相続の知識

公益財団法人の設立は相続税対策になるのか? 仕組みを解説

公益法人への寄附は、相続財産を非課税にする有効な方法のひとつです。特に、持分のない公益法人に相続または遺贈によって財産を寄附したとき、条件を満たしていれば相続税の負担軽減につながります。本格的に相続税対策を検討している人に向けて、公益法人を活用した節税方法や対象となる法人の種類、注意すべきリスクについてまとめています。

公益法人を活用した相続税対策とは?

公益法人を活用した相続税対策とは?

富裕層に特化した節税対策として注目される公益法人への寄附は、資産規模の大きな個人に特に効果的です。相続人や受遺者が受け取った財産を、相続税の申告期限内に公益法人や国・地方公共団体に寄附することで、その財産は一定の条件のもと、相続税の課税対象から除外されます。

国税庁「措置法第70条第1項《国等に対して相続財産を贈与した場合の相続税の非課税等》関係」

公益法人を活用した相続税対策の仕組み

公益法人を活用した相続税対策で非課税となるには、対象法人や制度の仕組みを正確に把握することが不可欠です。

対象となる法人

寄附の対象となるのは、公益性の高い活動を行う法人です。具体的には以下が挙げられます。

 

  • 独立行政法人
  • 国公立大学法人、私立学校振興・共済事業団
  • 日本赤十字社
  • 公益社団法人・公益財団法人
  • 学校法人(大学や認定こども園などを設置)
  • 社会福祉法人
  • 認定NPO法人

 

  • 更生保護法人 など

いずれも、教育・福祉・科学振興などに貢献しています。なお、認定NPO法人については、相続税法上の非課税対象になるかどうかは、個別の事案や活動状況などに基づいて判断されることがあるため、事前に専門家や税務署への確認が望まれます。

仕組み

公益法人を活用した相続税対策では、相続財産を法人に寄附することで、税負担を軽減できる場合があります。例えば、公益法人を自分で設立し、そこへ自社株を寄附し、かつその寄附が租税特別措置法第70条の要件を満たせば、その株は相続税の課税対象から除外されます。ただし、要件を満たさない場合には課税対象となるため、慎重な判断が必要です。

この方法を実行するには、法人の立ち上げや理事・評議員の選定、所轄庁への認定申請など、煩雑な手続きが必要です。規模の大きい企業や多くの財産を有する人にはメリットがある一方、小規模な事業者にとっては実行のハードルが高くなるかもしれません。運営負担や税務上のリスクもあるため、導入には慎重な検討が必要です。

公益法人を活用した相続税対策のリスク

公益法人を活用した相続税対策のリスク

公益法人を活用した相続税対策には節税のメリットがある一方、

 

  • 節税のためだけに利用できない
  • 非課税特例を適用できないケースがある

 

といったリスクが伴います。

節税のためだけに利用できない

公益法人は社会全体の利益を目的とした活動を推進するために設立される法人です。そのため、節税のみを目的とした寄附や法人設立は、制度の趣旨に反するものとされ、税務署から否認される可能性があります。特に以下の点に注意する必要があります。

実質的な公益性の確保

形式上の条件を満たしていても、活動内容に公益性が伴わなければ税制上の優遇措置は適用されません。

税務署の審査基準

寄附財産の使用目的や法人活動の透明性が重要視されます。例えば、資産運用のみを目的とした法人設立や寄附は、公益性が認められず否認されるケースがあります。

節税効果のみを狙った運用は、逆に課税対象となるリスクを伴うため、公益性を確保した上で慎重に対応することが求められます。

非課税特例を適用できないケースがある

非課税特例を適用するには、一定の条件を満たすことが求められます。条件が複雑なので、制度を正しく活用するなら、まずは専門家のアドバイスを受けることが最善です。具体的な例とそれらに対する注意すべきポイントとして、以下が挙げられます。

非課税特例を利用することを主として設立のために寄附をした場合

非課税特例の適用には、寄附先である公益法人がすでに立ち上げられていることが前提です。形式的な条件を満たしていたとしても、節税を主目的として設立された公益法人に対する寄附は、原則として非課税の特例が認められません。これは、制度の濫用を防ぐための措置であり、あくまで重要視されるのは公益法人の設立目的です。制度の趣旨を十分に理解した上での慎重な対応が求められます。

