相続の知識

資産管理会社とは? メリット・デメリット、設立すべきケースや作り方を解説

投資によって高額な所得がある、資産に課される税金を軽減したい、などと考えている富裕層の方にとって、資産管理会社の設立は有効な節税方法のひとつです。本記事では、資産管理会社設立のメリットとデメリットを中心に、設立すべきケースや設立をおすすめしたい人、設立方法などについてわかりやすく解説します。

資産管理会社とは

資産管理会社とは、現金や土地・建物などの不動産、株式をはじめとした有価証券などを保有する人(オーナー)が、当該資産の管理・運用を目的として設立する法人を指します。プライベートカンパニーとも呼ばれ、上述した目的以外の事業活動を行わない点で一般企業とは異なっています。 おもな収益源は管理・運用している不動産の賃貸収入や有価証券の配当金などです。

法人による資産の管理・運用は節税対策として有効です。たとえば、個人に課される所得税には累進課税が採用されており、所得額が高額になるほど高い税率が適用されます。課税所得金額が4,000万円以上の場合の税率は45%にも達します。一方、法人所得に課される法人税は資本金額や所得金額によって税率は異なるものの、最高でも23.20%に過ぎず、税率だけを見れば、個人の約半分です。富裕層は資産管理会社を設立し、個人所得を法人に移転することで、大幅な減税効果が得られます。

資産管理会社を設立する5つのメリット

資産管理会社を設立することによって、次のようなメリットが得られます。
  • 所得の分散を行える
  • 繰越控除の期間を延長できる
  • 経費範囲を拡大できる
  • 社会保険に加入できる
  • 相続税対策になる

1. 所得の分散を行える

たとえば家族の一員である妻や子どもなどを役員あるいは従業員として迎え、会社から役員報酬などを支給することによって、オーナーひとりに集中していた所得を、家族・親族などに分散することが可能です。家族・親族などを役員として迎えた場合、役員報酬は給与所得に該当するため、当該役員は給与所得控除を受けられます。ただし、給与所得控除を受けるには、当該役員がほかの会社から給与所得を得ていなければ、という条件がつきます。

2. 繰越控除の期間を延長できる

繰越控除とは、事業活動によって発生した損失を次年度以降に繰り越し、利益と相殺できる制度のことです。青色申告で確定申告を行っている個人事業主の場合は、繰越控除期間は最長3年ですが、法人である資産管理会社では、この期間が最長10年間まで認められています。

たとえば過去10年間、毎年度500万円の赤字が発生しており、本年度は5,000万円の黒字だったと仮定します。個人事業主でこの所得があった場合、繰越控除は最長3年間であるため、課税対象額は3,500万円(5,000万円-500万円×3年)となります。一方、資産管理会社では最長10年間の繰越控除が認められているため、5,000万円の所得があったとしても、課税対象額は0円(5,000万円-500万円×10年)です。

おもな事業が不動産投資などの場合には、初期費用は非常に高額となり、事業開始時から大きな損失を抱えることになります。資産管理会社を設立して、繰越控除を受けられれば、長期間にわたって損益を平準化することが可能です。

3. 経費範囲を拡大できる

個人事業主と資産管理会社とでは、認められる経費の範囲が大きく異なります。個人事業主として認められる経費は、事業活動に直接関係している費用(直接経費)のみです。たとえば、自宅と事務所とを兼用していたり、保有している自動車を自家用のほかに事業活動に利用していたりしても、家賃や自動車の維持費を全額経費として計上することは、まず認められません。しかし資産管理会社の場合は会社の業務上、必要となったものは経費として認められます。つまり法人では、直接経費のほかに、一部の間接経費も費用として計上することが可能です。以下に個人事業主では認められないものの、資産管理会社では認められる経費の例を挙げます。
  • 福利厚生費用
  • 健康診断費用
  • 生命保険費用(資産管理会社が契約者)
  • 出張時の日当
  • 社宅の家賃
  • 役員報酬

福利厚生費用や健康診断費用などは事業活動には直接関係していませんが、法人では経費として計上でき、節税効果を高められます。役員報酬の場合は、定期同額給与(月1回程度、定額の報酬を支払う)、事前確定届出給与(定期同額で支払うことを事前に届け出た給与)、業績連動給与(法人の業績から算定された給与)のいずれかに該当すれば、経費計上することが可能です。ただし、過大な金額が支給されていると判断されれば、経費として認められません。

