ウェルビーイング経営とは? 注目される背景や取り組むメリット、事例を紹介
Tweetウェルビーイング経営とは、従業員が心身ともに健康で社会的にも満たされた状態となることを目指す経営スタイルです。これは単なる健康管理を超え、職場全体の幸福感を高めるための取り組みです。本記事では、ウェルビーイング経営が注目される理由や、その具体的なメリットを解説したうえで、実際の取り組み事例を紹介します。
目次
ウェルビーイング経営とは
ウェルビーイング(Well-being)とは、心身が健康で幸福であり社会的にも満たされた状態を意味します。ウェルビーイング経営では、従業員が精神的にも社会的にも充実した職場環境を提供することを目指します。すなわち自社の利益追求だけでなく、従業員やその他の関係者全員の幸せを追求する経営理念です。
概要
ウェルビーイングとは、心身の健康だけでなく、社会的なつながり、精神的な安定、自己実現の達成感、経済的安定など、人生全体における満足や幸福が調和した状態を意味します。これは単に病気がなく身体的に健康であることを指すものではありません。ポイントは、個人が社会の中で健全に、かつ充実した生活を送っていることです。
ウェルビーイングを構成する要素は多岐にわたりますが、一般的には以下の要素が挙げられます。
- 身体的健康:健康的な食事、適度な運動、十分な睡眠などが確保されており、身体が健康であること。
- 精神的健康:ストレスの適切な管理、感情の安定、ポジティブなマインドセットなど、精神的な安定があること。
- 社会的つながり:家族や友人、コミュニティとの良好な関係やつながりがあること。
- 経済的安定:経済的に安定し、生活に必要な資源が十分に確保されていること。
- 自己実現:自分の能力を最大限に発揮して目標を達成し続けるなど、自己満足や成長の実感があること。
ウェルビーイングについてより詳しく知りたい方はこちらの記事もご参照ください。
ウェルビーイング経営と健康経営との違い
健康経営は、従業員の健康維持・増進を企業の経営戦略に組み込むことを指します。一方でウェルビーイング経営は、健康経営の枠を超え、従業員の全体的な幸福感や生活の質の向上を目指します。従業員が生き生きとして働けるようにするためには、ただ健康であるだけでは不十分だからです。
両者の理念の差異は、以下のような取り組みの違いとして表れます。
健康経営の取り組み内容の例
- 健康診断の実施:定期的な健康診断や予防接種の提供。
- 運動促進プログラム:フィットネス施設の提供や運動プログラムの実施。
- メンタルヘルス支援:ストレスチェックやカウンセリングサービスの提供。
- 職場環境の改善:働きやすさや安全に配慮した労働環境の整備。
- キャリア成長の支援:キャリア開発の機会提供やスキルアップのための教育プログラムの実施。
- 働きがいの向上:自己実現や仕事へのやりがいを感じられる職場文化の醸成。
- ワークライフバランスの推進:フレックスタイム制やリモートワークの導入、休暇の奨励。
- 多様性の尊重:ジェンダーや文化の多様性を尊重した働きやすい環境作り。
- 社会貢献活動:企業の社会的責任(CSR)を担う活動への参加を奨励し、従業員が社会に貢献する機会を提供。
ウェルビーイング経営が注目を集める背景
近年、企業の経営戦略として「ウェルビーイング経営」が注目を集めています。社会的な変化や労働市場の変動が生じ、企業の持続可能性に対する意識が高まっているためです。ここからは、ウェルビーイング経営が注目されるようになった主な背景を解説します。
多様な働き方の浸透
現代社会では、労働人口の減少による人材不足や雇用の流動化が進んでおり、企業はその対応に迫られています。人材の確保と定着化を実現するには、職場が従業員にとって魅力的な環境でなければなりません。また、コロナ禍以降にテレワークが普及したことなどもあり、多様な働き方への対応も重要です。
ウェルビーイング経営の推進は、多様な働き方にも柔軟に対応することを意味します。たとえば、労働環境整備の一環として、従業員が自分に合った働き方を選択できる環境を整えれば、従業員の満足度向上につながり、人材の確保や定着も期待できます。このようにウェルビーイング経営は、従業員の健康と幸福を中心に据え、企業全体が柔軟かつ持続可能な成長を遂げるための戦略です。
SDGs (持続可能な開発目標)の認知向上
SDGs(Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標)に対する意識の高まりもまた、ウェルビーイング経営が注目される背景のひとつです。SDGsは2015年に国連サミットで採択された国際目標で、全17の目標が設定されています。これらの目標は、人口増加や経済活動の拡大による地球環境の悪化を食い止め、地球全体で持続可能な成長を目指すためにあります。
