相続の知識

クリニックの事業承継|譲渡の流れ、注意点、相談先について解説

クリニックの事業承継を実施する際、後継者不足の問題に直面し、悩みを抱える院長や経営者が少なくないようです。親族や自院に適切な後継者候補がいない場合、第三者承継という方法での承継を検討してみましょう。

本記事では、クリニックを第三者承継する際の流れや注意点、おすすめの相談先について詳しく解説します。

クリニックの事業承継方法

事業承継のタイミングは院長や経営者の判断によって選択することが可能です。現役で働けるうちに承継後の生活について考え、自身の子どもや配偶者を跡継ぎとする「親族内承継」もしくは、親族以外の従業員や役員、M&Aの利用により第三者へ事業を引き継ぐ「第三者承継」の実施に向けて計画を立てましょう。

親族内承継

親族内承継とは、クリニックの経営者が自身の子どもや配偶者、孫などの親族に事業の後継者になってもらう方法です。経営者の親族が事業を引き継ぐため、クリニックのスタッフから受け入れられやすく、トラブルを避けて事業承継しやすいのがメリットです。

また、事業承継で問題になりがちな贈与税・相続税の負担を軽減する制度を活用できる可能性もあります。親族間であっても、事業承継時には理念や経営方針などを双方で丁寧にすりあわせておくことが大切です。

第三者承継(M&A)

第三者承継とは、親族以外に事業を引き継ぐ方法です。役員や従業員のほか、事業を引き継いでもらいたい社外の第三者へ事業を承継します。クリニックの場合、M&Aを利用して社外の医療法人などに引き継いでもらうなどの方法が第三者承継に該当します。

クリニック経営者の親族やスタッフに後継者がいない場合には、M&Aをはじめとした第三者承継で事業を引き継ぐことが可能です。社外の医療法人などを後継者の対象にすることで廃業を回避できれば、従業員の雇用を維持できます。

ただし、必ずしも良い承継先が見つかるとは限りません。また、M&Aの交渉を進めていると外部に漏れた場合、経営が危ないのかもしれないといった印象を与えかねないため注意が必要です。

クリニックの事業承継の流れ

第三者承継を想定したクリニックの事業承継は、以下の流れで進めていくのが一般的です。

  1. 事業承継の計画を作成
  2. 事業承継の専門家に相談
  3. 仲介業者との業務委託契約書の締結
  4. 事業承継の候補先を選定
  5. 承継先との面談
  6. 基本合意契約書・最終譲渡契約書の締結
  7. 地方厚生局に申請

1.事業承継の計画を作成

失敗のリスクを回避するために、後継者の選出やどのように事業承継を進めていくのかなど、詳細な計画を立ててから行動するようにしましょう。計画にあわせて、どのような手続きが必要になるか整理しておきます。

併せて、クリニックの経営状況や介在している課題、事業を承継する側が得られるメリットなどをピックアップします。後継者候補となる第三者は、これらの情報をもとに事業を引き継ぐかどうかを判断します。

事業承継を進めるうえで、さまざまな書類もそろえなければなりません。詳しくは後述しますが、譲渡側は「保険医療機関廃止届」「診療所廃止届」、譲受側は「保険医療機関指定申請書」「診療所開設届」を提出する必要があります。

2.事業承継の専門家へ相談

第三者承継には、法律や税務に関する知識など、さまざまな専門知識が必要です。また、事業活動を継続しながら理想的な承継先を見つけて交渉を行うまでには、多大な時間と労を投じなければなりません。

第三者への事業承継を検討する際は、専門家や仲介業者へ相談することも前向きに検討してみましょう。なお、事業承継の専門家として、税理士や仲介業者、M&Aアドバイザリー、弁護士、公認会計士、司法書士などが挙げられます。

3.仲介業者との業務委託契約書の締結

仲介業者とは、M&Aを円滑に進めて成功させるために、双方の間に立ってサポートする業者を指します。M&Aの場合、仲介業者が売り手と買い手の間に立って交渉を進めていくのが一般的です。

マッチングから契約までの作業を、当事者同士で進めるケースはほとんどありません。仲介業者はM&Aにおいて非常に重要な役割を担うため、信頼できる業者を見極めることが大切です。依頼したい仲介業者が見つかったら、まず相談してみましょう。