4. 社会保険に加入できる

すべての法人(資産管理会社)には、社会保険に加入することが義務付けられています。オーナーが個人事業主などの場合には、加入するのは国民健康保険・国民年金ですが、保険は健康保険(社保)に切り替わり、国民年金に加えて厚生年金にも加入することになります。いわゆる2階建て年金の2階部分が増築されるため、将来的にもらえる年金額は増加します。たとえば、役員報酬を支払っている家族・親族だけでなく、役員が扶養している家族も社会保険に加入させることが可能です。

5. 相続税対策になる

オーナーの資産が将来的に家族・親族などによって相続される可能性がある場合、資産管理会社の設立は資産を一元管理できるようになるだけでなく、相続時の手続きを簡素化します。

たとえば、資産として土地や建物などの不動産を保有していた場合、これらの資産を管理会社に移し(売却する)、株式化(資産管理会社の株式に一本化)しておけば、将来的に相続が発生した場合にも資産の分割は容易です。資産管理会社所有の不動産は相続の都度名義変更(不動産登記)の必要もなく登記費用が節約できます。なにより相続時の資産として、不動産に比べて株式は低く評価されることが多いため、相続税対策としても有効です。

不動産をそのまま相続する場合には、持分での分割や不動産登記など、煩雑な手続きが必要です。 そもそも分割が必要な不動産の相続は相続人同士で衝突しがちで、管理や処分は困難を極めます。 しかし株式であれば、相続はよりスムーズに行えます。

さらに、家族・親族などに支払われる役員報酬は、オーナーの資産増加・集中を防ぐ効果もあります。役員報酬は(生前)贈与ではないため、生前贈与に適用される被相続人が亡くなってから直近7年間(2023年12月31日以前の贈与は3年間)の贈与に関する持戻しも適用されません。

資産管理会社のデメリット

資産管理会社の設立には上述したようなメリットがありますが、以下のようなデメリットもあります。
  • 会社保有にした資産を自由に使うことはできない
  • 会社設立・維持にコストがかかる

会社保有にした資産を自由に使うことはできない

上述した通り、法人を設立して、役員に就任した家族・親族に役員報酬を支払うことは、所得の分散や相続税対策として有効ですが、いったん定めた役員報酬の金額や支払い方法は、オーナーといえども自由に変更することはできません。会社法第361条1項には、役員報酬は「定款、または定款に定めていないときは株主総会の決議によって定める」と規定されており、役員報酬を変更するためには、定款にその方法を定めるか、株主総会で決議する必要があります。たとえば、急な出費が必要になったとしても、役員報酬の額を簡単に増やすことはできません。会社保有にした資産を、個人の意思で自由に使うことはできなくなります。 引用:e-Gov「会社法 第361条」

会社設立・維持にコストがかかる

会社を設立するにも、維持するのにも費用がかかります。ここでは、資産管理会社の設立費、資産の移転費、資産管理会社の維持費について解説します。

資産管理会社の設立費

資産管理会社を設立する際には、登録免許税や定款用収入印紙代など、さまざまな費用がかかります。株式会社を設立する場合と合同会社の場合とのかかる費用は以下の通りです。

(1)株式会社を設立する場合
  • 登録免許税:15万円または資本金×0.7%の高い方
  • 定款認証料:3万円(資本金100万円未満)、4万円(資本金100万円以上300万円未満)、5万円(資本金300万円以上)
  • 定款謄本手数料:1ページあたり250円、全体で約2,000円
  • 定款用の収入印紙代:4万円(電子定款では0円)
  • 会社印の作成費用:約1万円(印鑑登録料は約1,000円)
  • 司法書士等専門家への依頼費用(任意):7万円~
(2)合同会社を設立する場合
  • 登録免許税:6万円または資本金×0.7%の高い方
  • 定款認証料:0円
  • 定款謄本手数料:0円
  • 定款用の収入印紙代:4万円(電子定款では0円)
  • 会社印の作成費用:約1万円(印鑑登録料は約1,000円)
  • 司法書士等専門家への依頼費用(任意):6万円~

そのほかに1円以上の資本金や事務所の家賃、備品の経費も必要です。大まかに計算すれば、専門家に依頼せず、自分自身で資産管理会社を設立する場合でも、株式会社では22万円程度、合同会社では10万円程度の費用がかかります。

