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税理士による相続に係る対策の提案 ~不作為の罪

はじめに

株式会社日税連保険サービスが公表している税理士賠償責任保険の事故事例の大半は、特例選択の適用誤りや申告書の期限内申告を失念し過大納付税額が発生した事故事例が報告されています。このことは、納税者も損害を受けた原因や損害額について確認が容易に行うことができます。

しかし、税理士による不作為の罪については、納税者は損害の原因や損害額などの確認は困難が伴いますが、これからはAIによって疑問に感じる点を照会すると、税務知識に乏しい一般納税者でも適切な処理であったのか検証することができるようになります。今後は相続対策について、税理士から提案がなかったことを原因とする「不作為の罪」についても損害賠償責任を問われることにもなりかねません。

相続に係る対策や、相続税の申告などの不作為には大別して二つあります。
① 税理士から相続人が提案を受けても実行しない場合
② 税理士が相続人に対して具体的な相続対策について提案しなかったことにより、相続人が効果的な対策を実行することができなかった場合

相続対策を実行しても、相続税は相続開始時の税法や時価によって課税されることから、対策後から相続発生までの間に、税法や財産評価通達の改正が行われたりしたことに伴い、相続対策の効果は減殺されることになり、不確実なものが大半です。

しかし、生前に対策を実行しておけばそれなりの効果が期待できる場合に、そのことを相続人に提案しておかなかったことで、相続人が相続税の軽減効果を得られなかったときに、顧問契約が解除されたり、税理士に対して不作為の罪を問われることが予想されます。

この記事は、税理士による不作為の罪について解説するもので、相続対策の内容については、相続人に提案し、相続人が意思決定すれば容易に実行できるものに限定して解説しています。そのため、それらの対策についての提案がなかった場合には、相続人から不作為の罪を問われる可能性があると思われます。

この記事によって、税理士が不作為の罪に問われ損害賠償請求等を受けないことの参考になれば幸いです。

1. 遺言書作成の提案

税理士は、相続対策に係る遺言書の作成についての提案も必須の事項と考えられます。
なぜなら、遺産分割が原則として相続税の申告期限までに調うことで、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減などの適用を受けることができるからです。

(1)子のいない夫婦や兄弟姉妹が法定相続人である場合

遺言書が残されていたら「遺言相続」が優先されますが、遺言書が残されていなかった場合には、法定相続分による遺産分割協議になります。

法定相続人が配偶者と兄弟姉妹である場合には、兄弟姉妹には遺留分がないことから、例えば、すべての財産を配偶者に相続させるとする遺言書が残されていた場合には、その遺言書だけで相続手続を完了させることができます。

そのため、子のいない夫婦の場合で両親などが既に亡くなっているときは、すべての財産を配偶者に相続させるとする遺言書だけで遺産の承継が可能となります。

(2)後継者が議決権の過半数を確保するため

未分割遺産である株式は準共有状態にあるため、会社法106条により、株式についての権利を行使するためには、権利を行使する者を一人定め、その氏名をその会社に通知することが必要で、これをしなければ、その会社がその権利を行使することに同意した場合を除き、その株式についての権利を行使することができません。

例えば、A社(後継予定者は長男)の発行済株式数が1,000株(株主は、被相続人である父(相続人は、長男、二男、長女)が660株、後継予定者の長男が340株)である場合に、父が遺言書を残さずに亡くなったときに準共有状態にある株式660株の議決権の行使について、相続人の3人がそれぞれ1/3ずつ持分を有していることから、準共有状態にあるA社株式660株についてこの3人のうち2人が合意すれば、過半数をもって議決権を行使する者を選任することができます(平成9年1月28日、平成27年2月19日:最高裁判決)。

そのため、二男及び長女が合意してA社株式の議決権を行使する者を二男と定め、A社に通知すれば、二男が660株の議決権を行使することができます。その結果、長男が有する議決権数を上回ることになり、二男又は長女が会社の経営権を握ることができます。

(3)賃料収入の帰属を明確にする

個人で不動産賃貸業を営む者の場合、遺言書を残すことは必須であると考えられます。遺言書が残されていないと、遺産分割協議が調うまでの間の賃料収入は、各相続人の相続分に応じてそれぞれ帰属するとされています。そのため、遺産分割協議がますます難しくなってしまいます。

2. 生前贈与についての提案

(1)贈与税の負担割合と相続税の限界税率

贈与税は、法定相続人以外の者に対しても贈与することができます。その場合、贈与税の基礎控除額を超える贈与があった場合には、贈与があった年の翌年3月15日までに贈与税の申告と納税が必要となります。

一方、相続税は相続税の基礎控除額を超える財産がある場合に、相続人等に対して相続税が課されます。いずれにしても財産を承継する場合に課税されますが、そのタイミングが異なるだけです。そうであれば、税負担の少ない方を選択することが賢明な対応と考えられます。

