ファミリーガバナンスとは? 必要性や構築方法について解説
Tweet長年築き上げてきた家族の事業を次の世代へとスムーズに引き継ぎたいと願う一方で、家族間の意見の対立や経営権の争いなどに悩んでいる方もいるかもしれません。
この記事では、ファミリーガバナンスの重要性と具体的な構築方法を解説します。この知識を活用し、家族の事業を持続的に発展させるための第一歩を踏み出しましょう。
目次
ファミリーガバナンスとは
ファミリーガバナンスは、家族の事業が長期的に発展し、家族間の円滑な意思決定や事業承継をサポートするための仕組みのことです。ここでは、ファミリーガバナンスについて、解説します。
言葉の意味
ファミリーガバナンスとは、創業家や家族が経営に関わるファミリービジネスが、長きにわたって事業を継続し、発展するための仕組みを指します。具体的には、経営の透明性や公平性を確保し、家族間の意思決定プロセスを円滑にするためのルールや慣習などが含まれます。
この概念は近年注目を集めています。これまでファミリーガバナンスは、ごく一部の経営者一族に必要な考え方という認識でしたが、現在では経営のみならず資産運用で一定の財を成した方々の親族にとっても重要な考えとして捉えられるようになってきました。しかし、まだ明確な定義が確立されているわけではありません。
企業の規模や業種、家族構成などによってその内容は多様であり、企業ごとに最適なガバナンス体制の構築が求められています。
コーポレートガバナンスとファミリーガバナンスの違い
コーポレートガバナンスとファミリーガバナンスは、どちらも企業の統治に関する概念ですが、その対象範囲と目的が異なります。
コーポレートガバナンスは、すべての企業を対象としており、企業の健全な経営を確保し、持続的な企業価値向上を目的としています。株主、従業員、顧客など、企業を取り巻くさまざまなステークホルダーの利益をバランス良く考慮しながら、透明性や公正性を高めるための仕組みを整えることが重要です。
一方、ファミリーガバナンスは、家族経営に特化した概念です。創業家や家族が経営に関わる企業において、ファミリーの価値や資産を長期的に守り、事業承継や紛争といったリスクに備えることを目的としています。家族間の関係性や企業の事業継承といった、コーポレートガバナンスでは扱わない特有の課題に対応するための仕組みの構築が求められます。
ファミリーガバナンスが注目を集める背景
ファミリービジネスにとって特に重要な課題は、事業の継続性です。創業者の想いを継承し、家族の事業を将来にわたって維持していくためには、次世代への円滑な事業承継が不可欠です。
従来は、「所有と経営の一致」という形で、創業家が一括して企業を所有し経営を行うのが一般的でした。しかし、現代では、相続税対策や事業の多角化など、さまざまな要因により、事業承継のあり方が変化しています。ファミリー内での株式の分散や、親族以外への経営権の移譲など、従来の形態にとらわれない多様な承継方法が検討されるようになってきました。
このような状況下で、ファミリービジネスは、事業の継続性とファミリーの安定を両立させるための新しいガバナンス体制の構築が求められています。ファミリーガバナンスは、事業承継だけでなく、家族間の意思決定プロセスや財産管理など、幅広い範囲をカバーする概念として注目を集めています。
ファミリーガバナンスの必要性
ファミリーガバナンスは、家族経営の安定と持続的な成長に欠かせません。具体的には、次の4つの点でその重要性が特に際立っています。
- 経営の信頼性向上:透明な経営で信頼を築き、企業の成長を支える
- 内部不正の予防:定期的な監査を実施し、不正行為を未然に防ぐ
- 家族内紛争の予防:家族間の役割分担や意思決定プロセスを明確にして紛争を未然に防ぐ
- 事業承継の円滑化:透明な後継者選定と育成で、世代交代を円滑にする
それぞれ詳しく解説します。
経営の信頼性向上のため
ガバナンスは、企業や経営に対する信頼を築き上げる上で欠かせない要素です。 特にファミリービジネスにおいては、経営の決定権が特定のメンバーに集中することが多く、透明性や客観性が損なわれるリスクがあります。こうしたリスクを回避するために、ガバナンスの強化が欠かせません。
ガバナンスを強化すると、企業の意思決定プロセスが透明になり、より正確な情報が適切に開示されるようになります。これにより、株主や顧客、従業員など、企業に関わるすべての人々が、企業の経営状況を的確に把握でき、企業への信頼感が高まります。
内部不正などの予防のため
ファミリーガバナンスは、ワンマン経営による会社の私物化といった内部不正を防止する上で重要な役割を果たします。
具体的には、組織内のモニタリングを強化し、業務の透明性を高めることで不正行為が発覚しやすくなります。また、経営者の独断的な意思決定を抑制し、複数の視点から経営判断を行えば、より客観的で公正な意思決定が可能です。さらに、内部監査体制の整備により、不正行為の発生リスクを低減させ、早期発見・早期対応につなげられます。
