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令和6年改正家族法を実務視点で解説―法定養育費・先取特権・ワンストップ強制執行
今回の改正は、これまでの家族法改正の中でも実務への影響が非常に大きい改正です。
これまで養育費については、「取り決めはあるものの支払われない」「そもそも取り決めがされない」「強制執行までに時間がかかる」といった問題が数多く指摘されてきました。
今回の改正では、そのような問題を解消するために、
・法定養育費制度
・養育費への先取特権の付与
・ワンストップ強制執行
といった改正がなされました。さらに、財産分与や親子交流、年金分割についても重要な改正が行われています。記事では、制度の内容だけではなく、実務上の視点も含めてお伝えします。
1 養育費とは
まず、法定養育費の説明に入る前に、そもそも養育費とは何かを確認したいと思います。
養育費とは、父母が離婚した後に、子どもを監護・養育するために必要となる費用です。
民法766条では、離婚する際には、
・子の監護者
・親子交流
・養育費
などについて協議により定めるものとされています。
そして、この協議を行う際には、「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」と明記されています。そのため、実務でも養育費に関する判断は、子どもの利益という観点から検討されます。
2 養育費の基準
続いて、養育費はいくら支払えばよいのかという問題です。従来の実務では、家庭裁判所の算定表を利用して養育費を決めることが一般的でした。もっとも、今回の改正では、民法817条の12第1項において、「子が自己と同程度の生活を維持することができるよう扶養しなければならない」という生活保持義務が明文化されました。
実は、この考え方自体は新しいものではありません。家庭裁判所の算定表も従来からこの生活保持義務を前提として作成されていました。つまり、今回の改正によって算定方法が大きく変わったというよりも、これまで裁判実務で用いられてきた考え方が法律上も明確になったと理解すると分かりやすいと思います。
3 法定養育費
それでは、本日の中心となる法定養育費について解説します。今回の改正では、離婚時に養育費の取り決めがなくても、一定額の養育費が法律上当然に発生する制度が創設されました。
法定養育費について考える際に最初に確認しなければならない点があります。それは、「いつ離婚したのか」という点です。法定養育費は令和8年4月1日以降の離婚について適用され、施行日前に離婚したケースには適用されません。したがって、相談を受けた際には、まず離婚日を確認することが極めて重要です。
また、法定養育費の金額は、法務省令により子ども1人当たり月額2万円と定められています。もっとも、この2万円は通常の養育費の標準額ではありません。あくまでも、取り決めがされるまでの最低限の生活保障という位置付けです。したがって、後日調停や審判で養育費が定められた場合には、その金額が優先されることになります。
(1)請求権者
次に、法定養育費の請求権者についてご説明します。民法766条の3では、「離婚の時から引き続きその子の監護を主として行う者」とされています。ここで重要なのは、監護者として指定がされているかどうかではありません。実際に主として監護を行っているかどうかで判断されます。
また、「離婚の時から引き続き」という文言があるため、途中で監護状況が変わった場合には注意が必要です。
例えば、離婚当初は母親が子どもを監護していたものの、その後父親が監護するようになった場合、法定養育費を請求できるのは離婚当初から継続して監護していた者であるため、監護が変更された後の父親が新たに法定養育費を請求することはできないと解されています。
一方で、お子さんが複数いて、それぞれを父母が分けて監護しているようなケースでは、お互いが請求権者となる場合もあります。
(2) 始期と終期
続いて、法定養育費がいつから、いつまで発生するのかです。始期は非常に明確で、「離婚の日」です。
一方、終期は次の3つのうち最も早い日となります。
・父母が協議によって養育費を定めた日
・家庭裁判所の審判が確定した日
・子どもが成年に達した日
また、始期・終期を含む月については日割計算が採用されています。
(3) 免除・支払猶予
