コラム
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今回は前回に続き、『竹取物語』に表れる“相続的テーマ”について考えてみたいと思います。2023年には、YouTube登録者数100万人を超える芸能文化税理士法人会長であり、公認会計士・税理士の山田真哉さんと、お互いのYouTubeチャンネルで共演させていただくという貴重な機会がありました。
その際にも話題に上がったのが、『竹取物語』に潜む5つの相続的な視点です。今回はその中から「第5のポイント=事業承継」について、私自身の体験を交えてお話ししたいと思います。
少々恥ずかしながら、私が代表に就任したのは2021年11月。いわゆる「事業承継のタイミング」でした。よく聞かれるのが、
「子どもの頃から家業を継ごうと思っていたの?」
「もともとSEだったけど、それって戦略的な選択だったの?」
「監査法人出身ってことは、家業承継のための修行だったの?」
という質問。しかし実は、すべて「NO」なんです。
子どもの頃の夢は大工か野球選手。大学・大学院時代には編集者や文学研究者に憧れ、社会人になってからはSEとして数年働きました。それも「その時興味があったから」というだけで、家業承継の意思はまったくありませんでした。
ところがある日、父と一緒に経営していた母から「アトをツイでみないか?」と声を掛けられ、勤務先を退職。そこから一念発起して公認会計士試験の勉強を始め、無事に合格。ただ時は会計士就職氷河期。希望していた大手監査法人には入れず、新設間もない監査法人兼コンサル会社に入所し、優秀な代表のもとで猛烈に働かせていただきました。
家業に対しては、正直なところ「自分には向いていない」という抵抗感と、「継がなければならないのか」という従順感が入り混じり、長い間モヤモヤしていました。そんな私の背中を押してくれたのが、両親から贈られた手作りのサクセッションプランの冊子、そして母の一言––
「潰したっていいのだから、恐れずに思い切りやってみなさい」
この言葉でスイッチが入り、「やるからには徹底的にやろう」と覚悟を決めたのです。
思えば、『竹取物語』のかぐや姫も、月の世界の“何か”を継ぐことを期待されていたのではないでしょうか。けれども、私と同じようにそのレールから一度外れたい衝動があり、地球にやってきて、竹取の翁と媼のもとで人間らしい時間を過ごしたのかもしれません。
そして最終的には、帝からの求婚という人間界での最高の地位を辞退し、月へ帰る決意をします。そこには、人生経験を経て生まれた「故郷への思い」や「承継への覚悟」があったのではないかと思うのです。
ちなみに、ショートショートの名手・星新一も『竹取物語』を現代語訳しています。彼自身、若くして父の急逝により「星製薬」を事業承継した経験を持っています。星の作品には、人間社会への違和感や距離感が色濃く表れており、それがかぐや姫への共感につながっていたのでは、と私は読んでいます。だからこそ、あのような独特の名作が生まれたのかもしれません。
このあたりの考察は、YouTubeチャンネル『相続と文学』や『税務弘報』7月号でも解説しています。もしご感想やご意見がありましたら、ぜひYouTubeのコメントなどでお聞かせいただけると嬉しいです。