ガバナンスの強化によって、企業は内部不正を予防して社会的信頼を獲得するとともに、長期的な成長を実現できます。
家族内紛争の予防のため
ファミリーガバナンスは、事業承継に伴う家族間の紛争を予防する上でも非常に有効な手段です。
創業者の死去や事業の拡大など、さまざまなタイミングで発生する可能性のある事業承継は、家族間の財産分与や経営権の移譲など、複雑な問題を伴います。こうした状況下で、事前に具体的なルールや合意を定めておくと、相続争いや経営権をめぐる争いといった「お家騒動」を未然に防げるはずです。
たとえば、株式の保有割合や議決権、経営への参画など、具体的な事項について家族間で合意を形成し、文書化します。これにより、将来発生する可能性のある紛争を予防し、家族経営の安定化に貢献します。
事業承継を円滑に進めるため
前段までの課題を解決しつつ、事業承継を円滑に進めるのもファミリーガバナンスの役割です。
事業承継においては、後継者の選定プロセスが非常に重要です。ガバナンス体制が整っていれば、透明性のある公正な選定プロセスを確立し、家族間の不満や対立を最小限に抑えられます。また、後継者育成のための計画的な取り組みも、ガバナンスの一環として位置付けられます。経営を引き継ぐ際の準備不足を回避し、円滑な引き継ぎを実現できます。
もし、ガバナンスのないまま事業承継が行われた場合、創業家と非創業家による経営の対立や、株主間の紛争など、さまざまな問題が生じるかもしれません。これらは、経営効率を低下させるとともに企業の成長を阻害し、最悪の場合、企業の存続を危うくする可能性があります。
ファミリーガバナンスの構築方法・流れについて
ここでは、ファミリーガバナンスの仕組みをどのように構築し、具体的に進めていくかについて解説します。
1. ファミリー憲章(家族憲章)の作成
「ファミリー憲章」とは、一族の価値観や行動規範、事業承継に関するルールなどをまとめた文書です。いわば、一族の「憲法」のようなものです。経営理念や事業への関与方法、株式承継の規定など、一族が共通の目的をもち、永続的に発展するための指針を定めます。
ファミリー憲章を作成することで、一族の価値観を統一し、将来にわたって一族事業を安定的に運営するための基盤を築くことが可能です。また、事業承継の際に生じる家族間の紛争を予防し、円滑な事業承継を促す効果も期待できます。
2. ガバナンスの構築
ファミリー憲章で定めた内容を具現化し、一族事業を円滑に運営するための仕組みを構築するのが「ガバナンスの構築」です。ガバナンス構築では、ファミリー憲章で定めた重要な事項を、法的効力のある規範として具体化していきます。たとえば、株式の保有条件や経営への参画基準、意思決定プロセス、紛争解決方法などを定め、一族の事業運営を体系的に整えます。これにより、事業の透明性が向上し、将来にわたって一族事業の安定と発展を支える土台が築かれます。
3. コミュニケーション可能な場の構築
ファミリー憲章やガバナンスを効果的に運用するためには、一族が定期的に情報を共有し、意思疎通を図る場の設置が欠かせません。以下のような場を設けることが重要です。
- ファミリー総会:年に一度、一族全員が集まり、経営状況の報告や今後の事業の方向性について話し合う場です。一族の結束を強め、共通認識を醸成できます。
- ファミリーオフィス:一族の資産管理や事業運営をサポートする専門組織です。弁護士、税理士、金融専門家など、さまざまな専門家が在籍しており、一族の財産に関する相談や、事業承継に関するサポートを行います。ぐ
- ファミリー評議会:一族の代表者が集まり、経営に関する重要な意思決定を行う場です。ファミリー総会で話し合われた内容を具体化し、実行に移すための具体的な計画を策定します。
これらの場を設けることで、一族間のコミュニケーションが活発になり、問題の早期発見・解決が可能です。
ファミリーオフィスについて詳しく知りたい方は、以下をご覧ください。
事業承継でのお困りごとはレガシィまでご相談ください
ファミリーガバナンスは、家族経営の安定と永続的な成長に不可欠です。具体的には、ファミリー憲章の作成、ガバナンスの構築、コミュニケーション可能な場の設置というステップを踏みます。
これにより、一族の共通認識を確立し、事業承継の円滑化や家族間の紛争の予防に役立ちます。
相続・事業承継に特化した税理士法人レガシィでも、家族間での事業承継を実現しており、ファミリービジネスにおける事業承継の課題や仕組みづくりの過程を理解しています。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
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