企業価値とは? 5つの構成要素や計算方法を解説
Tweet企業価値とは、一言で言うと「企業全体の経済的な価値」のことです。会社を取り巻くさまざまな要素を総合的に評価した指標であり、事業承継やM&Aを検討する際には特に注目されます。本記事では、企業価値の基本的な意味から、企業価値を構成する5つの要因、評価の計算方法までわかりやすく解説します。
目次
企業価値とは
企業価値とは、財務的な側面だけでなく、ブランド力や将来性などを含めた総合的な価値を意味し、株主や従業員、取引先などさまざまなステークホルダーにとって重要な指標です。企業価値は「株主から見た価値」「従業員から見た価値」など、多角的な視点から評価されます。
株主・従業員にとっての価値
株主が重視する企業価値は、主に株式価値の向上や配当など、投資リターンに直結する要素です。
ただし近年では、ESG(環境・社会・ガバナンス)への配慮を企業価値の一部と捉える長期投資家も増加しており、財務情報にとどまらない包括的な価値評価が進んでいます。
他方、従業員にとって特に重要なのは、給与や福利厚生、キャリアアップのしやすさ、雇用の安定など、労働者視点での働きやすさや成長性に影響を与える要素です。
このように、株主と従業員では企業に求めるものが異なるため、多角的な視点から企業価値を捉え、それぞれの価値を高めていくことが求められます。
継続価値・清算価値
継続価値とは、企業が事業を継続すると仮定し、将来生み出すと予測されるキャッシュフローを現在価値に割り引いた金額です。業績が好調で将来の成長が見込まれる場合、継続価値は高くなります。
一方、清算価値とは、企業が事業を終了した際に、資産を売却・清算することで残る価値を指します。会社の保有資産から負債を差し引いた純資産がベースです。
金融機関や投資家は最悪の場合の回収額として清算価値を意識することもありますが、通常は継続価値のほうが企業の実態を反映しているとされます。設備投資によって一時的に清算価値が下がることもありますが、収益増加を伴えば継続価値が上がることがあります。そのため、M&Aではこの継続価値に基づいて企業評価を行うことが多いです。
企業価値に似た言葉との意味の違いについて
企業価値に関連して用いられるEVや時価総額、事業価値などは、それぞれ意味が異なります。ここでは、それぞれの用語について詳しく解説し、企業価値との違いを明らかにします。
企業価値とEVの違い
EV(Enterprise Value)は、日本語では「企業価値」と訳されることもありますが、ファイナンス上の専門用語としてはより限定的な意味を持つ指標です。具体的には、以下のような計算式で求められます。
EV=株式時価総額+有利子負債−現金及び現金同等物
※実務では、非支配株主持分や優先株式なども含めて調整されることがあります。
「EVは、企業買収時における買収価格の算定基準となる企業全体の経済的価値を示す指標であり、買収価格の算定のベースとして用いられます。買収後にはその現金を活用できるため、その分買収コストが抑えられるという考え方に基づいています。
一方で、一般的に用いられる企業価値という概念は、株主価値と債権者価値を含めた、企業全体の価値を総合的に評価するものであり、必ずしもEVとは一致しません。例えば、株式市場での時価総額や、財務諸表に表れないブランド価値なども企業価値の構成要素とされます。
M&Aの実務においては、企業を取得するために要する具体的なコストとしてEVが重視されます。
企業価値と時価総額の違い
時価総額とは、株式市場においてその企業がどの程度の価値を持つと評価されているかを示す指標です。「株価×発行済株式数」によって算出されます。例えば、株価が1,000円で発行済株式数が1,000万株であれば、1,000円×1,000万株=100億円で、これが時価総額です。この金額は株主資本、すなわち株主にとっての価値を示します。
一方、企業価値は、株主価値に加えて有利子負債などの債権者に帰属する価値も含めた企業全体の経済的価値です。計算式で表すと、以下のように算出されます。
企業価値=株式価値(時価総額)+負債価値(有利子負債)
企業価値は、将来の収益力や無形資産(ブランド、技術、人的資本など)も含めた総合評価でもあるため、必ずしも株式市場の価格だけで決まるものではありません。
