ウェルビーイングの視点で考える、これからの遺言作成
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この記事について
「遺言はネガティブなもの?」日本では「遺言を書く」という行為に対して、まだまだハードルの高さを感じる方が多いのが現状です。
テレビドラマや映画でも「遺言」はしばしば遺産争いの火種として描かれ、あまり良いイメージを持っていない方も少なくありません。
しかし、少子高齢化や核家族化、人生100年時代と言われる現代社会においては、むしろ遺言は「自分らしい人生の集大成」であり、「これからの人生を豊かに生きるための準備」と捉える動きが世界中で広がっています。
本記事では、ウェルビーイング(well-being)という世界的な概念を手がかりに、遺言の持つ新しい価値とその可能性について考えていきます。
ウェルビーイングとは?
ウェルビーイングとは、WHO(世界保健機関)によって定義される「身体的・精神的・社会的に良好な状態」を指します。 病気でないというだけではなく、自分らしく、安心して生活し、社会や家族とのつながりの中で心豊かに生きる状態が重視されます。 近年ではOECD(経済協力開発機構)や内閣府でもウェルビーイングを指標とした政策推進が進められ、個人の幸福度向上が社会全体の課題となっています。ウェルビーイングの主な領域
ウェルビーイングは、「ただ健康であれば良い」「お金があれば幸せ」という単純なものではなく、複数の領域がバランス良く満たされることで実現すると考えられています。
OECDや内閣府の資料などでも、以下のような視点で個人の幸福度が測られています。人生の豊かさとは、これらが相互に支え合っている状態を指すのです。
・身体的ウェルビーイング(健康維持・生活習慣)
・精神的ウェルビーイング(心の健康・ストレス管理)
・社会的ウェルビーイング(人間関係・地域とのつながり)
・経済的ウェルビーイング(資産形成・生活の安定)
・意味的ウェルビーイング(人生の目的・自己実現)
遺言がもたらすウェルビーイングへの効果
1. 心の整理と安心感(精神的ウェルビーイング) 遺言を書くことで、自分の財産や気がかりなことが整理され、「何が起きても大丈夫」という安心感が得られます。 自分の財産や家族への想い、人生の価値観を明文化することで、心の整理が進み、安心感を得られる人が多いと言われています。2. 家族との対話とつながり(社会的ウェルビーイング) 遺言作成は、家族と将来について話し合う機会を生みます。 遺産分割だけでなく、「自分は何を大切にしてきたか」「家族への想い」を伝える場にもなり、対話が生まれることが大きなメリットです。
3. 自己実現・人生の意味づけ(意味的ウェルビーイング) 遺言を書くことは、自分の人生の棚卸しを行い、これからの人生をどう生きるかを考えるきっかけとなります。 自分の価値観や生き様を次世代に伝える「レガシー(遺産)」作りでもあります。
日本と世界の取り組み
世界の遺言文化の最新事情
イギリス、オーストラリア、カナダなどの先進国では、遺言を書くことがライフイベントの一つとして定着しています。人生の節目である結婚、出産、住宅購入時などに遺言を作成するのはごく一般的な行為です。
アメリカでは、オンライン遺言作成サービスの普及や、デジタル遺言の整備が進んでおり、若年層からの取り組みも広がっています。
イギリス
- ・国民の遺言作成率は約40%〜50%
- ・遺言は「ライフイベントの一つ」として定着
- ・子供が生まれたとき・家を買ったときに遺言を書く人が多い
カナダ・オーストラリア
- ・「エシカル・ウィル(倫理的遺言)」が浸透
- ・財産だけでなく、人生の教訓・感謝・価値観を遺言に残す文化がある
- ・学校教育や地域の啓発活動でも遺言の大切さを学ぶ機会がある
アメリカ
- ・ビデオメッセージやオンライン遺言作成サービスが普及
- ・遺言を「家族へのラブレター」と位置付ける動きも
日本でも広がる新しい遺言のかたち
日本政府(法務省)は「遺言作成率の向上」を掲げ、啓発活動を強化しています。 また、以下のような動きも目立ってきました。遺言作成を促進する取り組み
- 自治体による無料相談会や講座の開催
- 金融機関・士業によるエンディングノート普及
- 自筆証書遺言保管制度(法務局による保管サービス)の活用促進
遺言の多様化
- メッセージ型遺言(家族への感謝・人生の教訓など)
- ビデオレター型遺言
- SNSやデジタル遺産を管理する「デジタル遺言」の広がり
デジタル遺言とは
新しい取り組みとして注目されているのが「デジタル遺言」です。これは、インターネット上のアカウントやデジタル資産(SNS、写真データ、クラウドサービス、仮想通貨など)の取り扱いや、故人の意志をデジタルデータとして残すものです。
現代では個人の重要な情報がデジタル空間に分散しているため、パスワードやIDの管理だけでなく、自分の死後にそれらをどう扱ってほしいかをあらかじめ示すことが求められるようになっています。
海外では既にGoogleやAppleなどの大手企業が「アカウント継承機能」を提供しており、日本国内でもデジタル遺言やデジタルエンディングノートを支援するサービスが少しずつ広がりを見せています。
今後は、紙の遺言書とデジタル遺言を併用する「ハイブリッド型の遺言管理」が一般的になる可能性があります。
まとめ
遺言は決して「死の準備」ではありません。むしろ、自分のこれまでの人生を振り返り、これからの人生をより豊かに生きるための行動です。
人生100年時代において、自分の生き方をデザインする「人生設計ツール」として、遺言は新しい意味を持ち始めています。
まずは、ほんの小さな一歩から。
自分の思いを整理するところから始めてみてはいかがでしょうか。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表