中でもウェルビーイングと関連するのは、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された、以下のSDGsの目標です。
目標3:すべての人に健康と福祉を
すべての年齢層において、健康な生活を確保し、福祉を推進することを目指す。
目標8:働きがいも経済成長も
完全・生産的な雇用と人間的な働きがいのある雇用、持続的な経済成長を目指す。
外務省|SDGグローバル指標(SDG Indicators)
ウェルビーイング経営は、これらの目標を達成するために、企業が従業員の健康や幸福を守り、かつ働きがいのある職場環境を提供することを重要視しています。SDGsに沿った経営方針を採用することで、企業は社会的責任を果たすと同時に、持続可能な発展を目指すことが可能です。
ウェルビーイングの実現するための要素
ウェルビーイングを実現するためには、いくつかの要素が備わっていなければなりません。ここでは2つのモデルをご紹介します。
幸せの4つの因子
慶應義塾大学大学院教授の前野隆司氏が提唱する、幸福度を向上させるための4つの因子モデルです。
「やってみよう」因子とは、夢や目標に向かって努力するなど主体性に関わる因子です。そのためには「なんとかなる」とポジティブに考えることも欠かせません。また、他人と比べることなく、自分の「ありのまま」で得意なことを伸ばすことが、幸福につながります。そして最後に「ありがとう」と周囲の人に感謝することで、他者との円滑なつながりも維持できます。
PERMAモデル
2つ目は心理学者マーティン・セリグマン博士によって2011年に提唱された「PERMAモデル」です。このモデル名は、人が持続的な幸福を感じるために欠かせない5つの要素(Positive emotion、Engagement、Relationship、Meaning、Accomplishment)から頭文字を取って構成されています。
- Positive Emotion(ポジティブな感情):面白い、楽しい、嬉しい、感動、希望といったプラスの感情
- Engagement(没頭・没入):仕事や趣味などに没頭すること
- Relationship(他者との関係):周囲の人と良好な関係を持つこと
- Meaning(人生の意味・意義):自分の生きる意義や、社会に対してできることを意識すること
- Accomplishment(達成):目標を自分の力で達成すること
こうしたモデルを活用することで、企業は従業員のウェルビーイングを高める諸要素を確認できます。各要素は相互に関連し合って全体としてのウェルビーイングを形成するため、単一ではなくバランスのよい取り組みが重要です。
ウェルビーイング経営に取り組むメリット
ウェルビーイング経営に取り組むことで、企業は生産性の向上や従業員の満足度および定着率の向上が期待できます。以下では、これらのメリットを具体的に解説します。
生産性の向上につながる
ウェルビーイング経営に取り組むことで、従業員が精神的にも社会的にも満たされた状態になります。この結果、心身の健康と良好な職場環境が備わるため、集中力の高まりや、業務効率・生産性の向上が期待できます。
従業員の満足度向上につながる
ウェルビーイング経営は、職場環境における人間関係や労働環境の改善を促進します。この結果、仕事に対する従業員の満足度やモチベーションも高まり、企業に対する強い忠誠心と、長期的な企業の成功に貢献する意欲を持つようになります。
従業員の定着率向上につながる
仕事への満足や心身の健康は、定着率の向上にもつながります。さらに、ウェルビーイング経営への積極的な取り組みとその内容を具体的に外部へ発信することで、求職者に対するアピールも可能です。従業員の定着率が向上すれば、企業のイメージ刷新や優秀な人材の獲得にもつながります。
ウェルビーイング経営への取り組み方
ウェルビーイング経営を効果的に推進するには、社員の健康と幸福を中心に据えた全社的な取り組みが重要です。以下のステップで、企業はウェルビーイング経営を実現できます。
経営層・幹部層の理解を得る
ウェルビーイング経営を進めるには、経営層や幹部層がその重要性を深く理解し、企業戦略に組み込むことが不可欠です。例えば、フレックスやテレワーク導入に対する上司の否定的な態度は、浸透の障害となります。経営層・幹部層がウェルビーイング経営の意義を理解し、積極的に取り組むことが求められます。