また、時価総額は市場の需給や政治的要因、経済情勢など、企業の実力とは直接関係のない外部環境の影響を受けやすいという特徴があります。例えば、企業のファンダメンタルズが変わっていなくても、投資家心理の悪化によって一時的に株価が下がることもありえます。
このような理由から、M&Aや事業承継における評価では、時価総額だけではなく、企業の将来性や本質的な収益力を加味した企業価値をチェックするのが重要です。
企業価値と事業価値の違い
事業価値とは、企業が行っている事業活動そのものから生み出される経済的な価値を指します。具体的には、将来的に得られると見込まれる収益(キャッシュフロー)を現在価値に換算したものであり、企業の「本業から稼ぐ力」を示す指標です。事業価値には、営業権(のれん)やブランド、特許といった無形資産の価値も含まれます。
一方で、企業価値はこの事業価値に加えて、非事業用の資産や負債なども含めた、企業全体の経済的価値を示します。例えば、余剰な現預金、遊休地、投資目的で保有している有価証券など、日常の事業活動とは直接関係のない資産も含まれるのが特徴です。以下のような式で表されます。
企業価値=事業価値+非事業資産の価値
事業価値は企業価値の中核であり、M&Aや企業評価の場面で重視されます。実務上は企業価値と事業価値を同義に扱うこともありますが、目的や資産構成によって使い分けが必要です。
EVは事業価値として扱われる場合もありますが、評価目的に応じて使い分けが必要です。
企業価値を決める5つの要因
企業価値を決定する要因は多岐にわたり、目的要因、一般的要因、業界要因、企業要因、株主要因の5つに分類されます。ここで、それぞれの要因について詳しく解説します。
1.目的要因
企業価値は、評価の目的によって大きく左右されます。評価目的によって、評価の前提条件や手法が異なるため、結果として算出される企業価値にも違いが生じます。企業価値を評価する代表的な目的は以下のとおりです。
- 取引目的
- 裁判目的
- 課税目的
- 処分目的
- PPA目的
例えば、M&A(取引)が目的の場合は、買収後の自社とのシナジー効果や成長性も加味し、継続価値を重視するのが一般的です。一方で処分目的であれば、清算価値が重視されます。このように、目的の違いが評価方法の選択や価値の大きさに直接関わるため、企業価値を測る際は、まず評価目的を明確にすることが重要です。
2.一般的要因
一般的要因とは、企業価値に影響を与える外部的要因、特に経済・社会・政治などのマクロ的な情勢を指します。これらは個々の企業がコントロールすることはできない要因であるものの、評価を行う際の前提としては非常に重要です。代表的な一般的要因としては以下が挙げられます。
- 景気動向(物価変動や失業率など)
- 金利・為替の水準
- 政治状況や経済政策
- 法令・規制の改正
- 社会的要因(人口構造の変化、消費動向など)
例えば、海外との貿易を主軸にしている企業の場合、為替変動や地政学リスクの影響を受けやすくなります。あるいは製造業界の場合、環境負荷への配慮を目的とした規制強化が行われることによって収益性が悪化するということも考えられます。企業価値評価をする際は、将来的な展望も含めて、こうしたマクロ的要因を考慮することが望まれます。
3.業界要因
業界要因とは、評価対象企業が属する業界の特性や競争環境によって生じる要素を指します。競合他社との比較や、業界全体の動向が企業価値に大きな影響を与えるため、個別企業の実力だけでなく、業界の位置づけを把握することが重要です。以下が、主な業界要因です。
- 業界のライフサイクル(創成期・成長期・成熟期・衰退期)
- 業界再編の進展状況
- 類似企業の株価動向
- 同業他社の業績推移や戦略変更
技術革新が進む成長業界では、将来性が高く評価されやすいのが特徴です。一方で、市場自体が縮小している斜陽産業に属する企業の場合、現在の業績は良くても将来的な需要減が予測されるため、企業価値が低く評価される恐れがあります。そのため、業界の動向を把握し、自社の競争優位性を確立することが重要です。
4.企業要因
企業要因とは、その企業の内部状況に基づく要因であり、企業価値の中心的な構成要素です。他の要因に比べて自社の努力によって改善可能な領域であるのが大きな特徴です。企業要因の強化が企業価値の向上につながりやすくなります。企業要因には以下のようなものがあります。
- 売上や利益などの収益性
- 自己資本比率、負債比率などの財務健全性
