医院継承とは?メリットや進め方を解説
Tweet医院継承とは、既存のクリニックや医院を引き継いで開業する方法であり、ゼロから新規開業するのとは異なる特徴があります。本記事では、医院継承の概要や継承と承継の違い、メリット・デメリット、具体的な進め方や注意点について解説します。
医院継承とは?
医院継承とは、経営している医院やクリニックの経営権を後継者に引き継ぐ行為であり、事業承継やM&Aの一種とされています。院長が引退や世代交代を迎える際に、診療所の運営を後任の医師へ譲り渡すのが基本的な形です。近年は、医師の高齢化や後継者不足の課題が深刻化しており、患者への安定した医療提供を実現するためには不可欠な手段となっています。
継承と承継の違い
「継承」と「承継」は似た言葉ですが、その意味合いには違いがあります。
継承は「地位や事業などを受け継ぐこと」を意味し、文化や伝統の引き継ぎなど広い意味で用いられる表現です。一方、承継は「地位や身分、事業などを引き継ぐこと」を意味し、財産や権利義務などの法律的な側面で使われるケースが多い言葉です。
医院の事業を引き継ぐ場合には、建物や医療機器といった資産、さらに借入金などの負債も含めて承継されます。そのため、厳密には「承継」という表現が適切ですが、一般的には「医院継承」という呼び方が広く使われています。
医院の継承が注目を集める背景
近年、医院やクリニックの継承は医療業界における大きな関心事となっています。主な背景は以下の通りです。
- 院長の高齢化
- 親族内後継者の不在
それぞれ詳しく解説します。
院長の高齢化
院長が高齢になると、診療業務や医院経営の責任が体力的にも精神的にも大きな負担となり、事業を継続することが難しくなるケースが増えます。特に個人経営の医院では、院長個人に業務が集中している場合も少なくありません。院長が引退のタイミングを迎えると、そのまま医院を維持できなくなるリスクが高まります。
もし後継者がいない場合、医院は閉鎖され、長年通院してきた患者が行き場を失う「医療難民」となる可能性があります。これは患者にとって深刻な問題であり、地域医療の空白を生む大きな原因です。
厚生労働省「令和4(2022)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、2022年時点で開業医(大学病院などの医育機関を除く)の平均年齢は、病院勤務医で47.6歳、診療所勤務医で60.4歳と報告されています。診療所の平均年齢が高いという事実は、今後さらに多くの医院で継承問題が表面化するサインでもあります。
厚生労働省「令和4(2022)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」6ページ
親族内後継者の不在
医院継承が注目される背景のひとつに、親族内での後継者不在があります。かつては「子どもが医師となり医院を継ぐ」という流れが一般的でしたが、現在は必ずしもそうではありません。子どもが医師を目指さず、初めから別の職業を選ぶケースや、医師を志しても途中で方向転換するケースもあります。
また、仮に医師になったとしても、親が営む医院と同じ診療科を選ぶとは限りません。例えば親が内科でも、子が外科や小児科を専門にしていれば、そのまま医院を継承するのは現実的に難しくなります。さらに勤務地の希望が都市部や大規模病院であった場合、地方の診療所を継ぐ選択肢を取らないケースも少なくありません。
上記のように親族内継承が成り立たない状況は全国で増加しており、第三者への医院継承やM&Aのニーズが高まる要因となっています。地域医療を持続させるためにも、親族内にこだわらず幅広い継承方法を検討する必要があります。
医院継承のメリット
医院継承には、売り手・買い手それぞれに大きな利点があります。売り手にとっては、長年診療してきた患者や一緒に働いてきたスタッフを守りながら、地域医療を継続できる点が大きなメリットです。一方で買い手にとっては、開業資金を抑えつつスムーズに独立でき、経営基盤を早期に安定させられる点が魅力となります。
- 【売り手】患者の治療を引き継げる
- 【売り手】スタッフの雇用を維持できる
- 【買い手】開業資金を抑えられる
- 【買い手】既存患者を引き継げる
それぞれのメリットを詳しく解説します。
【売り手】患者の治療を引き継げる
医院継承の大きなメリットは、長年診療してきた患者を廃院によって途絶えさせることなく、新しい医師に引き継げる点です。多くの患者は、かかりつけ医として信頼してきた医院に通い続けたいと考えています。
