相続の知識

事業承継における株式譲渡とは?手続きやメリット、税金の特例を解説

株式譲渡は事業承継における手法のひとつであり、株式を後継者に譲り渡すことで実現します。株式譲渡の方法にはいくつかの種類があり、それぞれにメリット・デメリットが存在するため注意が必要です。本記事では、株式譲渡の概要やメリット・デメリット、課せられる税金などを解説します。

事業承継における株式譲渡とは

株式譲渡とは、事業承継に用いられる手法のひとつです。後継者に経営を引き継ぐ際に、現経営者が株式を譲り渡すことによって、経営権が移行します。事業承継だけでなく、組織の規模拡大や再編などの目的に用いられることもあり、中小企業のM&Aでも採用される手法です。

後継者に譲り渡す株式の割合によって、権限が大きく変わる点に注意しなくてはなりません。たとえば、後継者候補が保有する株式の割合が50%を超えると 、単独で普通決議を成立させられるため、後継者が大きな権限を有します。事業承継における株式譲渡の際には、このことを念頭に置いて進めなくてはなりません。

事業継承における株式譲渡の種類とそれぞれのメリット・デメリット

事業承継には、生前贈与や相続、売買などの種類があります。それぞれの手法にメリットとデメリットがあるため、あらかじめ把握しておきましょう。

1.生前贈与

生前贈与は、後継者に対し現経営者が生前に無償で自社株式 を譲渡する方法です。一般的には、企業の後継者に親族を立てるケースで用いられます。

■生前贈与における株式譲渡のメリット・デメリット             
メリット 資金が必要ない 株式を売買する手法ではないため、後継者が株式を取得するための資金を用意する必要がありません。 ※ただし、後継者側で贈与税を負担する必要があります。
税金対策がしやすい 現経営者が存命のうちに事業承継の計画を立てられるため、入念な税金対策を講じられます。
デメリット 特別受益と判断される ケースがある 贈与財産が特別受益と判断された場合には、相続財産に特別受益を持ち戻し、遺産分割を行うことになります。

2.相続

故人となった経営者の親族が会社を引き継ぐ場合、相続によって自社株式の取得が可能です。

■相続における株式譲渡のメリット・デメリット
メリット 資金が必要ない 株式の売買ではないため、後継者に資金は不要であり金銭的な負担を軽減できます。
贈与よりも課税額が少ない 他の相続財産の金額にもよりますが、基礎控除額が大きいため 、贈与に比べると納税の金額を抑えられる可能性が高くなります 。
デメリット 遺言状が必要 故人の遺言状がないと、法定相続人のあいだで遺産分割協議が行われます。話し合いの結果、組織を継がせたい後継者に株式がわたらない可能性があるため、後継者を明確に記した遺言状が必要です。
相続税が高くなる可能性がある 業績が好調なタイミングで相続が発生すると、相続税評価額が高くなり、結果的に高額な相続税を納税しなくてはならないリスクがあります。

3.売買

現経営者が保有する自社株式 を、後継者がお金で買い取る手法です。

■売買における株式譲渡のメリット・デメリット
メリット 現経営者が資金調達できる 現経営者が保有している株式を現金化できます。
取引で得た資金を老後の生活にまわしたり、新たな事業を興す資金にしたりといったことが可能です。
後継者の地位が安定する 適正価格で取引する場合には 、相続人同士でトラブルに発展するケースが少なく、後継者の地位が安定します。
デメリット 現経営者には譲渡所得税が課税される 株式の売買で得た利益は、譲渡所得税の課税対象となるため税金を納めなくてはなりません。株式の譲渡所得に課せられる税率は20.315%です。
後継者に資金が必要 現経営者が保有する株式を購入するために資金を用意しなくてはなりません。買い取りできる現金や預貯金がないのなら、金融機関からの資金調達も視野に入れる必要があります。
後継者に贈与税が課せられるケースがある 時価を大きく下回るような、不当に安い価格で取引を行った場合、後継者に贈与税が課せられるおそれがあります。

事業承継の主な種類

事業承継の主な種類は以下の3つです。

親族内承継

現経営者が親族の後継者に事業を承継する方法です。経営者の親族が事業を引き継ぐことから従業員、取引先から受け入れられやすいうえに、贈与や相続でスムーズに事業承継できるのもメリットです。一方、親族のなかに経営者の資質をもつ者がいない、後継者を引き受けてくれないなどの状況も考えられます。

親族外承継

自社の従業員や外部の第三者など、親族以外を後継者として立てる方法です。後継者候補の母数が増えるため適任者を見つけられる可能性が高い、組織文化や理念を引き継ぎやすいなどがメリットです。一方、デメリットは後継者に株式を買い取る資金が求められる、親族内の株主から反感を買うおそれがある、などが挙げられます。

M&A

M&Aは、外部の企業に組織を売却する手法です。親族や従業員に適任者がいないケースでは、M&Aが有効です。後継者不足を解決できるほか、従業員の雇用を守れるなどのメリットがあります。
一方、デメリットは買い手が見つからない可能性がある、利用するM&A会社によっては売却価格が下がるなどが挙げられます。