従業員の満足度調査を行う
定期的に従業員満足度調査(アンケートや1on1面談)を実施し、ニーズや問題点を把握します。調査では、満足度の高いポイントだけでなく、低下している要因にも注目し、原因を特定して改善策を講じることが重要です。これにより、職場環境の向上と従業員エンゲージメントの強化が図れます。
労働環境の整備や改善を進める
従業員満足度調査などから抽出したネガティブポイントを参考に、労働環境の整備と改善を進めます。福利厚生の一環として、懇親会の補助や休憩室の設置、食堂の改善なども有効です。これにより、コミュニケーションの活性化を促進し、より良い職場環境を提供します。
企業内でのコミュニケーションを活性化させる
福利厚生の充実を通じて、従業員同士のコミュニケーションを促進します。働きやすい環境が整うことで、従業員は悩みを相談しやすくなり、離職防止や満足度向上が期待できます。休憩室や食堂の改善に加え、社内SNSの導入なども効果的です。
ウェルビーイング経営を支えるツール・システムを導入する
ウェルビーイング経営を推進するには、ツールやシステムの強化が不可欠です。従業員満足度調査やテレワークの導入には専用のツールが必要です。また、従業員の意識変化や取り組みの効果を記録し、改善を図るためにも、定期的なモニタリングを実施するツールやシステムの導入が推奨されます。
ウェルビーイング経営への当社の取り組み
当社では、前野隆司氏(慶應義塾大学大学院教授・武蔵野大学ウェルビーイング学部長)と連携し、幸福につながる相続サービスの実現に向けた取り組みを強化しています。当社では、創業以来「勘定より感情」をモットーに、お客様の感情に寄り添うことを重視しています。この想いを忘れることなく、ウェルビーイングの専門家である前野教授とディスカッションを重ね、以下の4つの柱に整理したうえで施策を強化しました。
1. お客様のウェルビーイング
- 被相続人の想いを尊重し、相続人間でのトラブルを防ぎ、財産を次世代へ守るサポートを提供。
- オーナーやその家族の希望に寄り添った遺言作成を支援。
- 遺贈寄付の支援を通じて、お客様の社会貢献を実現するサポートの実施。
2. 士業間のウェルビーイング
- 得意分野を極め、不得意分野は他士業に依頼・連携する「餅は餅屋」の考えを推進し、業務分担が可能なプラットフォーム「Mochi-ya」を運営。
- デジタル技術を活用して、高齢士業者の負担軽減と実務研鑽をサポート。
- 後継者士業(アトツギ士業)を応援し、相続実務のセミナーを通じて士業のビジネス領域拡大を支援。
3. レガシィメンバーのウェルビーイング
- 新オフィスへの移転で働きやすい環境を実現し、フリーアドレスを導入してコミュニケーションの活性化を促進。
- 服装自由化を行い、メンバー間の呼称を「さん」づけに統一。
- 全メンバーが集まる懇親会や、家族が会社に集まるファミリーデーなどのイベントを開催。
4. 社会のウェルビーイング
- 100冊以上出版してきた書籍にさらなる注力をし、相続に関する知識の普及を推進。
- 子育てに積極的に取り組んできた女性への支援を強化。
- デジタル技術を十分に活用できていない高齢者向けのシステム開発と研修を提供。
ウェルビーイングを意識した経営を
ウェルビーイング経営は近年、企業の持続可能な成長を支える重要な戦略として、注目を集めています。従来の健康経営が主に従業員の健康管理に焦点を当てているのに対し、ウェルビーイング経営では職場での満足感や人生全般の充実感の向上が重要です。特に、社会情勢などもあってリモートワークが普及する中で、柔軟な働き方へのサポートの重要性は高まっています。
一方ウェルビーイング経営には、短期的な売り上げ向上に直結せず、効果測定も難しいといった問題も存在します。ただ、企業の長期的な成長を見据えるならば、従業員の幸福度を高める取り組みは避けて通れません。本記事で紹介したPERMAモデルなどを参考に、ウェルビーイング経営に取り組んでみてはいかがでしょうか。
当社では、会計事務所を対象に、レガシィマネジメントグループ会長の天野隆による「会計事務所をいい状態にしたい研究会」を開催しています。規模や経験に関係なく会計事務所をいい状態(ウェルビーイング)にしたい人が集まり対話を通じて交流します。ご興味のある会計事務所は、ぜひご参加ください。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
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