相続の知識

【親子間も対象】事業承継・引継ぎ補助金とは? 条件や申請方法を解説

「事業承継・引継ぎ補助金」は文字通り、中小企業・小規模事業者の事業の引き継ぎを支援する制度であり、中小企業庁(独立行政法人中小企業基盤整備機構)が実施しています。親から子どもに事業を承継した場合でも補助金の申請を行うことは可能です。本記事では、補助金制度の概要や親子間で事業承継を行い、補助金を申請する場合の要点、申請方法などについて解説します。

事業承継・引継ぎ補助金の3つの枠

中小企業庁(独立行政法人中小企業基盤整備機構)では、中小企業や小規模事業者を対象に、事業の引き継ぎを支援する補助金制度を設けています。本制度は、補助金支給対象の取り組み内容や経費の種類に応じて、以下の3つのカテゴリーに分けられています。

  • 事業承継をきっかけに経営革新に取り組む企業・事業者を支援する「経営革新枠」
  • 承継時のM&Aの実施に専門家を活用した際の費用を補助する「専門家活用枠」
  • 廃業し、再チャレンジに取り組む企業・事業者を支援する「廃業・再チャレンジ枠」

出典:中小企業庁|事業承継・引継ぎ補助金

1. 経営革新枠

事業を引き継いだ中小企業者・個人事業主の設備投資費や販路開拓費などを補助するものです。対象企業の経営革新を促進し、生産性の向上が達成されることを目的にしています。本枠のポイントとしては以下の3つがあります。

  • 一定期間内に経営資源を引き継ぐ(またはその予定がある)こと
  • 承継の種類によって3つの支援類型があること
  • 事業の引き継ぎ後に経営革新などに取り組むこと

本補助金制度はこれまでに複数回、公募が行われています。例えば9次公募の場合は、以下を満たす必要があります。

  • 2019年11月23日以降に事業承継する
  • 2024年6月4日~11月22日に経営革新などに取り組む
  • 2024年11月25日までに実績を報告する

3つの支援類型とは具体的には、以下の通りです。

  • 創業支援類型(I型):事業承継対象期間内に開業または法人を設立し、事業を承継した企業・事業者が対象
  • 経営者交代類型(II型):代表者が交代した法人が対象
  • M&A類型(III型):株式譲渡・事業譲渡などのM&Aで事業を承継した企業・事業者が対象

II型では、代表者が親族や従業員に交代し、経営が引き継がれることが想定されています。III型では、親族内での承継は対象になりません。

事業の引き継ぎ後に取り組まねばならない経営革新では例えば、新商品の開発・生産などを行って、「経営の相当程度の向上を図ること」が求められています。さらに経営革新への取り組みが(A)デジタル化に関する事業、(B)グリーン化に関する事業、(C)事業再構築に関する事業、のいずれかに該当する必要もあります。

本枠で補助対象となる経費区分は、設備費、外注費、マーケティング調査費など、計11種類が定められています。

補助上限額および補助率は、賃上げの有無と企業の状況とによって変わってきます。補助上限額は原則として600万円ですが、一定額以上の賃上げを実施する場合には800万円となります。また補助率は原則1/2以内ですが、企業が、小規模企業者、営業利益率低下、赤字、再生事業者などに該当する場合には、補助額600万円までの部分は2/3以内に引き上げられます(600万円超800万円までは1/2以内)。

2. 専門家活用枠

本枠は、経営資源の引き継ぎに際して、M&Aなどの専門家を活用した場合の経費を補助するものです。一定期間内にM&Aによって事業承継を予定している中小企業者・個人事業主が対象です。例えば、事業の売却案件を弁護士に依頼した場合、その経費の一部を補助金として受け取れます。

本枠では、経営資源を引き継ぐ立場によって、支援類型が2つに分けられています。

  • 買い手支援類型(Ⅰ型):M&Aで事業を譲り受ける中小企業者が対象
  • 売り手支援類型(Ⅱ型):M&Aで事業を譲り渡す中小企業者が対象

補助上限額は原則600万円、下限額は同50万円、補助率は買い手支援類型が2/3以内、売り手支援類型が1/2以内です。ただし、補助事業期間内にM&Aが実現しなかった場合には、補助上限額は300万円に、またⅡ型で一定の条件を満たした場合には、補助率が2/3以内になります。

3. 廃業・再チャレンジ枠

本枠は、これまでの事業を廃業し、新たな取り組みをはじめる事業者を対象に、廃業にかかる経費を支援するものです。一定期間内に売り手としてM&Aに着手することと、補助事業期間内にこれまでの事業を廃業して、再チャレンジすることが条件です。

