相続の知識

不動産管理会社の設立ガイド|費用・流れ・メリット・デメリットを徹底解説

不動産管理会社の設立は、賃貸経営の効率化に加え、節税や相続対策の面でも大きなメリットがあります。本記事では、法人化を検討している方に向け、法人化のメリットや具体的な設立手続き、かかる費用などについて詳しく解説します。

不動産管理会社とは何か

不動産管理会社とは、不動産所有者の利益保全や効率的な運営を目的に設立される会社です。管理会社の主な役割は、物件の安定運営と入居者へのきめ細やかな対応です。オーナーに代わって入居者募集、契約手続き、物件のメンテナンス、家賃の回収、クレーム対応など幅広い業務を担います。不動産オーナーにとってみると、不動産管理業務を法人化することで業務の効率化やコスト削減ができるだけでなく、相続対策や節税など税務上のメリットを享受する手段にもなり得ます。

賃貸物件の管理を法人として行う目的

賃貸経営を法人化することで、管理業務全体の効率性が大きく向上します。例えば、家賃の入金管理や建物の維持・修繕といった日常業務に加え、業務委託契約書の締結や請求書の発行といった事務手続きも円滑に進めやすくなります。

また、個人での運営では不明瞭になりがちな責任の所在も、法人化することで明確となり、トラブル発生時には迅速かつ組織的な対応が可能です。加えて、担当者の交代や業務の引き継ぎなどもスムーズに行えるため、管理の質を一定に保ちやすくなります。法人ならではの経営の透明性と安定性は、信頼性の高い賃貸経営を実現するうえで、非常に大きな強みです。

一般的な個人オーナーとの違い

法人オーナーと個人オーナーとでは、税制面や契約上の信用力、会計処理の方法などに大きな違いがあります。法人化することで一定の節税効果が見込めるほか、役員報酬を損金として計上できるなどのメリットがありますが、設立費用や日々の運営コストが発生する点には注意が必要です。これらの詳細については後述します。

また、契約主体が法人となることで、金融機関や取引先からの信用が向上し、有利な条件で交渉できる可能性も高まります。さらに、個人事業主の青色申告は簡易的な単式簿記が認められますが、法人は厳格な複式簿記の導入が義務付けられるため、経営状況の透明性や財務の信頼性が大幅に向上するという効果もあります。

資格は必要?不動産管理会社の設立に必要な条件

不動産管理会社の設立には、必ずしも宅建士の資格が必要ではありません。ただし、管理業務の種類や事業内容によっては必要になるケースがあります。ここでは、宅建の必要性や不動産管理会社の設立にあたって求められる資格について、わかりやすく解説します。

宅建(宅地建物取引士)の要否

自己所有の投資用不動産を管理するだけであれば、宅地建物取引士の資格や宅建業の免許は不要です。ただし、第三者の不動産を仲介・売買・代理などを行う場合には、「宅地建物取引業」として国土交通大臣または都道府県知事から免許を受ける必要があります。その際には、法令により定められた数の専任の宅地建物取引士を配置しなければなりません。

管理業務は主に建物の維持管理や家賃回収を担うのに対し、仲介業務は入居者の募集や賃貸契約の締結を主な内容とするなど、役割が異なります。不動産管理会社の設立時に資格は不要ですが、将来仲介事業を視野に入れるなら宅建士の資格取得を検討する必要があります。

宅地建物取引業法 | e-Gov 法令検索

不動産管理会社を設立するメリット

不動産管理会社の設立によって得られるメリットには、次のようなものがあります。

  • 節税:役員報酬・所得分散・家族を雇える
  • 相続対策:持ち株調整で遺産分割がしやすい
  • 経費計上の幅:車両・通信費などの活用

節税:役員報酬・所得分散・家族を雇える

不動産管理会社を設立することで、所得税の軽減が期待できます。例えば、役員報酬を設定して所得を分散させ、家族を役員や従業員として雇用することが可能です。これにより、高い税率が適用されていた個人所得を法人に移し、相対的に低い法人税率を適用できます。さらに、将来的に退職金を支給する制度を整備することで、適切な税務処理のもとで退職金を損金算入できるため、さらなる税負担の軽減が図れます。

相続対策:持ち株調整で遺産分割がしやすい

不動産管理会社を設立して資産を法人化すると、相続時の評価対象は不動産ではなく法人株式となり、一般的に評価額が低く抑えられるため相続税の軽減につながります。これにより相続税の負担を軽減できるうえ、株式は登記手続きなしで生前贈与できるため、名義変更もスムーズです。

また、相続時の不動産の物理的な分割が不要となることもメリットです。持ち株数を調整することで相続が行えるため、公平な遺産分割が実現しやすくなります。適用条件を満たして事業承継税制を活用できる場合、資金繰りへの影響を抑えながら、事業の継続を図ることが可能です。

