医療法人設立の要件は?流れやメリットを解説
Tweet医療機関の法人化には、節税や人材の定着、事業承継の円滑化など、多くのメリットがあります。ただし、医療法人の設立には一定の要件が定められているので、必要事項や申請の流れを正しく理解しておくことが重要です。この記事では、医療法人を設立するための基本的な要件や手続きの流れ、法人化によるメリットなどを分かりやすく解説します。
目次
医療法人設立のメリット

医療法人とは、医療法に基づいて、病院・診療所・介護老人保健施設などの運営を目的に設立される法人を指します。最大の特徴は、営利を目的としない非営利組織である点です。株式会社のような営利目的の組織ではないため、剰余金の配当は禁止されています。
個人病院やクリニックとの違いとして、利益の帰属先が挙げられます。個人経営では、経営で得た収入や財産を院長個人が自由に使えますが、法人化すると財産はすべて医療法人に帰属します。法人の資産は法人に帰属するため、経営者を含む個人が自由に流用することはできません。
こうした仕組みにより、医療法人は個人経営と比べて組織としての安定性や継続性が高まり、次のようなメリットが得られます。
- 金融機関や取引先からの信用度が向上する
- 所得に応じては、個人課税よりも有利になる場合がある
- 持分なし医療法人の場合は、理事の交代によりスムーズに承継ができる
- 組織の安定化により、人材の定着や採用面で有利になる
医療法人は厳格な審査を通過し、都道府県知事の認可を得て運営されているため、社会的な信用度が高い点が強みです。その結果、金融機関からの融資を受けやすくなり、資金調達面で有利になります。
医療法人設立の要件

医療法人を設立するには、法律や行政が定める条件を満たす必要があります。主な要件は次の4つです。
- 人的要件
- 施設・設備要件
- 資産要件
- その他の要件
以下では、それぞれの要件について具体的に解説します。
人的要件
医療法人を設立するにあたっては、法人としての体制が適切に整っていることが求められます。主な人的要件は次の通りです。
- 社員が3名以上いる
- 理事3名と法人の監査役にあたる監事1名を置く
- 理事長は原則として医師または歯科医師である
- 社員は1人につき1票の議決権を持つ
- 役員の任期は2年以内で、再任も可能
- すべての医療機関管理者を理事に含める
なお、都道府県知事の認可を受けた場合には、医師や歯科医師でない人物が理事長に就任できる特例も認められています。
施設・設備要件
医療法人として業務を行うには、以下の施設・設備が必要です。
- 1カ所以上の病院・診療所・介護老人保健施設を有している
- 医療行為に必要な設備・器具が確保されている
これらは図面や契約書、登記事項証明書などで証明する必要があります。既存設備は法人へ拠出するか、設立後に買い取る形で整備します。
資産要件
医療法人を安定的に運営するためには、一定の資産を備えていることが求められます。設立時に必要とされる主な資産要件は、次の2点です。
- 設立後2か月分の運転資金を現預金として確保する
- 個人経営時代の設備を法人が買い取る場合、その分の追加資金を準備する
これらは、医療法人が持続的に医療サービスを提供し、地域住民の健康維持に貢献するための基盤となります。十分な資産を準備しておくことで、設立後に財政状況の悪化によって運営が困難になるリスクを回避し、安定した法人運営を実現できます。
その他の要件
医療法人として認可を受けるには、基本的な設立要件のほかにも、いくつかの追加条件を満たす必要があります。細かな基準があるため、事前に確認しておくことが重要です。
- 既存法人と同じ名称を使用していない
- 誇大広告となる名称を使用していない
- 複数施設を法人化する場合は、それぞれの施設管理者が雇用関係にない
なお、個人開業の実績がなくても医療法人を設立することは可能です。
医療法人設立の流れ

医療法人の設立には、通常の法人設立とは異なる独自の手続きが必要です。主な流れは以下の通りです。
※ただし、自治体によって異なる場合もあります。
1.自治体の医療法人設立説明会へ参加
まず、自治体主催の説明会への参加が必須条件です。多くの自治体では年2回程度の開催に限られるため、開催時期を事前に確認しておく必要があります。
参加を希望する場合は、該当する自治体のホームページなどで、最新の開催スケジュールを事前に確認しておくことをおすすめします。
2.定款案の策定と基本事項の整理
医療法人の定款案を作成し、基本事項を整理します。定款案に盛り込む主な内容は、以下の通りです。
- 名称
- 事業内容やその目的
- 施設の所在地
- 役員や社員に関する規定
- 解散や合併、分割に関する規定 など
なお、厚生労働省は社団医療法人の定款例を公開しているため、参考資料として活用することを推奨します。
3.設立総会による承認と議事録作成
設立者3名以上で設立総会を開き、定款の決議や役員の選任を行ったうえで、議事録を作成します。議事録には、日時・議案・出席者の氏名や住所などの基本事項に加え、次の内容を明記する必要があります。
- 役員・管理者・設立代表者の承認
- 定款案の承認
- 事業計画および収支予算の承認
- リース契約の引き継ぎ承認 など
4.認可申請書の提出と審査
各自治体のホームページ上で公開されている「設立認可申請書」をダウンロードし、必要事項を記入します。
仮申請に必要な書類は自治体ごとに指定されているため、要件を確認しながら漏れなく準備しましょう。書類の種類は多岐にわたるため、スケジュールには十分な余裕を持って着手することが重要です。
必要書類が整ったら仮申請を行い、審査を経て問題がなければ本申請へと進みます。本申請の段階では、保健所・知事・医療審議会による面接・質疑応答・審議・実地調査などが行われ、審査は厳格に実施されます。
書類審査の段階で補正や追加資料の提出を求められるケースも少なくありません。申請から認可までには、通常6か月〜1年ほどかかります。
5.設立認可書の交付
医療審議会での審査を無事に通過すると、知事から「設立認可書が交付」され、医療法人の設立が正式に許可されます。この手続きが完了しなければ医療法人としての正式な事業開始ができないため、設立認可書の交付は重要なステップです。
6.登記申請書類の準備と法務局提出
設立認可書の交付を受けたら、2週間以内に法務局へ設立登記申請書類を提出する必要があります。申請書には、法人の名称・事務所所在地・資産額・役員情報などを記載します。
7.登記完了・各種手続き
登記が完了すると、医療法人として正式に設立が認められたことになります。設立後は、銀行口座の開設・電気やガスなど契約名義の変更・税務署への届出など、各種の行政・実務手続きを進めます。
医療法人設立は事業承継にも効果的!複雑な手続きは専門家へ相談がおすすめ
医療法人設立には、事業承継の円滑化など多くのメリットがありますが、厳格な要件や複雑な手続きが伴います。専門家に相談することで不備を防ぎ、スムーズに進められます。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
