相続の知識

ファイナンシャル・ウェルビーイングとは?「お金」と「幸せ」の関係性

お金があれば幸せになれるのでしょうか?この古くからの問いに、新しい答えを提示するのが「ファイナンシャル・ウェルビーイング」という概念です。単にお金を貯めることではなく、経済的な安心感を得ながら自分らしい選択ができる状態を目指す考え方として、世界中で注目されています。本記事では、お金と幸せの本質的な関係性を探りながら、日常生活でファイナンシャル・ウェルビーイングを実現するための具体的なアプローチを紹介します。

ファイナンシャル・ウェルビーイングの基本概念

ファイナンシャル・ウェルビーイングとは、単にお金がたくさんあるという状態ではなく、お金に関する安心感や選択の自由を持ち、経済的に健全な状態を指します。この概念は世界各国の金融当局や研究機関によって定義されており、現代社会における新しい「豊かさ」の指標として注目されています。

ファイナンシャル・ウェルビーイングの定義

ファイナンシャル・ウェルビーイングは各国の金融機関や研究機関によって微妙に異なる定義がなされていますが、共通している要素があります。米国消費者金融保護局(CFPB)では「現在および将来の経済的債務を十分に果たすことができ、将来の経済状況に安心感を持つことができ、人生を楽しむ選択ができる状態」と定義しています。

一方、英国金融年金サービス局は「日々の支払い、不測の事態への対処、健全な将来設計への軌道など、自分のお金についてコントロールと安心感を持てている状態」としています。J-FLEC(金融経済教育推進機構)も「自らの経済状況を管理し、必要な選択をすることによって、現在及び将来にわたって、経済的な観点から一人ひとりが多様な幸せを実現し、安心感を得られている状態」と定義しており、いずれも「経済的な安定」「選択の自由」「安心感」という要素が中心となっています。

ファイナンシャル・ウェルビーイングが注目されている理由

従来の「お金=幸せ」という単純な図式に対する疑問から、より包括的な経済的幸福の概念が求められるようになりました。単に資産額や収入の多さだけでなく、お金との健全な関係性が重視されるようになったのです。特に近年の経済的不確実性の高まりや、価値観の多様化により、お金に対する不安を解消し、自分らしい人生選択を可能にする考え方として注目を集めています。

また、企業側も従業員のファイナンシャル・ウェルビーイングが仕事のパフォーマンスやエンゲージメントに大きく影響することを認識し始め、福利厚生の一環として取り組みを強化しています。特にコロナ禍以降、経済的な不安が増大する中で、この概念の重要性はますます高まっているのです。

 

ウェルビーイングとお金の関係性

ウェルビーイング(幸福感や充実感)とお金は密接に関連していますが、その関係は単純なものではありません。経済的な安定が精神的な健康や社会的つながりにどのように影響するのか、総合的な視点から考える必要があります。

ウェルビーイングの構成要素とお金の位置づけ

ウェルビーイングは多面的な概念で、「健康」「コミュニティ」「人間関係」「キャリア」「経済状況」といった複数の要素から構成されています。ファイナンシャル・ウェルビーイングはこの中の一要素ですが、他の要素にも影響を与える重要な基盤となります。

例えば、経済的な不安が続くと精神的・身体的な健康に悪影響を及ぼしたり、人間関係の構築に必要な余裕を失ったりすることがあります。逆に、経済的な安定感があれば、他の領域でのウェルビーイングも向上しやすくなるという相互関係があるのです。バランスのとれたウェルビーイングを実現するためには、お金との健全な関係が土台となります。

「お金=幸せ」の誤解を解く

「お金があれば幸せになれる」という考え方は、実は科学的研究によって部分的にしか支持されていません。年収がある一定水準に達するまでは幸福度は上昇するものの、それを超えると幸福度の上昇は止まることが確認されています。