補助対象となる経費区分としては、廃業支援費、在庫廃棄費、解体費、原状回復費、リースの解約費、移転・移設費用の6種類が定められています。

本枠は、ほかの2枠とは異なり、ほかの枠と併用申請することが可能で、単独申請(再チャレンジ申請)の場合と併用申請の場合とで、補助率が変わってきます。単独申請では2/3以内ですが、併用申請では、併用側の補助率に従います(したがって1/2以内または2/3以内)。いずれも補助下限額は50万円、上限額は150万円です。

親子間も対象になる事業承継・引継ぎ補助金は「経営革新枠」

親子間であっても本制度を利用して、補助金を受け取ることは可能です。ただし、上述した3つの枠のうち、経営革新枠の「創業支援類型(Ⅰ型)」および「経営者交代類型(Ⅱ型)」のみ申請できます。同枠の「M&A類型(Ⅲ型)」や専門家活用枠、廃業・再チャレンジ枠には申請できません。申請する際には「期間」と「経費」が支援対象に該当しているかどうかをよく確認しましょう。

支援対象となる期間

本枠の詳細は、事業継承・引継ぎ補助金サイト上で公開されています。例えば、2024年4月1日から交付申請の受付が開始された9次公募では、事業承継対象期間は2019年11月23日~2024年11月22日と設定されており、この間に事業承継またはM&Aによって経営資源の引き継ぎが行われていることが申請条件です。申請は2024年4月30日に締め切られ、同6月4日に採択結果が発表されました。交付が決定した事業者(申請388件中の233件)は2024年11月22日までに補助事業を完了し、同12月2日までに実績を報告しなければなりません(2024年6月9日執筆時点)。

同じく2024年6月4日には「臨時的に10次公募を増設」することが公表されましたが、対象は専門家活用枠のみで、今回は、そのほかの枠は設けられていません。

参考:事業継承・引継ぎ補助金サイト

対象となる経費

公募要領の「補助対象経費」に、以下の①~③の条件をすべて満たし、事務局が必要かつ適切と認めたものと記載されています。

①使用目的が補助対象事業の遂行に必要なものと明確に特定できる経費
②補助事業期間内に契約・発注を行い支払った経費(原則として、被承継者が取り扱った経費は対象外)
③補助事業期間終了後の実績報告で提出する証拠書類等によって金額・支払い等が確認できる経費

引用:事業承継・引継ぎ補助金事務局 「中小企業生産性革命推進事業 事業承継・引継ぎ補助金 経営革新枠 9次公募【公募要領】」

上述した通り、経費区分としては11種類の事業費が定められており、さらに併用申請時には廃業費が追加されます。事業費の具体例としては、店舗・事務所などの賃借料(店舗等借入費)、出張にかかる交通費・宿泊費(旅費)、市場調査にかかる費用(マーケティング調査費)、Web広告やチラシにかかる費用(広報費)、業務を業者に委託する費用(委託費)などがあります。

【ケース別】親子間での事業承継・引継ぎ補助金の利用条件

本制度を利用して、親子間で補助金を申請できるのは上述した通り、経営革新枠の「創業支援類型(Ⅰ型)」「経営者交代類型(Ⅱ型)」の2つです。ここでは、以下のケースに分けて、それぞれの利用条件などを解説します。

  • 親が法人代表者のケース
  • 親が個人事業主のケース

親が法人代表者のケース

法人の代表を務めている親が本制度を利用して補助金を申請する場合には通常、「経営者交代類型(II型)」を利用しますが、その際に注意しなければならないポイントが2つあります。

  1. 法人の代表を子どもに変更すること
  2. 「未来の承継」の場合は要件を満たすこと

法人の代表を子どもに変更すること

経営者交代類型(II型)では、法人の代表者の変更をもって、事業承継の完了とみなされます。したがって、例えば9次公募に申請している場合には、2024年11月22日までに(i)親が代表を辞任し、(ii)子どもが代表権をもつ、状態にしなければなりません。ただし、それまでの間は経営を円滑に引き継ぐために、親子が同時に代表取締役に就任していることは問題ありません。また、11月23日以降、代表権をもたなければ、親が取締役として残っていても問題はありません。求められていることは「法人の代表の交代」であるため、親子それぞれで保有している株式の転移を行う必要もありません。

「未来の承継」の場合は要件を満たすこと

経営者交代類型(II型)では、「未来の承継」を利用して補助金を申請することも可能です。未来の承継とは、将来、代表者となることが見込まれている後継者を選定し、事業を譲ることです。ただし、親子間で未来の承継を利用する場合には、さまざまな条件を満たす必要があります。

  • 同一法人内の代表者交代による事業承継であること
  • 「同一法人内の役員として3年以上の経験を有すること」または「同一法人内に継続して3年以上雇用され業務に従事した経験があること」
  • 同一法人内に在籍していること
  • 補助事業期間の終了年度から5年後の事業年度末までに、事業承継を完了できる蓋然性が高いこと
  • 選定された候補者が主導して取り組む事業であること
  • 承継予定の中小企業における事業であること
  • 承継予定である中小企業の経営資源を有効活用した事業であること

