相続放棄にかかる費用をパターン別に解説 | 費用を抑える方法も紹介
Tweet相続と聞けば、亡くなった方(被相続人という)が生前にもっていた土地や現金を引き継ぐものだと考えることでしょう。しかし相続はそういったプラスの財産だけではなく、被相続人が負っていた借金など、マイナスの財産も引き継ぎます。たとえば自分の父や母が多額の借金を抱えて亡くなった時、相続の権利や義務をすべて放棄すれば、その借金を引き継がなくてもすみます。これが「相続放棄」です。
相続放棄は、自分で行うか専門家に依頼するかによって費用は異なります。この記事では、相続放棄にかかる費用をパターン別に説明します。
目次
相続放棄は自分で行うか代行を依頼するかで費用が変わる
亡くなった人の財産を受け継ぐ権利のある人を相続人といいます。被相続人が亡くなって、相続が始まると相続人は、被相続人の遺産を「相続する」「相続しない」のどちらかを決めなければいけません。
相続財産のすべてを相続することを「単純承認」といいます。マイナスの財産とプラスの財産のどちらが多いのかわからない場合や、マイナス財産があるけど相続したいプラスの財産がある場合には、相続で得るプラスの財産の範囲内でマイナスの財産を返済する「限定承認」という相続の方法を選ぶことができます。
もう一つ、被相続人が多額の借金を抱えて亡くなり、それを受け継ぎたくない場合は、相続の権利を放棄できることが法律で認められています。
被相続人が遺した負債を相続したくない時や遺産相続争いをしたくない時などには、相続人の権利や義務を放棄し、財産の一切を相続しない「相続放棄」を単独で選ぶことができます。
相続放棄を選ぶとします。相続放棄したい人(申述人という)は被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に相続放棄の申述を行います。申述人が遠方に住んでいる場合でも、基本的には被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所で手続きを行わなければなりません。
申立てができる期間は、「相続の開始があったことを知った時から3か月以内」と民法に定められています。相続放棄の費用は、「自分で手続きする場合」と「専門家に依頼して手続きしてもらう場合」とで異なります。
自分で行う場合の費用
役所や家庭裁判所へ手続きに行く交通費以外には、「書類の取得費用」と「家庭裁判所に納める費用」に分けることができます。
必要な書類と取得費用
1 申述人の戸籍謄本(戸籍全部事項証明書) 1通あたり450円~750円
相続放棄を希望する申述人と被相続人がどのような関係であるのかを証明するために、申述人自身の戸籍謄本が必要となります。戸籍謄本は、戸籍に記録されている全員について証明したもので戸籍のある本籍地の市区役所、町村役場で取得できます。戸籍謄本は戸籍簿のコンピュータ管理を機に「戸籍全部事項証明書」という呼び名に変更されましたが、内容は同じものです。
2 被相続人の住民票除票(または戸籍附票) 1通あたり300円
住民票除票は、転出や死亡により住民登録が抹消された住民票の写しです。もう一つの戸籍の附票は、本籍地の市区町村が戸籍謄本と一緒に保管している書類で、その戸籍がつくられてから(またはその戸籍に入籍してから)現在に至るまで(またはその戸籍から除籍されるまで)の住所が記録された書類です。
家庭裁判所に納める費用
- 収入印紙 800円
- 郵便切手 500円程度
家庭裁判所から郵便で通知を送付するために使用する郵便切手を添えます。なお、一緒に提出する郵便切手の額は、家庭裁判所により異なります。管轄の家庭裁判所で確認してください。
手続きのすべてを自分で行う場合にかかる費用は、最も単純なケースであれば、戸籍謄本と住民票除票を入手する実費として1,000円程度、一人分の申し立て費用に1,500円程度、合わせて2,500円程度となります。
代行を依頼する場合の費用の相場
相続放棄の手続きを司法書士や弁護士など相続の専門家に代行してもらう場合、当然のことながら相談料や書類作成費用、報酬(代理手数料)などがかかります。
区市役所や家庭裁判所への交通費や郵送料は通常書類作成代行費用に含まれます。
以下の相談内容に応じた専門家を一覧表から、それぞれの職務範囲を確認してください。
〇は「対応できる」、△は「対応できない場合もある」、×は法令等により「対応できない」ことを表しています。
相談内容と相談に応じた専門家
相談内容 | 弁護士 | 税理士 | 司法書士 | 行政書士 |
---|---|---|---|---|
不動産名義変更(相続登記) | x | x | 〇 | x |
金融機関での相続手続き | 〇 | △ | 〇 | 〇 |
相続での紛争解決 | 〇 | x | x | x |
遺産分割協議書作成 | 〇 | △ | 〇 | 〇 |
遺言書作成 | 〇 | x | 〇 | 〇 |
相続税申告 | x | 〇 | x | x |
相続放棄 | 〇 | x | 〇 | x |
相続人調査 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
司法書士の場合の相場
相続放棄の手続き代行を司法書士へ依頼する場合、5万円前後が相場です。相続人がまとめて相続放棄を依頼する場合、人数によって1人あたりの金額が下がることもあります。
また申立て期限の3か月を過ぎている場合は、加算される場合があるので早めに依頼を検討しましょう。
弁護士の場合の相場
相続放棄の手続きを弁護士へ依頼する場合、10万円前後が相場です。弁護士の場合は司法書士に依頼する場合の約2倍程度かかりますが、それは相続人の代理人になれる権利を持つ点で対応できる範囲が広いためです。
