をコントロールできる資産管理会社や持ち株会社にファミリーオフィスの機能を設置する方法があります。この方法を選択する場合は、資産管理会社や持ち株会社の株主に一族および一族の事業に対する方針の決定権があるため、ファミリーオフィスの構想に賛同しているメンバーに株式を所有してもらうとよいでしょう。
その一方で、株式を保有していない一族のメンバーにも、こまめに事業報告や活動の成果を共有する必要があります。その理由は、この形式のファミリーオフィスにおけるビジョンや思想といった一族の無形資産が、定期的な情報共有による信頼で確固たるものになることが多いためです。
各企業が提供する「ファミリーオフィスサービス」を活用する
前述した通りシングル・ファミリーオフィスを設立するためのハードルは高いため、現代では、ファミリーオフィスの機能をサービスとして提供している企業が増えています。相続対策・事業承継・資産管理でお困りごとがある場合は、各企業が提供する日本版のファミリーオフィスサービスを活用するところからはじめてみてはいかがでしょうか。
おわりに:資産・事業承継、相続で困ったら専門家に相談を
資産・事業継承に関する計画を策定し、それを現段階で実行するのは当世代のメンバーです。したがって、永続化のため保有する資産や一族の価値観を次世代につなげ成長を持続していくためには、当世代がファミリーオフィスを設立し、一歩を踏み出さなければなりません。
また、近年の経済情勢を鑑みると、一族と一族の事業が保有する資産は有形・無形を問わず、失われるリスクが増大するばかりです。これを機に挑戦してみてはいかがでしょうか。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
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