経費計上の幅:車両・通信費などの活用

法人化すると、車両の維持費や通信費、保険料、社員の出張費・研修費、接待交際費など、業務に関連する幅広い支出を経費として計上できるようになります。こうした支出を経費計上することで、資金を効率的に活用できます。ただし、社用車やスマートフォンなど、私用と兼ねる支出については、業務使用の割合に応じた按分処理が必要です。領収書の保管や使用実態の記録を適切に行い、税務調査に備えて透明性の高い会計処理を徹底しましょう。

設立の注意点とデメリット

法人設立後に後悔しないためには、以下の点に注意が必要です。

  • 設立・運営に手間がかかる
  • 赤字でも法人住民税がかかる
  • 小規模オーナーにとっては、かえってコスト負担が大きくなる可能性もある

設立・運営に手間がかかる

法人を設立するには、まず定款の作成や登記書類の準備など、多くの手続きが発生します。登記に必要な書類の準備は煩雑で、法務局への出向も必要なため、司法書士に依頼することが一般的です。さらに、設立後も毎月の会計処理や年に一度の決算申告、税務署対応に加え、場合によっては社会保険労務士への相談など、継続的な管理業務が発生します。

特に法人税の申告業務は提出書類が多く、簿記や税法の専門知識がないと適切な対応が難しいため、税理士との顧問契約が現実的です。こうした点からも、個人事業と比べて事務負担が大きく増加することは、法人化を検討する段階で認識しておくべきです。

赤字でも法人住民税がかかる

法人化によって節税効果が期待できる一方で、赤字であっても納付が求められる「均等割」による法人住民税の存在には十分な注意が必要です。
例えば、資本金1,000万円以下・従業員50人以下の小規模法人は、毎年合計7万円程度の法人住民税(均等割)が発生します(自治体によって増減あり)。法人住民税は利益が出ていなくても納税義務があるため、損益分岐点を下回る状況では経営上の固定費として大きな負担となり得ます。
法人設立を検討する際は、所得税との比較による税率面のメリットだけでなく、こうした継続的なコスト負担についても十分に検討することが重要です。

総務省|地方税制度|法人住民税

小規模オーナーには逆にコストが重い場合も

管理物件が数戸程度の小規模オーナーにとっては、法人化によってむしろコスト負担が増すおそれがあります。例えば、月額1万円の管理料を3戸分支払う場合、年間で36万円の固定費が発生します。さらに、法人を設立するには登録免許税や法人登記手数料に加え、顧問税理士への報酬など、継続的な支出も避けられません。

一方で、個人事業として運営する場合は、こうしたコストを抑えることができ、確定申告も比較的簡便に対応できます。特に年間所得が1,000万円未満の規模であれば、法人化による節税効果よりも維持費の方が大きくなり、結果として損をするおそれもあります。節税や相続対策を目的とした法人化を検討する際には、規模や収益見込みを踏まえた慎重な判断が不可欠です。

不動産管理会社の設立を検討すべき人と判断ポイント

不動産経営が安定すると、「法人化を検討すべきか」が課題となります。特に節税や相続対策を考える不動産オーナーにとって、法人化は重要な選択肢です。ここでは、ケースごとに法人化の検討ポイントを紹介します。

年収1,000万円以上の賃貸オーナー(個人)

年収1,000万円以上の賃貸オーナーが法人化を検討する主な理由は、所得分散や節税効果です。収入が増加すると、税負担も重くなりますが、法人化することで税率を抑えることが可能です。特にアパート経営を行うオーナーにとって、個人事業主としての高額な税負担を軽減するために法人化が有効です。しかし、法人化には維持コストも伴うため、収入とコストのバランスを慎重に判断することが求められます。一般的に、課税所得が1,000万円を超えた段階が法人化を検討する適切なタイミングとされています。

複数の物件を家族で保有・管理しているケース(個人・家族経営)

家族が複数の物件を所有・管理しているなら、不動産管理会社を立ち上げることを検討すべきです。法人化することで、税負担の軽減や相続後の資産分配がスムーズに行えるメリットがあります。具体的には、法人を利用して家族を役員や従業員にし、給与を支払うことで所得を分け合い、税負担を抑えられます。また、法人化によって、相続財産を会社資産として移行させることができ、相続税の負担も軽減されるため、税制面でのメリットが非常に大きくなります。

相続や事業承継を見据えている不動産オーナー

不動産を相続や事業承継の観点で見ている方は、管理会社の設立を検討するとよいでしょう。法人化することで、株式移転によるスムーズな承継が可能となり、贈与税や事業承継税制を活用できます 。個人事業主が不動産を「贈与」または「売却」する場合、税負担が発生しますが、法人化を行えば財産移転手続きが簡素化され、税負担を軽減できます。

