不当利得返還請求とは?遺産が不当に使い込まれた場合の対処法
Tweet遺産相続は一筋縄でいかないこともありますが、その中でも、遺産相続までに故人が遺すはずだった資産を誰かが使い込んでしまったケースは、訴訟にまで発展する場合もある難しい問題です。実際に使い込まれてしまったら、その分の資産が返還されない限り正当な遺産が受け取れません。この記事では、そのようなときに利用できる不当利得返還請求について解説します。
目次
不当利得返還請求とは
不当利得返還請求(ふとうりとくへんかんせいきゅう)とは、文字通り不当に利得を得た分を返還してもらう請求のことです。法的に正当な理由なく利益を獲得し、それによって他者に損害を与えた人物から、不当に獲得した利益を返還してもらうように請求することが該当します。
最近の例では、よくテレビやインターネットでも広告が出てくる消費者金融機関に対する過払い金の返還請求が挙げられます。あるいは、インターネットオークションやフリマアプリなどでの物品購入の際、入金したのに商品が届かないといった状況も不当利得に該当するので、入金したお金の返還を請求する対象になり得ます。
上記では身近な具体例を挙げましたが、法律上で不当利得が成立するためには次の4要件を満たしている必要があります。
- 他人の財産や労務から利益を得た
- 他人に損失を及ぼした
- 利益の獲得と他者への損失が因果関係で結ばれている
- 利益の獲得に法的な原因がない
これらすべてを満たすときに初めてこれを不当利得と呼び、これについて自分が損害を被っているのであれば返還請求が可能です。
相続での不当利得の例
身近な例での不当利得の例は挙げましたが、遺産相続の現場での具体例は分かりにくい方もいるかもしれないため、いくつか例示します。
被相続人(故人)の現金を使い込む
被相続人が生前に特別な指示をしていないにもかかわらず、遺産相続前の時点で故人の資産である現金を勝手に使い込み、自らの貯蓄を崩さずに済んだような人がいる場合、これは不当利得に該当します。
預金を勝手に引き出す
これも現金の使い込み同様、特に指示に基づくわけでもなく自らの資産を勝手に増やす行為に及んでおり、不当利得と判断されます。
賃料を勝手に受け取る
個人が所有していた不動産から得られる家賃収入を勝手に受け取った場合も、特定の指示に基づいているわけではなく個人の資産を増やしたことになり、本来不動産を相続するはずだった人が損害を受けているので、不当利得に該当します。
不当利得返還請求の方法
不当利得にはどのようなものが該当するかを把握していただいた上で、ここからは実際に不当利得返還請求を行うにはどのような手続きを踏めばいいのかを解説します。
- 相手が不当利得を得た証拠を集める
- 相手に不当利得返還請求をする
- 相手と話し合う
- 合意書を作成のうえで支払い方法を決める
- 裁判所へ訴訟を提起する
1.相手が不当利得を得た証拠を集める
まずは不当利得を得たとされる相手が、本当に不当利得を獲得していたのかを証明できる証拠を集めます。具体的にいつ、どれくらいの金額が使われたのか、本人が使い込んだ自覚があるかどうか等を示す材料(例えば録音データやテキストメッセージなど)が該当します。また、不当利得の成立要件で触れた「利益の獲得に法的な原因がない」ことを示すために、被相続人の遺言などがあればなおよいでしょう。
たとえば被相続人の通帳においては、口座取引を確認することで使い込みがされたという証拠にはなります。一方でそれを相手がやったかどうかという証拠とするのは、やや難しい場合もあります。こういった場合は相手の口座記録を入手するのが一番ですが、一般的には入手しにくいものでもあります。こうしたものは他の人の手を借り、弁護士権限によって開示請求を行うなどの対応を検討しましょう。
できる限り多くの証拠を集めることで、返還までをスムーズに進められるようになります。相手に対策されないよう、問題を認識した最初の段階における準備が重要です。
2.相手に不当利得返還請求をする
証拠を集めきったら、相手に対して不当利得返還請求を実施します。このとき、内容証明郵便を活用するとよいでしょう。内容証明郵便であれば、自分の手元と郵便局に送付した内容が控えとして残るので、通知した内容とその事実を証明できます。
3.相手と話し合う
