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相続の知識

納税猶予の特例で農地などの相続税が免除される?

亡くなった方(被相続人という)が生前に築いた財産を、その方の配偶者や子どもなどの親族が受け継ぐことを「相続」といいます。そして、その財産が一定の額を超えた場合、原則として「相続税」が課せられることになります。
その財産のなかには先祖代々受け継がれてきた土地が含まれている場合もあります。たとえば「農地」がその代表的なものでしょう。この農地を相続するにあたっては「納税猶予」という大変有利な特例があります。猶予とはいうものの、実質的には「免除」に等しいため、農地を受け継いだ後にずっと農業を続けていく考えの人にとっては活用したい特例です。ただし適用にはいくつかの要件があるので、しっかりと理解をしたうえで活用したいものです。この記事では農地の納税猶予を中心に解説いたします。

農地の納税猶予とは?

「農地の納税猶予」とは、農業を営んでいた被相続人が亡くなった時、その農地を相続した人が引き続き農業を行う場合に一定の相続税額の支払いを猶予するという特例です。要は「農業を継ぐ人は税金が優遇される」ということになります。

農地の納税猶予で猶予される税額

特例を適用して計算した具体的な例をみてみましょう。
以下の条件で相続が発生したとします。

------------------------------------------
法定相続人の数:1人
相続財産:合計6億1,000万円

【内訳】
自宅:1億円
農地:[通常評価]5億円 [農業投資価格※]1,000万円
現金:1,000万円
------------------------------------------

細かい説明は省略しますが、この場合、通常の計算方法を用いると相続税は次のように算出されます。

  • 基礎控除後の遺産額:5億7,400万円

【計算式】
遺産総額(1億円+5億円+1,000万円) − 基礎控除額(3,000万円+600万円×1人)

  • 相続税額:2億4,500万円

【計算式】 基礎控除後の遺産額(5億7,400万円) × 相続税率(50%) − 控除額(4,200万円)

通常の相続税額は2億4,500万円ですが「農地の納税猶予」の特例を用いると、次のようになります。

  • 基礎控除後の遺産額:8,400万円

【計算式】
遺産総額(1億円+1,000万円+1,000万円)− 基礎控除額(3,000万円+600万円×1人

  • 相続税額:1,820万円

【計算式】
基礎控除後の遺産額(8,400万円) × 相続税率(30%) − 控除額(700万円)

両者の相続税額に違いがあるのは、土地(農地)の評価額の違いに由来します。通常の場合は5億円の価値がありますが、この特例では「農業投資価格※」という非常に低く設定された価格で計算をするのです。

※ 農業投資価格
農地等が恒久的に農業の用に供される土地として自由な取引がされるとした場合に通常成立すると認められる価格として国税局長が決定した価格

出典:農林水産省ホームページ『農地に関する税制特例について』

納税が猶予されるのは通常の計算で算出した相続税額から、特例を使って算出した相続税額を差し引いた額です。上の例でいえば【2億4,500万円−1,820万円】で猶予される額は【2億2,680万円】にも及びます。

納税猶予の対象となる農地

納税猶予の対象となる農地は、以下の通りです。

市街化区域内の農地等

  • 三大都市圏の特定市・・・・生産緑地
  • 三大都市圏の特定市以外・・・農地等

市街化調整区域内の農地等

農地とは「農地・採草放牧地・準農地」のことを指しますが、上記以外の農地は特例の対象外となるので要注意です。また、適用される農地の例としては次のものも含まれます。

  • 災害や病気など一時的な理由で現在は耕作されていないものの、いつでも耕作ができる休耕地
  • 植木が植栽されている土地
  • 販売を目的に盆栽を育成管理している土地

なお、家庭菜園や工場の敷地で一時的に耕作している土地、観賞用の盆栽を育てている土地は農地には該当しません。

納税猶予の利用に必要な書類

農地の納税猶予の特例を適用されるには、以下の書類をそろえて税務署に提出する必要があります。入手先もそれぞれ異なるので注意してください。なお、納税猶予を受け続けるには、農業を継続していることの届け出を3年ごとに行う必要があります。

必要書類 入手先
相続税の納税猶予に関する適格者証明書 農業委員会
特例適用農地の明細書 農業委員会
納税猶予の特例適用の農地の該当証明書 市役所
担保提供書 税務署
抵当権設定登記申請書 法務局

農地以外に納税猶予が対象となる項目

農地の納税猶予の特例が設けられている理由は、相続人である「農業の後継者」を守ることにあります。相続によって高額な相続税が課せられると相続人は農業を続けていくことに困難をきたすため、それを回避するための特例といえます。

同じような理由で農業以外の分野でも、こうした後継者を守る特例が設定されています。主なものとしては、次の分野が挙げられます。

  • 株式(非上場株式)
  • 山林
  • 医療継続

それぞれ簡単に説明していきましょう。

株式(非上場株式)

中小企業の事業継承の円滑化を図るために設けられているのが、「非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等」です。事業の後継者となる相続人が、会社の株式を取得した場合、その株式に関わる相続税の納税が猶予されます。

