相続の知識

美術品・骨董品の相続税を詳しく解説|評価方法や相続税対策

経済的価値の高い美術品・骨董品は相続税の課税対象に含まれます。もしも相続対策を疎かにすると、高額な税金を納付する必要が生じる場合もあるので注意しなければいけません。そこで本記事では、美術品・骨董品の評価額の算定方法や納税猶予制度の概要など、相続税対策に役立つ情報をわかりやすく解説します。

美術品・骨董品は相続税の課税対象になる

まず前提として、美術品・骨董品も、相続税の課税対象となる財産に含まれます。これらの品は一見して価値がわかりにくいこともあり、過少申告をしたり無申告のまま相続したりするなど税金逃れに使われることも少なくありません。しかし、税務署もこの点は重々承知しているので、厳しいチェックを行い、無申告や過少申告をしたものに対しては重加算税などの厳しいペナルティを適用します。そのため、美術品・骨董品の相続に際しては、その品の価値を正確に把握し、適切に申告することが重要です。

なお、1点5万円以下の美術品・骨董品に関しては個別に相続税の申告を行う必要はありません。こうした品は家財として扱い、「家財一式●万円」という形で一括りに相続税の申告書へ記載することが可能です。

美術品・骨董品の相続税評価方法

過少申告などでペナルティを受けないようにするためには、美術品・骨董品の相続税評価を正確に行うことが重要です。相続税評価額は、相続開始時点(被相続人が亡くなった日)における価格(時価)が該当します。
美術品・骨董品の評価額を算定する方法は、「売買実例価格」と「精通者意見価格」の2つです。

売買実例価格での評価方法

市場で実際に取り引きされている価格を基準とする方法です。たとえば、被相続人がその美術品・骨董品を購入した際の売買契約書があれば、そこに記載された購入額を参考にできます。とはいえ、これはあくまで購入時点での価格にすぎないので、現在の時価とは大きくズレている可能性もある点に注意が必要です。そのため、この方法は市場に広く出回っており、市場価格が明確な品を評価する場合に限って採用することをおすすめします。特に購入から長い年月が経過した品に関しては、次に紹介する精通者意見価格を採用しましょう。

精通者意見価格での評価方法

専門家に鑑定してもらって時価を算定する方法です。専門家はその品の真贋や希少性、芸術的・歴史的・学術的な価値などを調査し、その結果をもとに鑑定評価書を作成してくれます。鑑定料は相続財産から控除されないため自己負担する必要がありますが、正確に評価額を把握して相続トラブルを避けるためにはこの方法を採用したほうが安全です。特に歴史的価値のある作品など、市場価格が明確にわからない希少品を評価する場合に適しています。

特定美術品は納税猶予・免除制度がある

被相続人が美術館や博物館などに長く寄託していた品を相続したという場合もあるでしょう。こうしたケースでは、一定の条件を満たした場合に限り、課税価格の80%に対応する相続税を納税猶予、または免除してもらえる可能性があります。以下では、その具体的な条件を解説します。

対象となる特定美術品

この制度の対象となるのは、特定の要件を満たした美術品です。文化庁によると、「国宝、重要文化財の美術工芸品及び登録有形文化財の美術工芸品のうち世界文化の見地から歴史上、芸術上又は学術上特に優れた価値を有するもの」が該当します。

引用元:文化庁|特定の美術品に係る相続税の納税猶予制度について

納税猶予と免除の条件

上記の特定美術品に関して納税猶予または免除を受けるためには、以下の条件を満たすことが求められます。なお、猶予されるのは課税価格の80%に対応する相続税です。

猶予の条件

  • 文化財保護法に基づいた保存活用計画が文化庁に認められ、長期寄託契約を締結した上で、当該の特定美術品が博物館法で規定された博物館などの施設に寄託されている
  • 相続(遺贈)した後も、寄託相続人が特定美術品の寄託を継続する
  • 納税猶予額+利子税額に見合う担保(対象の美術品でも可)を提供する

