サクセッションプランとは?取り組むメリットや進め方を解説
Tweetサクセッションプランとは、企業の将来を担う後継者を計画的に選定・育成する経営戦略です。後継者不在が注目される昨今、多くの企業が導入を検討しています。本記事では、サクセッションプランの基礎知識や取り組むメリット・デメリット、さらに具体的な進め方まで解説します。
目次
サクセッションプランとは?

サクセッションプランとは、将来的に企業の経営幹部や重要なポジションを担う人材をあらかじめ選定し、計画的に育成することです。経営トップの引退や予期せぬ退任、後継者不足といった状況に直面した際に、企業が混乱するのを防ぎ、安定した経営を継続するための仕組みとして導入されています。単なる人事施策ではなく、企業の存続や成長を支える中長期的な戦略の一環であり、上場企業を中心に導入事例が増えています。
人材育成との違い
人材育成は、個々の従業員のスキルアップや能力向上を目的とし、比較的短期的な視点で行われる取り組みです。社員全体を対象に、業務遂行能力を高めるのが中心となります。
一方、サクセッションプランは経営層や幹部候補といった限られた人材を対象に、企業の将来ビジョンを担うリーダーを計画的に育成します。対象者が限定される点や、長期的な経営戦略と直結している点で、人材育成とは大きく異なります。
後任登用との違い
後任登用は、役職者が退職・異動した際に、その都度後任者を選んで配置する単発的な人事措置です。急な欠員に対応する性質が強く、緊急性が高い場合に用いられるケースが多い方法です。
一方でサクセッションプランは、将来的に重要なポジションを担う候補者を複数人あらかじめ選抜し、長期的な視点で育成する「体系的なプロセス」です。計画的に人材を育て、経営の安定化や組織の持続的な成長を支える点が、後任登用との大きな違いになります。
サクセッションプランが注目を集める背景

サクセッションプランは近年、多くの企業で重要視されています。その背景は、主に以下の2つです。
- 後継者不在リスクが顕在化
- コーポレートガバナンス・コードやISO30414での言及
上記の要因によって、企業が長期的な経営の安定と成長を確保するために、サクセッションプランの導入が注目されています。それぞれの背景を詳しく解説します。
後継者不在のリスクが顕在化
経営者の高齢化が進むなか、特に中小企業では「後を託す人がいない」状態が喫緊の課題になっています。属人的なノウハウや関係性が失われると、事業は一気に不安定化し、競争力の低下に直結します。
また、金融・取引面の影響も無視できません。融資判断においては事業承継体制が考慮される傾向にあり、融資や保証の条件が厳しくなる可能性があります。主要取引先からの信頼も揺らぎ、契約更改に不利に働くかもしれません。
人・組織への波及も深刻です。将来像が示されないと、幹部候補やキーパーソンが流出しやすくなります。社内のモチベーションは下がり、採用も難しくなるでしょう。結果として、内部のリーダー育成がさらに遅れ、悪循環に陥りかねません。
コーポレートガバナンス・コードやISO30414での言及
サクセッションプランが注目される理由として、社会的な制度や国際的なガイドラインの存在も大きく関係しています。
まず、日本のコーポレートガバナンス・コードでは、取締役会の重要な責務のひとつとして、「CEOをはじめとする後継者計画の策定と開示」が明確に求められています。後継者育成が不十分であれば、経営リスクが高いと見なされ、企業価値の低下にもつながりかねません。
国際的な指針である「ISO30414(人的資本に関する情報開示ガイドライン)」でも、リーダーシップや後継者計画の整備が重要な要素として取り上げられています。「次世代のリーダーを計画的に育成するのが組織の持続的成長に直結する」というのは、国際的な認識です。
つまりサクセッションプランは、単なる人事制度ではなく、「社会的要請」として整備が求められています。上場企業だけでなく中堅・中小企業においても、後継者計画の導入に対する関心が高まっているのが現状です。
サクセッションプランに取り組むメリット