不当利得返還請求の通知をした後は、相手と話し合います。このときに話し合うポイントとしては、いくらが不当に獲得された利益なのか、そしてそのうちいくらを返還する必要があるのか、返還方法はどのようにするのか、いつまでに返還するのかという4点が挙げられます。個人間で話し合うときはこれらの点に注意をして交渉を進めます。弁護士に依頼している場合、弁護士が相手と話し合いを進めてくれるので、自分が交渉する必要はありません。
4.合意書を作成の上で支払い方法を決める
交渉が成立し、返還する意思を相手から確認できたら合意書を作成しましょう。口頭でのやりとりだけでは後々不払いなどが起きたときにもこちらが不利になりかねません。したがって、支払う意思を確認次第速やかに書面で支払いについての合意を結ぶ必要があります。返還金額が大きくて一括で支払えない場合は分割払いになりますが、その場合は公正証書も併せて作成しておきましょう。公正証書があれば、相手が不払いを起こしたときに相手の財産を差し押さえることで債権を回収できます。
5.裁判所へ訴訟を提起する
交渉がまとまらない場合、裁判所において民事訴訟を提起できます。これを「不当利得返還請求訴訟」と呼びます。ただし裁判を起こすには基本的に弁護士の力が必要になるため、お金と時間がかかります。民事訴訟まで持ち込んで争うべきなのかは、事前によく相談してから判断しましょう。
不当利得返還請求の注意点
ここからは、不当利得返還請求を行う際に気を付けておきたいポイントを解説します。
不当利得返還請求には時効がある
不当利得返還請求には時効が存在します。不当利得返還請求は、2020年の3月までは時効が10年であったところ、2020年4月の民法改正によって、「権利の行使が可能であることを知ってから(=不当利得返還請求が可能であると知る、使い込みが発覚してから)5年間」あるいは「権利を行使可能となってから(=不当利得返還請求が可能となる、発覚の有無は別として使い込みが始まったときから)10年間」のうち、短い方が時効となりました。
つまり、基本的には使い込みが発覚してから5年以内に決着をつける必要が生まれたということです。
不当利得返還請求で受け取れる金額には上限がある
不当利益返還請求で受け取れる金額には上限があります。その上限とは、自分が被相続人の法定相続人であった場合、民法によって定められた法定相続分の割合です。
例えば父親が亡くなったときは、妻(配偶者)と子が法定相続人になります。この場合の法定相続分は、配偶者と子それぞれ2分の1ずつです。子が複数の場合は、その半分になった資産を均等に分割します。子どもがもし自分と兄の2人で、被相続人(父親)の遺産が2,000万円だった場合、自分の法定相続分は500万円となります。仮に兄が不当利得で大きな利益を得ていたとしても、この500万円を超える分については、不当利得返還請求はできません。
不当利得返還請求をしなくて良い場合もある
不当利得返還請求をしなくても問題とならないケースもあります。
2018年の民法改正の影響で、2019年7月1日以後に死亡した場合、死亡した被相続人の預金を勝手に引き出した者以外の法定相続人全員の同意に基づき、死後に勝手に引き出された預金を遺産の中に組み戻し、それも含めた遺産の分割を実施することが可能となりました。これにより死亡発覚後の預金の勝手な使い込みに関しては一定の対策がなされたと考えられます。
ただし、被相続人の死亡後に限られるため、被相続人が存命中に認知症などで判断能力の鈍った被相続人の預金口座から誰かが勝手にお金を引き出していたようなケースでは、不当利得返還請求が必要です。
おわりに:不当な相続に不安があれば専門家に相談を
不当利得とは、法的な根拠なしに個人が誰かの権利を侵害しながら利得を得ることです。そして、それに対し権利の返還を請求できます。相続の現場でそれが発覚した場合は、しっかり証拠を集め、相手に不用意な姿勢を見せないように立ち振る舞う必要がありますが、相応の法的知識がないと難しいものでもあります。相続の場において不当利得の返還請求を検討する場合は、不明点や不安を抱えたまま行動を起こす前に、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
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