分社型分割・分割型分割の違いは?適格要件からメリットまで一挙解説
Tweet「会社分割」は、企業が事業の再編や分離を行う際に活用される手法です。「分社型分割」「分割型分割」は名称こそよく似ていますが、両者には明確な違いがあります。本記事では、分社型分割と分割型分割の基本的な仕組みや税務上の区分、メリット・デメリットをわかりやすく解説します。
目次
分社型分割と分割型分割とは
会社分割は、企業が事業を再編・承継する際に使われる代表的な手法です。主に「分社型分割」と「分割型分割」があり、承継の方法や株式の帰属先、税務上の扱いが異なります。名称は似ていますが仕組みは大きく違うため、両者の特徴を正しく理解することが重要です。
会社分割の基本
会社分割とは、会社が特定の事業を切り出し、他社や新設会社に包括的に承継させる方法です。事業譲渡と異なり、原則として取引先との契約を改めて結び直したり、従業員一人ひとりの同意を得たりする必要がな い点が特徴です。会社分割には「分社型分割」と「分割型分割」があり、株式の帰属先や税務処理が異なります。それぞれの特徴を以下にまとめました。
分社型分割とは
分社型分割(物的分割)は、分割会社が事業の一部を切り出し、その承継会社から株式などを対価として受け取る方法です。事業を移す代わりに承継会社の株式を取得するため、グループ再編や子会社化に適しています。物 的分割と呼ばれることもあり、事業譲渡と比べて契約や従業員承継の手続きが簡略化できる点が特徴です。
分割型分割とは
分割型分割は、承継会社が分割会社の株主に株式などの対価を支払い、その株主が承継会社の株主を兼任する手法です。人的分割と呼ばれることもあります。会社法上は2006年の施行に伴い規定がなくなりましたが、分社型分割で承継会社株式を取得した後に株主へ配当することで、実質的に同様の効果を実現できます。
分社型分割と分割型分割の比較

分社型分割と分割型分割はいずれも会社分割の手法ですが、会社法上の規定や税務上の取り扱いに明確な違いがあります。株式を受け取る主体や適格要件の有無にも違いがあるため、混同しないよう注意しましょう。ここでは、分社型分割と分割型分割の主な違いをわかりやすく整理します。
分社型分割と分割型分割の主な違い・覚え方
両者の最大の違いは、会社分割の際の対価を「誰が受け取るか」です。分社型分割では対価を受け取るのは分割会社であるため、事業承継の前後で株主構成に変化はありません。それに対し、分割型分割では承継会社の株式などを分割会社の株主が直接受け取るため、株主構成が変化します。分社型は物的分割(会社が株式を取得)、分割型は人的分割(株主が株式を取得)と分けて理解するのが覚え方のポイントです。
分社型分割と分割型分割の会社法上の違い
先にもお伝えした通り、現在の会社法には「分割型分割」という独立した規定はありません。そのため、条文上は分社型分割のみが明確に定められています。もっとも、会社分割の枠組みの中で、分社型分割で承継会社の株式を取得した後に株主へ配当するなどの方法を取れば、実質的に分割型分割と同様のスキームを構成できます。つまり、名称や制度としては整理されましたが、株主レベルでの事業承継は引き続き可能です。
分社型分割と分割型分割の税務上の区分の違い
税務上、分割型分割は株主にも課税が及ぶ「人的分割」です。適格要件(税制が優遇される制度)を満たさない場合、譲渡損益やみなし配当により、株主は所得税・地方税の課税対象となります。
一方、分社型分割は株主が直接関与しないため、原則として株主課税はなく、課税対象は法人税課税 に限定されます。ただし、非適格分割で株主に株式が交付される場合には、みなし配当課税が生じるケースもある点に注意が必要です。
適格要件を満たさない場合、分割型分割では株主に所得税・地方税が発生し、分社型分割では分割会社に法人税が発生するのが基本的な整理です。
分社型分割のメリット・デメリット
分社型分割は、事業を切り出して別会社化することで専門性向上やリスク分散を図れる一方、管理やコスト面での課題が伴います。リスクマネジメントに取り組むためにも、メリットだけでなくデメリットも正しく理解しておきましょう。
