M&Aの流れ|検討からクロージングまでの進め方
TweetM&Aは事業承継や新たな市場参入、競争力の強化など、多様な目的で活用されています。そのため、売り手と買い手双方にとって大きなメリットがある反面、適切なプロセスや専門家のサポートがなければ、リスクも伴います。M&Aの基本的な流れを詳しく解説し、検討段階からクロージングまでの進行方法を具体的に紹介します。
目次
M&Aの流れ
M&A(Mergers and Acquisitions)のプロセスは複雑であり、複数の段階を経て進行します。それぞれの段階でどのような手続きが必要なのかを理解し、適切な対策を講じることが成功の鍵となります。以下は、M&Aの一般的な流れです。
1.初期検討・相談
2.仲介業者・専門家との仲介契約
3.候補先の選定・マッチング
4.売り手・買い手の双方でトップ面談
5.基本合意契約の締結
6.買収監査 (デューデリジェンス) の実施
7.最終譲渡契約書の締結
8.契約に基づき、クロージング
これらのステップを正確に理解し、それぞれの段階で適切な準備を行うことが、M&Aの成功に繋がります。
M&Aの流れ|検討からクロージングまでの進め方
M&Aのプロセスは大きく8つのステップに分かれています。それぞれのステップには、売り手と買い手の双方が注意すべきポイントが存在します。
特に双方に重要なのは「M&A目的の明確化」、「プロセスを円滑に進める体制作り」、「自社戦略に合致した候補先の選定」です。
以下では、各ステップを詳細に説明し、それぞれのステップにおける注意点や進行方法について解説します。
1. 初期検討・相談
M&Aを成功させるための最初のステップは、売り手と買い手がそれぞれの立場でM&Aを検討し、初期相談を行う段階です。M&Aの目的を明確にすることが、このプロセスの出発点です。売り手は事業の売却理由を整理し、買い手はM&Aの目的を設定する必要があります。この初期段階から専門家の助力は不可欠です。M&A専門の仲介業者や顧問税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
売り手側のポイント
売り手側は、事業の現状や将来的な展望を評価し、売却に向けた準備を進めます。譲渡対価だけに目を向けるのではなく、自社の従業員の譲渡先での待遇面などさまざまな面から検討します。
プラス面だけでなく、リスクも明確にしておくことが成功のポイントです。特に、以下の点に注意が必要です。
- 事業価値の評価:自社の事業価値を正確に把握することで、交渉材料としての自社の強みが明確になり、最適な売却タイミングを判断できます。適切なタイミングを逃すと、売却価格が下がるリスクがあります。
- 売却理由の整理:売却理由を明確にすることで、買い手との交渉を有利に進めることができます。後継者不在、事業縮小、資金調達の必要性など、具体的な理由を整理しましょう。
- 法務・財務状況の準備:M&Aの交渉では、法務・財務に関する詳細な事項が争点となることが多いため、早い段階から専門家を交えて準備します。さらに、買い手が安心して取引に臨めるように、役員・従業員の待遇、商品・ブランドの引継ぎといった細かい事項も詰めておきます。
買い手側のポイント
買い手側も、M&Aの目的や買収後のビジョンを明確にすることが求められます。ポイントは以下です。
- 市場の分析:買収対象の企業や事業が市場でどのようなポジションにあり、どのような成長ポテンシャルを持っているかを分析します。
- シナジー効果の検討:買収によって得られるシナジー(相乗効果)を検討し、それが自社の事業戦略にどのように寄与するかを明確にします。
- 初期的な財務分析:候補となる企業の財務状況を分析し、買収の適否を判断するための準備です。この段階では数多くの候補をリストアップ(ロングリスト)しておきます。
2. 仲介業者・専門家との仲介契約
M&Aを成功させるためには、信頼できる仲介業者や専門家のサポートが不可欠です。このステップでは、双方が仲介業者や専門家と契約を結び、プロセスを円滑に進めるための体制を整えます。
専門家の種類
M&Aのプロセスには、さまざまな専門家が関与します。以下は、代表的な専門家の種類です。
- M&A仲介業者:売り手と買い手のマッチングを行い、取引全体のサポートを提供します。公的な機関である「事業承継・引継ぎ支援センター」や民間のマッチングプラットフォームなどがあります。
- 弁護士:法務面でのサポートを提供し、契約書の作成や法的リスクの分析を行います。依頼人の代理人として法律行為を行えるのが強みですが、料金が高いのがネックです。