山林

日本の森林や林業を守るために設けられているのが、「山林についての相続税の納税猶予及び免除の特例」です。林業経営の後継者となる相続人が払う相続税のうち、山林の価額の80%に相当する分の納税が猶予されます。

医療継続

地域医療を守るために設けられているのが、「医療継続に係る相続税の納税猶予等の特例」です。医療法人の持分を相続した相続人が払う相続税のうち、一定の要件を満たすことで、その納付が猶予されます。

納税猶予を活用する判断基準

農地の納税猶予の猶予期間ですが、細かい条件はあるものの、基本的には次のいずれかとなります。

  1. 相続人が死亡するまで
  2. 20年以上農業を続けた場合
  3. 農地のすべてを後継者に一括生前贈与し、その贈与税について納税猶予の特例を受ける場合

猶予といいながらも実質的には「免除」であることがおわかりだと思います。農業を続けていく意思のある相続人にとっては大変有利な特例となりますが、そうではない相続人にとってはメリットは感じられないでしょう。

この特例の適用を受けた農地を他人に譲渡した場合や農業を途中で辞めた場合は、猶予されていた相続税は一括で納付しなければなりません。また、それに加えて利子税も払う必要があります。それを考えると、一生農業を続けていきたいという相続人が活用すべき特例といえます。

農地相続の基礎知識

農地は土地のなかでも特殊な扱いをされていて、一般の土地のように自由に売買をしたり贈与をすることができません(「農地法」という法律によって規制されています)。
ここからはそうした農地の扱いや農地相続に関する基礎的な知識について説明していきます。

農地相続に許可は不要だが届出は必要

農地を売買したり、贈与をする場合には農業委員会または都道府県知事の許可が必要です。一般の土地とは違って、自由に名義を変更することはできないのです。これは食糧自給の観点から優良な農地を確保しておきたいことと、農業離れを防止するためのものです。ただし、相続に限っては許可は必要ないことになっています。

許可は必要ありませんが、届け出は行わなければならないという決まりはあります。農地を相続した場合、被相続人が亡くなってから10か月以内に地域の農業委員会に届け出なければなりません。もしこれを怠った場合は、10万円以下の罰金が科せられることがあります。なお、専用の届出書は農業委員会に用意されています。

農地の売買や贈与には許可が必要

くり返しになりますが、農地は自由に売ったり買ったり、あるいは贈与したりすることはできません。それが許されると国土から農地がどんどん減っていくことになりかねないためです。国土の狭い日本においては食糧を生産する農地は貴重な存在なのです。
しかしこれは、農業を継ぐ気持ちのない相続人にとっては逆に足かせになってしまうことも否めません。農地を農地のまま売却するには農業委員会の許可が必要で、その売却先も農業を営んでいることが最低限の条件となるからです。そのため、売却には時間がかかってしまうことになります。なお、農地を農地のまま売却する場合に必要な許可は農地法で「第3条許可」と呼ばれています。

農地を勝手に宅地にできない

「農地を農地のまま売却するのが難しいなら宅地にすればいいのでは?」と思う人もいるかもしれません。実際に、つい最近まで田畑だった土地が更地に変わり、やがて新築の家が建ち始めたという光景を目にしたことのある人も少なくないでしょう。
このように農地を農地以外の目的で使うことを「農地転用」といいます。ただし、ここでも自由に売却することはできません。農地転用をするには農地法でいう「第5条許可」が必要で、都道府県知事の許可が必要となってくるのです(指定市町村の場合は市町村長。例外的に農業委員会の場合も)。
なお、売却をせずに農地を自分用の宅地にするにも、やはり都道府県知事の許可が必要です。これは農地法で「第4条許可」と呼ばれています。

おわりに:農業を続けるなら納税猶予を活用しよう

国土の狭い日本にとって、農地は貴重な存在です。そのため勝手に売ったりゆずったりができないように法律で規制されています。相続の場合は許可不要で農地を受け継ぐことができますが、こんどはそれを売ろうとしても簡単にはいかないことになります。
農業を継ぐ予定であれば売却を検討することもなく、納税猶予という大きな節税効果のある特例が用意されています。実質的には納税の免除なので、後継者となる方はこの特例を使わない手はないでしょう。

記事のなかでもふれたように、農業を続ける考えで農地をそのまま相続したとしても、あるいは農地のままか農地転用で売却するとしても、許可や届け出は必要です。相続税の申告に関しても一般的な相続とは違い、より専門的な対応が求められてきます。
そうした点で不安や心配な面があれば、税の専門家である税理士に相談することをぜひ検討してみてください。相続税に関する実績が豊富な税理士なら万全の体制でサポートしてくれますし、特例の適用に関しても安心して任せることができます。先祖代々受け継いできた大切な農地だけに、相続の際にはことさら慎重な対応が望まれます。その意味でも、税理士への相談が安心の第一歩といえるでしょう。

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この記事を監修した⼈

陽⽥ 賢⼀

陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

武田 利之(税理士)

武田 利之税理士法人レガシィ 社員税理士

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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