ホールディングス化とは?目的やメリット・デメリットを解説
Tweetホールディングス化は企業が持株会社体制に移行し、経営効率の向上とリスク分散を図る手法です。グループ全体の意思決定を強化し、子会社の独立性を保ちながら事業成長を促進しますが、管理コストの増加や連携の課題もあります。本記事では、そのメリット・デメリットを解説し、経営者の意思決定をサポートします。
ホールディングス化とは
まずは、ホールディングス化の言葉の意味と狙いについて解説します。
「ホールディングス」の意味
「ホールディングス」は、株式を保有することでほかの会社を支配・管理する会社を指します。この言葉は、英語の「holding(保有)」に由来しています。自ら事業を営むのではなく、傘下企業の株式を保有することでグループ全体を統括することが特徴です。日本では「持株会社」とも呼ばれます。この仕組みにより、経営の効率化や透明性の向上、リスク管理の強化などが期待できます。
ホールディングス化の狙い
ホールディングス化は、企業グループ全体の経営戦略を効率的に策定・実行し、経営全体の最適化を図ることを目的としています。持株会社がグループの経営資源の配分やリスク管理を担うことで、各事業会社は一定の独立性を保ちながら、事業運営に専念でき、さらに事業会社間のシナジー効果も期待できます。変化の激しい経営環境にも柔軟に対応できることから、企業価値の持続的な向上を目指すための有効な手段として、多くの企業の関心を集めています。
ホールディングス化の3つの手法
ホールディングス化は企業の成長や事業再編にともない、経営体制を再構築する手段として注目されています。代表的な手法は3つです。
- 既存企業を持株会社と子会社に分社化する
- 既存企業を複数の事業子会社に分け、上位に持株会社を設立する
- 既存企業が持株会社となり、グループ会社を子会社化する
1.既存企業を持株会社と子会社に分社化する
既存企業の中核事業を切り出して新設子会社として独立させ、元の企業がその株式を保有する持株会社に移行する手法です。「会社分割方式」とも呼ばれます。比較的シンプルな組織再編手段であり、導入のハードルが低いため、経営の効率化や将来的な事業承継を視野に入れた企業によく採用されます。
事業を子会社に移すことで、持株会社と事業会社の役割が明確になり、経営戦略の策定やグループ全体の統制をより効率的に行えるようになる点が特徴です。また、すべての事業を移管するケースでは、持株会社が実質的な事業を持たない「抜け殻方式」となり、純粋持株会社としての機能に特化することも可能です。
2.既存企業を複数の事業子会社に分け、上位に持株会社を設立する
既存企業を事業部門ごとに分割し、それぞれを子会社として独立させたうえで、これらを統括する持株会社を新たに設立する手法です。「株式移転方式」と呼ばれることもあります。新設された持株会社が各子会社の株式を保有し、元の株主は持株会社の株主となる仕組みです。
企業グループとしての経営権を保持しながら、各事業の独立性と専門性を高めることができるため、多角的な事業展開を行う企業に適しています。また、許認可の再取得が不要な場合が多く、既存事業への影響を最小限に抑えられるなど、実務面でのメリットも多くあります。
3.既存企業が持株会社となり、グループ会社を子会社化する
既存企業がほかのグループ会社の株式を取得し、それらを子会社化することで、持株会社としての機能を担う手法です。「株式交換方式」と呼ばれることもあります。親会社が子会社の株式と引き換えに自社の株式を交付することで、完全支配関係を構築します。すべての株式を交換する「完全株式交換」と、一部の株式を対象とする「部分株式交換」の2種類があり、グループ内の資本関係を柔軟に再編することが可能です。
ホールディングス化するメリット
ホールディングス化を実施することで、期待できる主なメリットは以下のとおりです。
- トップダウン方式での意思決定強化につながる
- 傘下企業の経営の効率化につながる
- リスク分散になる
- 株式を集約できる
- M&A・事業承継対策になる
各メリットについて詳しく解説します。
トップダウン方式での意思決定強化につながる
ホールディングス化を導入すれば、持株会社がグループ全体の経営戦略を策定し、各子会社へ明確な方針を示す体制を構築できます。例えば、全社共通の目標設定やリソースの優先配分が迅速に行えるため、意思決定の質とスピードが向上します。結果として、グループ全体の方向性が明確になり、機動力のある組織運営が実現しやすくなります。
傘下企業の経営の効率化につながる
ホールディングス化を進めることは、傘下企業全体の経営効率化に大きく貢献します。持株会社が人事や総務などの間接部門を統括・集約することで、各子会社は本業に専念でき、業務の集中化と合理化を進めることが可能です。各社に分散していたバックオフィス業務を統合することで、人的リソースの無駄を省き、コスト削減にもつながります。また、専門性の高い人材やノウハウをグループ全体で共有・活用する仕組みを整えることで、業務レベルの平準化や迅速な意思決定が促進され、グループ全体の競争力を高められます。
リスク分散になる
グループ全体のリスクを分散できるのも大きなメリットです。事業ごとに会社を分けて管理することで、各子会社が独立した経営単位として機能します。そのため、ひとつの事業で業績悪化や不祥事などが起きても、ほかの子会社への影響を最小限に抑えることが可能です。また、リスクを事業単位で把握・管理できるため、問題のある領域に対して迅速な対策を講じやすくなります。例えば、不振事業のみを売却したり、撤退・再編したりするなど、柔軟な対応が可能です。このように、事業単位での管理体制を構築することで、グループ全体のリスク分散と経営の持続可能性を高められます。
株式を集約できる