重要なのは単にお金の量ではなく、お金をどう使い、どう管理するかというお金との関係性です。例えば、物質的な消費よりも経験や他者との関係構築に使った方が幸福感は持続すると言われています。また、ファイナンシャル・ウェルビーイングが高い人は、収入の多寡にかかわらず、自分のお金の使い方に満足し、経済的なコントロール感を持っているという特徴があります。

 

ファイナンシャル・ウェルビーイングの4つのポイント

ファイナンシャル・ウェルビーイングを実現するには、現在と将来、そして経済的な備えと選択の自由という4つの要素をバランスよく整える必要があります。これらの要素は相互に関連しており、総合的に取り組むことが重要です。

現在の経済的な備え

日々の生活を経済的に安定させることは、ファイナンシャル・ウェルビーイングの基礎となります。具体的には、毎月の収入と支出のバランスを把握し、家計を管理することが含まれます。予算を立てて計画的にお金を使い、無駄な支出を減らすことで、現在の生活に必要な経済的基盤を確保できます。

また、予期せぬ出費に備えた緊急資金の確保も重要です。一般的には、3〜6ヶ月分の生活費を貯蓄しておくことが推奨されています。こうした「現在の備え」があることで、日々の生活の中での経済的な不安が軽減され、精神的な余裕が生まれます。収入が安定していなくても、支出を適切に管理することで、この状態を実現することは可能です。

選択の自由

経済的な余裕があることで、自分の価値観に合った選択ができるようになります。これは単に贅沢品を買うことではなく、自分にとって本当に大切なことにお金を使う自由を持つことを意味します。例えば、趣味に投資する、友人との時間を大切にする、あるいは慈善活動に参加するなど、自分の価値観に合った選択ができることは幸福感を高めます。

選択の自由を持つためには、収入を増やすことも重要ですが、それ以上に「何に価値を置くか」という自己理解が必要です。自分の価値観を明確にし、それに基づいてお金の使い方を決めることで、限られた資源でも満足感を得ることができます。これは「選択の質」を高めることであり、単に選択肢を増やすことではありません。

将来の経済的な備え

将来の不確実性に備えることは、現在の安心感につながります。老後の資金準備、子どもの教育資金、住宅購入など、長期的な目標に向けた計画的な貯蓄や投資が含まれます。特に日本では超高齢社会を迎え、公的年金だけでは十分な老後生活を送れない可能性があることから、自助努力による資産形成の重要性が高まっています。

iDeCoやNISAなどの税制優遇制度を活用した長期投資や、保険による万一の備えなど、将来に対する経済的な備えを計画的に行うことで、現在の生活にも安心感がもたらされます。重要なのは早期に始めることと、定期的に計画を見直すことです。ライフイベントや経済状況の変化に合わせて柔軟に対応することが、将来の経済的な安定につながります。

将来の選択の自由

将来やりたいことを実現するための経済的な自由度を確保することも、ファイナンシャル・ウェルビーイングの重要な要素です。これには、キャリアチェンジ、起業、早期退職、世界旅行など、将来の夢や目標を実現するための資金的余裕を作ることが含まれます。

将来の選択の自由を確保するためには、現在の消費を適度に抑え、将来のために資産を形成することが必要です。しかし、単に将来のために現在を犠牲にするのではなく、現在と将来のバランスを取ることが大切です。資産運用の知識を身につけ、自分のリスク許容度に合った投資戦略を立てることで、効率的に将来の資金を準備することができます。また、複数の収入源を持つなど、経済的なレジリエンス(回復力)を高めることも、将来の選択肢を広げるために有効です。

 

実践的なファイナンシャル・ウェルビーイング向上のステップ

ファイナンシャル・ウェルビーイングを向上させるためには、具体的な行動が必要です。段階的なアプローチで、経済的な健康と幸福感を高めるための実践的なステップを見ていきましょう。

自分の価値観を明確にする

ファイナンシャル・ウェルビーイング向上の第一歩は、自分にとって何が本当に大切かを明確にすることです。お金は目的ではなく手段であり、何のためにお金を使うのかという価値観を明らかにすることで、より満足度の高い経済的決断ができるようになります。