寄附した機関が特定の公益法人ではなくなった場合

非課税特例の適用を目的として寄附を行っても、その後の状況の変化により、課税対象になるケースがあります。例えば、寄附先が特定の公益法人や認定NPO法人、公益信託としての認定や指定を、寄附日から2年以内に取り消された場合です。寄付した当初は非課税とされた財産も、相続税の課税対象として扱われるかもしれません。このようなリスクを避けるためには、寄附先の認定状況が、寄附後も継続しているかどうかを確認することが重要です。

国税庁「No.4141 相続財産を公益法人などに寄附したとき」

寄附財産を公益目的などで利用していない場合

寄附財産が公益活動に活用されなければ、相続税の非課税特例は適用されません。例えば、特定の公益法人や認定NPO法人が寄附を受けたものの、その財産を公益目的事業や特定非営利活動に活用しなかった場合は、税制上の優遇措置が認められなくなります。法律上の公益性を欠く運用をした寄附先の非課税措置は取り消され、課税が行われる可能性があることに注意が必要です。

国税庁「No.4141 相続財産を公益法人などに寄附したとき」

寄附によって相続税・贈与税の負担が不当に減少したとみなされた場合

寄附を通じて、相続税や贈与税の負担が不当に軽減されたと税務署に判断された場合、その寄附は否認される可能性があります。

例えば寄附財産の評価額が著しく不適正である場合や、寄附者またはその親族が寄附先の公益法人から経済的利益を得ている場合が挙げられます。税制優遇の趣旨に反すると判断されると、非課税特例の適用外になります。

したがって、適正な評価額で寄附を行うことや、寄附先との関係が公益性を損なわないものであることに、十分に注意しなければなりません。

寄附によって相続税・贈与税の負担が不当に減少したとみなされた場合

公益法人などに寄附をした場合の相続税の申告方法

相続税申告において、公益法人などへの寄附を行った場合、特例の適用に必要な手続きは以下の2点です。

 

  • 相続税申告書に特例適用を受ける旨を記載する
  • 寄附・支出財産の明細書など、必要書類を添付する

 

1. 相続税申告書に特例適用を受ける旨を記載する

非課税特例を適用するには、相続税申告書にその旨を正確に記載します。具体的には、「相続税申告書第14表(公益法人等に対する相続財産の寄附に関する明細書)」に寄附の内容を記載します。

この特例の適用により、一定の条件を満たした寄附財産は相続税の課税対象から除外され、「第11表(相続財産の明細書)」には記載しない扱いとなります。

例えば、被相続人が保有していた普通預金800万円のうち、300万円を認定公益法人へ寄附した場合、申告書の第11表には寄附分を除いた残り500万円のみを記載し、寄附した300万円は第14表で報告します。

ただし、記載内容に不備があると、特例が適用されない可能性が高いため、申告前に税理士などの専門家によるチェックを受けた方が安心です。

国税庁「相続税の申告書第14表(平成27年分以降用)」

2. 寄附・支出財産の明細書など必要書類を添付する

非課税特例を適用するには、相続税申告書への記載に加え、寄附に関する各種証明書類の添付も欠かせません。具体的には、前述した第14表のほか、公益法人からの受領書、寄附の趣旨や使途を明示した公益目的事業計画書などです。これらの書類には、寄附年月日や金額、目的などの正確な記載が求められます。

また、学校法人や地方独立行政法人へ寄附する場合は、それらが公益法人に該当することを証明する書類も必要です。加えて、寄附金額が高額である場合や、寄附先が新設された法人である場合も、追加で確認資料を求められることがあります。

相続税申告書と同様、必要書類にも不備があると、特例が適用されない可能性があります。専門家に相談しながら十分な準備を行うのがおすすめです。

必要書類の例

以下のように、寄附先の種類によって必要書類が異なります。

【国、地方公共団体、公益事業を行う特定法人に寄附した場合】

  • 寄附先が特定の公益法人であることを証明する書類
  • (例:法人の定款の写し、法人登記簿謄本、法人番号の確認書類など)
  • 寄附金受領証明書(寄附日・金額・寄附者が記載されたもの)

【特定の公益信託の信託財産として支出した場合】

  • 信託契約書の写し(信託目的・受益者・運用方針などが記載されたもの)
  • 信託財産の評価額を証明する書類
  • (例:不動産の評価明細、有価証券の時価評価表など)