分社型分割のメリット
分社型分割によって各事業を独立した組織として運営できるため、事業ごとの収益・評価が明確になります。
これにより迅速な意思決定が可能になり、資金調達や投資家からの信頼獲得の面で有利に働きやすい点がメリットです。また、各会社が独自に資金調達やブランド戦略を展開できるため、変化の激しい市場での競争力や対応力が高まります。リスク分散や事業提携・売却が容易になる影響で、新たなビジネスチャンスを生みやすいのが分社型分割の特徴です。
分社型分割のデメリット
事業を複数の会社に分けることで、資産や部門の管理が複雑化するおそれがあります。その結果、グループ全体の戦略や方向性の一貫性が損なわれるリスクがあるのが分社型分割のデメリットです。また、新会社設立やシステム分離に伴ってコストが発生するため、特に中小企業では財務的な負担が大きくなります。さらに、グループ全体のシステムや業務を調整する必要があり、一時的に管理部門の業務量が増加するデメリットもあります。
分割型分割のメリット・デメリット
分割型分割は、株主レベルで事業を分けることで投資家や市場からの評価を受けやすくする一方、事業間連携や経営資源の確保に課題があります。具体的なメリットとデメリットは以下の通りです。
分割型分割のメリット
分割型分割も分社型分割と同様に、事業ごとの収益や評価が明確になるため、投資家や金融機関から信頼を得やすくなります。その結果、特定事業での資金調達がしやすくなる点がメリットです。また、事業提携や売却が容易になり、新たなビジネスチャンスを生みやすいメリットもあります。事業間でのリスク分散をすることで、グループ全体の安定性向上にもつながります。
分割型分割のデメリット
事業を株主レベルで分けると、グループ内の連携が弱まり、相乗効果を失うリスクがあります。さらに、資産評価や負債の引継ぎが不透明になり、経営判断に悪影響を与える可能性もあります。人材や資源が分散すれば、大企業ならではのスケールメリットも薄れやすくなります。つまり、分割型分割にはグループ全体の連携力や競争力を低下させやすいというデメリットがあります。
分社型分割と分割型分割の適格要件

会社分割における適格要件とは、税務上の優遇措置を受けるためのルールを指します。要件を満たせば、分割時に発生する譲渡損益や株主課税が繰り延べられ、税負担を抑えることが可能です。適格要件は分社型分割と分割型分割でそれぞれ異なります。違いを確認しておきましょう。
分社型分割の適格要件
分社型分割の適格要件は、分割会社と承継会社の関係性によって以下の3区分に分かれます。
| 区分 | 要件の軽重 |
|---|---|
| 完全支配関係(100%の株式を保有) | 形式的な要件のみで適格判定されやすい |
| 支配関係あり(50%超~100%未満の株式を保有) | 一定の事業継続性や人員引継ぎの条件が追加される |
| 支配関係なしの共同事業(50%以下の株式を保有) | 最も厳しい要件が課される |
分割会社と承継会社の関係性が薄いほど適格要件は厳しくなります。支配関係なしの場合は、「事業目的の継続」「従業員のおおむね80%以上の承継」「主要資産・負債の引継ぎ」「分割会社株主が承継会社株式の一定割合を保有」などが要件です。分割会社と承継会社の関係性ごとの適格要件は以下の通りです。
| 区分 | 要件 |
|---|---|
| 完全支配関係(100%の株式を保有) |
|
| 支配関係あり(50%超~100%未満の株式を保有) |
|
| 支配関係なしの共同事業(50%以下の株式を保有) |
|
三角分割の適格要件
三角分割とは、分割の対価として承継会社ではなく、その親会社の株式を交付する手法です。国際的なM&Aやグループ再編などの吸収分割で主に用いられます。適格要件は基本的に通常の分社型分割と同様ですが、対価となる株式の種類に制限がある点が特徴です。以下のような違いがあります。
