認定医療法人制度とは?要件、メリット・デメリットを解説
Tweet医療法人の経営に携わっているなかで「認定医療法人制度」について耳にする機会があるでしょう。これは医療法人が公益性の高い運営を続けられるように設けられた制度で、一定の要件を満たすことで税制上の優遇措置などを受けられます。この記事では概要や主な要件、導入によるメリット・デメリットなどをわかりやすく解説します。
目次
認定医療法人制度とは
認定医療法人制度を正しく理解するために、概要と制度が設けられた背景について解説します。
認定医療法人制度の概要
認定医療法人制度とは、「持分あり医療法人」が「持分なし医療法人」に移行する際に、厚生労働省の認定により、税制上の優遇を受けながら円滑に移行できるよう支援する制度です。ここでいう「持分」とは、出資者が出資額に応じて、医療法人の解散時などに払戻請求や残余財産の分配請求ができる権利を指します。持分なし医療法人ではこのような出資持分の概念がなく、払い戻しや分配の必要がないため、法人財政が安定しやすく、事業承継もスムーズになります。
認定医療法人制度ができた背景
2006年の医療法改正以前に設立されたのが持分あり医療法人です。多数存在しており、医療法人の解散時や出資者の退職時には出資者が持分の払い戻しを請求することが可能でした。それゆえに法人としての財務状況が不安定になったり、出資者が亡くなることで相続税や贈与税といった税負担が大きくなったりすることが課題となっていました。
そこで法改正以降、新たに設立できるのは出資持分なしの医療法人のみとなります。ただし、すでに存在している持分あり医療法人は、そのまま存続することができました。厚生労働省は、持分なし医療法人への移行を推奨しますが、出資者が出資持分を放棄すると医療法人にみなし贈与税が課税されてしまうことがハードルとなり、なかなか進みませんでした。
この問題を解消するために2014年に創設されたのが、認定医療法人制度です。制度の創設により、相続税や贈与税の課税上の問題が一定の要件下で解消されました。
認定医療法人制度の適用期限はいつまで
厚生労働省は、全体的に持分なし医療法人への移行は着実に進んでいるものの、いまだに多数の持分あり医療法人が存在しており今後も移行を推進すべきだと分析しています。
現在の認定医療法人制度は2026年12月31日までの措置と定めていますが、さらに3年の延長が計画されています。計画の確定について2025年7月時点では未定のため、詳細については最新の情報を確認することをおすすめします。なお、この制度は恒久的なものではなく一時的な措置であるため、利用を希望している経営者の方は、早めに検討・準備に取り掛かる必要があります。
認定医療法人の要件とは
認定医療法人として認定されるためには、複数の要件を満たしていなければなりません。
- 移行計画が社員総会において決議されたものである
- 移行計画が有効かつ適切である
- 計画に記載された移行期限が5年以内である
- 適切な法人運営である
4つ目の「適切な法人運営」については、さらにいくつかの条件があります。例えば「法人関係者に対し、特別の利益を与えないこと」「社会保険診療報酬に係る収入金額が全収入金額の8割を超えていること」「事業(医業)収入が事業(医業)費用の150%以内であること」などが挙げられます。
さらに、移行後6年間はモニタリング期間となり、提出した移行計画が適切に実行されているかについてチェックされます。モニタリング期間中は運営状況を定期的に厚生労働省へ報告する必要があり、運営に関する要件を維持し続けることが求められます。
認定医療法人制度のメリット
制度を活用することで、医療法人にはさまざまなメリットが享受されます。
- 税制上の優遇措置がある
- 払戻請求を受けない
- 円滑な事業承継につながる
税制上の優遇措置を受けられる
認定医療法人となることで、持分なし医療法人への移行の際の贈与税は非課税となります。また、出資者が持分を放棄することにより、出資持分という財産概念はなくなります。そのため、出資金に相続税が課されることもありません。事業承継の際には多額の相続税が課税され大きな負担となるケースがあるので、相続税がかからないことも大きなメリットです。
さらに、持分あり医療法人の出資者が亡くなった際に、相続税の申告期限の段階で認定医療法人になっていれば、対象の相続税は猶予されます。その後持分なし医療法人へと移行すれば、猶予された相続税はそのまま免除されます。
払戻請求を受けない
出資持分の概念がなくなることで、退職時等に出資金の払戻請求を受けるリスクがなくなり、出資者の退職時などに払い戻しをする必要はありません。これにより、払い戻しの請求を受けて法人の財務状況が不安定に陥るリスクを回避できます。
円滑な事業承継に役立つ
認定医療法人制度を活用することで、出資持分に関する移転や払い戻しの作業がなくなり、スムーズな事業承継に役立ちます。後継者も、出資持分を取得するための資金が不要となります。
認定医療法人制度の要件には、社員や役員が非同族であることを求める項目はありません。子孫に事業を承継させたい場合、同族経営を維持しながらスムーズに事業継続ができることが大きなメリットといえるでしょう。
認定医療法人制度のデメリット・注意点
認定医療法人制度で得られるメリットは大きいものの、デメリットとなる点もあります。
- 認定要件・モニタリング期間の存在
- 残余財産分配請求権を失う
認定要件・モニタリング期間がある
認定医療法人となるには、複雑な認定要件を満たさなければなりません。提出が必要な申請書類の数も多く書類を作成したり集めたりするのも大変な作業です。加えて、無事に移行が完了した後も6年間のモニタリング期間があり、長期的に取り組んで運営に関する要件を維持する必要があります。
認定医療法人と認定されても、モニタリング期間中に要件を満たさなくなった場合には認定が取り消されてしまいます。認定取り消しにより、免除されていた相続税や過去の贈与税が発生する可能性があるため注意が必要です。
残余財産分配請求権を失う
出資持分を放棄することで、法人解散時の残余財産分配請求権も失われます。これは制度活用時の注意点のひとつです。仮に多額の資産を有する医療法人が解散する場合、残余財産は国庫に帰属されることになります。この点がネックとなり、持分なし医療法人への移行に心理的な抵抗がある方もいます。
認定医療法人制度を活用した事業承継は専門家に相談しよう
認定医療法人制度は、事業承継を円滑に進めるために活用できる税制優遇措置です。しかし制度そのものが複雑で手続きが煩雑になるケースも多いため、持分なし医療法人へ移行する際には専門家に相談するのがおすすめです。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表