相続の知識

財産債務調書とは?制度の概要、提出義務について解説

一定の基準を満たす高額な資産を有する方は、税務署へ「財産債務調書」を提出する義務があります。本記事では、財産債務調書の知識を身に付けておきたいと考える方に向けて、財産債務調書の概要と対象者の要件、作成の注意点などを解説します。作成した調書は、税務リスクや相続・贈与、資産運用の戦略ツールとして活用することも可能です。

財産債務調書とは

財産債務調書とは

「財産債務調書制度」は、高額な財産を有する方を対象に、保有する財産や債務に関する内容を詳細に記載した調書を作成し、税務署に提出することを義務付ける制度です。従来の「財産債務明細書」制度を見直して、2015年(平成27年)に創設されました。

財産債務調書制度の目的は、高額財産保有者への課税強化です。具体的には、将来の相続税や贈与税申告の対象となる財産を国税庁が事前に把握し、申告漏れや課税逃れを未然に防止することを目的としています。

No.7457 財産債務調書の提出義務 | 国税庁

財産債務調書の提出義務が生じる要件

次のいずれかに該当する方は、財産債務調書を税務署へ提出しなければなりません。

  • 所得基準・財産基準の両方を満たす場合
  • 財産の合計額が10億円以上の場合

それぞれの条件について、正しく理解しておきましょう。

No.7457 財産債務調書の提出義務 | 国税庁

所得基準・財産基準の両方を満たす場合

以下の基準を両方とも満たす場合には、財産債務調書の提出が必要です。

所得基準 その年分の退職所得を除く所得金額の合計が2,000万円超
財産基準 その年の12月31日時点で、保有財産の合計額が3億円以上、または国外転出特例対象財産(有価証券等)の合計額が1億円以上

相続や遺贈により財産を取得した場合、その年分の財産債務調書には、相続や遺贈で取得した財産や債務を記載する必要はありません。この場合、提出義務の判定にあたっても、相続・遺贈で取得した財産は除外されます。また、国外転出特例対象財産には、一定の有価証券やデリバティブ取引に関する権利なども含まれます。

財産の合計額が10億円以上の場合

令和4年度税制改正によって新設され、翌年の2023年(令和5年)から適用が開始された要件です。

  • その年の12月31日時点で財産の合計額が10億円以上

この条件に該当する方は、所得金額に関わらず財産債務調書の提出が義務付けられています。現金収入や預金が少ない方でも、不動産や株式などの資産を多く保有していれば該当する可能性があります。

財産債務調書に記載する財産の算定方法

財産債務調書に記載する財産の算定方法

財産債務調書に記載する財産の価額は、その年の12月31日時点における「時価」または時価に準ずる「見積価額」により算定するとされています。これは、申告時点での資産の実態を正確に反映させるためです。

「時価」とは、不特定多数の第三者間で行われる実際の売買価額や取引価額を指します。例えば、上場株式や市場流通のある有価証券などは、その時点の市場価格を「時価」として記載します。

一方、「見積価額」とは、取引業者等が売買を行う際に評価する価額のことです。例えば、不動産や非上場株式、美術品・骨董品など市場価格が把握しにくい財産に関しては、専門業者による客観的な評価を基に「見積価額」として算定します。

現金や預金については、額面金額をそのまま記載するだけで足りますが、不動産や有価証券等の財産は、国税庁が定める「財産評価基本通達」などに準じて評価するのが実務上の基本です。

財産別 見積価額の算定方法

財産債務調書の作成時、特に混乱しやすいのが「見積価額」による評価です。複雑な財産評価について理解したうえで、適切な内容の財産債務調書を作成することで、将来的な税務リスクを軽減できます。

不動産(土地・建物)の算定方法

不動産の見積価額は、その年の固定資産税評価額を用いるのが一般的です。ただし、時価を原則とするため、時価と大きな食い違いがある場合、より実態に近い評価が求められます。他にも、不動産の取得価額を基に合理的な方法で算定した価格や、申告対象年の翌年6月30日までに実際に譲渡した場合の譲渡価額なども活用可能です。

また、業務用以外の建物は、取得価格から減価償却費を控除した金額で評価することが認められています。不動産の評価は複雑なため、税理士などの専門家に相談することも検討してみましょう。

財産債務調書制度(FAQ) | 国税庁

非上場株式の算定方法

非上場株式は、売買価格の実例に基づき、12月31日時点の価額で算定するのが原則です。売買事例がない場合は、決算書などに基づく純資産価額方式や、翌年6月30日までに実際に譲渡した場合の譲渡価額を用いることも可能です。これらの方法による算定が困難な場合には、取得価額を用います。

書画骨董・美術品・貴金属類の算定方法

美術品や貴金属類などの財産は、売買実例に基づき、12月31日時点の価額で評価するのが基本です。売買事例がない場合、翌年6月30日までに譲渡した場合の価額や、取得価額で評価します。