サクセッションプランは、企業の経営を安定的に継続させるための仕組みとして、多くの利点があります。特に後継者問題の解決だけでなく、組織全体の活性化や従業員の意欲向上にもつながる点が注目されています。
主なメリットは以下の通りです。
- 後継者不在による経営の混乱を防ぐ
- 後継経営層に求められる人材要件をまとめられる
- 従業員の上昇志向・モチベーションアップにつながる
それぞれのメリットを詳しく解説します。
後継者不在による経営の混乱を防ぐ
サクセッションプランを導入すれば、経営者の急な退任といった不測の事態が起きても、スムーズな引き継ぎが可能になります。あらかじめ選定され、計画的に育成された後継者候補がいるためです。
後継者が明確に決まっていると、取引先や金融機関に対して「この会社は継続して安定した経営を行える」という安心感を与えられ、信頼関係の維持や企業価値の向上にもつながります。
経営の空白期間も生じないため、従業員の将来に対する不安を和らげつつ、組織の一体感の維持が可能です。結果として、内部・外部の両面で企業を安定させる大きな役割を果たします。
後継経営層に求められる人材要件をまとめられる
サクセッションプランを進める過程では、企業が将来どのような姿を目指すのか、その実現に必要なスキルや経験を明確に定義できます。こうした人材要件を基準とすれば、適切な後継者候補を選定し、不足しているスキル・経験を補うために計画的な育成プログラムを実行できます。
さらに、企業の目指す方向性と、候補者を含めた従業員それぞれの成長の方向性を一致させられるのも重要なポイントです。組織全体の人材戦略を強化する効果が期待できます。
従業員の上昇志向・モチベーションアップにつながる
サクセッションプランを導入すると、将来のキャリアパスが明確になり、従業員が自分の成長を具体的にイメージしやすくなります。その結果、日々の業務に取り組む意欲が高まり、組織全体の活力向上につながります。
後継者候補として選ばれた人材だけでなく、選抜プロセスを経験する機会そのものも、従業員にとって貴重です。自分の課題や強みを認識し、能力開発の機会を得られる従業員もいます。
評価基準や育成計画が可視化されれば、個々の従業員が、自身の成長目標を具体的に設定できます。これにより、従業員が主体的にキャリアを築けるのも大きな利点です。
サクセッションプランに取り組むデメリット

サクセッションプランは、企業の持続的成長に有効な仕組みですが、導入・運用にあたってはいくつか課題もあります。主なデメリットとしては以下が挙げられます。
- 育成計画の立案が必要になる
- 後継者候補の退職リスクへの備えが必要になる
- 対象外となった従業員のモチベーション向上が難しい
それぞれのデメリットを詳しく解説します。
育成計画の立案が必要になる
サクセッションプランを機能させるには、候補者の能力や適性に応じた具体的な育成計画を立てる必要があります。単なる選抜だけでは意味がなく、研修プログラムの導入やOJTの設計など、人材育成に直結する仕組みを整備することが重要です。
もちろん、こうした体制を整えるには人的・金銭的なリソースが必要となり、企業にとって負担が大きくなるケースもあります。策定した計画が経営環境の変化に対応できない場合は、その都度見直しが必要になる点も課題です。
後継者候補の退職リスクへの備えが必要になる
サクセッションプランの対象者に選ばれると、従業員にとって大きな成長の機会になりますが、同時に外部からの引き抜きや転職のきっかけになる可能性もあります。
候補者が退職すれば、計画そのものが頓挫するだけでなく、企業のノウハウや機密情報が流出するリスクも否定できません。そのため、候補者のモチベーション維持やエンゲージメント強化に取り組むことが大切です。
加えて、万が一退職した場合に備え、代替候補者を複数準備するのも重要です。
対象外となった従業員のモチベーション向上が難しい
サクセッションプランは限られた人材を対象とするため、選抜から外れた従業員が「自分は評価されていない」と感じ、モチベーションを下げる可能性があります。選抜の基準やプロセスが不透明だと、不満を抱かれやすく、組織の一体感を損なうかもしれません。
したがって、対象外の従業員に対して、どのような形で成長機会を与えるかが重要なポイントです。対象外の従業員にもキャリアパスを明示したり、研修や能力開発の機会を提供したりするなど、組織全体の活性化につなげる工夫が求められます。
サクセッションプランの進め方

サクセッションプランは、単に後継者候補を選ぶだけでなく、最終的に経営をスムーズに引き継ぐためにも重要です。進め方を体系的に理解すれば、実効性のある仕組みとして機能させられます。大まかなステップは以下の通りです。