(2)生前贈与加算

相続時精算課税適用者は、相続又は遺贈によって財産を取得しなかった場合でも、被相続人から加算対象期間内に暦年贈与を受けていたときは、その贈与を受けた財産は生前贈与加算の対象となります。

令和6年1月1日以後に相続時精算課税贈与を受けた場合には、110万円までは相続財産に加算する必要はありませんが、相続時精算課税贈与を受ける前の年分で暦年贈与を受けていたときは、生前贈与加算の対象となることがあるため、相続時精算課税贈与の選択については、慎重に判断しなければなりません。

3. 生命保険活用の提案

(1)課税される財産から非課税財産へ

相続税が課される生命保険金等を相続人が受取った場合に、相続税の非課税規定の適用を受けることができます。

死亡保険金は死亡診断書など一定の書類を添付して請求すれば、通常は1週間以内に受取人の銀行口座へ振り込まれます。そのため、現預金で残すよりも、この非課税限度額を有効に活用して相続税の軽減効果を得ることが賢明な選択です。

(2)課税関係を保険契約書から確認する

相続人でない孫が死亡保険金の受取人である場合、その孫は遺贈によって財産を取得したものとみなされ、相続税が課されます。その場合、相続人でない人が死亡保険金を受取ったときは、生命保険金の非課税の適用を受けることができません。

孫は、配偶者及び一親等の血族でないことから相続税額の二割加算の対象者に該当(孫が代襲相続人である場合を除きます。)します。また、被相続人から相続開始前7年(令和5年12月31日以前の贈与については3年)以内に贈与を受けていた場合には、生前贈与加算の対象となり、相続税の負担が重くなります。

さらに、孫が生前贈与を受けた財産が生前贈与加算の対象となることから、相続税の課税価格が増えることによって相続税の総額が高くなり、他の共同相続人の相続税の負担も増加することになります。

4. 不動産管理会社の活用についての提案

(1)将来の相続税の軽減

不動産管理会社に高収益な賃貸不動産を譲渡すると、毎年の所得分散によって、所得税が軽減され、かつ、収入が不動産管理会社に移転することで、相続税の負担が軽減されることが期待されます。そのため、できるだけ早く実行することがポイントです。

また、賃貸不動産を自社株に組み換えることにより、地価の急騰による相続税負担の異常な負担増を緩和できる効果が期待できます。

さらに、値上がりが予想される不動産の場合、その不動産を値上がり前に会社へ現物出資すれば、その値上り分は取引相場のない株式等の相続税評価額に吸収され、相続財産の上昇を抑えることができます。

(2)管理実態のない管理会社

管理契約書がない、管理をしていたことを証する資料もない、委託業務の主要な部分は本件建設会社が行っている、各賃貸不動産の周辺の見回り及びゴミ拾いのみで、その頻度も月1回程度であり、その他の業務については必要に応じて対応したものにすぎないなどを根拠に不動産管理会社へ支払った管理料は必要経費として認められないとして更正処分を受けることになりかねません。

5. 養子縁組についての提案

相続対策や相続税等の計算において、養子縁組は届け出たその日から効力が発生することから、即効性のある対策といえます。

(1)遺産に係る基礎控除額の計算

相続税の総額を計算する場合に課税価格の合計額から控除することができる基礎控除額は、養子縁組により法定相続人が増えることで基礎控除額も増加することとなります。

(2)相続税の総額を計算する場合の累進税率の緩和

相続税の総額は、課税遺産総額を法定相続分に従って分けたものとみなした場合における各取得金額に累進税率を適用して計算します。したがって、養子縁組により法定相続人が増えることで適用される累進税率が低くなり、相続税が軽減されます。

(3)生命保険金等・退職手当金等の非課税限度額の計算

相続人が受け取った生命保険金等及び退職手当金等については、それぞれ「500万円×法定相続人の数」まで非課税とされています。養子縁組により法定相続人が増えることで非課税限度額も増加することとなります。

(4)相次相続控除

今回の相続開始前10年以内に被相続人が相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得し相続税が課されていた場合には、その被相続人から相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人の相続税額から、一定の金額を控除します。

相次相続控除が受けられるのは、相続人に限定されていますので、相続の放棄をした人及び相続権を失った人がたとえ遺贈により財産を取得しても、この制度は適用されません。
そのため、養子縁組によって相続人として財産を取得すれば、相次相続控除の対象者となることができます。

(5)未成年者控除又は障害者控除

未成年者又は障害者であっても、被相続人の孫のように法定相続人に該当しなければこの規定の適用を受けることはできません。そこで、孫と養子縁組をしておけば孫は第一順位の法定相続人に該当することになります。

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