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【税理士向け】貸付用不動産の評価方法見直しを解説|新通達の適用範囲と残された疑問点
はじめに
最高裁令和4年判決等を契機として、マンション通達を発出し、居住用の区分所有マンション等の評価の適正化を図ったものの、同通達が適用されない一棟所有の賃貸用マンションをはじめとする貸付用不動産を利用したスキームが依然として散見されており、課税庁は評価通達6項により個別に対応せざるを得ない状況にあります。
こうした実態を踏まえれば、相続税法の時価主義の下、評価の適正化及び課税の公平を図りつつ、納税者の予測可能性を確保することが急務となっていました。
そこで、納税者の予測可能性を確保しつつ、評価の適正化及び課税の公平性を図る観点から、貸付用不動産及び不動産特定共同事業等により小口化された貸付用不動産(「特定小口化商品」)の評価について見直しが行われ、令和8年9月18日法令解釈通達が公表され、令和9年1月1日以後に相続・遺贈又は贈与により取得した財産について適用されることとされました。
そこで、国税庁が公表した貸付用不動産の通達改正のパブリックコメントを基に改正の概要を解説するものです。また、通達の取扱いについて疑問点もありますので、その点についても言及し私見も添えてあります。
そのため、その後において公表される通達改正の追加情報によっては解説と異なる点が生じる可能性があることにご留意ください。なお、紙面の制約上、特定小口化商品の評価の見直し(取得時期にかかわらず課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価する)については、解説を割愛させていただいています。
第1章 貸付用不動産の評価通達で明らかになった点・疑問点
この章では、貸付用不動産の評価方法について、通達で明らかになった点と、なお残る疑問点について解説します。
1. 貸付用不動産の範囲
土地等並びに家屋等のうち、課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得等された貸付用不動産又は当該家屋の敷地の用に供されている宅地の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価することとしました。
(1)借家権の目的となっている家屋又はその敷地
貸付用不動産の範囲については、借家権の目的となっている家屋(※)又はその敷地となっている土地等で、その全部若しくは一部が借家権の目的となっている家屋等とされているので、借家権の目的となっていない駐車場の土地等には貸付用不動産の通達改正の適用はない。
(※)「借家権」とは、建物の賃借権をいい、「借家権の目的となっている」というのは、一般的には「借地借家法の適用のある賃借権」を意味すると言われている。
このため、借地借家法の適用のない「ウィークリーマンションとその敷地」は、借家権の目的となっている家屋又はその敷地に該当しないことになる。
そのほか、一般の駐車場にも借家権が及ばないことから、貸付用不動産の範囲に該当しないことになり、通達改正の対象とならない。
また、一般的に借地借家法の適用がないとされている「社宅」やその敷地の用に供されている宅地は、貸家建付地の評価は行わず、自用地として評価され、借家権の目的となっている家屋又はその敷地に該当しないため、通達改正の適用はないことになる。
(2)全部若しくは一部が借家権の目的となっている家屋等
貸付用不動産の範囲については、借家権の目的となっている家屋又はその敷地となっている土地等で、その全部若しくは一部が借家権の目的となっている家屋とその家屋とともに賃貸されている附属設備又は構築物を含むこととされた。
そのことから、アパートなどの場合で、例えば10室のうち2室が空室であっても、課税時期前5年以内に取得されたものであればすべて貸付用不動産として評価することになる。
(3)相続等によって取得した貸付用不動産
被相続人から相続等によって取得した貸付用不動産について、通達改正の対象とされた。その場合、被相続人から取得した不動産の取得日は被相続人の取得日を引継ぐことから、第二次被相続人の取得期間の判定については、第一次被相続人が貸付用不動産を取得等したときから5年を経過したか否かで判定することになると思われる(私見)。
2. 貸付用不動産の判定
貸付用不動産に該当するか否かの判定は、課税時期の現況で行うとした場合、例えば、居住用の区分所有マンションを令和6年1月に取得し賃貸していたが、令和9年1月に賃借人が退去して次の賃借人が決まるまでの間に相続が開始しても、賃貸が継続しているものとされ、貸付用不動産の評価の適用を受けることになると思われる(私見)。
しかし、令和9年11月に新たな賃借人が決まった直後に相続が開始したら、居住用の区分所有マンションを取得してから5年以内に該当し、貸付用不動産の評価の適用を受けることになる。
3. 貸付用不動産の家屋等