さらに、以下のいずれかに該当する場合は、猶予されていた相続税が免除になります。

免除の条件

  • 寄託相続人が死亡した
  • 特定美術品を寄託先の博物館などに寄贈した
  • 特定美術品が災害などによって棄損・減失した

美術品・骨董品を相続する際の対処方法

美術品・骨董品を所持していた場合、どのような相続対策が有効なのでしょうか。主に考えられる対処方法は以下の通りです。

  • 売却する
  • 生前贈与する
  • 美術館などに寄託する
  • 相続税を物納で納付する
  • 国や自治体に寄付する

売却する

生前に美術品・骨董品を売却しておく方法です。あらかじめ現金化しておけば、相続時に時価を調査する手間などを省けるので、相続人にかかる事務的な負担を減らせます。売却で得たお金を相続税の納税資金として転用することも可能です。ただし、購入時よりも高値で売れて売却益が出た場合、その利益分に関しては所得税の課税対象(譲渡所得)として扱われます。

生前に美術品を贈与する

生前に贈与を済ませてしまうのもひとつの方法です。暦年贈与の非課税枠(110万円/年)や、累計2,500万円までの非課税枠を使える相続時精算課税制度を活用することで、死後に相続するよりも税負担を抑えられる可能性があります。また、美術品・骨董品は時間を重ねるごとに価値が増し、評価額が高まっていくことも少なくありません。こうしたケースでは、相続発生時まで待つより、評価額が比較的低いうちに生前贈与をしたほうが税負担を抑えられるのもメリットです。

美術館に寄託する

前章で紹介した通り、美術館・博物館などに寄託されていた「特定美術品」に関しては、相続後も寄託を継続することで課税価格の80%に対応する相続税を猶予してもらえます。特定美術品を所有している場合は、この制度を利用するために、美術館・博物館にその品を寄託するのも有効な手法です。ただし、寄託契約を終了した場合は、猶予されていた相続税の全額に加えて利子税を納付する必要がある点にはご注意ください。

美術品・骨董品で相続税を物納する

現金の相続財産が少ない場合は、所有している美術品・骨董品を物納して相続税の納付に充てることも選択肢に入ります。基本的に相続税の納付は現金で行います。例外として現金での納付が難しくて物納が認められる場合も、金融資産(株式や国債証券など)や不動産のほうが優先順位は高いので、美術品・骨董品のような動産の物納が認められることはそれほど多くありません。ただし、その他の方法で相続税の納付が難しい場合や、特定美術品のようにとりわけ価値の高い品の場合は、物納が認められる可能性もあります。

国や自治体へ寄付する

国や自治体に寄付することで、その美術品・骨董品の相続税を非課税にできる場合もあります。ただし、国や自治体も何でも寄付を受け入れるわけではないので、この方法を採用するには、美術品が一定の文化的価値を持っていることが前提です。また、寄付は、原則として相続税申告の期限である10か月以内に行わなければいけません。

美術品・骨董品を相続する際の注意点

美術品・骨董品の相続に際してトラブルを避けるためには、以下の点を理解しておくことが重要です。

  • 精通者意見価格を確認する重要性
  • 納税猶予手続きの難解さ

鑑定料を惜しまず精通者意見価格を確認する

美術品や骨董品の相続に際しては、その価値を正確に評価するために精通者意見価格を確認することを強くおすすめします。一見すると大した価値がなさそうでも、その界隈では垂涎の品である可能性もあります。また、売買契約書などで金額を確認できる場合でも、現在の時価がその通りのままでいるとは限りません。そのため、相続した美術品・骨董品は、精通者意見価格で評価したほうが賢明です。鑑定料はかかりますが、正しく相続税申告を行い、余計な出費やトラブルを避けるためには、必要な投資と割り切るべきです。

納税猶予の手続きを個人で行うのは難しい

特定美術品を所持している場合は、納税猶予の制度を利用するのが相続税対策として大いに役立ちます。しかし、この制度を利用するには、美術館と寄託契約を交わしたり、文化庁の認定を受けたりする必要があるため、個人で対応するのは知識の面でも手間の面でも非常にハードルが高いです。その困難さ・煩雑さは、相続税申告を上回ります。そのため、納税猶予の制度を利用することを考えている方は、早めに税理士などの専門家に相談するのがおすすめです。

美術品・骨董品の相続は早い段階で税理士に相談しよう

美術品・骨董品も相続税の課税対象です。これらの品の相続税評価額は時価から算出することを求められるので、基本的に専門家に鑑定してもらうことをおすすめします。まだ相続が発生していない場合は、売却や生前贈与などの対応をするのも有効です。美術品・骨董品の扱いも含めて、もし相続に関して疑問や不安があれば、税理士法人レガシィへぜひご相談ください。相続専門の税理士法人レガシィは日本最大級の実績をほこり、相続に関して確かな知見を持って対応できます。

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この記事を監修した⼈

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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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