債権者への対応なども任せたい場合などは、弁護士に依頼する方が良いでしょう。
こちらも申立て期限の3か月を経過後の場合は、加算される場合があります。
ここで挙げた司法書士と弁護士の費用はあくまでも目安としてご参照ください。
相続放棄の代行費用を抑える方法
書類取得などを自分で行う
自身の戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)、被相続人の住民票除票(または戸籍附票)などを役所に出向いて自身で取得すると、書類取得の代行費用を抑えることができます。
また家庭裁判所への申請書の提出を自身で行うこともできます。
司法書士に代行を依頼する
司法書士に相続放棄の代行を依頼する場合、依頼できる範囲は、戸籍謄本などの収集と裁判所に提出する書類の作成のみです。相続放棄をすべきかどうかの法律相談や、ほかの相続人との間で相続に関して何らかの交渉を行うことは司法書士には認められていませんので、弁護士に依頼することになります。
相続放棄をすることを決めていて、ほかの相続人との間で話がまとまっていれば、司法書士にお願いしたほうが費用を抑えられることになります。
相続放棄は、ほかの相続人との相談なしに、単独で決めることも可能です。ただし、たとえば借金があるから相続放棄をしたとすると、その借金は別の相続人のところに回っていきます。自分一人が相続放棄をしたとしても、債務そのものがなくなるわけではありません。相続放棄をするための費用だけ考えて司法書士に頼んだとしても、後でトラブルが生じ、結局弁護士に改めて依頼することになるかもしれません。
法テラスを利用する
法テラスを利用するのも一つの方法です。法テラス(日本司法支援センター)とは、国によって設立された法的トラブル解決のための「総合案内所」です。
経済的に余裕のない人などが法的トラブルにあった時に、無料で法律相談を行い、必要な場合、弁護士や司法書士にかかる費用の立替えをしてくれます。
相続放棄で代行を依頼すべきケース
相続放棄の手続きを専門家に依頼すべきケースをご紹介しましょう。まずは代行を依頼するメリットとデメリットを改めて確認します。
相続放棄の代行依頼には、メリットとデメリットがあります。どちらも知ったうえで、依頼するかどうか検討することが大切です。とはいえ、基本的に代行を依頼するデメリットは費用の点しかないと言えるため代行を依頼した方が安心ですが、特に依頼すべきケースについてご紹介します。
代行を依頼するメリット
- 書類の収集や申述書の作成をすべて代行してもらえる
- 照会書や回答書が裁判所からきた時にアドバイスを受けられる
- 3か月間の期限を過ぎても対応してもらえる
- 相続放棄が本当に必要なのか判断してもらえる
相続放棄の代行を依頼するデメリット
- 費用が発生する
相続放棄の手間を省きたい場合
相続放棄にかかる書類の取得などの手間を省き、自分は家庭裁判所に申立てるだけにしたい場合、役所での書類の取得を、親や子、兄弟姉妹、または司法書士など専門家に代ってもらうことが可能なら依頼してみましょう。ただし申述人の戸籍謄本などを代理人に請求してもらうには、委任状が必要です。
相続に関してアドバイスがほしいケース
相続放棄をすべきかどうかは慎重に決めなければなりません。自身が相続放棄したことで、結果として次の相続順位である相続人が、被相続人の負債を追うことになるかもしれません。こうした法律相談や、ほかの相続人との間で相続に関して何らかの交渉を行うことは司法書士には認められていないので、弁護士にアドバイスをもらうのがよいでしょう。
相続人の間でトラブルがあるケース
親や子、兄弟姉妹と遺産相続でもめており、争いを避けるために相続放棄を検討しているとします。そうした問題の本質は相続人間でのトラブルを解消することです。こうした場合は、相続放棄を選択する前に弁護士など専門家のアドバイスを受けたほうがいいかもしれません。
なお、申述人に下記のような行為があった場合、家庭裁判所が申述人の相続放棄を認めないことがあるので、弁護士にアドバイスをもらうのがよいでしょう。
- 遺産を使い込んだ場合
- 相続財産をわざと傷つけたり、壊したりした場合
- 必要性がないのに相続財産をほかの相続人に無断で改修などした場合
- 相続財産をほかの相続人に無断で譲渡した場合
- 相続財産の名義変更をした場合
- 被相続人の口座を払い戻して自分の口座に入金した場合
- 相続財産をほかの相続人にわからないように隠した場合
- 「相続放棄しろ」とほかの相続人から脅された場合
おわりに:相続放棄のパターンごとにかかる費用を正しく把握
相続放棄の申立てにかかる費用は、自身で行う場合と専門家に依頼する場合とでは異なります。司法書士や弁護士などの専門家に依頼する場合、数万円から10万円強の費用が必要になります。費用を抑えて相続放棄を行いたいのか、費用はかかっても確実に相続放棄を行いたいのか、まずは優先順位を明確にするとよいでしょう。専門家に依頼しても費用を抑えたいのなら、戸籍謄本の取得は自分で行うなど専門家の労力を最小限にすることも有効です。
相続放棄を行うと被相続人の遺産を受け継ぐすべての権利を放棄することになります。その場合、ほかの特定の相続人に大きな負担がかかるケースも想定できます。このような影響については専門家のアドバイスを受けたほうがよいでしょう。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
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