相続の知識

相続税の納付・申告期限はいつまで?申告時のコツ3選も紹介

相続で財産を取得し、その合計額が基礎控除額を超えている場合、相続税の申告をしなければなりません。その手続きのためにやらなければいけないことはたくさんあるばかりか、かなり複雑です。さらに期限を過ぎてしまうとさまざまなデメリットがあります。期限に遅れないための対策法をご紹介するとともに、コロナ禍での最新事情もご紹介します。

相続税の申告・納付期限は「10か月以内」がポイント

亡くなった方(被相続人という)の遺産に対して相続税がかかる場合、相続開始を知った日(通常は被相続人の死亡日)の翌日から10か月以内に相続税の申告・納税をしなければなりません。
「相続開始を知った日の翌日から10か月以内」を具体的にいうと、通常は「亡くなった日の10か月後の同じ日」です。たとえば死亡日が1月15日であり、その日に知ったとすれば、11月15日が申告期限です。相続税を支払う期限、すなわち納付期限も同じ日です。この申告・納税期限に基本例外はありません。

相続税を現金納付する場合には10か月以内に納めなければなりませんが、そのほかの納税方法での延納や物納を選択する場合も申告期限(10か月以内)までに申請書を提出する必要があります。

期限の「10か月」を数える時の例外9つ

先程「申告・納税期限に基本例外はありません」と述べましたが、「基本」というからには、実際には例外がいくつかあります。それら例外にはおおまかに9つのパターンが考えられます。ここから一つ一つ紹介していきます。

①申告期限日が土日祝日である

亡くなった日の10か月後の同じ日が土日祝日だった場合、相続税の申告・納付期限はその翌日以降の営業日(平日)となります。先程の例で、申告・納付期限の11月15日が日曜日だとすれば、翌日の11月16日(月)が期限日です。

②戸籍上の死亡日と相続の開始を知った日にズレがある

被相続人の死亡を、亡くなった日に知らされなかった相続人がいたとします。その場合、相続人は、被相続人の死亡を知った日から10か月後の同じ日までに申告しなければなりません。たとえば被相続人の死亡日が1月15日として、ある相続人は2月15日に知ったとすれば、そこから10か月後の12月15日が申告期限になります。

③被相続人の死亡日が特定できない

孤独死など、医療機関以外で最期を迎えた場合、戸籍上の死亡日が「1月10日から10日間」「1月頃死亡」などになることがあります。この場合、その戸籍上の死亡日の最終日を相続開始日とみなし、申告期限が設定されます。上の例では、それぞれ、
「1月10日から10日間」→1月20日

「1月頃死亡」→1月31日

となり、申告期限は11月20日、11月31日となります。


④相続が連続して発生している

被相続人が亡くなった後、納付期限が来る前に相続人が死亡してしまい、次の相続が開始されることがあります。このような状況を「数次相続(すうじそうぞく)」といいます。

たとえば祖父が1月15日に亡くなったとすると、その相続人である父の納付期限は11月15日になります。ところが納付期限を迎える前の6月15日に父がその申告書を提出することなく亡くなったとします。この場合、その相続人(父)の相続人(二次相続人)である子が、父の相続税の申告をする必要があります。この時の納付期限は、父が亡くなった日の10か月後である翌年4月15日となります。

ただしこの場合でも、祖父の遺産を相続する父以外の相続人の納付期限は延長されず、11月15日のままです。

⑤相続人が廃除された

相続が発生した時に相続人になるであろう人(推定相続人)が、遺言などで相続権を取り消される場合があります。この場合、遺言執行者は家庭裁判所に廃除の請求を行い、決定されると別の人が相続人となります。
この時、新しく相続人になった人の納付期限は、裁判所が廃除の確定を判決したことを知った日の翌日から10か月後になります。

⑥遺留分侵害額請求が行われた

法定相続人は民法で定められた基本的な財産の配分割合に則り、一定の割合の遺産を受け取る権利があります。この、相続人に最低限保証されている遺産の取得分を遺留分といいます。