次に、支払能力がない場合です。法定養育費は当然に発生するのであれば、支払えない人も必ず支払わなければならないのでしょうか。
結論として、そのようなことにはなっていません。法律では、
・支払能力を欠くため支払えないこと
・支払うことによって生活が著しく窮迫すること
を債務者が証明した場合には、裁判所は、全部又は一部の支払いを免除または猶予するとされています。
ここで重要なのは、「証明しなければならない」という点です。つまり、「収入が少ないから払えません」と口頭で主張するだけでは足りません。給与明細、課税証明書、生活状況などの資料を提出し、裁判所に支払能力がないことや支払いをすることで生活が窮迫することを証明する必要があります。
この規定は権利そのものを消滅させるものではなく、権利行使阻止事由として理解されています。さらに、判断時点についても実務上問題になりえますが、これは現在の経済状況を基準に判断されると考えられています。
(4) 調停・審判による養育費との関係
最後に、実務上もっとも重要な論点の一つが、法定養育費と通常の養育費との関係です。従来、家庭裁判所では養育費は請求時から発生するという運用が一般的でした。
一方で、法定養育費は離婚の日から当然に発生します。そのため、離婚後しばらくして調停を申し立てた場合には、その間に発生している法定養育費をどのように扱うかという問題が生じます。
実務では、未払養育費を計算する際に、法定養育費の未払分も考慮することになると考えられています。また、すでに法定養育費について強制執行がされている場合には、通常の養育費との二重計上にならないよう十分注意する必要があります。
4 先取特権の付与
ここまで法定養育費について見てきましたが、今回の改正は「養育費を発生させる制度」を整備しただけではありません。
もう一つの大きな柱が、養育費の回収に関し、先取特権を付与したことです。これまでの実務では、「養育費の取り決めはしたけれど支払われない」という相談が非常に多くありました。調停や公正証書を作成しても、実際に差押えを行うにはさらに手続が必要であり、途中で断念してしまうケースも少なくありませんでした。
今回の改正では、このような実情を踏まえ、養育費の履行確保を目的として養育費に一般先取特権が付与されています。
(1) 先取特権とは
民法306条では、一定の債権について、他の一般債権よりも優先して弁済を受けることができる権利として一般先取特権が規定されています。今回の改正では、この一般先取特権の対象として、「子の監護の費用」が追加されました。
従来は、養育費について差押えをするためには、調停調書や審判書、判決、公正証書など、いわゆる債務名義を取得しなければなりませんでした。しかし、今回の改正により、一定の場合には債務名義がなくても担保権の実行として差押えをすることが可能となります。
(2) 必要となる資料
もっとも、「債務名義が不要」と聞くと、何も証拠がなくても差押えができるのではないかと思われますが、先取特権を行使するためには、「先取特権の存在を証する文書等」が必要になります。ここでいう文書等には、
・合意書
・公正証書
・契約書
・メール
・LINEなどのメッセージ
・その他の電磁的記録
も含まれるとされています。
法務省が公表している報告書にモデル合意書が掲載されていますので、そちらを参照していただけるとよいかと思います。
(3) 先取特権の対象
次に、先取特権の対象です。ここで注意したいのは、「先取特権=養育費」ではないという点です。法律上は、「子の監護の費用」が対象となっています。具体的には、
・夫婦間の協力・扶助義務
・婚姻費用
・養育費
・扶養料
などが含まれます。したがって、養育費だけが対象になる制度ではありません。
また、法定養育費だけではなく、父母が合意して成人後まで支払うこととした養育費についても、その範囲で先取特権が認められることになります。
さらに婚姻費用についても、子の監護に要する費用に相当する部分については先取特権が認められることになります。
(4) 先取特権が認められる範囲
先取特権が認められる金額は、法務省令において子ども一人につき月額8万円とされています。これは、先取特権によって優先的に取立てができる金額です。そのため、実際の養育費の金額とは区別して理解する必要があります。
(5) 施行日前の合意との関係