貸付用不動産の家屋等について、通常の取引価額に相当する金額(原則、取得価額を基に算定)によって評価するとは、建物は、原則として取得時から課税時期までの定額法による減価償却費を控除した残額で評価し、課税上弊害がない限り、通常の取引価額(未償却残額×80%)によって評価することができる。
なお、減価償却費の計算において経過年数が1年に満たない期間については1年とする。
4. 貸付用不動産の土地等
貸付用不動産の土地等について、取得価額を基に評価額を算出する場合には、取得時から課税時期までの地価変動の影響等を加味し、斟酌割合(0.8)を乗じて評価することができる、としている。そのため、通常の取引価額の評価では「貸家建付地」として評価することなく、あくまで原則として取得価額で評価する。
【算式】土地等の取得価額×地価変動率(※)×0.8(斟酌割合)
(※)「地価変動率」とは、土地等の取得の時から課税時期までの期間に生じた土地等の価格の変動の割合をいい、次の算式により計算する。
(算式) 地価変動率 = Px÷ Pn
「Px」= 課税時期の属する年に係る評価基準額
「Pn」= 土地等の取得の時の属する年に係る評価基準額
なお、上記算式における「評価基準額」とは、当該土地等の面する路線に評価基本通達14((路線価))に定める路線価が付されている場合には当該路線価、それ以外の場合には評価基本通達21((倍率方式))に定める方式により評価した当該土地等の価額に相当する金額(これらにより地価変動率を求めることが不適当と認められる場合には、公示価格(地価公示法第6条((標準地の価格等の公示))の規定により公示された標準地の価格をいう。)その他公的機関の価格情報で当該土地等と地価事情が類似すると認められるもの)をいう。
地価変動率は、課税時期の年に係る評価基準額を、土地等の取得した年の評価基準額で除して求めることから、評価基準額が上下したらその変動率に応じて土地の評価額も上下することになる。
5. 譲渡の特例の適用を受ける土地等又は家屋等
以下の特例の適用を受ける土地等又は家屋等で、その取得価額が譲渡された土地等又は家屋等の譲渡価額の100分の120に相当する金額を超えない場合には、通達改正の適用はない。
① 収用等に伴い取得等された土地等又は家屋等(措法33①)
② 交換処分等に伴い取得された土地等又は家屋等(措法33の2①)
③ 換地処分により取得された土地等又は家屋等(措法33の3①②④⑥⑧⑨)
④ 収用交換等に伴い取得等された一定の土地等又は家屋等(措法33の4①)
⑤ 特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例の適用を受けた一定の土地等又は家屋等(措法37①)
6. 固定資産の交換によって取得した貸付用不動産
固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例の適用を受けた土地等又は家屋等(譲渡資産の取得等が課税時期前5年以内であるものとの交換により取得された土地等又は家屋等以外のものに限る。)については、通達改正の適用はない。
7. 貸付用不動産に増築又は改築があった場合
課税時期前5年以内に、次に掲げる家屋等が増築又は改築された場合における増築又は改築に係る部分については、通達改正の適用はない。
① 課税時期前5年以内に取得等された家屋等以外のもの
② 課税時期前5年以内に相続等により取得された家屋等(当該家屋等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得等された場合における家屋等を除く。)
8. 経過措置
被相続人等が通達制定日の5年前から所有している土地の上に、通達制定日より前に家屋を新築・建築中の場合には、従前のとおり評価する、としている。
また、通達制定日までに、次に掲げる土地等に新築された家屋等(同日において建築中のものを含む。)については、通達改正の適用はない。
① 同日前5年以内に取得された土地等以外のもの
② 同日前5年以内に相続等により取得された土地等
※ 「建築中のもの」とは、通達制定日までに、家屋等の請負契約その他新築に係る契約が締結され、同日において、当該家屋等の新築に係る工事が行われており、かつ、その費用の全部又は一部が支払われていることをいう。
【通達制定日が令和8年11月1日で課税時期が令和9年4月1日の場合】
| 種類 | 取得日 | 所有期間の判定 | 通達改正の適用判定 | ||
|---|---|---|---|---|---|
| 通達制定日 | 課税時期 | ||||
| ① | 土地 | R2.3.1 | 5年超 | 5年超 | 課税時期において、土地及び家屋の所有期間が5年超で、通達改正の適用はない |
| 家屋 | |||||
| ② | 土地 | R3.10.1 | 5年超 | 5年超 | 課税時期において、家屋の所有期間は5年以下であるが、経過措置の対象となり、通達改正の適用はない |
| 家屋 | R6.9.1 | 5年以下 | 5年以下 | ||
| ③ | 土地 | R3.10.1 | 5年超 | 5年超 | 課税時期において、家屋の所有期間は5年以下であるが、経過措置の対象となり、通達改正の適用はない |