持株会社がグループ各社の株式を一元的に保有・管理できます。グループ内での資本移動や子会社の再編も、持株会社を通じてスムーズに行うことが可能です。これにより、株主管理が容易になり、経営の安定性も高まります。事業承継時に株式が相続人の間で分散し、経営権が不安定になるリスクがありますが、持株会社を通じて株式を集約し、あらかじめ経営権を整理しておくことで、事業承継時の混乱や経営リスクを回避できます。
さらにホールディングス化を経営戦略の一環として明確に示すことで、少数株主に対してその目的や将来のビジョンを説明でき、理解を得やすくなります。これにより、株式の買い取りや再編が円滑に進みます。
M&A・事業承継対策になる
ホールディングス化は、M&Aや事業承継を円滑に進めるための有効な手段です。持株会社体制を採用することで、グループ全体を大きく動かすことなく子会社単位で株式譲渡が可能となるため、柔軟かつ迅速にM&Aを実行できます。また、後継者候補は子会社の経営を通じて実務経験を積み、経営ノウハウを体系的に学べるため、計画的かつ円滑な事業承継が実現します。さらに、各子会社が独立性を持つことにより、事業の選択と集中が進み、不要な事業の売却も迅速に行えます。このように、グループ全体の戦略的な意思決定を強力に支える体制が整います。
ホールディングス化のデメリット
ホールディングス化はグループ全体の統制や効率化に効果的ですが、一方で慎重に検討すべきデメリットも存在します。
- 管理コストが増加する
- 子会社間の連携の希薄化や対立が発生する
- ガバナンス強化が難しい
管理コストが増加する
管理コストの増加は懸念材料のひとつです。持株会社と各子会社で人事・総務・経理といった管理部門が重複すると、人件費やオフィス賃料などの固定費がかさみ、コスト負担が重くなります。また、グループ全体での会計処理や税務申告が複雑化し、それに対応するためには専門人材の確保や会計システムの導入が必要です。これらの追加コストは利益率の低下や資金繰りへの影響を招き、将来的な成長投資の余力を損なうおそれもあります。そのため、ホールディングス化を進める際は、間接部門の機能を集約・効率化する体制づくりが重要な課題です。
子会社間の連携の 希薄化や対立が発生する
各子会社が独立して事業運営を行うと、連携意識が希薄になる場合があります。その結果、業績目標や事業方針にズレが生じ、リソースの重複や利害の対立から、相互協力が難しくなるケースも見受けられます。こうした状況では、グループ全体としてのシナジー効果が十分に発揮されにくくなるため、情報共有の仕組みや人材交流の促進といった横断的な連携強化策が不可欠です。各子会社の自律性を尊重しつつ、グループ全体の方針やビジョンを明確に共有することで、組織としての一体感を高める経営が求められます。
ガバナンス強化が難しい
子会社が増加するにつれ、持株会社によるグループ全体のガバナンス維持は一層難しくなります。
各子会社の経営状況やリスクを正確に把握しつつ、グループ全体で統一感のある内部統制システムを構築・運用する必要があるためです。各社に裁量を与えすぎれば、経営判断の方向性にばらつきが生じ、グループ全体としての統制が効かなくなる可能性があります。一方で、統制を強めすぎると、現場の意思決定スピードや柔軟性が損なわれます。持株会社には、グループ全体の方向性を明確に示しつつ、各子会社の実情に即した管理体制を構築することが求められます。
ホールディングス化の流れ
企業グループをホールディングス化する際、一般的には次のような流れで進行します。
- 事前準備を行う
- スキーム・手法を検討する
- 株主への説明を行う
1. 事前準備を行う
ホールディングス化をスムーズに実現するには、事前の綿密な準備が不可欠です。まずは、グループ全体の事業構造や財務状況を詳細に分析し、現状の強みと課題を明確に整理します。そのうえで、経営効率の向上、リスク分散、将来的な事業承継など、ホールディングス化を通じて達成すべき目的を具体化しましょう。目的が明確になることで、再編の方針やスキームの選定もぶれにくくなります。さらに、法務・税務・会計といった専門性の高い領域については、税理士や弁護士などの専門家の意見を取り入れることも検討すべきです。初期段階から適切な助言を得ることで、制度上のリスクを回避しながら、実行可能性の高い計画を策定できます。
2. スキーム・手法を検討する
次に、グループの目的や現状に応じて、最適な手法を選ぶことが重要です。会社分割や株式移転、株式交換といった手法にはそれぞれ特性があるため、慎重に比較検討を行いましょう。また、持株会社を設立するだけでなく、組織構造の再設計や株式の移転方法、資産・負債の取り扱い方針といった具体的な設計も重要です。こうした実務的な検討を進めるにあたっては、税理士や司法書士などの専門家と緊密に連携しながら、法令に則った適切なスキームを構築することが求められます。
3. 株主への説明を行う
ホールディングス化を円滑に進めるには、株主に対する丁寧で具体的な説明が欠かせません。株主総会などの公式な場を活用し、再編の目的や期待される効果に加え、デメリットやリスクについても包み隠さず説明し、十分な理解と承認を得る必要があります。その際には、ホールディングス化後の体制や経営方針なども明示し、株主に将来の方向性を共有することが重要です。
また、株主から寄せられる質問や懸念には、誠実かつ的確に対応することが求められます。こうした対話を通じて信頼を築くことで、ホールディングス化への移行を円滑に進める土台を整えることができます。
ホールディングス化の相談は専門家まで
ホールディングス化とは、企業が持株会社体制へ移行し、グループ全体の戦略統括や経営効率化を図る手法です。これにより、意思決定の迅速化やリスク分散、M&Aの柔軟な対応などが可能となります。一方で、管理コストの増加や子会社間の連携不足などが課題となるため、慎重な計画と適切な運営体制の構築が重要です。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表