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共同親権時代における監護者指定・監護の分掌・親権行使者指定について

令和8年4月、令和6年改正民法等が施行され、我が国でも離婚後共同親権制度が導入されました。今回の改正は、離婚後の親子関係の在り方を大きく変えるものであり、家事事件実務にも少なからぬ影響を与えています。もっとも、共同親権制度の導入によって変わったのは、「共同親権か単独親権か」という選択肢が増えたことだけではありません。共同親権制度の下では、親権と監護を分けて考える必要が生じるため、子どもの監護や教育に関する意思決定をどのように行うのかという新たな課題が生じています。

そこで改正法は、子の監護や教育をめぐる紛争を解決するための制度として、監護者指定、監護の分掌及び特定事項に係る親権行使者指定という三つの制度を整備しました。本稿では、それぞれの制度の概要と相違点を整理した上で、共同親権施行後約2か月時点(2026年6月)における実務の状況についても検討したいと思います。

1 共同親権導入による発想の転換

改正前は、離婚後の親権者は父母のいずれか一方に限られていました。そのため、実務上は親権者と監護者が一致していることが通常であり、親権と監護を明確に区別して考える場面はそれほど多くありませんでした。また、親権者と監護者を分属させることについても、子どもの生活や意思決定の主体が分散し、子に混乱を生じさせるおそれがあるとして、一般的には望ましくないと考えられていました。

しかし、共同親権制度の導入によって、この前提は大きく変化しました。共同親権の下では、父母双方が親権者となります。他方で、子どもは現実には一つの生活拠点で生活することになりますから、「誰が日常的に子を監護するのか」という問題は依然として残ります。

さらに、以下の重要事項について、父母の意見が対立する場面も想定されます。
・進学先をどうするか
・医療行為に同意するか
・転居を認めるか
・パスポートを取得するか
・海外留学を認めるか

そのため、改正後の実務では、「親権者を誰にするか」という従来型の発想だけでは足りません。むしろ、「誰が何を決めるのか」「どの範囲の権限を誰に与えるのか」という観点から制度を選択する必要があります。このような発想の転換こそが、共同親権制度導入による最大の変化の一つといえるでしょう。

2 監護者指定

(1)監護者指定とは

監護者指定とは、父母のいずれが子の監護を担うのかを定める制度です。改正法では、監護者は監護及び教育、居所の指定及び変更等について、親権者と同様の権利義務を有するとされています。その結果、共同親権の場合であっても、監護者は身上監護に関する事項について単独で決定することができます。

また、他方の親権者は、その親権に基づいて子に関与することはできるものの、監護者との間で意見が対立した場合には、監護者の判断が優先されることになります。したがって、監護者指定は、共同親権制度の下においても非常に強い効果を持つ制度であるといえます。

(2)監護者指定が問題となる場面

監護者指定が問題となる典型例としては、以下があげられます。
・婚姻中に別居した父母間で、どちらが子を監護するかが争われている場合
・共同親権として離婚する際に、どちらが子を監護するかが争われている場合
・共同親権で離婚した後に監護者変更が問題となる場合

改正前の監護者指定事件の多くは婚姻中の別居事案でしたが、今後は共同親権で離婚した後の監護紛争も増加することが予想されます。

(3)改正後に加わった「必要性」という視点

改正前は、「父母のどちらを監護者とするのが相当か」という点が中心的な争点でした。しかし、改正後は、「そもそも監護者を定める必要があるのか」という点が問題になります。なぜなら、監護者指定は、身上監護全般について包括的かつ優先的な権限を与える制度だからです。

共同親権制度は、本来、父母双方が子の養育に関与することを前提としています。そのため、一方の親に広範な権限を集中させる監護者指定は、共同親権制度の趣旨と一定の緊張関係に立つことになります。

