相続税の申告なら相続専門税理士法人レガシィ【公式】

相続の知識

居住権とは? 相続における配偶者の権利と注意点を解説

他人の所有する家屋に居住していた者が、その家屋に継続して居住できる権利を「居住権」といいます。2020年、持ち家について建物自体を相続しなかった場合でも配偶者に居住権を認める「配偶者居住権」が新設されました。新たに新設された、この配偶者居住権とその注意点を解説します。

居住権とは、継続して居住できる権利

居住権とは家屋に住んでいた者が、その家屋に継続して居住できる権利のことです。この居住権の中心となるのが「賃借権」です。
賃貸アパートやマンション、借家など、他人が所有する家屋に居住する場合、賃貸人(貸主 )と賃借人(借主)が賃貸借契約を結ぶのが一般的です。この際、契約によって得られる借主の権利を「賃借権」といいます。

賃借人が亡くなった場合でも、通常は居住権が維持されます。

配偶者に居住権が発生する場合

賃貸アパートやマンション、借家に同居している法律上の夫婦の場合、夫(妻)が死亡すると相続人である妻(夫)は、被相続人(亡くなった人)が有していた借主としての権利を引き継ぎ、一般的にはそのまま賃貸物件に住むことができます。
被相続人の配偶者は常に法定相続人になるため、配偶者が賃借権を相続することができます。

一方、婚姻関係にない夫婦の場合、内縁の妻(夫)が死亡した際、内縁の夫(妻)には相続権は認められません。
ただし、借地借家法第36条により、「被相続人に相続人がいないこと」、「その建物(借家)が生活の基盤となる居住用のものであること」という条件を満たしている場合、内縁の妻(夫)への建物の賃借権の承継が認められます。

相続人がいる場合の同居人の居住権は?

賃貸住宅に住んでいた被相続人に相続人がいるケースでは、通常はその相続人が借主の権利を引き継ぎます。解約するか、継続して借りるかは相続人の判断にゆだねられます。

問題は、その賃貸住宅に被相続人の内縁の妻(夫)が同居していた場合です。
地位を引き継いだ相続人から住居の明け渡し請求が出れば、内縁の妻(夫)は原則それに応じなければなりません。 過去の判例で、明け渡しを求めることが権利の濫用にあたるとして、賃貸住宅の明け渡しが認められなかったケースはあります。ただ、多くの場合では、内縁の妻(夫)は賃貸住宅から退去することになります。

配偶者居住権の注意点

ここまでが従来からある居住権の説明です。しかし、2020年4月の民法改正によって、持ち家の相続などでも居住権が関わってくるようになりました。
改正民法では相続に関わる部分に新しい権利として「配偶者居住権」が新設されました。配偶者居住権は、遺された配偶者(妻もしくは夫)が相続発生後も被相続人の持ち家にそのまま住み続けられるようにする権利です。
この権利を有する配偶者は、被相続人の死亡時に住んでいた持ち家に、亡くなるまで、または一定の期間、無償で住み続けることができます。

配偶者居住権が新設されるまでは、相続発生後、自宅を相続した者(所有者)との間でトラブルとなり、配偶者が家を退去するケースがありました。被相続人の妻もしくは夫が住み慣れた自宅を相続する代わりに預貯金を手放さなければならず、老後の生活が苦しくなるというケースも。
このようなことから、残された配偶者に自宅に住み続ける権利を保障するために創設されたのが配偶者居住権です。

配偶者居住権の成立要件

  • 被相続人の法律上の配偶者であること
  • 相続発生時、被相続人が所有していた建物に居住していたこと
  • 遺産分割、遺贈、死因贈与または家庭裁判所の審判のいずれかで配偶者居住権を取得したこと

設定は義務ではありません。自宅の所有者が、自身の死後に配偶者の住む権利を守りたいと思うなら、遺言書で配偶者に配偶者居住権を設定することができます。
また、相続が始まったあとで、配偶者の自宅に住む権利を保障する必要性が出てきた時は、相続人全員が集まって話し合う「遺産分割協議」でも、配偶者居住権を設定できます。また、家庭裁判所の審判によって設定することも可能です。