価値観が明確になれば、それに沿ったお金の使い方ができるようになり、無駄な支出を減らしつつ、本当に大切なことにお金を使うことができます。例えば、旅行や経験を重視する人、家族との時間を大切にする人、社会貢献に関心がある人など、それぞれの価値観によってお金の最適な使い方は異なります。自分の価値観に正直になり、それに基づいた経済的決断をすることが、真のファイナンシャル・ウェルビーイングにつながります。

現状把握と目標設定

次のステップは、現在の経済状況を正確に把握し、具体的な目標を設定することです。収入、支出、資産、負債などを洗い出し、現在の経済的な健康状態を評価しましょう。この「財務健康診断」を基に、短期・中期・長期の具体的な経済目標を設定します。目標は「SMART」(具体的、測定可能、達成可能、現実的、期限付き)の原則に従うと効果的です。

例えば、「3ヶ月以内に10万円の緊急資金を貯める」「5年以内に住宅購入の頭金200万円を準備する」といった具体的な目標を立てます。目標を視覚化し、定期的に進捗を確認することで、モチベーションを維持しやすくなります。また、目標は固定的なものではなく、ライフステージや環境の変化に応じて柔軟に見直すことも大切です。

家計管理の最適化

効果的な家計管理は、ファイナンシャル・ウェルビーイングの基盤です。収入に見合った支出計画を立て、定期的に家計の状況をチェックする習慣をつけましょう。家計簿アプリやスプレッドシートなどのツールを活用すると、収支管理が容易になります。支出を「固定費」「変動費」「臨時費」に分類し、特に変動費の中で削減できる項目を見つけることが効果的です。

支出を見直す際は、「必要なもの」と「欲しいもの」を区別し、価値観に合わない支出を減らすことがポイントです。また、自動引き落としによる「先取り貯蓄」を実践すると、無理なく貯蓄習慣を身につけることができます。さらに、収入源の多様化や副業の検討なども、経済的なレジリエンス(回復力)を高める有効な戦略です。家計管理は単なる節約ではなく、限られた資源を自分の価値観に合わせて最適に配分するプロセスだと捉えましょう。

リスク管理と保険の見直し

人生には予期せぬ出来事がつきものです。病気、事故、災害などのリスクに備えることも、ファイナンシャル・ウェルビーイングの重要な要素です。まずは緊急資金の確保から始めましょう。一般的には3〜6ヶ月分の生活費を、すぐに引き出せる形で準備しておくことが推奨されています。

次に、保険の見直しを行います。生命保険、医療保険、火災保険、自動車保険など、必要な保障を過不足なく確保することで、万一の際の経済的ダメージを最小限に抑えることができます。ただし、過剰な保険に加入することは避け、本当に必要な保障を見極めることが大切です。また、定期的に保険内容を見直し、ライフステージの変化に合わせて調整することも忘れないようにしましょう。リスク管理は「起きてほしくないけれど起こりうること」への備えであり、安心して生活するための基盤となります。

資産形成と投資戦略

長期的なファイナンシャル・ウェルビーイングのためには、インフレに負けない資産形成が欠かせません。貯蓄だけでなく、適切な投資を通じて資産を増やす戦略を考えましょう。投資を始める前には、自分のリスク許容度や投資期間、目標などを明確にすることが重要です。

日本では特に、iDeCoやNISA(新NISA)などの税制優遇制度を活用した長期・分散投資が効果的です。「早く始めて、長く続ける」という原則を守ることで、複利の力を最大限に活かすことができます。また、投資の基本知識を学び、感情に左右されない投資判断ができるようになることも大切です。なお、投資は自己責任で行うものですが、必要に応じてファイナンシャルアドバイザーに相談することも検討しましょう。

まとめ

あなたも今日から、自分の価値観を見つめ直し、お金との関係を見直してみませんか?小さな一歩から始めて、経済的な安心感と自由を手に入れ、より充実した人生を歩みましょう。

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この記事を監修した⼈

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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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