相続の知識

ウェルビーイングとは? 意味や日本の現状、取り組み、調査方法について解説

ウェルビーイングとは、体だけでなく心も健康で幸福な状態を指す言葉です。この記事では、ウェルビーイング経営を検討している企業の担当者などに向け、その定義や種類、日本の現状や実現のための取り組み、指標を使った調査方法や高めるための方法について紹介しています。この記事を読むことで、ウェルビーイングへの理解を深められます。

ウェルビーイング (Well-being) とは

まずはウェルビーイングとは何かをよく知るため、その意味やウェルビーイングの種類について、詳しく解説します。

ウェルビーイングの意味

ウェルビーイングとは、英語で「よい」という意味の「Well」と、「状態」という意味の「being」を合わせた言葉です。幅広い解釈ができるため、訳される言葉も「健康」や「幸福」、「福祉」などシーンによって様々です。

ウェルビーイングという言葉は、「世界保健機関憲章」にも登場します。使われているのは、健康について定義した以下の文章です。

”Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.”

訳:健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。

公益社団法人日本WHO協会「世界保健機関(WHO)憲章とは」

近年、社会のあり方や企業の働き方においても、精神的・肉体的・社会的に満たされた状態である「ウェルビーイング」が注目されています。その実現のために、世界的にも様々な取り組みが実施されています。

ウェルビーイングの種類

ウェルビーイングは、客観的か主観的かの違いで、2つの種類に分けられます。

客観的ウェルビーイング:GDP・健康寿命・生涯賃金など

「客観的ウェルビーイング」とは、GDP(国内総生産)や生涯賃金、失業率や教育水準、健康寿命や育児休業取得率など、客観的なデータで示すことが可能なものを指します。

具体的な数字で示されるため、肉体的な健康や経済的な豊かさを把握しやすい点ではすぐれています。ただ、幸福の感じ方は人それぞれです。一概に長生きだから、お金持ちだから幸福だとは限らないでしょう。本当の意味での幸福度を測るには、客観的ウェルビーイングだけでは限界があると言わざるを得ません。

主観的ウェルビーイング:生活満足度など

主観的ウェルビーイングとは、客観的なデータでは測れない個人の感覚や認識を表す指標です。具体的には生活満足度、人生への自己評価、ワークエンゲージメント、GDW(国内総充実)、楽しい・嬉しいといった感情面での評価などが挙げられます。

物質的・社会的な豊かさ以外の、肉体面や精神面での豊かさを測るには、この主観的ウェルビーイングが重要な役割を果たします。

ウェルビーイングが注目を集める背景

ウェルビーイングが注目されている背景としては、持続可能な社会に対する関心の高まりや幸福に対する考え方の変化などが挙げられます。特に大きな要因になっているのは以下の2つです。

SDGsの先、「地球全体のウェルビーイング」を目指すため

「SDGs(Sustainable Development Goals)」とは、2015年の国連サミットで採択された、持続可能な社会のために世界が目指す共通目標です。その実現のため、2030年までに達成すべき具体的な17の目標も掲げられています。しかし、それを達成した後の目標についてはまだ決まっていません。

そんな中、持続可能な社会の一歩先の、「持続可能なウェルビーイング」を目指そうという気運が世界的に高まっています。持続可能なウェルビーイングを表す「SWGs(Sustainable Well-being Goals)」は、複数の企業や国際機関で提唱され始めており、「SDGs」の次に目指す目標として注目を集めています。

実感できる豊かさが求められているため

経済が成熟する1990年代より前は、幸福度を評価する際は客観的ウェルビーイングが重視される傾向にありました。しかし近年は「経済的な豊かさ=幸福」という考えは一般的でなくなっています。

そんな時代の変化に伴い、現在は物質的な豊かさより、「実感できる心の豊かさ」が重視される傾向にあります。精神的な豊かさは、GDPなどの統計データから導き出せるものではありません。そのため、幸福度を考える上では主観的ウェルビーイングにより重きを置かれるようになっています。

ウェルビーイングの側面から見る現在の日本の状況

日本はG7(主要7カ国)の加盟国で、2024年現在世界4位のGDPを誇る経済大国です。しかし、経済的な豊かさと国民の幸福度は必ずしも一致していません。

国連の潘元事務総長が設立した国際的な機関「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDN)」は、毎年世界各国の幸福度をランク付けした「World Happiness Report(世界幸福度報告書)」を発表しています。幸福度は健康寿命や人生の自由度、社会的支援など6つの項目の、トータルの点数で導き出しています。

2024年版「世界幸福度報告」での日本の順位は、143の国と地域中51位とG7の中では最下位で、2023年の47位より4つランクを下げる結果となりました。年代別の順位で見ると、60歳以上の36位に対し、30歳未満が73位と非常に低く、特に若い世代の幸福度が低いことが分かります。