遺産分割協議について詳しく知りたい人は「遺産分割協議の進め方・手順とは? 予備知識やよくあるトラブルも紹介」をご覧ください。

配偶者居住権の注意点は、次の6点です。

  1. 内縁の妻(夫)には認められない
    配偶者居住権は戸籍上の配偶者のみに認められている権利であるため、内縁の妻(夫)には認められません。
  1. 家屋を無断で売却したりリフォームしたりできない
    配偶者居住権はその家に住む権利であって、家屋の所有権ではありません。家屋の所有者の承諾がない限り、無断で家を売却したり、リフォームしたりすることはできません。
  1. 配偶者居住権登記は建物は登記しておくことが必要
  2. 相続税の課税対象となる
  3. 配偶者居住権は譲渡できない
  4. 2020年4月1日以降に発生した相続に適用

3~6については以下で詳しく見ていきましょう。

配偶者居住権は登記しておくことが必要

配偶者居住権は法務局で登記する必要があります。登記は配偶者居住権者を有する配偶者と建物を相続した現在の所有者が共同で申請します。
登記していないと建物の所有者がその所有権を第三者に譲渡した際、新たな所有者から建物の明け渡しを要求されても対抗できません。最悪の場合、立ち退きを要求される恐れがあります。
配偶者居住権を登記しておけば、所有権を譲渡された第三者から建物の明け渡しを要求されても、その家屋に住み続ける正当な権利を主張できます。

  • 登記簿登録がない場合
    配偶者居住権設定の登記は、配偶者居住権を設定した建物の所在地を管轄する法務局(登記所)で行います。登記申請の際に必要な書類は次のとおりです。
  • 遺産分割協議書、または遺言書等(2020年4月以降に作成されたもの)
  • 登記識別情報
  • 固定資産評価証明書
  • 建物を取得した者の配偶者の実印と印鑑証明書
  • その他通常の相続登記に必要な書類(除籍等)

登記には登録免許税が必要です。

登録免許税=建物の固定資産税評価額×2/1000(0.002)

【例】固定資産税評価額が1,000万円の自宅を登記する場合
1000万円×2/1000(0.002)=20,000円

配偶者居住権の登記については、こちらの記事もご覧ください。

配偶者居住権は相続税の課税対象

被相続人が所有していた自宅に配偶者居住権を設定する場合、その権利には価値があるとみなされます。そのため、相続税の課税対象になります。
配偶者が亡くなり、次の相続が始まった時点で配偶者居住権は消滅します。配偶者居住権は二次相続が開始された時点で相続税の課税対象から外れます。

配偶者居住権は譲渡できない

配偶者居住権は、被相続人の配偶者だけに認められた権利です。譲渡することはできません。また、配偶者の死亡によって権利は消滅するので、配偶者から別の相続人に相続(二次相続)することもできません。

2020年4月1日以降に発生した相続に適用

配偶者居住権の制度が始まったのは、2020年4月1日です。そのため配偶者居住権は、被相続人が亡くなった日が2020年3月以前に発生した相続には適用できません。遺産分割協議が2020年4月以降に行われたものであっても設定できません。
遺言で配偶者居住権を遺贈する場合には、2020年4月1日以降に作成された遺言のみ有効となります。

おわりに:配偶者居住権について正しく理解して相続の準備をしよう

配偶者居住権は被相続人と同居していた法律上の配偶者だけが取得できるものです。遺された配偶者が相続発生後も被相続人の持ち家にそのまま住み続けることが認められます。
ただし、この権利を有していたとしても、所有権が認められるわけではありません。家屋を無断で売却したりリフォームしたりすることはできないので注意が必要です。また、配偶者居住権は譲渡も相続もできませんが、相続税の課税対象にはなります。
ただし、相続した新しい所有者が不動産を譲渡してしまうと、第三者から明渡しを求められる場合も。配偶者居住権を法務局に登記することで、その家屋に住み続ける正当な権利を主張することができます。そのため登記することをおすすめします。

制限や難しい点も多くありますが、配偶者を守るものとして期待されている制度です。二次相続まで見越して、配偶者が居住権だけを相続して、子どもが建物を相続するなど、これまでより相続財産の分割の幅も広がっています。
配偶者居住権の設定と登記、土地や建物の相続手続きに不安があるという人は、弁護士や司法書士など相続手続きの専門家に一度相談してみましょう。

当社は、コンテンツ(第三者から提供されたものも含む。)の正確性・安全性等につきましては細心の注意を払っておりますが、コンテンツに関していかなる保証もするものではありません。当サイトの利用によって何らかの損害が発生した場合でも、かかる損害については一切の責任を負いません。利用にあたっては、利用者自身の責任において行ってください。

詳細はこちら
この記事を監修した⼈

陽⽥ 賢⼀

陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

武田 利之(税理士)

武田 利之税理士法人レガシィ 社員税理士

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

無料面談でさらに相談してみる