一代飛ばしとは? 相続・贈与におけるメリットやデメリットを解説
Tweet「相続税を少しでも下げたい」「孫へ直接財産を贈りたい」といった思いを抱えている方は多いのではないでしょうか。こうした場合に活用されるのが、子を経由せずに孫へ直接遺産相続または生前贈与する「一代飛ばし」です。ただし、知識が不十分なまま実施すると、思わぬ税負担やトラブルを招くおそれがあります。本記事では、一代飛ばしを実践する際に押さえておくべきポイントを解説します。
目次
一代飛ばしとは?
一代飛ばしとは、相続回数を減らし、節税を目的とする手法です。本来相続人となる配偶者や子を飛ばし、孫など次世代に直接財産を相続・贈与することを指します。
一般的な法定相続では、「親から子へ」「子から孫へ」と順番に財産が移り、子が存命であれば孫に直接遺産がわたることはありません。ただし、このように順番に遺産相続していく際に問題になるのが、相続税の存在です。相続税は通常、相続の発生ごとに課税されるため、「親→子→孫」という順番で相続が進むと、二度にわたって相続税を課されることになります。
こうした税負担を抑えるために活用されるのが一代飛ばしです。子を介さずに直接孫へ財産を移転すれば、本来二度発生したはずの相続が一度で済むため、結果として税負担が軽減される可能性があります。一代飛ばしをすると、孫は法定相続人でないため「相続税の2割加算」が適用されます。なお、孫を養子にして法定相続人にした場合でも、子(養子にした孫の親)が生存している場合はこの加算の対象となります。それでも、状況によっては二度の相続よりも税負担が軽減される可能性があり、有効な節税方法といえます。
一代飛ばしを行うメリット・デメリット
一代飛ばしには、節税や特定の孫への財産承継などのメリットがある一方で、相続税の加算や相続トラブルのリスクのようなデメリットがあります。以下では、相続・遺贈の場合と贈与の場合のメリットとデメリットについて詳しく解説します。
相続・遺贈の場合
メリット
相続・遺贈において一代飛ばしを行う主なメリットは以下のとおりです。
- 子を経ずに孫へ直接相続させることで、相続税の課税回数を1回減らせる
- 孫を養子にすれば法定相続人として認められ、基礎控除額を増やせる
- 直接孫に相続させることで、孫へ確実に財産を残せる
まず相続税の課税回数を減らせることが挙げられます。特に資産規模が大きい家庭では、相続税の最高税率が適用されやすいため、1回分の課税を回避する効果は大きなものがあります。孫を養子にすれば法定相続人となり、基礎控除の増加(3000万円+600万円×法定相続人)により課税財産を減らせます。この方法は、子が少ない家庭で特に効果的です。孫へ確実に財産を残せるため、「子世代で財産が消費されてしまう」といった事態を回避できます。
デメリット
他方で、遺産相続で一代飛ばしをすると、以下のようなデメリットもあります。
- 子が存命の場合、相続税が2割加算される
- 親族間で不公平感が生じ、「争続」を招く可能性がある
- 一度相続・遺贈が完了すると、やり直しが非常に困難なため慎重な準備が必要
まず重要なのは、一代飛ばしを活用すると相続税が2割加算されることです。孫が養子であっても2割加算の対象ですが、孫の親(子)がすでに亡くなっている場合は適用されません。この相続税の2割加算については下記の関連記事で詳しく解説しています。
また、一代飛ばしによって特定の孫へ多額の財産を相続させると、不公平感から「争続(=相続トラブル)」が発生する可能性があります。被相続人の遺留分を侵害したとして、法的な争いに発展するおそれもあるため注意が必要です。
さらに、相続・遺贈は一度実行されるとやり直しが非常に困難なため、慎重な準備が必要です。上記のようなデメリットが気になる場合は、生前贈与の活用を検討するのもひとつの手です。
贈与の場合
メリット
贈与で一代飛ばしを利用するメリットは以下のとおりです。
- 相続財産を減らすことで相続税を軽減できる
- 相続開始前3年以内の贈与加算の対象外となる
まず、孫に生前のうちから資産を贈与することで、相続税の課税対象となる資産を減らせます。通常、被相続人が死亡する3年前以内に法定相続人に対して行われた贈与は相続税の課税対象に加算されます。ただし、孫が法定相続人でない場合は「3年以内加算」の対象外となるため、計画的な贈与によって相続税を軽減できる可能性があります。
ただしこの孫が法定相続人でない場合であっても、遺贈や生命保険金の受取り、相続時精算課税贈与を受けている場合は加算の対象となります。
※3年以内加算ですが、令和6年1月1日以降の贈与については7年に延長となりました。
デメリット
一代飛ばしでの贈与には、以下のようなデメリットもあります。
- 不動産を贈与する場合、相続と比べて不動産取得税や登録免許税の負担が大きい