交付に使用できる株式
- 通常の分社型分割の場合→承継会社の株式または承継会社の親会社株式
- 三角分割→承継会社の親会社株式
そのほか、通常の分社型分割と同様に、分割会社と承継会社の関係性に応じて、主要事業の継続や、事業に従事する従業員のおおむね80%以上の承継、資産・負債の包括承継などの要件を満たす必要があります。なお、株式の継続保有についても一定期間の保有が求められます。
分割型分割の適格要件
分割型分割では、株主が直接承継会社の株式を取得するため、税務上の適格要件が厳格に定められています。
分社型分割と同様に、分割会社と承継会社の支配関係が薄いほど適格要件が厳しいのが特徴です。また、スピンオフ分割のように支配株主が存在しない会社同士で行う場合は、「非支配の継続」や「承継会社の設立」など、独自の要件が追加されます。分割会社と承継会社の関係性ごとの適格要件は以下の通りです。
| 区分 | 要件 |
|---|---|
| 完全支配関係(100%の株式を保有) |
|
| 支配関係あり(50%超~100%未満の株式を保有) |
|
| 支配関係なしの共同事業(50%以下の株式を保有) |
|
適格要件それぞれの概要について詳しく紹介します。
対価は株式のみとする
分割型分割において、承継会社が分割会社株主に支払う対価は、現金やその他の資産ではなく株式のみでなければなりません。現金対価による売却と区別し、事業再編の形を維持するためです。使用できる株式は、承継会社そのもの、またはその親会社の株式に限られます。例えば、承継会社の完全親会社が存在する場合、承継会社の株式もしくは親会社株式を交付可能です。
株主に比例して配分する
分割型分割では、分割会社の株主が保有する株式数に比例して、承継会社株式を割り当てる必要があります。株主間の公平性を確保し、特定の株主だけが有利にならないようにするためです。例えば、それぞれ60株と40株を保有する株主Aと株主Bに対し、会社分割の対価として株主Aに60%、株主Bに40%割り当てた場合 に適格要件を満たせます。
保有株数が多い株主ほど多くの株式を受け取り、その分承継会社における影響力が高まる仕組みです。保有割合が小さい株主は受け取る株式数も少なくなりますが、不釣り合いな配分にしてしまうと適格要件を満たさなくなる場合があります。そのため、株式の割当ては根拠のある計算と証憑管理が求められます。
株式を持ち続ける
分割型分割の適格要件を満たすには、分割会社と承継会社の支配関係や株主構成を継続させる必要があります。短期的な株式譲渡による、事実上の売却を防ぐためです。税務上の課税繰延べを受けるには、原則として分割後も一定期間株式を保有し続けなければならず、持株比率に変動があると税務上の課税繰延べを受けられない可能性があります。
新設分割の場合でも、分割前の株主が分割後も同様の持株比率で新設会社株式を保有しており、完全支配関係が維持されていれば適格要件を満たすことが可能です。
事業ごと引き継ぐ
分割会社と承継会社の関係性が「支配関係あり(50%超~100%未満の株式を保有)」または「支配関係なしの共同事業(50%以下の株式を保有)」に該当する場合、事業の資産・負債・人員を承継会社へ移転する必要があります。主要な固定資産や契約関係、営業権、負債などが対象です。また、分割会社の当該事業に従事していた従業員のうち、約80%以上が承継会社で勤務を継続する見込みであることも適格要件に含まれます。単なる資産の切り売りや人員の部分移転と区別し、事業の実体をそのまま引き継ぐことが、この要件の目的です。
事業を継続する
分割によって承継された事業を、分割後も引き続き承継会社で営むことが求められます。こちらも、分割会社と承継会社の関係性が「支配関係あり」または「支配関係なしの共同事業」に該当する場合に含まれる要件です。単なる形式的な事業移転や、会社分割直後に廃止されるような移転は認められず、事業の実体を維持することが必要になります。税務上の繰延べ制度を悪用した事業売却スキームの防止が主な目的の要件であり、分割の際には承継会社の事業計画や契約状況も確認されるのが一般的です。