- 会計士・税理士:財務面や税務面での助言を行い、取引の透明性を確保します。特に、買収後の税務対策や財務上のリスクを分析します。
- 財務アドバイザー:財務分析や企業価値評価を行い、買収価格の妥当性を確認します。売り手・買い手双方にとって公正な取引を実現するためのサポートを提供します。
仲介契約の内容
仲介契約では、仲介業者や専門家の役割や報酬体系が明確に定められます。通常、成功報酬型の契約が採用されることが多く、取引が完了した際に仲介業者に報酬が支払われます。また、仲介契約には以下の内容が含まれることが一般的です。
- 報酬体系:成功報酬以外に、固定報酬や時間単位での報酬が設定されることもあります。
- 契約期間:通常、契約は一定期間にわたり有効であり、その期間内に取引を完了させることが求められます。
- 業務範囲:仲介業者や専門家が担当する業務範囲を明確にし、取引プロセス全体での役割分担を整理します。
基本となる業務委託契約の他に「秘密保持契約」を結ぶところもあります。
3. 候補先の選定・マッチング
M&Aにおいて最も重要なステップのひとつが、売り手と買い手の候補先の選定とマッチングです。この段階では、売り手と買い手がそれぞれのニーズに合った企業を選び出し、交渉の準備を進めます。
売り手側のポイント
この段階で、売り手側は「ノンネームシート」を作成し、買い手を選択します。
ノンネームシートは企業名が特定されない形式の概要書です。業種や事業内容・規模・売却理由・希望額などを盛り込み、相手方に情報を提示できるようにします。
自社のビジョンや事業戦略に合致する買い手を選定するためには、以下の点が重要です。
- 買い手の戦略的適合性:買い手が自社の事業をどのように扱うか、また事業の成長をどのように支援できるかを評価します。
- 買い手の資金力:買い手が買収に十分な資金を持っているかどうかを確認し、資金調達の計画が現実的であるかを検討します。
- 買い手の評判:買い手企業の市場での評判や取引実績を確認し、信頼できる相手かどうかを評価します。
買い手側のポイント
買い手側にとっても、候補企業の選定は重要なステップです。ノンネームシートなどを基に情報を収集し売り手を評価します。以下のポイントに特に注目する必要があります。
- 買収対象のシナジー効果:買収対象が自社の事業成長を促進するか、または新たな市場や技術を提供できるかを評価します。
- リスク評価:財務リスク、法的リスク、経営リスクなど、買収対象の問題点を事前に把握し、適切にリスク管理を行うことが重要です。
- 適正価格の算定:企業の価値を過小評価しないよう、適切な価格設定が求められます。事業価値の算定には財務分析、マーケット評価、将来のキャッシュフロー予測などが含まれます。
4. 売り手・買い手の双方でトップ面談
売り手と買い手が候補を絞り込んだ後、次のステップとして双方のトップ(経営陣同士)が直接会い、M&Aに関する基本的な条件やビジョンを共有するトップ面談が行われます。
トップ面談は、M&Aプロセスにおいて非常に重要な役割を果たします。双方が初めて直接的に話し合う場であり、取引の方向性を決定する機会でもあります。この面談を通じて、売り手側は買い手側の意図や企業文化を理解し、また買い手側は売り手のビジネスや将来的な展望をより深く知ることができます。双方は以下のポイントを踏まえた面談を行います。
- 売り手の目的確認:売り手側は、買い手が事業の成長や従業員の雇用をどのように考えているか確認します。
- 買い手の資金力と計画確認:買い手側は、実際に資金調達の計画や買収後の戦略を具体的に説明し、売り手に安心感を与えることが求められます。
この時点で、売り手と買い手の間で直接、秘密保持契約(NDA)を結ぶ場合もあります。通常は仲介業者を通じて間接的に結ぶ場合がほとんどです。
5. 基本合意契約の締結
トップ面談が成功し、双方がM&Aの進行に合意した場合、次のステップとして基本合意契約(LOI: Letter of Intent)を締結します。この契約は、M&Aの重要なマイルストーンであり、買収の基本的な条件や交渉の枠組みを明確にするものです。
基本合意契約には以下の内容が含まれます。
- 譲渡方式:株式譲渡・事業譲渡・合併・会社分割などの手法を取り決めます。
- 買収価格の概算:最終的な価格は後のデューデリジェンスの結果により調整されることが一般的ですが、基本合意では概算価格が提示されます。
- 独占交渉権:買い手が他の候補者と交渉できないように、一定期間の独占交渉権が設定されることがあります。
- 条件と期限:取引の成立に必要な条件や、デューデリジェンスの完了期限、最終契約の締結期限などが明記されます。