- 贈与税の基礎控除(110万円)を超える部分には贈与税が課税される
土地や建物の贈与は、相続に比べ不動産取得税や登録免許税の負担が大きくなります。このように相続よりも税負担が大きくなるため、不動産の贈与を検討する際は、こうした税負担について留意しておくことが重要です。
また、贈与税の基礎控除は年間110万円までであり、それを超える場合には贈与税がかかります。それを超える額を贈与したい場合は、下記の関連記事で紹介している特例制度を活用するのが有効です。
一代飛ばしの行い方
続いては、「相続の場合」と「贈与の場合」に分けて一代飛ばしの方法を解説します。特に相続の場合、一代飛ばしは通常とは異なる相続方法ですので、事前にきちんと準備しておくことが重要です。
相続の場合
一代飛ばしで相続する方法は主に2つあります。
方法1. 孫に財産を遺贈する旨を明記した遺言書の作成
方法2. 養子縁組をして孫を法定相続人にする
遺言書を作成しないまま被相続人が死亡すると、相続は法律で定められた仕方で行われます。この際、被相続人の子が存命の場合、法定相続人は子になるため、孫に財産がわたることはありません。
したがって、孫に相続させるためには、事前に遺言書を用意しておき、孫に特定の財産を遺贈する旨を明記しておくか、孫と養子縁組をして法律上の「子」とし、法定相続人としての立場を作っておくことが求められます。
なお、方法1.を採用する場合も、特定の孫を優遇するあまり、ほかの相続人の遺留分を侵害しないよう注意しましょう。可能なら、あらかじめ親族内で相続の方法について話し合い、同意を得ておくことをおすすめします。
贈与の場合
一代飛ばしで贈与する方法としては以下が挙げられます。
方法1. 毎年の非課税枠(110万円)を利用して贈与する
方法2. 孫のライフイベントに合わせて必要費用を都度負担する
方法3. 非課税の特例制度を活用して一括贈与する
まず基本的な方法が、年間110万円までの非課税枠を利用して、孫への贈与を行うことです。この方法を活用すれば、贈与税を発生させずに、相続財産を減らせます。
孫の教育費や生活費をその都度直接支払う場合、多くは贈与税が発生しません。学用品など細々とした支出も積み重なれば大きな額になるため、こうした形で経済的に支援するのもひとつの方法です。
大学の学費や住宅の取得に要する費用など、多額のお金を一括贈与する必要がある場合は、対応した特例制度を利用することもできます。例えば教育資金の一括贈与制度を利用すれば、1,500万円までの贈与を非課税で行えます。
一代飛ばしを行う際の注意点
一代飛ばしを活用する際は、争続リスクや遺留分の侵害への配慮が欠かせません。相続・贈与の選択や手続きにおいて専門家の助言を受けることが重要です。
特定の人物を優遇すると争続に発展する可能性
子が存命であるにもかかわらず孫を相続人として扱うというのは、一般的にはやはり変則的な方法です。とりわけ、特定の孫に集中して相続させると、ほかの相続人に不公平感を抱かせ、感情的な対立が生じるおそれがあります。
したがって、遺言書の意図を明確にし、相続人の同意を得ることが重要です。また、日本の民法には遺留分という制度があり、一定の相続人には最低限の相続財産を受け取る権利が保障されています。そのため、遺留分を侵害しないように注意することも重要です。
相続・生前贈与のどちらが適しているかは専門家の判断が必要
一代飛ばしを行う方法は、相続と贈与という2つの方法があります。これらはそれぞれ必要な税金や手続きが異なっているので、どちらの方が適しているかは慎重に見極めることが重要です。そもそも一代飛ばしを利用するかどうかという判断自体も、資産状況や法律面などを総合的に考慮することが求められます。
しかし、相続や贈与のしくみは複雑なので、的確に判断するのは容易ではありません。遺言書を使って一代飛ばしをする場合も、法的な要件を満たして作成していないと、遺言が無効になってしまうおそれがあります。そのため、一代飛ばしの利用を検討している場合は、税理士や弁護士など専門家に相談してみるのがおすすめです。
相続・贈与でお悩みならレガシィにご相談ください
相続回数を減らせる一代飛ばしは相続税を軽減するために有効な方法です。また、年間110万円の非課税枠を活用して孫へ生前贈与したり、特例制度を利用して一括贈与したりすることも大きな節税効果があります。ただし、一代飛ばしを適切に活用するためには、対応する法律や資産状況を正確に把握することが重要です。
レガシィは相続専門の税理士法人として60年以上の実績とノウハウをもっています。もしも一代飛ばしの活用を検討している場合は、お気軽にご相談ください。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表