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【弁護士向け】税理士が解説 弁護士の税務対策とは?

弁護士が日常的に扱うのは、依頼者の法律問題です。一方、自身の事務所経営や税務については、体系的に学ぶ機会が必ずしも多くありません。

独立して間もない時期には「何を経費にできるのか」が気になり、所得が増えると「法人化した方がよいのか」、さらに資産が積み上がると「将来にどう引き継ぐか」という問題が浮かび上がります。同じ弁護士であっても、置かれた事業ステージによって検討すべき税務対策は異なります。

私はこれまで弁護士の先生方の確定申告に数多く携わり、累計1,000件を超える申告実績を積んできました。その経験から感じるのは、単発の節税策だけでなく、事務所の成長と個人の資産形成を一体として捉えることの重要性です。

本稿では、講義「隣の先生はどうしている? 税理士が見た 弁護士の税務対策」の内容をもとに、独立初期から資産形成まで、各段階で押さえたい考え方を整理します。

税務対策の目的は「税額」ではなく「手残り」にある

「節税」という言葉から、まず税金を減らすことを思い浮かべる方は少なくありません。しかし、事務所経営の観点では、税額の大小だけで対策の良し悪しを判断することはできません。売上から必要経費を支払い、社会保険料や税金を負担した後に、どれだけの資金が手元に残るのか。さらに、その資金を将来の投資や生活、老後の備えにどうつなげるのかが重要です。

講義では、税務対策を「必要な経費を漏れなく計上する」「所得を適正に分散する」「個人と法人を使い分ける」「課税時期を将来へ移す」「税引後の資産を育てる」という五つの方向から整理しています。これらは似ているようで、資金に与える影響も、適した時期も異なります。

例えば、100万円を支出して税金が30万円減ったとしても、支出がなければ残っていた資金との差額は70万円です。もちろん、業務に必要な設備や将来の売上につながる投資であれば、その支出には意味があります。しかし「税金が減るから」という理由だけで必要性の低い支出を増やすことは、資産を残すという目的と逆行しかねません。節税効果と事業上の価値を分けて考えることが、対策を選ぶ出発点になります。

独立初期|必要経費は「仕事との関係」を説明できるか

独立初期にまず整えたいのは、記帳と資金管理の体制です。収入と支出を正確に把握できなければ、どの対策が有効なのかも判断できません。そのうえで相談が多いのが、必要経費の範囲です。

自宅家賃、パソコン、スマートフォン、車、会食、ゴルフ、スーツ、旅費や海外視察など、弁護士の業務には私生活との境界が曖昧になりやすい支出があります。

必要経費を考える際に大切なのは、支出の名称だけで結論を出さないことです。講演では「事業との関連性」「必要性を説明できるか」「証拠が残っているか」という三つの視点を示しています。

自宅の一部を執務に使う場合には、業務に使用する部分を合理的に区分することが問題になります。スマートフォンや車も、私用と業務用が混在するなら、利用実態を踏まえた整理が必要です。

会食やゴルフについても、領収書の存在だけでは十分とはいえません。相手方、参加者、目的、担当業務との関係など、後から支出の背景を説明できる記録が重要になります。反対に、スーツや時計のように私生活でも使用できるものは、業務で着用しているというだけでは判断が難しい支出です。海外視察や出張では、業務日程と私的な旅行部分をどう区別するかも論点になります。

ここで注意したいのは、「ほかの先生が計上しているから自分も大丈夫」という発想です。同じ科目でも、事務所の営業スタイルや受任業務、支出の目的は異なります。経費を増やすことそのものを目標とせず、業務上必要な支出を適切に計上し、その根拠を説明できる状態にしておくことが基本です。

所得拡大期|控除の見直しと法人化の検討

事業が軌道に乗り、所得が増えてくると、個人事業のまま活動を続けるか、法人化を検討するかという問題が生じます。所得税は累進税率である一方、法人には法人税等が課され、役員報酬として受け取る部分は個人側で課税されます。そのため、単純に個人の所得税率と法人税率を比べるだけでは、最終的な有利不利は判断できません。

法人化によって、役員報酬の設計、法人内への資金蓄積、将来の役員退職金といった選択肢が生まれます。一方、社会保険の負担、法人住民税、申告・管理コストなども考慮しなければなりません。また、法人に利益を残せても、そのお金を個人の生活費として使うときには別の検討が必要になります。法人の資金と個人の資金を明確に分けることも、個人事業との大きな違いです。

講義では、法人化の検討事項を「所得水準と税率差」「役員報酬の金額」「社会保険の負担」「家族の関与と業務実態」「役員退職金」「法人に残す資金」「将来の規模と出口」の七つに整理しています。重要なのは、今年の納税額だけでなく、事業をどう展開し、将来どのように資金を受け取るかまで見通すことです。

