結婚・子育て資金の一括贈与とは?手続きやデメリット、いつまでかを解説
Tweet結婚・子育て資金の一括贈与とは、最大1,000万円までを非課税枠として、子・孫などの結婚・子育て費用を経済的に援助できる特例制度です。現状では、令和7年3月31日まで利用できます(令和6年4月現在)。ただし、この制度では、贈与資金を新婚旅行には利用できないなど、使途の制限やデメリットもあるので注意が必要です。
そこで本記事では、結婚・子育て資金の一括贈与に関して、制度の概要や非課税対象となる使途、手続きの流れ、注意点やデメリットなどについてわかりやすく解説します。
目次
結婚・子育て資金の一括贈与とは
結婚・子育て資金の一括贈与とは、子や孫などの結婚や子育て費用として、親・祖父母などの直系尊属が贈与した資金に関して、一定額まで非課税とする制度です。次から制度の概要について説明していきます。
制度の概要
結婚・子育て資金の一括贈与とは、父母や祖父母などの直系尊属から18歳以上50歳未満の子や孫などに対して、結婚や子育てのために贈与された資金につき、最大1,000万円に相当する分まで贈与税が非課税になる制度です。
この制度は、受贈者である結婚・子育て世代にとっては経済的な支援をもらうことで生活の支えになる他、親・祖父母世代にとっては、子や孫に非課税で贈与ができることで、のちの相続税対策にもつながるメリットがあります。ただし、この制度を利用するには、受贈者の前年所得が1,000万円以下でなければいけません。
贈与額の非課税限度
受贈者1人あたり最大1,000万円(内、結婚資金は300万円まで)
対象者
18歳以上50歳未満の子や孫など(前年の所得が1,000万円以下)
適用期間
令和7年3月31日まで
※直近数年間の税制改正で期限が延長しているため、今後も延長の可能性あり
非課税の範囲
この制度によって非課税になるのは、結婚もしくは子育てのための必要費用、総額1,000万円までです。ただし、結婚資金に関しては300万円が上限とされています。他方、子育て費用には上限がないので、1,000万円すべてを子育て資金に割り当てることも可能です。また、それぞれについて以下のように非課税対象となる用途は定められています。
非課税の対象となる結婚資金
- 結婚式の挙式費用
- 結婚式の衣装代
- 新居の初期費用(家賃、敷金、仲介手数料など)
- 転居費用(引っ越し費用や新居への移動費) など
非課税の対象外となる結婚資金
- 結納式の費用
- 婚活サービスなどの結婚情報サービス利用料
- 結婚指輪の購入費
- 新婚旅行の費用
- エステ代や駐車場代 など
非課税の対象となる子育て資金
- 不妊治療・妊婦健診などの治療費や健診費
- 分娩費
- 産後ケア費
- 子の医療費
- 幼稚園や保育園などの保育費用 など
非課税の対象外となる子育て資金
- 妊娠を理由としない遠方への移動費や宿泊費
- 処方箋に基づかない医薬品代 など
上記のように、用途によっては非課税にならないものもあるのでご注意ください。
令和5年度税制改正で【令和7年3月31日】まで延長
この制度を利用できる期限は、令和5年度の税制改正で延長され、令和7年3月31日までとなりました。利用期限はこれまでにも何度か延長されてきた経緯があるため、上記の期限以降も再度延長される可能性はあります。とはいえ、現状では期限が延長されるかは確定されていません。
また、過去には制度の要件が変わったこともあるので、現状で制度の利用要件を満たしているなら早めに手続きするのがおすすめです。
結婚・子育て資金の一括贈与の手続き方法
結婚・子育て資金の一括贈与を利用するためには、以下のような手続きを行う必要があります。
- 専用口座の開設
- 非課税申告書の提出
- 贈与資金の入金処理
- 専用口座からの引き出し
1. 結婚・子育て資金のための専用口座を開設する
まずは受贈者名義で贈与専用の口座を新たに開設します。この専用口座は、贈与資金の管理と、その資金が指定された用途に利用されていることを確認するために必要です。口座開設に際しては、主に以下の書類が求められます。
- 贈与契約書(贈与の条件や金額、用途などが記載された契約書)
- 受贈者の戸籍謄本または抄本(贈与者との関係を示すもの)
- 受贈者の前年度の所得証明書(源泉徴収票や確定申告書など)
これらの書類を金融機関に提出し、結婚・子育て資金管理契約を締結することで口座が開設されます。なお、口座開設に手数料はかかりませんが、口座の運用に関しては運用報酬が発生します。
2. 結婚・子育て資金非課税申告書を提出する