依頼するときは、仲介業者の業務内容や報酬体系などを盛り込んだ業務委託契約書を交わします。
必要に応じて、予定された用途以外の自社情報の使用や開示を禁止する秘密保持契約書(NDA)も締結しておくと安心です。秘密保持契約を締結することにより、原則として秘密情報の開示を禁止できると同時に、情報漏えい時には損害賠償請求を行うことも可能です。

4.事業承継の候補先を選定

次に、クリニックの事業を譲渡する候補を選定します。リストアップされた候補先の情報を参照しながら、譲渡先となる企業や医療法人をさらに絞り込んでいきます。譲渡先の候補を絞る際は、自院が抱える課題を解決できる企業や医療法人を選ぶようにしましょう。

また、現在の院長や経営者と価値観が近いかどうか、経営方針やビジョンがマッチするかどうかなども重要なチェックポイントです。

5.承継先との面談

絞り込んだ候補先との面談では、より多くの情報を取得できます。候補先として選んだクリニック、医療法人などの院長、理事長といったトップ層との面談では、事業を譲渡したあとの診療方針・運営方針などをヒアリングするようにしましょう。

このプロセスで双方の認識をうまくすり合わせられなかった、のちのトラブルに発展しかねないため注意が必要です。スタッフの雇用を守ってもらえるか、クリニックの理念を引き継いでくれるかなど、丁寧にすり合わせを行うようにしましょう。

6.基本合意契約書・最終譲渡契約書の締結

事業の承継先が決まったら、双方で基本合意契約書を締結します。これは、あくまで双方の合意内容を確認するための文書であり、法的な拘束力は限定的です。基本合意契約書は、従業員の扱いや業務の引き継ぎなどに関する事項を整理した文書であり、このプロセスを経たのちに最終契約へ進みます。

また、基本合意契約書には、M&Aの対象や買収価格、スケジュール、違約金、秘密保持義務、有効期限などの内容を盛り込んで作成するのが一般的です。基本合意契約書を双方で交わしたら、最終譲渡契約書の締結へと進みます。

7.地方厚生局に申請

地方厚生局とは、厚生労働省の地方支分部局であり、医療や福祉など社会保障政策に携わる機関です。事業の譲渡側と譲受側の双方で最終譲渡契約書を締結したら、地方厚生局へ届出を行います。
地方厚生局に提出する書類の名称は、譲渡側が保険医療機関廃止届、事業を引き継いだ側は保険医療機関指定申請書です。

また、地域を管轄する保健所には、譲渡側が診療所廃止届、譲受側は診療所開設届を提出します。他にも、建物平面図や医師免許証、経歴書、譲渡契約書、保険医登録票の写しなど、提出すべき書類が複数あります。

クリニックの事業承継にかかる費用

クリニックの事業承継に要する費用は、双方の事業規模や利用する仲介業者など、さまざまな要素によって大きく変化します。譲渡側における費用の内訳は、主に仲介業者へ支払う手数料です。

なお、報酬には月単位で費用が発生する月額報酬と、M&Aが成功したときのみ対価を支払う成功報酬制があるため、事前に確認しておきましょう。譲受側が支払うのは、仲介業者の手数料の他、クリニックの譲渡対価です。土地や建物などの不動産や備えてある医療機器をもとに算出した対価、のれん代などを支払います。

クリニックを事業承継する際の注意点

クリニックの場合、事業承継に向けた準備だけで1年以上かかるケースも珍しくありません。また、手続きも複雑になりやすいため、早めに必要な対策を立て、万全の態勢で事業承継に臨めるようにしましょう。

早めに事業承継の準備を始める

親族内承継と第三者承継のどちらであっても、事業承継は多大な時間を要します。後継者候補の絞り込みや育成、必要書類の作成および準備、各種行政手続きなど、やるべきことは多々あります。すでに事業承継のタイミングを具体的に決めているのなら、目標とする年度から逆算して準備を進めていくようにしましょう。

想定外の壁に直面し、事業承継が難航することもあります。たとえば、候補先はスムーズに見つけられたものの、条件面での折り合いがつかず、交渉が停滞してしまうといった事態も想定されます。このように、思いのほか交渉に時間かかることも考慮し、なるべく早めの準備を心がけましょう。