資産の移転費

オーナーの不動産を資産管理会社に移転する際には、オーナーには譲渡所得税、会社には所有権移転登記の際に必要な登録免許税、不動産取得税などが課されます。それぞれの費用は以下の通りです。

(A)オーナーにかかる費用
  • 譲渡所得税:長期譲渡所得の場合、課税長期譲渡所得金額×20.315%(復興特別税・住民税を含む)、短期譲渡所得の場合、課税短期譲渡所得金額×39.63%(復興特別税・住民税を含む)
(B)資産管理会社にかかる費用
  • 登録免許税:固定資産税評価額の2%
  • 不動産取得税:固定資産税評価額の3~4%
  • 司法書士への依頼:5万円前後

資産管理会社の維持費

資産管理会社を運営するには、法人税や固定資産税、社会保険料をはじめ、さまざまな維持費がかかります。おもな費用は以下の通りです。
  • 法人税(法人所得税):法人の所得に対して課税されます。普通法人の場合、資本金1億円以下で年800万円以下に対して軽減税率が適用される場合がありますが、原則として23.20%です。
  • 法人住民税:法人都道府県民税と法人市町村民税とを総称して、法人住民税と呼ばれています。 法人税額によって決まる法人税割と、資本金(および従業員数)で決まる均等割とがあり、この2つの合計が法人住民税額となります。均等割は赤字法人にも課されます。たとえば東京都の場合、資本金1,000万円以下、特別区内の従業員数50人以下でも7万円が課されます。
  • 法人事業税:事業を行う際に利用した行政サービスの経費を負担するために課されます。設立後6か月以上が経過し、前事業年度の法人税額が20万円を超える場合には申告・納付が必要です。
  • 固定資産税:従来はオーナーが支払っていた固定資産税を資産管理会社が納付することになります。税額は保有する固定資産によって大きく変わってきますが、税率は原則1.4%です。
  • 社会保険料:一般的には会社と従業員とが折半で負担しますが、資産管理会社の場合は通常、すべての役員・従業員の保険料を会社が全額負担します。報酬・給与の30%程度です。
  • 事業所税:東京都や政令指定都市、人口30万人以上の地方税法施行令で指定された市などの一定条件に該当する自治体に事業所がある場合に課税されます。課税団体は2024年4月1日現在、77団体です。
  • 家賃:オフィスを借りた場合に発生します。
  • 税理士等専門家への依頼費:相場は年間50万円からです。
参考:東京都主税局・都税事務所「事業所税の課税団体 」

資産管理会社を設立すべきケース:個人の課税所得が800万円を超えた場合

個人事業主の所得税は累進課税が採用されています。所得が大きいほど税額も高くなり、最低で5%、最高で45%の税率が適用されます。ただし、控除額も同様に高くなっていきます。所得税のほかにも一律10%の住民税がかかるため、年収4,000万円以上の高所得者は所得に対して55%を税金として納付しなければなりません。所得税の速算表は以下の通りです。

課税される所得金額 税率 控除額
1,000円 から 1,949,000円まで 5% 0円
1,950,000円 から 3,299,000円まで 10% 97,500円
3,300,000円 から 6,949,000円まで 20% 427,500円
6,950,000円 から 8,999,000円まで 23% 636,000円
9,000,000円 から 17,999,000円まで 33% 1,536,000円
18,000,000円 から 39,999,000円まで 40% 2,796,000円
40,000,000円 以上 45% 4,796,000円
出典:国税庁|No.2260 所得税の税率 法人税は比例課税であり、利益額にかかわらず税率は一定です。資産管理会社に課される法人税率は以下の通りです。
  • 1億円以下の法人で年800万円以下の部分=税率15%(適用除外事業者は19%)
  • 1億円以下の法人で年800万円超の部分=税率23.2%
  • 上記以外の普通法人=税率23.2%
出典:国税庁|No.5759 法人税の税率

個人事業主の課税所得額が800万円と仮定した場合、所得税率は23%です。上記の速算表で計算すると、800万円×23%-63万6,000円=120万4,000円が納めるべき所得税額です。一方、資本金1億円以下の資産管理会社で課税所得額が800万円と仮定した場合、法人税率は15%です。 上記の計算式から求めると、800万円×15%=120万円が収めるべき法人税額です。上記の条件では、資産管理会社を設立すると4,000円の節税になります。課税所得額が1,000万円だと、所得税が176万4,000円(1,000万円×33%-153万6,000円)、法人税が166万4,000円(120万円+200万円×23.2%)であり、課税所得額が高額になるほど、節税効果は大きくなります。