事業承継における株式譲渡の手順

株式譲渡の手順は、以下のステップで進みます。

  1. 株式譲渡の承認請求
  2. 株式譲渡承認機関の承認
  3. 株式譲渡契約書の締結
  4. 株主名簿記載事項の書き換え

1. 株式譲渡の承認請求

譲渡制限株式を譲渡する際には、株主 総会や取締役会などで承認を得なくてはなりません。そのため、会社に対して現経営者が株式譲渡承認請求を行うことが株式譲渡の第一歩です。

株式譲渡承認請求書には、記載すべき内容が決められています。具体的には、譲渡する株式の種類や数、譲り受ける側の氏名や住所です。内容に誤りがあると事業承継がスムーズに進まないおそれがあるため、作成にあたっては専門家に相談することが望ましいです。

2. 株式譲渡承認機関の承認

原則として、株式の売買は自由であるものの、譲渡制限株式の場合は譲渡承認機関で承認を受けなくてはなりません。譲渡承認機関とは、取締役会や株主総会です。

株式譲渡承認請求書が提出されたあと、譲渡承認機関によって承認の可否が審議されます。承認されたら、請求者に対し株主譲渡承認通知が行われます。なお、審議の結果不承認だったとしても、譲渡承認機関が2週間以内に請求者へ結果を通知しなかった際には、承認したとみなされます。

3. 株式譲渡契約書の締結

申請が承認されたら、株式譲渡契約書を譲る側、譲られる側双方で交わします。売買ではなく生前贈与なら、贈与契約書を作成し双方で締結します。

株式譲渡の内容によって、契約書に盛り込むべき項目は異なります。誤りがあると事業承継がスムーズに進まないばかりか、トラブルを招くリスクもあるため、専門家への相談がおすすめです。

4. 株主名簿記載事項の書き換え

株式が無事に譲渡されたあとは、株主名簿の書き換えを行います。株主名簿を書き換えないと、後継者が株主としての権利を主張できないためです。書き換えを行う際には、名義書換請求を株式の売り手と買い手が共同で行います。
書き換えが終了したあとは、株主名簿を交付してもらい、後継者は新たな株主として名前が記載されているかどうかを確認します。

事業承継における株式譲渡にかかる税金

株式譲渡においては、譲渡する側とされる側、それぞれに税金が発生します。いざ事業承継のタイミングになって慌てないよう、どのような税金が発生するのか把握しておきましょう。

譲り渡す側にかかる税金

株式を譲り渡す側には、主に以下の税金がかかります。

所得税

個人の所得を対象とする税金です。株式の譲渡で得た利益は譲渡所得となり、分離課税方式で 税金が計算されます。

住民税

株式の譲渡で得た利益に5%をかけた税額を納税します。株式を譲渡した翌年に、年4回に分けて納税します。

法人税

株式の売り手が法人であるなら、法人税が発生します。法人税以外にも、地方法人税や法人住民税、法人事業税なども納めなくてはなりません。

復興特別所得税

東日本大震災の復興に用いる財源を確保するための税金です。すべての納税者が課税対象となるため、売り手だけでなく買い手側も納税しなくてはなりません。なお税率は0.315%です。

譲り受ける側にかかる税金

生前贈与や相続など、親族内事業承継のケースでは譲り受ける側に以下の税金が発生します。

贈与税

贈与される側には贈与税が課せられます。税率は特例贈与財産用税率もしくは一般贈与財産用税率が適用され、累進課税 方式によって10~55%までの税率が設定されています。

相続税

故人の株式を遺産として引き継いだ方には、相続税が課せられます。相続税は累進課税 方式が採用されており、相続した遺産の金額によって税率が変化します。

税金の特例措置

事業承継税制

事業承継税制は、一定の条件を満たすことで相続税や贈与税の納税を猶予してもらえる制度です。事業を引き継いでも、多額の相続税や贈与税が発生すると、経営に支障をきたしかねないばかりか、事業承継もうまくいかない可能性があります。

こうした事態を回避すべく、2009年に税制が改正され「事業承継税制」が誕生しました。相続や贈与によって、株式などの事業用資産を引き継いだ場合に利用できます。会社や前経営者、後継者がそれぞれ規定の要件を満たす必要があるため、あらかじめ詳細を確認しておきましょう。

事業承継税制については、以下の記事もご覧ください。

取得費加算の特例

譲渡所得税の負担軽減が可能な制度です。相続開始日から3年10カ月のあいだに相続した株式などの資産を売却したケースにおいて、 負担した税額の一部を取得費として加算し税負担を軽減できます。

当該特例が適用されるには、以下の要件を満たさなくてはなりません。

  • 相続、遺贈により財産を取得した
  • 相続開始日から3年10カ月のあいだに財産を譲渡した
  • 財産の取得者が相続税を納めている

詳細は以下の記事もご覧ください。

おわりに:各事業主に合った株式譲渡の選択には専門家への相談がおすすめ

事業承継における株式譲渡には、生前贈与や相続、売買などがあり、それぞれメリット・デメリットがあります。また、株式譲渡では譲渡する側、される側の双方にさまざまな税金が発生するため、あらかじめ把握しておかなければなりません。

株式譲渡を滞りなく進め、スムーズな事業承継を実現するには専門的な知識が不可欠です。税理士法人レガシィの「事業承継スタートパック」なら、豊富なノウハウに基づき、事業承継に関するさまざまな問題を解決へ導けるようサポートします。まずはお気軽にご相談ください。

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この記事を監修した⼈

税理士法人レガシィ代表社員税理士パートナー陽⽥賢⼀の画像

陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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