関連する事業である
事業関連性要件は、「支配関係なしの共同事業」に該当する場合に満たす必要がある要件です。「分割会社と承継会社の事業が同一業種である」「サプライチェーン内の取引関係にある」「技術・ノウハウを共有している」など、事業運営における結びつきを有していることが求められます。
この要件は、無関係な事業同士の統合を避け、シナジーを維持するのが目的です。具体的には、製造部門と販売部門の分割や、共通の原材料・顧客基盤を活用するケースなどが該当します。また、複数の分割会社から承継会社へ事業が移転する場合は、それぞれの事業同士の関連性についても確認されます。
規模または役員で要件を満たす
「支配関係なしの共同事業」に該当する場合、同等規模要件または双方経営参画要件のうち、いずれかひとつを満たす必要があります。それぞれの要件は以下の通りです。
| 同等規模要件 | 分割会社と承継会社の売上高または従業員数の比率が約5倍以内である |
| 双方経営参画要件 | 分割後も両社の特定役員が少なくとも1人以上互いに経営に関与する |
上記の要件は、分割会社と承継会社が対等な立場で共同事業を行う体制を確保するための条件です。片方が極端に小規模な場合や、経営関与が一方的である場合には適格要件を満たさない可能性があります。また、共同事業の実態を伴わない形式的な会社分割を防止する役割も担っています。
分社型分割と分割型分割の税務処理

分社型分割と分割型分割では、税務処理や会計上の仕訳が異なります。分社型分割は株主の関与が限定的なため、資産・負債の移転を中心に処理します。一方、分割型分割は会社法上の規定がなく、株式の現物配当を伴うため、株主側で譲渡損益やみなし配当の計上が必要です。それぞれの具体的な仕訳方法と注意点を以下に紹介します。
分社型分割の仕訳・会計処理
分社型分割では、分割会社が資産・負債を承継会社に移転させ、株式を対価として取得する取引の仕訳を行います。株主は直接関与せずに会社間で対価の受け渡しが行われるため、株主側の仕訳は不要です。
ただし、適格要件を満たしていない場合は、譲渡損益や資産の時価評価が必要になります。分割する資産・負債の含み損益に応じて税金が発生するため、純資産の変動に注意が必要です。税務負担や会計上の影響を把握するためにも、適格要件を満たしているかを事前によく確認しておくことが重要です。
分割型分割の仕訳・会計処理
分割型分割は現行の会社法上に規定がないため、分社型分割の仕訳に加え、株式の現物配当の仕訳を行います。承継会社は分社型分割と同様に資産・負債の移転を処理しますが、分割会社株主は承継会社の株式を直接受け取るため、株式の振替処理が必要です。また、適格要件を満たしていない場合は株主に譲渡損益やみなし配当が課税されるため、その計上も求められます。
分社型分割・分割型分割を活用した事業承継の課題と対策は専門家に相談しよう
分社型分割や分割型分割を活用した事業承継は、法務・税務・会計の複雑な手続きが多く、単独で進めるには大きな負担を伴います。分割会社と承継会社の間でのトラブルを防ぐためにも、会社分割を進める際は経験豊富な専門家の支援を受けることをおすすめします。事業の実態や将来計画に沿ったアドバイスをもらいながら進めることで、承継を成功に導くことが可能です。
税理士法人レガシィは60年以上の実績がある相続専門の税理士法人です。事業承継後まで継続的にサポートしているため、ぜひお気軽にご相談ください。
当社は、コンテンツ(第三者から提供されたものも含む。)の正確性・安全性等につきましては細心の注意を払っておりますが、コンテンツに関していかなる保証もするものではありません。当サイトの利用によって何らかの損害が発生した場合でも、かかる損害については一切の責任を負いません。利用にあたっては、利用者自身の責任において行ってください。
詳細はこちら
陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