一方、フィンランドやデンマークなど北欧の国々やニュージーランドは、常に上位にランク付けされています。項目ごとの内訳を日本と比較してみると、GDPや健康寿命にさほど違いはないものの、人生の自由度や人々の寛容さなどの項目が大きく上回っています。

こうして見ると、日本は客観的ウェルビーイングが高い国ですが、主観的ウェルビーイングとは大きな乖離があることが分かります。

World Happiness Report(公式)「World Happiness Report 2024」

ウェルビーイングへの具体的な取り組み

ウェルビーイングが注目されている昨今、世界各国の政府や企業で、様々な取り組みが行われています。それぞれの特筆すべき取り組みについて、以下に紹介します。

世界:ウェルビーイング・バジェット (幸福予算) を発表

世界各国ではウェルビーイングの実現に向け、様々な取り組みが行われています。ここでは世界幸福度報告書で常に上位を誇る、ニュージーランドとフィンランドの取り組みについて紹介しましょう。

ニュージーランドでは、2019年から国民の幸福のための「ウェルビーイング・バジェット(幸福予算)」を設けています。ウェルビーイングを体系的にとらえ、国家予算にまで組み込んだのは世界初で、国民の幸福を重視する政府の姿勢がうかがえます。

一方フィンランドでは、世界がウェルビーイングに注目する以前から、国の政策として格差の解消や社会福祉の充実に取り組んできました。小学校から大学まで教育費は無償で、社会に男女平等が浸透しているのも大きな特徴です。そのためフィンランドでは、多くの女性が政治家や企業の役員として活躍しています。

日本:ウェルビーイングに関するKPIを設定

近年は日本でも、政府がウェルビーイングへの取り組みを始めています。2019年からは内閣府が「満足度・生活の質に関する調査」を実施し、「家計と資産」や「健康状態」など13の分野における国民の満足度を、毎年発表しています。

また2021年の「経済財政運営と改革の基本方針2021」では、ウェルビーイングに関するKPIを設定することも発表しました。KPIとは成果指標のことで、各省庁が基本計画などにKPIを設定し、定期的に測定した国民のウェルビーイングの数値と照らし合わせることで、恒常的なウェルビーイングの改善を目指しています。

内閣府「満足度・生活の質に関する調査」

ウェルビーイングの調査方法:2つの手法

ウェルビーイングの調査方法としてよく知られているものが、「キャントリルの梯子」と「 人生満足度尺度」です。以下にそれぞれの内容を詳しく解説します。

1. キャントリルの梯子

ウェルビーイングの測定方法として代表的なものに、アメリカのハドレー・キャントリル氏が1965年に著書の中で紹介した「キャントリルの梯子」があります。

これは人生を11段の梯子にたとえ、10が理想だとすると、自分は0から10のどの段階にいるかを答える調査方法です。キャントリルの梯子は幸福度を測る方法として広く活用されており、先述した「世界幸福度報告」の調査にも採用されています。

2. 人生満足度尺度

「人生満足度尺度」とは、イリノイ大学名誉教授のエド・ディーナー氏が生み出した幸福度の測定方法です。調査方法は「わたしの人生はとても素晴らしい状態だ」など、幸福度を問う5つの質問に答えるだけのシンプルなものです。

質問の回答は「非常によく当てはまる(7点)」から「まったく当てはまらない(1点)」まで7段階に分かれており、5つの回答の合計点数で現在の幸福度が確認できます。

26点から35点は非常に満足、または満足なので幸福度が高い状態です。一方、5点から14点は非常に不満か不満があり、幸福度が低い状態を示します。短い質問に答えるだけなので、幸福度の自己チェックにも活用できます。

ウェルビーイングの高め方

ウェルビーイングを高めるために有効なのが、「幸せの4つの因子」と「PERMAモデル」です。それぞれの特徴は以下の通りです。

幸せの4つの因子

慶應義塾大学大学院教授の前野隆司氏は、幸福度を向上させるには、以下の4つの因子を伸ばすとよいと提唱しています。

 幸せの4つの因子

「やってみよう」因子

「やってみよう」因子とは、夢や目標に向かって努力するなど主体性に関わる因子です。

「なんとかなる」因子

やってみようと主体性に関わるためには「なんとかなる」とポジティブに考えることも欠かせません。

「ありのままに」因子

他人と比べることなく、自分の「ありのまま」で得意なことを伸ばすことが、幸福につながります。

「ありがとう」因子

「ありがとう」と周囲の人に感謝することで、他者との円滑なつながりも維持できます。
このように4つの因子を偏りなく保持することで、良好な心の状態を保ち、幸福を実現できます。