保険に関する権利の算定方法

生命保険をはじめとした保険契約の見積価額は、12月31日時点で解約した場合の解約返戻金の額とします。解約返戻金の額を確認する一般的な方法は、保険会社への問い合わせです。なお、保険会社から送付される契約内容のお知らせなどに記載されている場合もあります。

財産債務調書の書き方

財産債務調書の書き方

財産債務調書の書式は、国税庁のホームページからダウンロードできます。調書を作成する際は、書式の項目に従って、申告義務者の情報や財産の区分・用途などを漏れなく記載しなければなりません。

なお、令和5年分以降は、取得価額が300万円未満の家庭用財産についての記載が不要となりました。調書の作成後、調書に記載した各資産の合計額を「財産債務調書合計表」に転記し、両書類を税務署へ提出します。

F4-5 財産債務調書(同合計表) | 国税庁

財産債務を有する者

まず、財産債務を有する本人(申告義務のある方)の情報として、氏名・住所・マイナンバー・電話番号などを記載します。居住地ではなく事務所所在地で提出する際は、事業所の情報を記載しましょう。

財産の情報

財産債務調書では、財産が18区分に分類されています。主な区分は、土地・建物・現金・預貯金・有価証券・書画骨董・美術品・貴金属類・その他動産・債務などです。財産の種類ごとに、用途(事業用/一般用)およびその所在、数量、金額などを記載します。

財産ごとの詳細

財産ごとに必要な情報や書類を準備し、その詳細を記載します。例えば、土地・建物の場合、固定資産税の納税通知書を参照し、地目や用途、所在地、面積、評価額などを記載します。有価証券であれば、証券会社の取引残高報告書を基に、種類や銘柄、所在、取得価額および12月31日時点の時価などを記載しましょう。

なお、同じ区分の資産が複数ある場合は、区分ごとにまとめて「○○計」と記載することも可能です。債務については、債権者の氏名や住所、12月31日時点の元本額を記載します。

すべての財産と債務を記載し終えたら、調書に記載した区分ごとの合計額を「財産債務調書合計表」へ転記し、調書の作成作業を完了させましょう。

財産債務調書の提出方法・期限

財産債務調書の提出方法・期限

財産債務調書の提出先は、所得税の納税と同じ所轄の税務署です。調書の提出時には、「財産債務調書合計表」の添付も必要です。

財産債務調書および合計表は、紙による提出だけでなく、e-Tax(電子申告)を利用したオンライン提出にも対応しています。e-Taxで確定申告する際、所得金額が合計2,000万円を超えていると、e-Tax上に財産債務調書の案内が自動的に表示されます。すでに財産情報などを整理できている場合は、案内に従ってそのまま調書の作成・提出作業に移ることも可能です。

調書の提出期限は、原則として申告対象年の翌年6月30日までとされています。例えば、2024年分の調書は2025年6月30日が提出期限です。特に保有財産の種類が多岐にわたる場合は、財産情報の把握に時間を要することも考えられるため、早めに準備を進めましょう。

なお、調書の内容に訂正の必要が生じた場合は、提出期限内・期限外を問わず修正申告を行えます。ただし、その場合、訂正箇所だけでなく調書全体の書き直しが必要です。

財産債務調書に関するよくある質問

財産債務調書に関するよくある質問

財産債務調書を出さないとどうなるか

調書の未提出または記載漏れがあった場合は、該当の財産に対する過少申告加算税などが通常より5%加重されます。

財産債務調書を出した場合の優遇措置はあるか

期限内に財産債務調書を提出済みの場合、調書に記載のある財産について申告漏れが生じたとしても、過少申告加算税が通常より5%軽減される特例措置を適用できます。

相続があった年は財産債務調書の提出義務があるか

相続が発生した年については、相続や遺贈により取得した財産の情報を記載しなくてもよいとされています。財産債務調書の申告義務者に該当するかどうか算定する際も、相続・遺贈分の財産は除外して考えます。ただし、相続開始年の翌年以降に関しては、相続財産も含めて算定・記載しなければなりません。

財産債務調書と国外財産調書の関係は

財産債務調書・国外財産調書は、税務調査の効率化と高額な資産を有する方の財産状況を把握することが目的という点で共通しています。ただし、財産債務調書は国内外を問わずすべての財産と債務が申告対象となるのに対し、国外財産調書は5,000万円を超える国外財産のみが申告対象です。両方の提出要件を満たす場合には、両調書それぞれの提出が必要です。

大切な財産を守るために相続税・贈与税対策はプレミアム税理士に相談しよう

多額の財産を保有する方にとって、財産債務調書を正しく作成し、期限までに提出することは非常に重要です。しかし、財産の正確な評価や調書の作成には専門的な知識が求められることに加え、手続きは複雑です。

税理士法人レガシィでは、10億円超の資産を保有する方を対象に、相続・事業承継に特化した“プレミアム税理士”を指名できるサービス「プレミアムプラン」を用意しています。財産債務調書について不安や疑問がある方は、ぜひ、税理士法人レガシィにご相談ください。

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この記事を監修した⼈

税理士法人レガシィ代表社員税理士パートナー陽⽥賢⼀の画像

陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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