特に高齢の患者や、慢性的な疾患で定期的な治療が必要な患者にとっては、急に医院がなくなることが健康リスクにつながるかもしれません。継承によって医療を継続できれば、患者本人だけでなく、その家族にとっても安心材料になります。
地域社会にとっても「馴染みの医院が存続すること」は、医療インフラを守るのと同義です。地方や郊外では新規開業が少なく、医院が閉鎖されれば地域住民が医療を受けにくくなる可能性があります。医院継承はそうした医療の空白地帯を生まないための重要な仕組みです。
【売り手】スタッフの雇用を維持できる
医院を継承すると、長年培ってきた経験やスキルを持つスタッフが、そのまま新しい医院で働き続けられます。スタッフの雇用が維持されれば、引き継ぎがスムーズに行われ、患者に対するサービス品質も守られます。
スタッフ自身も慣れ親しんだ職場で働き続けられるため、転職に伴う負担や不安がなく、安定した環境で働き続けられることは大きなメリットです。
【買い手】開業資金を抑えられる
新規で医院を立ち上げる場合には、土地や建物、内装工事、医療機器の購入など多額の初期費用が必要です。
しかし医院継承では、すでに整っている設備や医療機器を引き継ぐため、初期投資を大幅に削減できます。
さらに内装工事や機器選定にかかる時間や労力を省けるため、スピーディーに開業を進められるのも大きな利点です。資金面でのハードルが下がるため、より多くの医師が独立開業に挑戦しやすくなります。
【買い手】開業後は既存の患者をそのまま引き継げる
新規開業の場合、集患に時間がかかり、経営が軌道に乗るまでに一定の期間を要します。しかし医院継承であれば、開業当初から既存の患者が通院しているため、安定した収益を確保しやすいのが特徴です。
地域住民にとっても、馴染みのある医院が存続することで安心して通い続けられるため、患者離れが起こりにくい傾向があります。その結果、買い手の医師は診療に集中でき、スムーズに医院経営を軌道に乗せられます。
医院継承のデメリット
医院継承は、売り手・買い手の双方にとって大きなメリットをもたらす一方で、注意しておくべきデメリットも存在します。特に、以下の2点です。
- 【売り手】診療方針などの違いがトラブルに発展する
- 【買い手】希望に合う医院を見つけられない
それぞれのデメリットを詳しく解説します。
【売り手】診療方針などの違いがトラブルに発展する
売り手にとって最も大きなリスクになるのが、新しい医師の診療方針や経営スタイルとの違いです。自分の理念やこれまで築いてきた患者層のニーズと合致しない場合、患者が不安を覚えて離れてしまう可能性があります。
長年一緒に働いてきたスタッフも、新院長との価値観の違いから不満を抱き、組織内に摩擦が生じるケースも考えられます。医院を引き渡した後でも、患者やスタッフから旧院長に相談が持ち込まれ、関係が完全に断ち切れないケースもある点には注意が必要です。
【買い手】希望に合う医院を見つけられない
買い手側にとって大きなデメリットは、自分の希望に合う医院を探すのが容易ではない点です。立地条件や診療科目、経営状態など、希望する条件をすべて満たす案件は限られています。
仮に理想的な案件が見つかっても、他の買い手との競争や売り手側の都合によって交渉がまとまらないケースもあります。その結果、開業までのスケジュールが大幅に遅れ、当初描いていた計画の通りにならない可能性もあります。
医院継承の進め方
医院継承を成功させるには、事前準備が欠かせません。開業後の方向性を固め、専門家のサポートを得ながら候補医院を選定し、面談や内見を通じて具体的なイメージを持つのが大切です。具体的なステップは、以下のようになります。
- 開業コンセプトを決める
- 専門家に相談し医院の選定を行う
- 継承元の医院と面談・内見を行う
- 契約および継承を行い開業する
それぞれのステップを詳しく解説します。
1.開業コンセプトを決める
医院継承を検討する際は、まず「自分がどのような医院を作りたいのか」というコンセプトを明確にしましょう。
例えば小児科であれば「地域のかかりつけ医として子どもと保護者を長期的に支える医院」、内科であれば「生活習慣病に特化し予防医療を推進するクリニック」といった方向性を考えられます。コンセプトを固めておくと、候補医院が自分のビジョンと合っているかを判断しやすくなり、後々のミスマッチを防ぎやすくなります。
2.専門家に相談し医院の選定を行う
医院継承は法務や税務、契約交渉といった複雑な要素が絡むため、税理士、医療M&A仲介会社、コンサルタントなどの専門家に相談するのが一般的です。表に出ていない「非公開案件」を持っている仲介会社に依頼すると、自分の希望条件に合う医院を見つけられる可能性が高まります。