それぞれのステップを詳しく解説します。
1.中長期での経営戦略を明確にする
サクセッションプランは、将来の企業像を明確にするところから始まります。まずは3年後や5年後といった中長期の視点で、「企業がどのような姿になっていたいのか」を具体的に描きましょう。売上や利益の目標だけでなく、新規事業の展開や海外進出、デジタル化の推進など成長のシナリオを含めた戦略を策定するのが重要です。
また、市場環境の変化や業界のトレンド、競合の動きなども予測に組み込みます。例えば、人口減少や技術革新、規制の変更といった外部要因は、将来の経営体制に大きな影響を与える要素です。こうした変化を見据えると、どのような経営スキルやリーダーシップが求められるのかが見えてきます。
そのうえで、将来的に必要となるポジションや役割を特定し、サクセッションプランの骨格を作り上げましょう。ここでの戦略の明確化が、その後の候補者育成の方向性を決定づける基盤となります。
2.後継者の要件を固める
経営戦略が明確になったら、その戦略を実現できる後継者の要件を定義します。抽象的に「リーダーシップがある人材」ではなく、組織をまとめる統率力なのか、変革を推進する推進力なのかを具体化するのがポイントです。
また、戦略によって必要とされるスキルは変わります。新規事業を重視する企業であればマーケティングやイノベーションに関する知識、海外進出を目指す企業であれば国際的な視野や語学力が求められます。こうした専門知識や経験を要件に含めると、実務に直結する後継者像を描けます。
現経営陣や役員、人事部門が協力し、企業の価値観や文化に適合する人物像を明確化することも重要です。経営者のスキルや経験だけでなく、企業理念を理解し体現できるかどうかも、後継者要件の大切な要素になります。
3.後継者候補を選抜する
後継者の要件がある程度固まったら、社内の従業員から複数の後継者候補を選抜します。選抜の際は、人事評価が基準となりますが、それだけでは不十分です。多面的なアセスメントや面談を組み合わせて、客観性や公平性を十分に担保してください。
候補者本人にはその旨を伝え、本人の意向やキャリア志向を確認しながら進めると、納得感のある選抜プロセスになります。
4.育成計画を実行する
次に、いよいよ育成計画の実行です。選抜された候補者が集まったら、まず現状の能力や経験を客観的に評価し、将来の経営層として必要とされる要件とのギャップを洗い出します。これらの差を埋めるために、具体的には以下のような育成計画を実施します。
- OJTでの実務経験
- 社外研修による知識習得
- メンター制度を通じた個別指導
ひとつの方法を選ぶのではなく、複数のものを組み合わせた育成計画にすることが重要です。経営層が直接関与して助言や指導を行うと、候補者がより実践的な学びを得やすくなり、短期間での成長が期待できます。
5.育成状況の進捗を確認・評価する
策定した育成計画は、定期的に進捗を確認し、候補者の成長度合いを評価しましょう。評価の際は、数値目標の達成度といった定量的な指標に加え、リーダーシップの発揮状況や社内外からの信頼度など、定性的な要素も含めることが重要です。
必要に応じて、計画の修正や補強をしたり、場合によっては候補者を入れ替えたりすることも検討しましょう。育成計画が形式的なものに終わらないよう、なるべく柔軟に対応してください。
6.後継者の決定と選出後のサポートを行う
育成プロセスの最終段階では、最も適任と判断された候補者を正式に後継者として決定します。ただし、決定した時点で全てが完了するわけではありません。後継者がスムーズに役割を果たせるよう、現経営陣からの段階的な権限委譲や、経営判断を支えるための助言体制の整備などを行います。
さらに、後継者に選ばれなかった候補者に対しても、新しいキャリアパスや役割を提示しましょう。不公平感を和らげつつ、モチベーションを維持する配慮が求められます。こうした取り組みによって、組織全体が安心して次の経営体制に移行できる環境を整えられます。
事業承継・後継者選びのお悩みは専門家までご相談ください
サクセッションプランは、後継者不在による経営の混乱を防ぐだけでなく、従業員のモチベーション向上にもつながります。一方で、育成計画の策定や候補者の退職リスク、対象外となる従業員への配慮など、運用には注意点もあります。
事業承継や後継者選びは、企業の存続に直結する重要課題です。自社に合ったサクセッションプランを導入するためには、専門家の知見を活用しながら、計画的かつ柔軟に取り組むことが大切です。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