参照:事業承継・引継ぎ補助金事務局 「中小企業生産性革命推進事業 事業承継・引継ぎ補助金 経営革新枠 9次公募【公募要領】」

親が個人事業主のケース

親が個人事業主として営んでいる事業を子どもが継承する場合は、個人事業主として受け継ぎ、通常は「経営者交代類型(II型)」で申請します(条件によっては、子どもが設立した法人で継承することも可能です)。その際の注意すべきポイントとしては、以下の4つです。

  • 親子ともに青色申告者であること
  • 子が法人として引き継ぐ場合は法人設立日に注意すること
  • 贈与・相続で事業を引き継ぐ場合は廃業・開業の届け出をすること
  • 子が実務要件を満たしていること

親子ともに青色申告者であること

親だけでなく、引き継ぐ子どもも青色申告者でなければなりません。ただし、申請時点で青色申告になっていればよいので、白色申告者などの場合は申請日までに変更しておきます。申請時には、確定申告書と所得税青色申告決算書の写しを提出する必要があります。電子申告を行っている場合には、受付が確認できるメールの詳細(受付結果)を提出します。

子が法人として引き継ぐ場合は法人設立日に注意すること

上述した通り、通常は子どもは個人事業主として事業を承継しますが、子どもが法人を設立していれば、創業支援類型(Ⅰ型)に申請して、法人で引き継ぐことも可能です。ただし、引き継ぐ法人は事業承継対象期間内に設立されていなければなりません。例えば9次公募の場合では、2019年11月23日から2024年11月22日までに子どもが法人を設立していれば、法人での承継を選択できます。

贈与・相続で事業を引き継ぐ場合は廃業・開業の届け出をすること

個人事業主の事業を引き継ぐ際には、申請時に事業譲渡契約書の提出が求められますが、親子間の贈与や相続で事業を承継し、事業譲渡契約書を提出できない場合には、親の廃業届と子どもの開業届とを提出する必要があります。これは補助金の不正利用を防ぐことを目的としています。

子が実務要件を満たしていること

未来の承継で個人事業主の親が子どもに事業を譲り渡す場合には、子どもは以下の要件のいずれかを満たす必要があります。

  • 個人事業主として3年以上の経験を有する者
  • 承継する個人事業に継続して3年以上雇用された経験を有する者
  • 承継する個人事業と同じ業種において通算6年以上業務に従事した経験を有する者
  • 産業競争力強化法に規定される認定特定創業支援等事業の認定を受けた者
  • 潜在的創業者掘り起こし事業(平成28年度以前は地域創業促進支援事業)の認定を受けた者
  • 中小企業大学校の実施する経営者・後継者向けの研修を履修した者

参照:事業承継・引継ぎ補助金事務局 「中小企業生産性革命推進事業 事業承継・引継ぎ補助金 経営革新枠 9次公募【公募要領】」

なお、創業支援類型(Ⅰ型)で申請する場合には上記の要件は求められません。

事業承継・引継ぎ補助金の申請方法

事業承継・引継ぎ補助金の申請は、デジタル庁が運営する補助金電子申請システム「jGrants(Jグランツ)」を利用して行います。

jGrantsを利用するには、まず「gBizID(ジービズアイディー)」を取得する必要があります。

gBizIDは、さまざまな行政サービスへのアクセスに使用されるIDであり、マイナンバーカードがあれば、オンラインで申請することが可能です。gBizIDの取得には1~3週間程度かかる場合がありますので、申請の際には余裕をもって予定を立ててください。jGrantsにログインしたら、申請したい補助金を検索して、申請に必要な情報を入力し、必要な書類を提出すれば、申請が完了します。

事業承継でお悩みの場合はレガシィへご相談ください

「事業承継・引継ぎ補助金」は、事業の承継や再編・統合などをきっかけに、新しい取り組みを行う中小企業・個人事業主を対象に、承継・引継ぎにかかる費用の一部を補助する制度です。
本制度には「経営革新枠」「専門家活用枠」「廃業・再チャレンジ枠」の3つの枠が設けられていますが、親子間で事業を引き継いで補助金を申請する場合には、経営革新枠の「経営者交代類型(II型)」(または創業支援類型(Ⅰ型))を利用します。

事業承継・引継ぎ補助金の申請を含め、事業承継でお悩みの場合には、ぜひ税理法人レガシィにご相談ください。「事業承継スタートパック」では、承継前のプラン作りから承継後のサポートまで、丁寧に対応いたします。

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この記事を監修した⼈

税理士法人レガシィ代表社員税理士パートナー陽⽥賢⼀の画像

陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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