- 将来の成長性(事業計画、新規事業など)
- 経営戦略とその実行力
- ブランド力、技術力、顧客基盤の強さ
- 経営陣の質、ガバナンス体制
- 配当政策や資本政策
例えば、高い利益率と健全な財務基盤を持つ企業は、その安定性と信頼性が評価され、企業価値が高く評価されやすく、逆に、財務状況が悪化している企業は、たとえ成長分野に属していても企業価値を低く評価されてしまいがちです。
5.株主要因
株主要因とは、株主の構成や株式の状況などを指します。つまり、企業の所有構造が企業価値評価に影響を与えるということです。特に、M&Aや株式取引においては、この要因が評価額に直接影響する場合があります。主な株主要因は以下のとおりです。
- 株主構成の集中・分散状況
- 同族関係や支配株主の有無
- 株式の種類(普通株式、種類株式)とその発行状況
- 株式譲渡制限の有無
- 株式の流動性(過去の売買事例)
- 支配権の有無(支配権プレミアム、マイノリティディスカウント)
- 株式売却数量や株主グループの構成
例えば、過半数に達する株式を保有する場合には経営権を取得できることから、その株式には「支配権プレミアム」が付加されることがあります。反対に、少数株主の持分は、意思決定への影響力が小さいため「マイノリティディスカウント」が適用され、評価額が低くなる傾向です。また、株式の流動性が低い場合や譲渡制限がある場合には、市場での換金性が低いため、企業価値にマイナスの影響を与えることもあります。
企業価値を高めるメリット
企業価値を高める具体的なメリットとしては、主に以下が挙げられます。
- M&Aで有利になる
- 融資を受けやすくなる
- 倒産リスクを低減させられる
これらはいずれも、企業の持続可能性の拡大に資するものです。以下で詳しく解説します。
M&Aで有利になる
企業価値が高いということは、その会社の将来性や収益力が高く評価されていることを意味します。こうした企業は、M&Aの場面でも評価が高い傾向です。例えば売却を検討する場合、高値での譲渡が期待できるだけでなく、その他の条件交渉も有利に進めやすくなります。さらに、企業価値が高いと、多くの買い手が興味を示しやすいため、結果として条件競争が生まれることも少なくありません。そのため、価格面だけでなく、経営方針や従業員の処遇など、総合的に望ましい条件を引き出せる可能性が高まり、より良いパートナーシップの締結が期待できます。
融資を受けやすくなる
企業価値は、財務の健全性や将来の収益見通しを反映する指標でもあります。そのため、企業価値が高いと、金融機関からの信頼を得られるため、融資審査が通りやすくなります。特に成長段階にある企業にとっては、資金調達のしやすさが事業展開のスピードを大きく左右するため、この要素は極めて重要です。また、銀行融資にとどまらず、社債の発行や株式による増資といった外部資金の調達もしやすくなります。このようにキャッシュフローが改善すると、設備投資や人材採用、新規事業などに必要な資金をスムーズに確保でき、効率的に事業を成長させていくことが可能です。
倒産リスクを低減させられる
企業価値の向上は、経営の安定性にも好影響を与えます。収益力の強化や自己資本比率の向上など、財務体質の改善につながるため、一時的な業績悪化にも柔軟に対応できる体制を整えられます。さらに、安定して高い企業価値を築いてきた企業であれば、緊急時においても金融機関や投資家からの支援を受けやすく、倒産や経営破綻に至るリスクを大幅に軽減できます。これは、従業員や取引先にとっても安心材料となるため、離職率の低下や社外の優秀人材の確保、新規取引の獲得など、さまざまな効果を期待できます。
企業価値の計算方法
企業価値を算定するためのアプローチには、一般的に「コストアプローチ」「マーケットアプローチ」「インカムアプローチ」の3つがあります。それぞれ評価の切り口が異なり、用いられる計算方法も複数存在します。目的に合わせて適切な方法を選択することが重要です。
コストアプローチ
コストアプローチは、企業が保有する資産と負債を基準に純資産額を算出し、企業価値とする方法です。特に企業の解散価値を測るために用いられ、解散価値を評価する際に利用されることが多いです。逆に言えば、企業の将来性を見極めたい場合には適していません。貸借対照表の情報を基に比較的簡単に算出できる点が特徴です。
時価純資産法