たとえば被相続人が特定の相続人Aにすべての財産をゆずることを遺言していたとします。すると法定相続人Bは遺留分を侵害されたことになります。この時、Bは遺留分相当のお金を手に入れるために、遺留分侵害額請求という手続きを起こすことができます。

上記の例で相続人Aの相続税の申告期限はいつになるのでしょうか? 通常であれば、被相続人が死亡したことを知った日から10か月以内ですが、それまでに遺留分侵害額請求が行われたとすると、最終的にどれくらいの財産が相続されるか確定できません。

相続人Aの場合、相続される財産総額が確定していない場合でも、申告期限は変わらず、被相続人が死亡したことを知った日から10か月以内です。

申告・納付期限を過ぎたのち、相続人Bの遺留分が確定されたとします。するとすでに申告し終わっている遺産の一部を相続人Bにゆずることになります。
その場合、当初申告の課税価格から相続人Bにゆずった金額をマイナスした金額で更正の請求をします。更正の請求の期限は、遺留分確定を知った日の翌日から4か月以内です。

相続人Bの納付期限はどうなるのでしょうか? 被相続人が死亡したことを知った日から10か月以上たったのちに遺留分侵害額が確定した場合、期限後申告になってしまいます。ただしこの場合は、例外として延滞税や無申告加算税はかかりません。

⑦相続人以外への遺贈があった

被相続人が遺言で法定相続人以外の人に財産を与える(遺贈)ことを決めていたとします(遺贈を受ける人を受遺者といいます)。受遺者の相続税申告期限は、遺贈があることを知った日の翌日から10か月以内となります。たとえば被相続人が1月15日に亡くなり、受遺者がそのことを1月20日に知ったとすると、申告期限は11月20日になります。

⑧停止条件付の遺贈があった

停止条件付の遺贈とは、一定の条件を付けて相続を行うことです。たとえば、「来年の2月1日に1000万円をAに遺贈する」という条件が付いていたとします。

停止条件付の遺贈があった場合、申告期限は当該条件が成就した日の翌日から10か月以内となります。上記の相続人Aの場合、来年2月1日の10か月後の同じ日である、12月1日が申告期限となるのです。

⑨相続税の還付を申告した

被相続人が亡くなる前に、財産をゆずられて(贈与されて)おり、ゆずられた人が贈与税を収めているという場合があります。その後、被相続人が亡くなると、すでにゆずられている贈与財産の価額と相続財産の価額との合計金額を基に相続税額を計算し、すでに納めた贈与税相当額を控除することにより、贈与税・相続税を通じた納税を行う制度があります。「相続時精算課税制度」といいますが、これはいわば相続税の一部を贈与税として前払いしていることになります。

この制度を選択して計算した結果、相続税の基礎控除額以下になっていたとすれば、相続税の申告は必要なくなります。さらにすでに納めた贈与税を相続税申告をすることにより、還付を受けられることがあります。このような相続税の還付申告の期限は、死亡日の翌日から5年以内となります。

要注意!申告期限を過ぎた場合のデメリットは大きく分けて二つ

これまで述べてきたように、相続税の申告・納付期限は10か月以内です。基本、例外はありません。しかし遺産分割協議が長引くなどして、期限内に申告できなかった場合、デメリットが生じます。デメリットには大きく分けて二つあります。それは「一定の特例が適用できない」「ペナルティーがかかる」です。

①相続税の特例が適用されなくなる

相続税の申告にはさまざまな特例があり、これを使うことで納める金額を大幅に減らすことができます。これら特例の代表的なものに、「小規模宅地等の特例」と「配偶者控除(配偶者の税額軽減)」があります。小規模宅地等の特例について、たとえば被相続人が住んでいた宅地を配偶者が相続した場合、特定住居用宅地として330㎡まで80%引きになります。
これらの特例は期限を過ぎてから申告(期限後申告)すると使えません。

