相続の知識

【海外相続】プロベートとは? 対象財産や回避策について解説

海外に資産を持つ方にとって相続時に避けて通れないのが「プロベート」。これは英米法圏で行われる遺産分割の法的手続きで、時間や費用がかかるうえ、プライバシーの問題も伴います。本記事では、プロベートの仕組みや対象となる財産、手続き上の注意点、回避対策について詳しく解説します。ぜひ参考にしてください。

プロベートとは?

プロベートとは?

プロベートとは、遺言書の有効性確認を通じて相続財産の透明性を確保し、関係者間の紛争を防ぐ法的手続きです。アメリカやイギリスなどの英米法圏で行われています。具体的には、裁判所が被相続人の遺言書の有効性を確認し、その後、遺産の調査・管理・負債の精算を経て、相続人に対して財産を適切に分配するまでの一連のプロセスを監督します。プロベートは相続財産の透明性を確保し、法的なトラブルを防ぐ役割も担っています。

日本の相続手続きは、相続人同士の話し合いで遺産分割が進められるのが一般的です。これに対し、英米法圏では裁判所の関与が必須です。このため、プロベートには時間や費用がかかります。
プロベートの過程では、遺言書の確認に加えて財産の調査、負債や税金の精算、不動産の登記変更なども行われます。特に、アメリカなどで不動産を所有している場合、日本人であってもその国の相続手続きを遵守することが必要です。

また、プロベートは相続人間の紛争を防ぐ重要な手続きでもあります。裁判所の監督の下で遺産が分配されることで、公平かつ法的に正当な手続きが保障されるでしょう。しかし、手続きに時間や費用がかかるため、相続人にとってはできるだけ避けたいと感じられることも少なくありません。
そのため、海外に資産を保有している場合には、プロベートの仕組みを理解し、あらかじめ対策を講じておくことが重要です。

プロベートの問題点

プロベートの問題点

アメリカで相続が発生した場合、通常プロベート(遺産の包括的な裁判手続き)を経る必要があります。しかし、この手続きには以下のようないくつかの重大な問題があります。

手続きに時間がかかる

プロベートが完了するまでには、通常1〜3年ほどを要し、複雑なケースではさらに長引くこともあります。この間、遺産の利用や処分が制限されるため、例えば、不動産売却や銀行口座の引き出しができず、葬儀費用や医療費の支払いが困難になる場合があります。

高額な費用が発生する

弁護士や会計士、不動産鑑定士といった専門家への報酬が必要で、総費用は遺産の5〜15%に達する場合もあります。日本人が関与する場合、日本の戸籍書類の英訳や現地の弁護士への依頼が必要となる場合があり、200〜300万円程度かかることも少なくありません。

プライバシーが守られにくい

プロベートでは、遺言書や財産内容、相続人の情報などが公的に開示されるため、個人情報が外部に漏れるリスクがあります。

アメリカやイギリスなどに資産をお持ちの方は、プロベートを回避するため、生前に法的手続きを検討しておくことが重要です。

プロベートの対象となる財産

被相続人が個人名義で所有していた財産は、原則としてプロベートの対象です。ただし、資産の種類や所有形態、金融機関の方針によっては、プロベートを経ずに相続が可能な場合もあります。主な対象財産は以下のとおりです。

 

  • 銀行口座や投資口座
  • 株式や証券口座
  • 土地・建物・コンドミニアムなどの不動産
  • 自動車やバイク
  • パソコンや家電、家具、美術品、ジュエリーなどの家財道具
  • 証書や権利書などの重要書類
  • 被相続人の借金やローンなどの負債

 

一方、個人名義以外で所有されている財産は、原則としてプロベートの対象外です。例えば、信託財産や共同名義の口座、Joint Tenancy(共同所有)による不動産などがこれに該当します。

また、生命保険金や個人年金、確定拠出年金(401K)など、あらかじめ受取人が指定されている財産も、通常はプロベートを経ることなく受け継がれます。ただし、受取人の指定がされていない、あるいは指定された受取人がすでに亡くなっている場合には、例外的にプロベートの対象となる可能性があるため注意が必要です。

プロベートが必要な国

プロベート制度は、主に英米法圏の国々で採用されています。代表的な国は以下のとおりです。

  • アメリカ
  • イギリス
  • カナダ
  • オーストラリア
  • 香港
  • シンガポール
  • マレーシア など

これらの国では、特に不動産など特定の資産に関して、相続手続きにおいて裁判所の関与が必要です。プロベートでは、故人の遺産や負債を整理し、適切に清算する手続きが行われます。特にアメリカでは、州ごとにプロベートの制度や手続きが異なるため、事前に各州の法律を確認しておくことが重要です。

一方、日本やドイツ、フランスなどの大陸法圏の国々では、裁判所の関与が少なく、相続人同士で協議を行い、遺産を分割するのが一般的です。こうした国々では、プロベートに相当する手続きはほとんど存在しません。

このように、プロベートの有無や手続きの内容は、各国の法制度に大きく依存しているため、国ごとの違いを理解しておくことが大切です。

Joint Account

プロベートの回避策について

プロベートを回避するためには、遺産が遺言検認を経ずに迅速かつ確実に相続人に移転される仕組みを生前に整えておくことが重要です。

以下の方法は、遺産の管理や分配を効率的に行い、相続人の負担を軽減する手段として活用されています。

 