PERMA (パーマ) モデル

「PERMAモデル」とは、ポジティブ心理学で知られるアメリカのマーティン・セリグマン氏によって提唱された、ウェルビーイングの概念です。彼は、ウェルビーイングは以下の5つの要素で構成されるとしています。「PERMA」はその頭文字を取ったものです。

 PERMA (パーマ) モデル

1. P (Positive emotion:ポジティブな感情)

ポジティブな感情は、人生の幸福度を高め、ネガティブな感情を打ち消し、心身の回復力を強化します。喜び、感謝、愛といった感情がこれに含まれ、日々の生活の中でこれらの感情を覚えることで、全体的なウェルビーイングが向上します。

2. E (Engagement:積極的な関わり)

積極的な関わりは、仕事や趣味に没頭できる状況のことです。スポーツなどでいわれる「ゾーン」に入る感覚ともいわれ、集中力の向上や生産性の向上に寄与します。仕事に対してもこのような状態を感じることが、従業員の満足感の高まりにつながります。

3. R(Relationship:他者とのよい関係性)

人間関係は、ウェルビーイングに大きな影響を与えます。企業においては、同僚や仲間との良好な関係が幸福感をもたらします。特に、他者に貢献することで得られる満足感は、個人のウェルビーイングを高める要素のひとつです。

4. M (Meaning:人生の意味・価値観)

人生の意味や価値観も、ウェルビーイングにおいて重要です。何に意義を感じ、どのような価値観を持って生きるかを明確にすることで、個人の幸福感が向上します。仕事もまた人生の一部であるため、企業においては従業員が自分の仕事に意義を感じられる環境を提供しなければなりません。

5. A (Accomplishment:達成感)

達成感は、物事を完遂した際に得られるポジティブな感情です。企業活動において、目標を達成したり昇進したりする経験が、従業員の幸福感を支えます。この達成感があることで、さらに高い目標に向かって努力する意欲が湧きます。

これらの要素が満たされていると人生が充実しており、幸せであるとしています。ウェルビーイングを実現させるためには、人生に意義や目標を見つけ、その達成に向け努力すること、また没頭できるものを持ち、家族や友人と良好な関係を築くことが重要です。その結果ポジティブな感情で満たされ、人生を幸福な状態に導くことができます。

ウェルビーイングを正しく理解し、高める取り組みを

物質的な豊かさより、心の豊かさが重視される現代では、心身ともに健康で幸福な状態のウェルビーイングに対する関心が高まっています。それを受け、日本政府や各企業もウェルビーイングの向上に向け様々な取り組みを始めています。

日本はGDPが高く物質的には豊かですが、幸福度は先進国の中でも低いのが現状です。国民の幸福度を向上させるためには、ウェルビーイングの実現が欠かせません。

当社でもウェルビーイングの実現に向けた取り組みを進めています。
その要となるのは「お客様・士業間・メンバー・社会」の4つを柱としたウェルビーイングです。

4つのウェルビーイング

1.お客様のウェルビーイング

  1. 被相続人の想いを敬い、相続人同士でモメないようにお手伝いをし、財産を世代を超えて守る。
  2. オーナー様やご家族の想いに寄り添った遺言を作成する。
  3. お客様による社会貢献を実現するために遺贈寄付の支援をする。

2.士業間のウェルビーイング

  1. 得意分野を究め、不得意分野は依頼・連携する「餅は餅屋」の考え方を推進し、業務分担が行えるプラットフォーム(Mochi-ya)の運営をする。
  2. 高年齢化しつつある士業の負担をデジタルの力を利用して解消し、実務の研鑽を積む支援をする。
  3. 後継者である「アトツギ士業」を応援し、相続実務のセミナーによって士業のビジネス領域拡大を支援する。

3.メンバーのウェルビーイング

  1. 新オフィスへの移転(働きやすい職場環境の実現、フリーアドレスによるコミュニケーションの活性化)。
  2. 服装を自由化し、メンバー間の呼称を「さん」づけにする。
  3. 全メンバーが集まる懇親会の開催、ご家族が会社に集まれるファミリーデーなどのイベントを行う。

4.社会のウェルビーイング

  1. 100冊以上出版してきた書籍をさらに注力し、「相続」に関する知恵の啓蒙を行う。
  2. 子育てに対して真摯に向き合ってきた女性に積極的に支援する。
  3. デジタルを十分に利用できない高齢者の方々のためにシステム開発を行い、積極的に研修を行う。

これにより、すべての人にとってより幸福な相続事業の実現を目指しています。

PRTIMES「相続専門の税理士法人レガシィ、前野隆司氏とともにウェルビーイングへの取り組みを強化」

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この記事を監修した⼈

税理士法人レガシィ代表社員税理士パートナー陽⽥賢⼀の画像

陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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