ほかにも「農地の納税猶予」「事業承継税制(非上場株式の納税猶予)」などの特例も、期限を過ぎると使えなくなります。

②ペナルティとして税金が課される

申告が遅れた場合、ペナルティがかかります。具体的にいうと、
  • 申告期限を過ぎたことによる「無申告加算税」
  • 納付期限を過ぎた期間にかかる「延滞税」
  • 申告漏れなどで発生する「過少申告加算税」
  • 不正があると課される「重加算税」

の4種類があります。罰金の種類と税率は、次のとおりです。

申告期限を過ぎたことによる無申告加算税

無申告加算税の税率は、どのタイミングで申告をするかと相続税の納税額によって変わります。申告のタイミングのポイントは「税務調査」、納税額のポイントは「50万円以内か超えるか」です。
おおまかなケース別の税率は、下の表のとおりになります。
下の表以外にも、正当な理由があると認められれば無申告加算税を支払わなくてもよくなりますが、遺産分割が間に合わない場合は「正当な理由」になりません。

税務調査の通知前に自主的に申告 納税額の5%
税務調査の通知以後、税務調査着手前に自主的に申告 納税額の10%(50万円を超える部分は15%)
税務調査着手後 納税額の15%(50万円を超える部分は20%)

納付期限を過ぎた期間にかかる延滞税

延滞税額は「納税額×延滞税の割合×滞納日数(納税期限の翌日から完納までの日数)÷365」で計算します。延滞税の割合は年や期間によって異なり複雑ですが、下記の国税庁のホームページで計算することができます。 【参考】国税庁のホームページ

申告漏れなどで発生する過少申告税

申告漏れなどで、本来の相続額よりも少なく申告した場合には、過少申告加算税が科されます。

税率は「追加で納付した相続税の10%」で計算されます。ただし、追加納税額が、50万円より高額、または期限内に申告した相続税額よりも高額な場合は、追加納税額の10%に(追加納税額ー期限内に申告した相続税額または50万円のいずれか大きい金額)×5%が加重されます。

税務調査の通知前に自主的に修正申告を行えば課税されないため、申告漏れに気づいたらすみやかに手続きしましょう。

不正があると課される重加算税

過少申告や無申告など、申告すべき財産を隠していたとみなされた場合、延滞税と共に重加算税が課されます。課税額は「申告書を提出している(過少申告)場合」は、追加で納付した税額の35%、「申告書を提出していない(無申告)場合」は納税総額の40%です。

相続税の申告が必要かどうかの判断基準

税務署に対して相続税の申告が必要ない場合もあります。相続税の基礎控除額は「3000万円+(600万円×法定相続人の人数)」で決まります。たとえば法定相続人が一人で遺産総額が3600万円以下の場合、基礎控除額を超えていないので、申告する必要はありません。

相続税の納付期限に遅れそうな場合の三つの対応策

相続税の納付期限に遅れそうな場合にはおもに三つのパターンがあります。
「期日までに財産目録が完成しない」
「期日までに遺産分割が決着しない」
「期日までに納付金を支払えない」 です。
それぞれのパターンごとに対応策を紹介します。

①期日までに財産目録が完成しない

相続税申告では、「土地・建物・預金・上場株式・投資信託・書画骨董・名義預金」など、すべての相続財産を洗い出し、評価した財産目録をつくらなければなりません。しかも国税庁が定めた財産評価基本通達に則った評価方法で評価額を計算する必要があります。
これを税務に詳しくない方が行うのは、時間や知識の点から実質的には不可能に近いと思われます。

具体的に取れる対応策としては
  • 財産目録が完成後に期限後申告をする
  • 概算で期限内に申告をする

の二つがありますが、一般の方が判断するにはあまりにも複雑です。上記の二つの方法のどちらが最適か、専門家に相談してみましょう。

②期日までに遺産分割が決着しない

財産目録が完成した後には、相続人間で「遺産分割協議」を行う必要があります。相続人が複数人いる場合、遺産分割がまとまらず難航することはよくあります。その場合でも、相続税の申告期限を延長することはできません。
このような時、「未分割申告」という方法があります。これは民法に定める法定相続分で仮に分割したものとして申告をするものです。ただし、未分割申告をした場合は、配偶者の税額軽減や小規模宅地の特例が使えなくなります。
※ただし、3年以内に分割が確定した場合は適用できます