時価純資産法は、企業の保有する資産と負債を時価で評価し、その差額を企業価値とみなす方法です。清算価値に近い価値算出が可能ですが、現実にはすべての資産を適切に時価評価することは難しく、将来の収益性を反映できないという課題もあります。
簿価純資産法
簿価純資産法は、貸借対照表に記載された帳簿上の資産額から負債額を差し引いて純資産額を求める方法です。計算が簡便に済むためわかりやすいですが、含み益や含み損を反映できないため、実態よりも過小または過大に評価しやすい面があります。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチは、上場企業の市場価格や類似企業の取引データを基に企業価値を算出する手法です。客観性に優れており、M&Aなどに際してよく用いられます。ただし、適切な類似企業の選定が不可欠ですが、類似企業が見つけにくい場合があったり、選び方によって結果にばらつきが出たりする点には要注意です。
類似会社比較法
類似会社比較法は、事業内容や規模が似通った上場企業の株価や評価事例を参考に、対象企業の価値を算出する方法です。PERやEV/EBITDAなどの指標を用い、評価対象企業の財務指標と掛け合わせて算定します。評価の精度を高めるためには、類似企業の適切な選定が重要です。上場していない企業の株価を算出する際に用いられることもあります。
市場株価法
市場株価法は、上場企業の過去一定期間の平均株価を基に企業価値を評価する方法です。株式市場の需給によって形成された価格を反映するため、客観性が高い点が特徴です。ただし、出来高が少ない銘柄や異常な株価変動がある場合は実態を把握していない場合もあるため、慎重な見極めが求められます。
インカムアプローチ
インカムアプローチは、企業が将来に生み出す収益やキャッシュフローを予測し、その現在価値を基に企業価値を算出する手法です。将来性や成長性を反映できるため、M&Aや投資の場面で多く用いられます。ただし、前提条件の設定次第で評価に幅が出るため客観性に欠ける恐れもあり、正確な判断には高度な専門知識を要します。
収益還元法
収益還元法は、企業が将来にわたり得ると予測される平均収益を資本還元率で割り引き、企業価値 を求める方法です。収益の安定している企業に適しており、評価が比較的シンプルに行えます。ただし、ベンチャー企業のように収益変動が大きい企業には不向きです。
配当還元法
配当還元法は、企業が将来に支払うと見込まれる配当金を基準に、評価額を算出する方法です。株主への還元を重視する企業の評価に適しており、特に成熟期の企業に用いられます。ただし、配当政策が収益実態を反映していない場合は、実態と乖離する恐れがあります。
DCF法
DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)は、将来のフリーキャッシュフローを資本コスト(WACC)で割り引き、企業価値を算出する方法です。理論的に精緻な評価が可能ですが、前提となる収益予測や割引率の設定次第で結果が大きく変動する難しい側面もあります。他の方法もそうですが、DCF法は特に複雑な計算を要するため、専門家に相談するのがおすすめです。
自社の企業価値を正確に把握しメリットを享受しよう
企業価値は、現在の資産額だけでなく、将来性や市場評価、市場環境など多面的な要因によって決まります。自社の企業価値を正確に把握することは、M&Aや事業承継、資金調達といった経営判断をする際に極めて重要です。ただし、企業価値を算定し、M&Aなどの交渉の場でその情報を活かすには、専門的な知識やノウハウが欠かせません。そのため、特に事業承継を見据える経営者は、信頼できる専門家の支援を得るのがおすすめです。レガシィでは、税理士法人としての豊富な知見を活かし、M&Aや事業承継のコンサルティングサービスを提供しています。お気軽にご相談ください。
当社は、コンテンツ(第三者から提供されたものも含む。)の正確性・安全性等につきましては細心の注意を払っておりますが、コンテンツに関していかなる保証もするものではありません。当サイトの利用によって何らかの損害が発生した場合でも、かかる損害については一切の責任を負いません。利用にあたっては、利用者自身の責任において行ってください。
詳細はこちら
陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表