事業譲渡に伴う契約書の作成はもちろん、医療法人であれば理事会や行政への手続きが必要となるため、専門家のアドバイスは重要です。
3.継承元の医院と面談・内見を行う
候補医院が見つかったら、必ず現院長との面談を行いましょう。診療方針や経営理念が自分の考えと合うかを確認することはもちろん、スタッフの雰囲気や働き方について直接話を聞くのも重要です。
具体例を挙げると、地域密着型の医院で「患者との対話を重視してきた」という方針を聞いた場合、自分がスピード重視の診療スタイルを望んでいるなら相性があまり良くない可能性があります。
実際に医院を訪問し、医療機器の状態や内装、患者の動線などをチェックすると、開業後の運営をより具体的にイメージできます。
4.契約および継承を行い開業する
最終的に条件が合致すれば、事業譲渡契約を締結します。契約時は、患者情報の引き継ぎ、スタッフの雇用契約の再締結、医療法人であれば理事変更や行政への届出など、さまざまな手続きが必要です。
患者が安心して新体制に移行できるよう、引き継ぎ期間を数か月設けて、旧院長と一緒に診療するなどの施策を行いましょう。また、スタッフの意見を尊重しながら新体制を整えれば、医院全体が円滑に機能しやすくなります。
医院継承を実施する際のポイント
医院継承を円滑に進めるためには、契約の締結だけではなく、その前後の準備や調整が重要です。準備を怠ると、継承後に患者離れや経営悪化といったトラブルが発生する可能性があります。主なチェックポイントは以下の通りです。
- 売り手は、患者やスタッフの引き継ぎなどの詳細を決める
- 買い手は、事前に経営状況などを調査する
- 買い手は、設備や内装を確認する
それぞれのポイントを詳しく解説します。
売り手は、患者やスタッフの引き継ぎなどの詳細を決める
売り手側にとって重要なのは、患者やスタッフが安心して新しい体制に移行できるよう配慮することです。患者に対しては「なぜ医院を継承するのか」「どのような医師が後を引き継ぐのか」を丁寧に説明し、信頼関係を維持する必要があります。例えば、引き継ぎ前に新院長を紹介する場を設けたり、院内掲示やニュースレターを通じて情報を共有したりする方法があります。
スタッフに対しても、雇用条件や役割の変更について早めに話し合い、不安を払拭するのが重要です。患者へのサービス品質を維持するためにも、スタッフが安心して働ける環境の整備が欠かせません。カルテや電子システムの引き継ぎ方法、医療機器のメンテナンス状況、契約中のリース機器や消耗品の取り扱いなど、具体的な引き継ぎ項目をリスト化し、漏れなく対応できるよう準備しましょう。
買い手は、事前に経営状況などを調査する
買い手側にとっては、継承する医院の経営状況を正確に把握する作業が必須です。売上や経費、患者数、診療科ごとの収益性を詳細に分析すると、経営基盤の強さを確認できます。直近3年分の財務諸表を確認し、季節変動や患者数の増減傾向をチェックするとよいでしょう。
簿外債務の有無や未払金、過去の訴訟リスクなども調査対象に含める必要があります。こうした調査を怠ると、継承後に予期せぬ負担が発覚し、経営に深刻な影響を及ぼす可能性があるため注意してください。地域に競合する医院の数や特色、将来的な人口動態(高齢化率や人口減少の見込み)など、市場分析も欠かせません。
買い手は、設備や内装を確認する
医院を継承する際は、医療機器や内装の状態を入念に確認しなければなりません。例えば、CTや内視鏡といった高額機器が老朽化している場合、修理や買い替えに最低でも数百万円の費用が必要となるケースがあります。コストを事前に見積もれば、継承後の経営計画をより現実的に立てられます。
内装に関しても、老朽化やレイアウトの不備がある場合は改修工事が必要になり、追加コストが発生します。
バリアフリー化や待合室の広さ、空調や照明の快適性は、患者満足度に直結する重要な項目です。チェックを怠ると、後から大きな課題となる可能性があります。内装改修を行う際には「どの程度リフォームすべきか」「最低限必要な改修とブランディングを兼ねた改修をどうバランスさせるか」を検討しましょう。
医院継承のご相談はレガシィまで
医院継承は、地域医療を守りながら経営を円滑に引き継ぐための大切な選択肢です。しかしスムーズに医院継承を進めるためには、専門的な知識を持つパートナーの存在が欠かせません。
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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