口座開設後は、金融機関を介して、以下の書類を税務署に提出します。
- 贈与契約書
- 贈与者との関係を示す受贈者の戸籍謄本または抄本
- 受贈者の源泉徴収票または確定申告の控え
贈与契約書に記載する内容は、住所やマイナンバー、贈与の契約者、金額などです。金融機関はこれらの書類を税務署に提出した後、手続きの完了を受贈者に通知します。
3. 専用口座に入金し贈与を行う
次のステップは、贈与者に専用口座へ入金してもらい、贈与を実施することです。最も一般的な入金方法は振込ですが、そのほかに信託受益権の付与や有価証券の購入という方法がとられることもあります。各金融機関によって手続きの細かい部分は異なるため、詳細は事前に金融機関に確認し、準備しておくことが重要です。
4. 専用口座から引き出す
贈与資金が入金されたら、結婚もしくは子育てのために資金を使えるようになります。ただし、制度で定められた用途に正しく資金が使用されていることを証明するため、資金を使う際には、以下のどちらかの方法による手続きが原則必要です。
領収書を提出する方法
自分で費用を立て替えて支払い、その後で領収書を金融機関に提出する方法です。領収書記載日から1年以内に提出する必要があります。
請求書を提出する方法
請求書を金融機関に提出し、直接支払いをしてもらう手法です。領収書記載日の翌年3月15日までに提出する必要があります。
結婚・子育て資金の一括贈与のデメリット
結婚・子育て資金の一括贈与は非常に有用な制度ですが、以下のようなデメリットも存在します。
- 契約後の取り消しができない
- 家族間のトラブルになることがある
- 受贈者の加齢や贈与者の死去によって贈与税・相続税が発生することもある
それぞれのデメリットの詳細は以下の通りです。
契約後の取り消しはできない
一括贈与の契約は、後になって取り消すことはできません。もしも贈与後に贈与者の経済状況が変わり、資金が必要になったとしても、一度移動した資金を取り戻すことは原則不可能です。したがって、一括贈与を行う際は、将来に資金が必要になる可能性も慎重に考慮し、余裕をもって贈与額を決めることをおすすめします。暦年贈与を利用すれば、毎年110万円まで非課税で贈与できるので、一括贈与に不安がある場合は、こちらの方法も検討しましょう。
家族間のトラブルになることもある
子や孫が複数人いる場合、一部の相手にのみ一括贈与をすることで、家族間でトラブルになる恐れがあります。たとえば、この制度を利用できるのは当然、受贈者が結婚・子育てをする場合に限られるので、独身の子・孫は恩恵を受けられません。そのため、家族間で不公平感が出ないように、結婚や子育てが予想されていない子や孫に対しては、他の方法で財産を贈与もしくは相続させることを検討し、家族間で合意形成しておくのがおすすめです。
また、この制度は、「受贈者」1人につき1,000万円までなので、たとえばAさんに対して、Aさんの父方の祖父母が1,000万円、母方の祖父母が1,000万円贈与するといったことはできません(総額が1,000万円を超過しなければ複数人での贈与も可能)。したがって、誰がどのくらい贈与するかに関しても、他の親族の了承を取り付けておくのが無難です。
契約終了時の贈与税・相続税に注意する
結婚・子育て資金の一括贈与契約は、受贈者が50歳になると終了し、その時点で口座に残っている金額に対しては、贈与税が課税されます。また贈与税が課税される際には、通常直系尊属から18歳以上の子・孫への贈与については「特例税率」を適用するのに対し、本贈与の残額に対しては「一般税率」が適用されますので注意しましょう。
また万が一、契約中に贈与者が亡くなってしまった場合、残された資金は相続税の課税対象となります。
こうしたリスクを避けるには、受贈者の年齢や資金の必要性などを考慮し、50歳までに使い切れる額を贈与したり、なるべく贈与者が健康で元気なうちに制度の利用を始めたりすることが大切です。
おわりに:結婚・子育て資金の一括贈与を検討中なら、早めの実施を
結婚・子育て資金の一括贈与を利用することで、最大1,000万円までの非課税枠を利用して子・孫などの結婚や子育てを経済的に支援できます。ただし、一括贈与の資金は使いきれなかった場合に通常通りの贈与税が課税されるなどのデメリットもあるので、利用に際しては注意してください。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
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