例えば、事務所の規模拡大や人材採用を予定している場合と、個人の専門性を生かして比較的小規模な活動を続ける場合とでは、望ましい形が同じとは限りません。法人化は所得が一定額を超えたら自動的に選ぶものではなく、事業計画と資金の使い方に照らして検討すべき経営判断といえます。

組織化|役員報酬・人材投資をどう設計するか

事務所に勤務弁護士やスタッフが増え、組織としての運営が進むと、税務対策は経営上の意思決定とより密接に結びつきます。役員報酬をいくらに設定するのか、法人にどれだけ資金を残すのか、人材や業務環境にどの程度投資するのか。いずれも税負担だけではなく、事務所の継続性や資金繰りに影響します。

役員報酬は、法人側の利益と個人側の所得の配分に関わる重要な要素です。しかし、単純に報酬を増減させればよいわけではありません。税務上の取扱い、社会保険、生活資金、将来の投資予定などを踏まえた設計が求められます。また、採用や教育、IT環境の整備などの支出は、当期の利益を減らす一方で、将来の業務効率や収益基盤を支える可能性があります。

税金を減らすための支出と、事務所の価値を高めるための投資は、表面上は同じ経費であっても目的が異なります。支出を決める前に、どのような成果を期待し、資金繰りにどの程度の余裕があるのかを確認する姿勢が欠かせません。

資産形成期|資産管理会社をどう位置づけるか

事業で得た所得をどのように蓄積し、将来へつなげるかという課題も、弁護士にとって重要です。
不動産投資などを検討する際には、個人で所有するか、資産管理会社を活用するかという選択肢があります。資産管理会社には、法人と個人の税率差、適正な業務実態に基づく家族への所得分散、役員退職金、欠損金の繰越し、株式を通じた資産承継など、検討し得る論点があります。

ただし、会社を設立すれば自動的に有利になるわけではありません。継続的な賃料収入があるか、利益を法人内に残せるか、家族が実際に管理業務を担うか、今後も資産を取得する予定があるかなどによって、活用の意味合いは変わります。法人の維持費や、法人から個人へ資金を移す際の課税も無視できません。

特に注意したいのは、弁護士業務による報酬を、資産管理会社に自由に移せるわけではないという点です。資産管理会社は、あくまでその会社が行う事業や保有資産の実態に即して考える必要があります。また、すでに個人で所有している不動産を法人へ移す場合には、譲渡に伴う税負担や諸費用が生じ得ます。新たに取得する物件から法人保有を検討するという発想も、講演で取り上げる重要な視点です。

目先の節税だけを理由に会社を増やすのではなく、「どこに利益を残すか」「いつ個人が受け取るか」「誰に引き継ぐか」という時間軸で整理することが、資産形成の検討につながります。

制度の活用|支出・手残り・課税の繰延べを区別する

税務対策には性格の異なるものが混在しています。講演では、節税を「お金を使う」「お金を残す」「将来へ移す」という三つの種類に分けています。設備や広告、会食などは支出そのものが発生します。控除や適正な所得分散は、現在の手残りに影響します。共済や退職金などは、資金の積立てや受取時期を含めた長期的な検討が必要です。

具体的な制度として、小規模企業共済、iDeCo、ふるさと納税、経営セーフティ共済、法人保険、役員退職金などを取り上げています。ただし、利用できる制度や税務上の効果は、個人・法人の別、加入資格、支出目的、受取方法などによって異なります。制度名や控除額だけを見て選ぶのではなく、資金がいつ出ていき、いつ戻り、最終的にいくら残るかを考えることが重要です。

税金が減ることと資産が増えることは、必ずしも一致しません。将来受け取る資金についても、受取時の課税や生活設計まで視野に入れて初めて、対策の全体像を捉えられます。

おわりに|事業ステージごとに税務戦略を更新する

独立初期は経費管理と証拠の保存、所得拡大期は控除や共済の確認と法人化の試算、法人化後は役員報酬や内部留保の設計、組織化が進めば人材投資や退職金、そして資産形成期には資産管理会社や承継の検討へと、優先順位は変わっていきます。すべての対策を一度に実行する必要はありません。自分の事務所が今どの段階にあり、次にどのような経営を目指すのかを確認することが先決です。

税務対策は、決算や確定申告の直前だけに考えるものではありません。事業の方向性や生活設計が変わるたびに見直すことで、選択肢も広がります。「隣の先生はどうしている?」という問いをきっかけに、他者の方法をそのまままねるのではなく、自身に合った判断軸を持つことが大切です。

本稿で取り上げた内容は、講演「隣の先生はどうしている? 税理士が見た 弁護士の税務対策」の主な論点を整理したものです。講演では、弁護士の確定申告実務で得た経験を踏まえながら、各事業ステージの論点を具体的に解説しています。目先の税額にとらわれず、10年後の手残りを見据えて考えることが、税務対策の本来の目的ではないでしょうか。

執筆:新谷 和宏(SP税理士法人・税理士)

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