経過措置についても触れておきます。法定養育費は、令和8年4月1日以後の離婚だけが対象でした。
これに対し、先取特権については、施行日前に養育費の合意をしていた場合であっても、施行日以後に発生する養育費については対象となります。
ここは法定養育費との違いです。相談の際に「離婚は数年前ですが対象になりますか。」という質問を受けた場合には、法定養育費なのか、先取特権なのかを区別して説明する必要があります。制度ごとに経過措置が異なる点は、今回の改正の中でも特に注意すべきポイントといえます。
5 情報開示・強制執行のワンストップ化
今回の改正のもう一つの柱であるのが「強制執行手続の見直し」です。養育費の問題は、「権利があること」と「実際に回収できること」は別問題です。そこで今回の改正では、民事執行法も併せて改正され、養育費などについては、より迅速かつ実効的に強制執行ができる制度が整備されました。
(1)財産開示申立からのワンストップ化
従来の実務では、養育費を回収するためには、まず財産開示手続を申し立て、その結果を踏まえて情報取得手続を行い、その後に差押えを申し立てるという流れが一般的でした。つまり、複数の申立てを順番に行う必要があり、その都度、申立書を作成し、裁判所で手続を進める必要がありました。そのため、時間も費用もかかり、依頼者にとっても大きな負担となっていました。
今回の改正では、この点が大きく改善されています。養育費など一定の債権については、財産開示手続を申し立てた場合、法律上、差押命令の申立ても同時にされたものとみなされる制度が導入されました。
つまり、財産開示から差押えまでが一連の流れとして進むことになります。実務では、この改正によって、事件処理のスピードが大きく改善することが期待されています。依頼者から見ても、「何度も申立てをしなければならない」という心理的負担が軽減されることになります。
さらに、財産開示の場で給与債権などが判明した場合には、その情報を基に直ちに差押えへ進むことが可能となります。これまでのように、一度手続が終わってから改めて申立てをする必要がなくなった点は、非常に大きな改正といえるでしょう。
(2) 財産を開示しない場合
財産開示手続を行っても、財産開示手続に出頭しても財産を開示しない当事者や、そもそも十分な説明をしない当事者も存在します。そこで今回の改正では、そのような場合への対応も整備されています。
財産を開示しなかった場合には、裁判所は市町村等に対して情報提供命令を発することができ、その情報を利用して差押えを進めることができるようになりました。
(3) 東京地裁の書式の活用
実務上もう一点ご紹介したいのは、東京地方裁判所民事執行センターが公開している申立書式です。ワンストップ執行を利用する場合には、このモデル書式を参考にすると非常に便利です。
今回の改正では新しい制度が数多く導入されています。制度を理解することも重要ですが、実際の事件では「どの書式を使うか」「どの資料を添付するか」が非常に重要になります。
ぜひ一度これらの書式にも目を通していただければと思います。
6 その他の改正
最後に、その他の改正についてご説明します。
(1)親子交流
まず、父母以外の親族との親子交流について、新たな規定が設けられました。もっとも、この制度は非常に限定的な場面を想定したものです。
例えば、父母の一方が死亡している場合や行方不明である場合など、通常の親子交流を実現することができない事情があることが前提となっています。
したがって、「祖父母であれば自由に申立てができる」という制度ではありません。
この点を誤解している方も少なくありませんので、対象となるケースは限定されることを理解しておく必要があります。
(2)財産分与
今回の改正では、これまで裁判実務で定着していた「2分の1ルール」が法律上明文化されました。もっとも、実務が大きく変わるというよりも、これまでの裁判例の考え方を法律に明記したという理解でよいでしょう。
一方で、実務への影響が大きいのは請求期間です。これまで2年間だった請求期間が5年間へ延長されました。
(3)年金分割
最後に年金分割ですが、こちらも請求期間が2年から5年へ延長されています。もっとも、この改正も令和8年4月1日以後の離婚が対象となりますので、経過措置には十分注意してください。
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