| 家屋 | R8.9(建築中) | 5年以下 | 5年以下 | ||
| ④ | 土地 | R4.3.1 | 5年以下 | 5年超 | 課税時期において、土地の所有期間は5年超で、通達改正の適用はない。しかし、家屋の所有期間は5年以下で、経過措置の適用もなく通達改正の適用を受ける |
| 家屋 | R5.4.1 | 5年以下 | 5年以下 | ||
| ⑤ | 土地 | R6.3.1 | 5年以下 | 5年以下 | 課税時期において、土地及び家屋の所有期間は5年以下で、経過措置の適用もなく通達改正の適用を受ける |
| 家屋 | |||||
9. 取引相場のない株式等の評価における純資産価額の計算
法人が、課税時期前3年以内に取得した土地等及び家屋等の価額は、課税時期における通常の取引価額で評価すると定められている(評基通185かっこ書き)。
法人が課税時期前3年以内に取得した不動産で、通常の取引価額によって評価することとされる不動産については、「貸付用不動産」に限定されていない。
通達改正の適用は、個人が取得等した貸付用不動産に限定されているので、取引相場のない株式等の評価における純資産価額の計算については、貸付用不動産の評価通達の見直しの対象には該当しない。そのため、例えば、土地については、原則として取得価額によって評価され、斟酌率(0.8)は適用されない。
一方、取得時は自用地、課税時期は貸家の敷地の用に供されていれば、課税時期の利用区分を考慮して「貸家建付地」として評価することになる。
10. 小規模宅地等の特例
貸付用不動産の敷地について、小規模宅地等の特例の適用を受けることができるかについては、通達において明らかにされていない。通達改正の適用を受けると取得価額を基に評価されることとされたので、小規模宅地等の特例の適用の余地はないと考えられる。
一方、小規模宅地等の特例について法改正がされていないことから、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例の適用を受けることができるとも思われる。その場合、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(「3年以内貸付宅地等」という。)については、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例の適用を受けることができない(措法69の4③四)としている。
なお、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等であっても、相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業(貸付事業のうち準事業以外のものをいう。)を行っていた被相続人等のその特定貸付事業の用に供された宅地等については、3年以内貸付宅地等に該当しないとされている(措令40の2⑨)。
⇒(私見)租税特別措置法における小規模宅地等の特例の改正がない場合には、課税時期前5年以内に取得等した貸付用不動産の敷地について、一定の要件を満たす貸付事業用宅地等について小規模宅地等の特例の適用を受けることができると思われる。
11. なお残るその他の疑問点
貸付用不動産の評価の見直しについて、なお以下のような疑問点が残ります。
(1)課税時期前5年以内に取得した貸付用不動産を、令和8年12月31日までに贈与を行った場合、現行の通達によって評価することに課税上の問題は生じないか、それとも評価通達6項《この通達の定めにより難い場合の評価》の適用の可能性は考えられるか。
⇒(私見)現行通達によって評価すると、著しく不適当な評価となる場合については、評価通達6項の適用があると思われる。
(2)貸付用不動産の貸付けには、使用貸借によって貸借している場合も含まれるのか。
例えば、父が居住用の区分所有マンションを取得し、これを子へ使用貸借で貸借し、子の家族が居住している場合でも、貸付用不動産とみなして通達改正の適用を受けることになるのか。
⇒(私見)使用貸借による場合には、借家権の目的となっている家屋等に該当しないため、通達改正の適用はないものと思われる。
また、父から使用貸借で貸借した子が、貸主となって第三者に賃貸していても、賃料収入は実質所得者課税によって父の収入とされることから、この場合には、貸付用不動産に該当するとして通達改正の適用を受けることになるのか。
⇒(私見)形式的には、親子間における使用貸借だが、賃料収入が父の収入と判断されることから、通達改正の適用を受けることになると思われる。
(3)同族会社へ無償で貸借している不動産について、通達改正の適用を受けるのか。
例えば、同族会社へ建物を無償で貸借し、同族会社が事業の用に供している場合、貸付用不動産に該当するとみなして通達改正の適用を受けるのか。
⇒(私見)個人間の使用貸借と同様に、通達改正の適用はないものと思われる。
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