課税所得が800万円を超えた場合には、個人事業主ではなく、資産管理会社を設立した方が所得税面では節税になることがわかります。そのほかにも法人を設立した方がよい場合があります。詳しくは次項で解説します。

資産管理会社を設立すべき人

個人投資家および資産家は、会社を設立して資産管理を行った方が、より大きなメリットを享受できます。

個人投資家

株式投資などで収益を得ている個人投資家や副業で投資をしている会社員は、上述した通り、所得が一定水準(800万円)を超えた場合に法人を設立すれば、税負担を軽減できます。

資産家

将来的に家族・親族に多額の相続税を納付させることになると想定される資産家は、資産を資産管理会社へ移転し、役員として登録した親族に役員報酬を支払う(資産を移す)ことで、相続税対策ができます。相続税対策には生前贈与という方法もありますが、所得税同様、累進課税が採用されており、資産が多いほど高額な税金がかかるほか、持戻しもあります。不動産などの相続が難しい資産も資産管理会社の保有とすれば、相続対象から外せます。

資産管理会社を設立する方法

資産管理会社を設立するには、
  1. 会社に関する基本情報を決める
  2. 会社設立に必要な書類・印鑑を作成する
  3. 各所へ書類を提出する

の手順に沿って進めます。

1. 会社に関する基本情報を決める

法人(資産管理会社)を設立する際には定款を作成する必要があります。定款には、社名や事業目的など、会社の基本情報や規則を記載します。定款に記載するおもな基本情報には以下のようなものがあります。

社名 商号を定めます。個人事業主の屋号を引き継いでも差し支えありません。 ただし、使用できない商号もあるため、事前に法務省のサイトなどで確認してください。
事業目的 資産管理会社では「不動産の売買・運用」「有価証券の投資」とするのが一般的です。
本店所在地 オーナーの住所で差し支えありません。ただし、登記簿は誰でも閲覧できるので注意してください。
出資者 オーナーひとりでも差し支えありません。親族も出資する場合、乗っ取り防止として過半数はオーナーが出資するようにしてください。
資本金 資本金は通常、会社の信用を表しますが、資産管理会社は他社と取引するわけではないので、少なくても差し支えありません。
事業年度・決算月 税理士の繁忙期である1月~3月を避けるのが無難です。

資産管理会社では一般的に株式会社か合同会社が選択されるため、社名はたとえば株式会社〇〇や××合同会社などとなります。

2. 会社設立に必要な書類・印鑑を作成する

次に法人設立登記を行います。登記に必要なものは以下の通りです。

代表者印 法務局に登録される印鑑です。
オーナー個人の実印 印鑑登録され、印鑑証明を取ったものが必要です。
就任承諾書 役員候補者が当該役職に就任することを承諾する文書です。ただし、定款に役員の選任が明記されており、当該役員が設立に参加している場合には、省略できます。
資本金払い込みが確認できる通帳(コピー可) 設立時に出資者が払い込む資本金(定款に記載された額)の振り込み時に使用される銀行口座の通帳です。

3. 各所へ書類を提出する

必要な書類を作成したら、以下の各所へ提出します。

法人設立登記 法務局 定款の作成・認証、代表者印の作成、資本金の払い込み、そして登記申請書を作成することが必要です。
法人設立届出 市町村役場・税務署 会社を設立したら、納税のために自治体・税務署に存在を知らせる必要があります。提出先は市町村役場・管轄の税務署・都道府県税務署です。期限は設立日から2か月以内なので注意してください。
青色申告申請書 税務署 個人事業主と同様に、法人も青色申告が可能です。

節税対策・相続対策はレガシィまでご相談ください

資産管理会社の設立には、所得を分散できる、節税対策になるなど、数多くのメリットがある一方、会社保有にした資産は自由に使えない、設立・維持にはコストがかかるといったデメリットもあります。

節税対策にご興味ある方はぜひ「税理士法人レガシィ」にぜひご相談ください。不動産売買・活用のコンサルティングに力を入れており、不動産評価額の算定や売買・贈与にともなう税務申告などを丁寧にサポートいたします。 不動産投資コンサルティング

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この記事を監修した⼈

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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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