この契約は法的な拘束力を持たないことが一般的ですが、双方が合意した条件に基づき、M&Aプロセスを進めるための指針となります。
6. 買収監査 (デューデリジェンス) の実施
デューデリジェンス(買収監査)は、売り手が開示している情報が本当に正しいのかを、買い手側が時間をかけて監査する重要なステップです。買収監査は、買い手側の責任者や税理士や公認会計士などの専門家が行います。この段階では、売り手の事業や財務、法務、税務などのあらゆる側面を詳細に調査し、取引に伴うリスクを評価します。デューデリジェンスには以下の項目が含まれます。
- 財務デューデリジェンス:財務状況を詳細に調査し、帳簿やキャッシュフローの整合性を確認します。特に負債や資産の評価が重要です。
- 法務デューデリジェンス:法的なリスクを評価するために、契約書や訴訟、知的財産権の状況などを精査します。
- 税務デューデリジェンス:税務面での問題点や未払いの税金がないかを確認し、取引後の税務上のリスクを評価します。
- ビジネスデューデリジェンス:市場でのポジションや競争力、顧客やサプライチェーンの評価を行い、事業の持続性を判断します。
このプロセスを通じて、買い手は潜在的なリスクを認識し、取引条件の調整が必要かどうかを判断します。調査期間は買収先企業の規模にもよりますが、1~2週間ほどの期間が必要です。費用はすべて買い手側が負担します。
7. 最終譲渡契約書の締結
デューデリジェンスが完了し、買い手側がリスクを適切に評価できた段階で、最終的な契約書が作成されます。最終譲渡契約書(SPA: Share Purchase Agreement)は、M&A取引を正式に成立させるための法的拘束力のある書類です。記載項目は多岐にわたるため、主要項目のみを紹介します。
譲渡関連
最終譲渡契約書では、譲渡に関する詳細な条件が明記されます。主な壌渡形式には株式譲渡と事業譲渡があります。ここでは、どの資産が譲渡されるか、どの負債が引き継がれるかなどが規定されます。
- 株式譲渡:企業の所有権そのものを譲渡する形態です。買い手が企業の資産、負債をすべて引き継ぎます。
- 事業譲渡:特定の事業部門や資産のみを譲渡する形態です。負債の引き継ぎが限定されます。
表明保証
表明保証とは、売り手が買い手に対して、一定の事実や状況が正確であることを保証する声明のことを指します。これにより、買い手は売り手が提示した情報に基づいて取引を進めることができ、万が一、その情報が虚偽であった場合には、損害賠償請求などの法的対応が可能となります。
買い手側は、契約当事者となるのに十分な法的能力・権限を有していることなどを表明します。
誓約事項
誓約事項は、契約の主たる義務(支払い義務、譲渡義務など)以外の付随的な義務を定める声明で、売り手側が取引後に一定の行動や対応を取ることを約束するものです。例えば、譲渡制限会社である場合は譲渡承認手続を行う義務、株式譲渡のために必要な手続きを行う義務などが挙げられます。さらに、競業避止義務や従業員の雇用維持、重要な契約の遵守なども含まれます。
補償事項
補償事項は、違反が認められた場合に損害賠償を請求できることを規定した取り決めです。売り手が提供する情報が虚偽である場合や、取引後に予期せぬ問題が発生した際に、売り手が買い手に補償を行う条件です。これにより、買い手側は取引後のリスクを軽減できます。
8. 契約に基づき、クロージング
すべての条件が整い、最終契約書が締結された後、クロージングが行われます。クロージングとは、実際に契約が履行され、株式や資産の移転が行われるプロセスです。
- 資金の移動:買い手が売り手に対して買収代金を支払い、株式や資産の所有権が正式に移転します。
- 法的手続きの完了:必要な法的な書類や登記の手続きが完了し、M&A取引が正式に成立します。
クロージングのタイミングは取引によって異なりますが、すべての条件が満たされた時点で行われます。これにより、M&Aプロセスは完了し、買い手側が事業を正式に引き継ぐことになります。この後、社内外への情報開示(ディスクローズ)を行います。
M&A・事業承継の相談は専門家まで
M&Aは非常に複雑で多くのステップを踏む取引ですが、適切な専門家のサポートを得ることで、リスクを最小限に抑えながら、成功へと導くことができます。特に初期段階の相談からデューデリジェンス、契約締結まで、専門家の知識と経験を活用することが非常に重要です。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
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