  • Trust(生前信託)
  • Joint(共同所有)
  • TODD(Transfer on Death Deed)
  • POD(Payable On Death)

 

1. Trust(生前信託)

Trustは、委託者が自分の財産を信託名義に変更し、信託契約に基づいて第三者(または自ら)が資産を管理・運用する仕組みです。委託者が死亡した際には、財産が信託の指示に従って受益者に自動的に引き継がれるため、プロベート手続きを経る必要がなくなります。この制度を活用することで、相続時の煩雑な手続きや費用を大幅に軽減できるほか、財産の詳細が公的記録として公開されることも避けられ、プライバシー保護にもつながります。

また、生前の時点で信託内容を変更したり、受託者や受益者を差し替えたりすることも可能なため、柔軟な財産管理が実現可能です。ただし、信託を設立する国や財産のある国によっては、信託の認可要件や税制、受託者として指定できる人物に制限がある場合もあるため、設立前に現地法の確認や専門家への相談が必要です。

2. Joint(共同所有)

Jointは、複数の名義人でひとつの財産を共有し、いずれかが死亡した場合に、残りの名義人へ自動的に所有権が移転する仕組みです。この制度を利用することで、プロベート(遺言検認手続き)を経ることなく資産を引き継ぐことが可能になります。

配偶者や親子など、信頼できる関係の間でよく利用される方法で、資産の種類に応じた共同所有の形態が存在します。代表的なものとして、預金口座に適用される「Joint Account(共同口座)」や、不動産などに用いられる「Joint Tenancy(共同所有権)」の2つがあります。

ただし、名義の共有により財産の処分に制限がかかる場合や、持分の移転が日本の贈与税の課税対象となる可能性もあるため、制度の利用にあたっては各国の法制度や税制を十分に確認したうえで判断することが大切です。

Joint AccountとJoint Tenancyの具体的な仕組みや注意点については、次で詳しく解説します。

 

Joint Account

Joint Accountとは、夫婦や家族など複数人で名義を共有する共同口座のことです。名義人の一人が亡くなると、残された名義人に口座内の資産が自動的に移転するため、通常の相続手続きを経ることなく引き続き利用可能です。このような仕組みにより、生活費や家計の管理を共同で行いやすく、特に配偶者間の資金管理において便利な方法とされています。また、死亡による口座凍結を避けられる点や、遺産分割協議の対象外となるケースもあることから、相続税対策の一環として活用されることもあります。

Joint Tenancy

Joint Tenancyとは、不動産などの資産を複数人で平等に共有し、いずれか一人が亡くなった際には、その所有権が自動的に他の生存者に移転する仕組みです。この仕組みにより、遺言や遺産分割協議を経ることなく資産の名義が移るため、プロベートを回避できる点が大きなメリットです。ただし、購入資金の負担に差がある場合、日本では贈与税の課税対象となる可能性があるため、事前の対策が求められます。

3. TODD(Transfer on Death Deed)

TODDとは、不動産の所有者が生前に「死亡後の受取人(Beneficiary)」を登記により指定できる制度です。これにより、所有者の死後、裁判所によるプロベートを経ることなく、不動産の名義を直接受取人へ移転できます。アメリカの一部の州で導入されている制度で、事前に受取人を明示することで、スムーズな資産承継が可能です。ただし、州ごとに制度の有無や手続きが異なるため、利用を検討する際は現地の法律を確認することが重要です。配偶者や子どもなど、信頼できる相続対象者への不動産の移転手段として利用されることがあります。

ただし、受取人が日本に居住している場合や、不動産の所在国と受取人の居住国が異なる場合には、贈与税や相続税の課税対象となる可能性もあるため注意が必要です。制度の利用にあたっては、各国の相続・税制の違いを十分に理解し、税理士や法律の専門家に事前に相談しましょう。

4. POD(Payable On Death)

PODとは、銀行口座などの金融資産において、名義人が生前に指定した受取人へ、死亡後に資産を直接移転できる仕組みです。この仕組みを利用すると、プロベートを回避できるため、相続手続きが大幅に簡素化できます。

Trustに比べて設定が簡単で、通常は金融機関の専用フォームに記入することで手続きが完了します。特にアメリカで口座を保有している場合、あらかじめPODを設定しておけば、名義人の死亡後に受取人がスムーズに預金を引き継ぐことが可能です。

なお、POD制度はアメリカの州によっては提供されていない場合もあります。また、受取人が日本に居住しているケースでは、送金方法や小切手の換金手続きに関する制約があるため、事前に確認しておくことが大切です。受取人には法定相続人に限らず、知人や団体、慈善団体なども自由に指定できます。設定内容は名義人の生前であればいつでも変更可能です。

海外相続は税理士法人レガシィまでご相談ください

プロベートとは、アメリカやイギリスなどの英米法圏において、裁判所が遺産の確認や分配を監督する相続手続きです。遺言の有効性や債務整理を公正に行うための制度ですが、時間と費用がかかるため、遺族の負担になることもあります。特に海外資産を保有している場合、国ごとに個別の手続きが必要になる可能性があり、対応が複雑になります。海外不動産の運用を検討する際は、早めに専門家に相談しましょう。

60年以上の歴史と、累計30,000件以上の相続税申告実績を誇る「税理士法人レガシィ」では、相続や海外資産に関するご相談に、経験豊富な税理士が丁寧に対応いたします。お気軽にご相談ください。

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この記事を監修した⼈

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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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