【認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)に寄附した場合】

  • 認定NPO法人であることを示す書類
  • (例:認定通知書の写し、内閣府や自治体の認定書類など)
  • 寄附金受領証明書(寄附の事実と金額・寄附先法人名が記載されたもの)

これらの書類は、寄附または支出が適切に行われたことを証明するものです。相続税申告前に税理士などの専門家に相談し、漏れなく書類をそろえましょう。

国税庁「No.4141 相続財産を公益法人などに寄附したとき」

公益法人に寄附を行う際の注意点

公益法人に寄附を行う際は以下のポイントに注意しながら、寄附の目的や方法に応じて適切な手続きを進めましょう。

 

  • 譲渡所得税の課税に注意すること
  • 相続財産が確定してから寄附をすること
  • 相続税の申告期限内に寄附を行うこと

 

譲渡所得税の課税に注意すること

株式や不動産などの資産を寄附する場合、譲渡所得税が課税されることがありますが、これは資産を移転した際に、無償だとしても「譲渡があったもの」とみなされるためです。

ただし、一定の公益法人や認定NPO法人、公益信託などに対して寄附した場合は、「租税特別措置法第40条」に基づき、譲渡所得税が非課税になる特例が適用される可能性があります。この特例は寄附先が適格であり、かつ寄附の目的が公益の増進に資することが前提です。

また、現金や預貯金を寄附した場合は、そもそも譲渡所得税の課税対象にならないため、課税されることはありません。

一方、不動産や株式を現物のまま寄附した場合は、「みなし譲渡課税」の対象になることがあります。みなし譲渡課税は、相続税や贈与税の不当な回避を防止する目的で設けられており、実際には売却していなくても、時価で譲渡したとみなして所得税が課される制度です。

寄附の内容や資産の種類によって課税関係が大きく異なるため、事前に税理士などの専門家に相談し、税額の試算を行うことをおすすめします。

相続財産が確定してから寄附をすること

相続財産の確定後に寄附を行うことは、税務リスクを回避する上で重要です。不動産や非上場株式など評価が困難な資産については、後に財産価値が見直される可能性があるためです。適切な評価額で寄附をするために、以下の点に注意してください。

専門家への相談の重要性

評価額の適正化や寄附財産の選定について、税理士などの助言を受けることで、申告内容の齟齬やトラブルを防げます。

タイミングの計画的決定

相続税申告期限内に寄附を完了させるとともに、申告書に寄附内容を適切に反映できるよう、必要書類の準備も事前に進めておきます。

これにより、適切な評価と税務手続きが円滑化し、節税メリットを最大限活用できます。

相続税の申告期限内に寄附を行うこと

相続税の申告期限内に寄附を行い、その証明書類を取得して申告書に添付することが必要です。相続税の申告期限は、「被相続人の死亡を知った日の翌日から10カ月以内」と定められています。
この期限を過ぎると、たとえ寄附を行っていても、非課税特例を適用できない可能性があります。

寄附先が公益法人や認定NPO法人などの場合、その寄附金を非課税の対象にするには、寄附の完了とともに、受領証明書や公益目的事業計画書などの必要書類を、期限内に提出しなければなりません。これらの書類の準備や発行には時間を要することが多いため、相続開始後はできるだけ早く寄附の意思を固め、寄附先と連絡を取りながら手続きを進めましょう。

また、相続税は申告だけでなく、納付も10か月以内に行わなければいけません。早期に寄附を完了させることは、寄附による控除額を反映させた最終的な相続税額の算出にも関係します。期限を過ぎてしまうと、追徴課税や延滞税の対象になりかねないので、円滑に申告手続きを行えるように、早めの行動と専門家への相談をおすすめします。

相続税に関する疑問や不安は、税理士法人レガシィへ

公益法人を活用した相続税対策は、租税特別措置法第70条に基づいており、一定の条件を満たすことで寄附された相続財産が非課税になります。寄附を通じて、財産を相続税の課税対象から外すことで、相続税の負担軽減が可能ですが、その寄附が公益性を有していることが前提です。また、相続税申告期限内に寄附を行うとともに、必要書類の提出が求められます。

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この記事を監修した⼈

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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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