③期日までに納付金を支払えない

相続税の納付は金銭での一括納付が大原則です。
ただ、納付する税額が大きいと、一度に納めるのが難しくなる場合があります。そんな時には延納と物納という二つの制度があります。

延納とは、分割で納めることですが、それが認められるには以下の次の四つの要件をすべて満たしていることが必要です。
①相続税額が10万円を超えている
②金銭で納付することが困難な金額の範囲内である
③期限までに「延納申請書」提出する
④延納税額に相当する担保を提供する

なお、延納期間中は利息に相当する利子税がかかります。

物納とは、文字どおり、金銭の代わりに土地や建物など財産そのもので納税するということです。ただし物納が認められるには、延納よりもさらに複雑なステップをクリアする必要があり、物納できる財産にも決まりがあるため、自分のいらない財産を物納するというわけにはいきません。この制度を利用する際も専門家に相談しましょう。

納付期限・申告期限を超過しないためのコツ3選

相続税の申告・納付期限は、相続開始を知った日(通常は被相続人の死亡日)の翌日から10か月以内です。この間にやらなければいけないことはたくさんあり、あっという間に期限が来てしまいます。そこで期限までに終わらせるには、
①相続手続きの流れを整理しておく
②相続税の申告に用いる書類を早めにそろえる
③前もって税理士に相談する
がコツです。

①相続手続きの流れを整理しておく

必要な相続の手続きは多数あり、それら一連の流れを把握することが大切です。 主なものでも、相続開始から数えて、

7日以内:死亡届の提出
3か月以内:相続放棄・限定承認
4か月以内:所得税の準確定申告
10か月以内:相続税の申告・納付

などがあります。ほかに期限はなくても、たとえば相続財産の洗い出しや遺産分割協議など、なるべく早く済ませておかなければなりません。

②相続税の申告に用いる書類を早めにそろえる

相続税の申告に用いる書類には、おもに以下のものがあります。

戸籍謄本・住民票(被相続人、相続人)
戸籍の附票(相続人)
印鑑証明書(相続人)
不動産関係書類
有価証券関係書類
預貯金関係書類
生命保険関係書類
債務・葬式関係書類
など

これも相続のケースごとにさまざまですので、まずは自分の場合に何が必要かを知り、すばやく用意することがコツです。

③前もって税理士に相談する

なにより早めに相続専門の税理士に依頼することが最大のコツです。
以上に述べてきた複雑な手続きやスケジュールなども管理してもらえます。
ただし税理士のなかにも、相続が得意でない人もいますので、よく話を聞いてから依頼するほうが無難です。相続税の対策は、ノウハウと対応スピード等で大きく変わります。

【2021年最新事情】相続税の納付期限にコロナが与えた影響

新型コロナウイルス感染症による影響を受け、令和2年4月には、相続税の申告期限・納付期限の延長が国税庁で認められました。期限延長を求める理由としては、必要書類を準備することができない、相続人が集まることができず、遺産分割協議が開けない、などが考えられます。
今後も、災害や疫病など非常事態が起こった場合には、納付期限が延長されることもあるでしょう。

おわりに:相続税の申告・納付はコツを押さえて期限を守ろう!

相続税の申告・納付期限はともに「10か月以内」です。納付期限に基本は例外がありませんが、事情によっては延長することができます。いずれにせよ期日を過ぎるとペナルティが課されるので、まずは期限から逆算して、早め早めに動いていくことがポイントです。そのためにも、相続手続きの流れを整理しておかなければなりません。

しかしそれぞれの手続きはかなり複雑です。あれこれ考える前に、専門の税理士に相談することがおすすめです。10か月というと長いようにも思えるかもしれませんが、期限はあっという間にやってきます。税理士とよく相談して、迅速に対応することを心がけましょう。

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この記事を監修した⼈

税理士法人レガシィ代表社員税理士パートナー陽⽥賢⼀の画像

陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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