特に、相続税対策として不動産を法人名義に変更すると、資産評価額を減少させ、相続税の負担を抑えることが可能です。さらに、家族を役員にすることで、家賃収入を役員報酬として分配し、贈与税 の節税にもつながります。早期に法人化を進め、相続対策を講じることが将来の税負担軽減につながるため、計画的な実行が重要です。

社有不動産を有効活用したい中小企業・法人

社有不動産の有効活用を検討する中小企業や法人は、不動産管理会社の設立を検討してみましょう。例えば、遊休不動産を賃貸事業に活用することで、工場跡地や社宅を収益化できます。

また、管理業務を別法人化することにより、リスク分散と事業区分の明確化を図れます。さらに、資産管理法人を設立することで、グループ内の不動産管理を効率化し、税務や経営管理を最適化できます。これらのポイントを踏まえ、不動産管理会社設立のメリットを十分に検討することが重要です。

設立にかかる費用と手続きの流れ

2025年時点で法人を設立する際の費用は、会社の形態や依頼先によって異なります。司法書士に依頼するのが一般的で、設立費用は合同会社で約20万円、株式会社で約30万円が目安です。これには登録免許税や定款認証費用、司法書士報酬などが含まれており、法人設立には一定の費用がかかります。以下で、費用の内訳と手続きの流れを解説します。

会社形態の選び方(株式会社 vs 合同会社)

株式会社と合同会社は、どちらも法人として不動産管理会社を設立する際に選べる代表的な形態です。以下の表を参考に、自社に適した形態を選びましょう。

株式会社と合同会社の比較一覧表
項目 株式会社 合同会社
設立費用 約30万円〜 約20万円〜
信用度 高い(上場も可能) 比較的低い
資金調達 株式発行や増資が可能 難しいケースが多い
意思決定 株主と経営者が分離 出資者=経営者で迅速な判断が可能
向いている事業規模 中〜大規模 小規模・スタートアップ向け

登録免許税・定款認証・専門家報酬など

会社設立にかかる主な費用には、登録免許税、定款認証手数料、専門家への報酬などが含まれます。登録免許税は資本金の0.7%または15万円のどちらか高い額を納税します。合同会社では資本金の0.7%または6万円のどちらか高い額を納税します。例えば、資本金3,000万円の株式会社を設立する場合、3,000万円×0.7%=21万円なので、登録免許税は21万円です。

定款認証に関しては、公証人から認証を受けるための手数料が最大5万円(合同会社の場合は不要)かかり、紙の定款であれば収入印紙代4万円、さらに謄本取得のために約2,000円が必要です。電子定款を利用すると全体の費用を抑えることができます。

加えて、司法書士に設立手続きを依頼する場合には、報酬として7~10万円が相場とされています。資本金の額によって登録免許税が増減するため、節税や資金計画の観点からも、資本金の設定は慎重に行う必要があります。

設立のステップ(定款作成~登記まで)

会社設立の際の基本的な流れについて解説します。

ステップ1.定款の作成

まず、会社の目的や商号、本店所在地などを記載した定款を作成します。これは会社運営の基本ルールを定める重要書類です。

ステップ2.定款の認証

株式会社を設立する場合は、作成した定款を公証役場で認証します。電子定款を利用すれば、印紙代4万円を節約できます。

ステップ3.資本金の払込み

認証後、発起人名義の口座に資本金を振り込み、通帳コピーなどで払込証明書を作成します。資本金は1円からでも可能です。

ステップ4.登記申請

必要書類をそろえて法務局で登記を行えば、法人として正式に設立されます。登記日は「設立日」となり、今後の運営にも影響します。

法人化には税務上の利点が多くあるものの、手続きがハードルとなりがちです。不安がある場合は税理士へ相談することをおすすめします。

初期費用+維持コスト(法人住民税、社保など)

法人化に伴う初期費用としては、登記手続きや司法書士への報酬などを含めて、約20~30万円が目安です。不動産を法人へ移転する場合には、さらに不動産登記費用や不動産取得税が別途、必要です。

また、法人住民税(均等割)は黒字・赤字を問わず発生し、最低でも年間7万円の固定費が発生します。加えて、役員報酬を支給する場合や従業員を雇用する場合には、社会保険への加入が義務付けられます。保険料は法人と個人で折半し、報酬額の約30%にのぼることもあるため、毎月10万円以上の負担になることがあるかもしれません。これらの維持コストは、資金繰りや経営計画に大きく影響するため、事前のシミュレーションが欠かせません。

不動産管理会社の設立ならレガシィにご相談ください

不動産管理会社の設立には、賃貸経営の効率化や節税、相続対策などのメリットがありますが、設立や維持に費用がかかる点には注意が必要です。特に小規模オーナーは、税務や相続面から慎重に判断しましょう。

税理士法人レガシィは、創業から60年以上の実績を持ち、最適な対策をご提案しています。法人化をご検討の際は、ぜひご相談ください。

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この記事を監修した⼈

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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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