事前に自院の医療方針・経営状況をまとめる

候補先との交渉では、自院の経営状況や方針、理念などの情報が用いられます。医療方針や理念が整理されておらず、正しく相手に伝えられなかった場合、認識のずれが生じるかもしれません。

たとえば、認識の相違が原因で、譲渡後にクリニックの医療方針が大きく変わってしまえば、多くの患者が離れる可能性があります。このような事態を避けるべく、あらかじめ自院の医療方針や理念などは、漏れなく整理することが大切です。

なお、クリニックの経営状況があまりにも芳しくない場合、買い手が見つからない可能性が高くなります。買い手の候補が見つかったとしても、交渉が難航してしまうおそれがあるため、経営状況の悪さを補えるだけのメリットや魅力、将来性などを整理しておきましょう。

クリニックの事業承継の相談先

事業承継の相談先は、事業承継・引継ぎ支援センターやM&A仲介業者、税理士・弁護士・公認会計士です。それぞれのメリット・デメリットを把握して、適切な相談先を選定することが大切です。

事業承継・引継ぎ支援センター

事業承継・引継ぎ支援センターは、国が設置した公的な相談窓口であり、中小企業が抱える事業承継のさまざまな悩みに対応してくれます。全国のさまざまな地域に拠点が設置されているため利便性がよく、公的機関のため安心して利用できるのがメリットです。

相談費用はいっさいかからず、親族内承継から第三者承継まであらゆる相談に乗ってもらえます。
また、事業承継に関する知識と豊富な経験を持つ各方面のプロが在籍しているのもポイントです。

金融機関のOBや中小企業診断士、税理士、公認会計士などの専門家による適切なアドバイスが得られます。ただし、候補先との交渉など、直接的なサポートは行っていない点はデメリットかもしれません。

M&A仲介業者

M&A仲介業者は、事業を譲渡したい企業と買いたい企業を仲介し、マッチングさせる業者です。
M&Aはさまざまな専門知識が必要となるため、M&Aに特化した専門業者の力を借りるのも有効な手段です。M&A仲介業者のサービス内容は、M&Aに関するアドバイスや候補先のリストアップ、企業価値の算出、相手との交渉、各種契約書類の作成支援など多岐にわたります。そのため、事業承継に関するトータルサポートを受けられるのは大きな魅力です。

また、医療やITなど、業界に特化したM&A仲介業者も少なくありません。ケースの似た事業承継を成功させた事例を多数保有している業者なら、交渉を有利に進められる可能性があります。M&A仲介業者に依頼する場合には、着手金や報酬といった各種費用が発生します。仲介業者によってサービス内容や品質に差があるケースも多いため、依頼する際は慎重に選定するようにしましょう。

税理士・弁護士・公認会計士

事業承継の実施には、法務や税務に関する知識が不可欠です。税務や財務のプロである税理士、公認会計士、法務のスペシャリストである弁護士に相談することで、複雑な手続きが必要なクリニックの事業承継をスムーズに進められるはずです。

顧問税理士がいる場合は、まず相談してみましょう。親族内承継では、多額の相続税や贈与税が発生するケースも考えられますが、税務のプロである税理士へ相談することで効果的な節税対策を講じられます。

また、税理士は資産価値を評価する「バリュエーション」や売却側企業の現在の税務状況を詳細に調査する「税務デューデリジェンス」にも対応しているので、M&Aのスムーズな進行が実現します。

税理士はあくまで税務のプロであり、M&Aや事業承継の専門家ではありません。そのため、M&Aに関するスキルが不足しているケースも見受けられます。ただし、税理士法人の中には、事業承継やM&Aに強く、トータル的なサポートサービスを提供している事務所もあります。

クリニックの事業承継なら「レガシィ」までご相談ください

親族や自院のスタッフから適切な後継者が見つからない場合、M&Aを用いた第三者承継を検討してみましょう。事業承継の交渉や手続きは、税務や法務などの知識が必要ですが、専門家のサポートを得れば、安心して取り組めます。

自院の事業承継に関するお悩みがあれば、ぜひ50年以上の実績がある「税理士法人レガシィ」にご相談ください。事業承継に特化した「事業承継スタートパック」で、クリニックが抱える後継者問題をスムーズな解決へと導きます。

事業承継スタートパックのご案内

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この記事を監修した⼈

税理士法人レガシィ代表社員税理士パートナー陽⽥賢⼀の画像

陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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