そこで改正法は、以下の観点から、まず監護者指定の必要性を検討することを予定しています。
・監護の分掌では足りないのか
・親権行使者指定では足りないのか

もっとも、父母間の対立が著しく、共同での意思決定が期待できない場合や、DV・虐待等が存在する場合には、監護者指定の必要性は高いと考えられます。

(4)監護者指定の相当性

監護者指定が必要と判断された場合には、従来と同様に、以下を総合考慮して判断されます。
・従前の監護状況
・現在の監護状況
・父母の監護能力
・子との関係性
・子の意向
・親子交流に対する姿勢
・きょうだい関係

この点については、改正によって大きな変更はありません。したがって、少なくとも現時点では、監護者指定の相当性判断については、従来の実務の蓄積が引き続き重要であると考えられます。

3 監護の分掌

監護の分掌は、今回の改正によって新たに明文化された制度です。監護の分掌には、「期間の分掌」と「事項の分掌」の二種類があります。

(1)監護の分掌が導入された背景

従来の実務では、「父か母のどちらかが主たる監護者になる」という発想が基本でした。しかし、現実には、父母双方が子の養育に深く関与している家庭も少なくありません。例えば、別居後も父が習い事の送迎を継続しているケースや、教育については父が中心的な役割を担っているケースもあります。そのような家庭において、必ずしも一方に監護権限を集中させることが子の利益にかなうとは限りません。

そこで改正法は、父母双方の関与を維持しながら一定の役割分担を可能とする制度として、監護の分掌を導入したものと考えられます。

(2)期間の分掌

期間の分掌とは、父母が一定期間ごとに子を監護する制度です。例えば、以下の形態が考えられます。
・平日は母が監護する
・週末は父が監護する

期間の分掌者は、自らが監護する期間中、監護及び教育に関する日常的な事項について単独で決定することができます。もっとも、期間の分掌が認められるためには、以下が必要となります。
・父母双方に十分な監護能力があること
・交代監護が現実的に可能であること
・子に過度な負担を与えないこと

父母の居住地の距離、移動時間、学校や習い事の状況、父母の協力関係、子の年齢や発達状況など、多くの事情を考慮する必要があります。また、期間の分掌は、父母間の継続的な連携が前提となる制度です。そのため、高葛藤事案との相性は必ずしも良くないようにも思われます。

(3)事項の分掌

事項の分掌とは、子の監護に関する特定の事項について、一方の親に包括的な権限を与える制度です。例えば、以下の形態が想定されています。
・教育に関する事項は父が担当する
・医療に関する事項は母が担当する

事項の分掌者は、その事項については重大な行為も含めて単独で決定することができます。その意味で、事項の分掌は非常に強い効果を有する制度です。もっとも、その分、
・包括的な権限付与が本当に必要なのか
・親権行使者指定では足りないのか
という点が問題になります。

4 特定事項に係る親権行使者指定

親権行使者指定は、特定の事項についてのみ、一方の親が単独で親権を行使できるようにする制度です。典型例としては、以下の事項などが考えられます。
・進学先の決定
・医療行為への同意
・氏の変更
・パスポート取得
・海外渡航

監護者指定や監護の分掌との最大の違いは、「特定性」が要求される点です。例えば、「教育について父が決定する」という申立ては、事項の分掌の問題です。これに対し、「高校進学について決定する」という申立ては、親権行使者指定の問題になります。

つまり、事項の分掌は一定分野について継続的な権限を与える制度であるのに対し、親権行使者指定は、具体的な紛争を解決するための制度であるという違いがあります。今後の実務では、この両者の境界が重要な論点になるものと思われます。

5 三つの制度の境界と制度選択上の課題

共同親権制度の導入に伴い、監護者指定、監護の分掌及び親権行使者指定という三つの制度が整備されました。しかし、実務上はこれらの制度の境界が必ずしも明確ではありません。むしろ、共同親権制度の下では、「どの制度を利用するか」という制度選択そのものが重要な問題になると考えられます。

例えば、子の進学を巡って父母が対立している場合を考えてみましょう。高校進学については、在学契約の締結という法律行為が問題となるため、一般には、特定事項に係る親権行使者指定によって対応することになると考えられています。これに対し、教育方針全般について継続的な対立が存在する場合には、教育事項に関する監護の分掌が問題となる可能性があります。さらに、教育方針を巡る対立が日常生活全般に及び、父母間の協力関係も期待できないような場合には、監護者指定による解決が検討されることもあり得ます。

