コラム
コラム
今回は、前回に引き続き「竹取物語」に表れる相続的テーマを考えたいと思います。YouTubeチャンネル登録者数100万人を突破した芸能文化税理士法人会長で公認会計士・税理士の山田真哉さんと2023年、お互いのYouTubeチャンネルで共演させていただきました。「竹取物語」には5つほど相続的なポイントがあり、このコラムでも1つずつご紹介しています。
今回は4つ目のポイント「不老不死」です。「月に帰る」と言われてかぐや姫に振られてしまった帝は、かぐや姫が残した不老不死の薬を焼却しました。
古代中国より不老不死は権力者であれば喉から手が出るほど欲しい財産です。「死には誰にも抗えず(だからこそ相続にこだわるようになるのですが)、相続は揉めることもしばしばで思い通りにならない。ならばずっと生きながられる方法はないのだろうか。」皆こう考えるわけです。
しかし、その大事な財産を帝は捨てた。これは衝撃ですが、かぐや姫への思いを断ち切ろうという意思表明だけを描いているわけではないと考えます。
現代の相続でも、先祖代々から伝わる土地、事業、自社株、邸宅、書画骨董品は、重要な財産と言われます。これらは承継していくことで価値がさらに高まることが多く、オーナーからすれば相続人に大事にしてもらいたいものです。ただ、重要であるがゆえに相続では揉めやすく、決着をつけても家族間でしこりがのこり、ウェルビーイングな人生を送ることができない状況も出てきます。であれば、いっそのこと売却をするのはどうか?その場合でもその代金をめぐって揉める。ならば寄附か捨てるか?それはそれでもったいないという気持ちももたげてくる、等々……。
帝がここまで思いをめぐらしたかは不明です。ただ、帝はかぐや姫のような月の世界の非人間として生きることなく、自分は人間として生きる決意をしたのだと思います。そもそも有限であるからこそ束の間の人生は美しく、その素晴らしさを後世に相続することによってさらに彩りが増すように思われます。「勘定」的な目に見える財産そのものより、「感情」的な目に見えない思いを優先し、争いの種を断つ。そんな帝の思いを感じるのです。
ショートショートSF作家の星新一も「竹取物語」を現代語訳していますが、彼は、若い時に父の急逝により会社を事業承継し、負の感情がはびこる人間世界に大いに悩んだようです。それでも小説で人間に向き合う姿は人間への希望を持って人間を選択する帝と同じように感じます。
YouTubeチャンネル「相続と文学」や『税務弘報』7月号でも今回の論点について解説しています。ご感想やご意見をYouTube等でコメントとして頂けると幸いです。