このように、同じ「教育」を巡る問題であっても、
・単発の紛争なのか
・継続的な紛争なのか
・監護全般に及ぶ紛争なのか
によって選択される制度は異なります。

医療についても同様です。特定の手術への同意のみが問題となっているのであれば、親権行使者指定による対応が考えられます。これに対し、子の持病に関する治療方針全般について父母間で継続的な対立が存在するのであれば、医療事項に関する監護の分掌が問題となる余地があります。また、医療を含む子の養育全般について父母の対立が極めて深刻である場合には、監護者指定が必要となる可能性もあります。

実務家としては、「教育」「医療」「進学」といった表面的な争点だけを見るのではなく、その紛争の性質や広がりを見極めることが重要になると思われます。改正前であれば、監護者指定という一つの制度で処理されていた問題が、改正後は複数の制度に分散されたともいえます。その意味で、共同親権制度の下では、申立ての段階から制度選択を意識する必要があり、従来以上に法的構成力が問われる場面が増えるものと考えられます。

6 施行後2か月時点の実務と今後の展望

共同親権制度が施行されてから約2か月が経過しました。もっとも、現時点で私が経験している事件を見る限り、裁判実務に劇的な変化が生じているという印象はありません。

制度設計上は、監護者指定に先立って、「そもそも監護者指定が必要なのか」という点を検討することが予定されています。監護の分掌や親権行使者指定によって対応できるのであれば、監護者指定は不要であるという考え方です。しかし、少なくとも私が現在担当している監護者指定事件や周囲の実務家から聞く限りでは、そのような必要性審理が前面に出ている印象はありません。

実際には、従来どおり、「父母のどちらを監護者とするのが相当か」という点を中心として調査官調査や審理が進められているケースが多いように感じています。

考えてみれば、これはある意味当然のことかもしれません。共同親権制度が導入されたとはいえ、子の監護状況、親子関係、監護能力、監護継続性といった判断要素そのものは改正前と大きく変わっていないからです。また、監護の分掌や親権行使者指定については、現時点では裁判例や審判例の蓄積が極めて少ない状況です。そのため、裁判所としても、まずは従来型の監護者指定の枠組みを用いながら運用を開始している段階なのではないかと思われます。

もっとも、共同親権を希望する当事者に対する裁判所の視点には、徐々に変化が見られるようにも感じます。改正前であれば、「共同親権を希望する」という主張自体が存在しませんでした。しかし現在では、「なぜ共同親権を希望するのか」だけでなく、「共同親権によって何を実現したいのか」という点が問われるようになっています。例えば、

・教育について引き続き関与したい
・医療について意見を述べたい
・子との交流機会を確保したい
・重要事項について情報共有を受けたい
など、共同親権を希望する理由は様々です。

しかし、その希望を実現するための手段は必ずしも共同親権だけではありません。場合によっては、
・監護の分掌
・親権行使者指定
・親子交流
などの制度によって目的を達成できることもあります。

その意味で、今後の実務では、「共同親権か単独親権か」という二項対立ではなく、「父母間の権限配分をどのように設計するか」という視点がより重要になっていくのではないでしょうか。

私自身、共同親権制度の本質は、親権者を共同にすることそのものではなく、離婚後も父母双方が子の養育にどのように関与し、そのための意思決定ルールをどのように設計するかという点にあるように感じています。現時点では、制度設計と実務運用との間に一定の距離があるようにも見受けられます。しかし、今後裁判例や審判例が蓄積されるにつれ、監護者指定、監護の分掌及び親権行使者指定の役割分担も徐々に明確になっていくものと思われます。

共同親権制度はまだ始まったばかりです。だからこそ、現時点の制度理解だけでなく、今後の実務の動向にも目を向けながら運用を見守っていく必要があるでしょう。

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