レガシィクラウド ナレッジ
2026年民法改正のポイント解説:成年後見制度の見直し・デジタル遺言導入
2026年6月17日、成年後見制度の見直しやデジタル遺言の導入などを内容とする民法等の改正法が成立しました。今回の改正は、高齢化の進展や単身高齢者の増加、デジタル化への対応を背景としており、本人の自己決定権を尊重しながら必要な支援を受けやすくすることが目的です。本記事では、成年後見制度の主な変更点と、相続実務にも影響を与える遺言制度改正のポイントについてわかりやすく解説します。
成年後見制度の見直し
まず、成年後見制度の見直しですが、これは今後さらに進展する高齢化、独居老人の増加に対応するため、成年後見制度を使いやすくするための改正となります。
終身制の廃止
従前の成年後見制度は、一度始めたら、本人が亡くなるまで終わることがないという使い勝手の悪さがありました。というのも、従前の成年後見制度では、判断能力が回復する以外に成年後見制度の利用を止めることができず、高齢者の認知症の場合には、事実上の終身制になっていました。
親族が成年後見人に就任する場合は無報酬なことが一般的かと思いますが、専門家が成年後見人に就任する場合、専門家へは本人の財産から月額の報酬が支払われることになります。成年後見が終了するまで、どれだけに長生きしたとしても報酬を支払い続けることになるということは抵抗感がありますし、現に相続をする側の親族からすると相続財産が減ってしまいますので、実害も生じてしまい、後見申立てを躊躇する要因となってしまっていました。
また、後見人は、「本人のため」のことしかできません。例えば、これまで家族旅行の費用を祖父母から出してもらっていたとしても、成年後見人が就任した後は、家族旅行の費用は、本人分しか出してもらえないようになってしまうなど、家庭に第三者である専門家成年後見人が介入することのやりにくさは否定できません。
これまでの成年後見制度は事実上の終身制でしたので、そのようなやりにくさも、一度後見制度の利用を開始すれば、ずっと続くことになってしまっていました。
これらの事情から、成年後見制度を利用した方がよい状況であるにもかかわらず、その利用を敬遠するということが、事実上、生じてしまっていたのです。今回の改正は、より成年後見制度を利用しやすくするという目的です。そこで、成年後見制度の事実上の終身制については、改正がされました。
「家庭裁判所は、必要がなくなったと認めるときは、・・・審判の全部又は一部を取り消すことができる。」(改正後民法12条2項)として、必要がなくなれば、後見制度(改正後は補助に一本化)の利用を止めることができることになりました。
これにより、遺産分割や不動産売却など、本当に必要な場合にだけ、後見制度(後述しますが、補助に統一されます。)を利用し、必要がなくなったら後見制度の利用を中止するということが可能になると見込まれています。
補助への一本化
次に、成年後見制度は、補助に一本化されます。これまで、本人の判断能力に応じて、後見、保佐、補助の3類型が用意されており、それぞれの類型ごとに本人支援の内容が決まっていました。
しかし、判断能力が乏しくなった場合であっても、本人ができること、できないことにはグラデーションがあります。本人が判断できることについては可能な限り本人の自己決定権を尊重すべきではないかという考えのもと、今回の改正を機に補助に一本化することになりました。
今後は、判断能力に着目して本人の行為を制限するということではなくなります。本人がどのような支援を必要としているかに着目して、例えば、「預金又は貯金の預入又は払戻しの請求をすること」、「不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること」、「相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること」などの特定行為(改正後民法9条2項各号)の中から、選択的に支援の内容を決めていくことになります。
申立人の拡張
その他、細かいところでは、新しい補助制度や任意後見において、本人が指定した者を申立人にすることができるようになります。
現在、独居の高齢者からの相談で、「私が判断能力が乏しくなった場合、だれが後見申立てをしてくれるのですか」と質問されるケースが多くありました。独居高齢者の場合、付き合っている親族がもういないという方も多く、自身が判断能力が乏しくなった場合に、適切に後見開始の申立てをしてくれる方がいないという問題点があったのです。
今回の改正は、その解決になります。今後は、親族ではなくても「本人の指定した者」(改正後民法7条1項)が補助の申立てができるようになるので、独居高齢者にとって安心感が増します。この指定は、公正証書によってしなければならないとされています(改正後民法8条)。
補助人の交代
これまでの成年後見人は、「不正な行為」、「著しい不行跡」、「その他後見の任務に適しない事由」がなければ解任されることはありませんでした(現行民法846条)。
改正後は、「補助開始の審判を受けた者の利益のため特に必要があるとき」(改正後民法876条の5第3号)も解任されることとなります。本人のために補助人を交代する方がよいという場合、不正などよりは緩やかな要件で交代が実現できるようになります。
ただ、どのような場合に、本人の「利益のため特に必要がある」と言えるかは、裁判所の運用次第になるので、運用を見守る必要があります。
意向尊重・生活状況配慮義務
改正後民法876条の11第1項において、「その事務に関する情報の提供をしてその者のその事務に関する陳述を聴取することその他の適切な方法により、その事務に関する意向を把握するようにしなければならない」との規定が追加されました。
従前から、成年後見人は本人の意向を尊重しなければならないとされてはいましたが(現行民法858条)、改正後民法では、情報の提供やヒアリングなど具体的な方法まで記載されるようになりました。
これも可能な限り本人の自己決定権を尊重すべきという視点での改正になります。そう大きな改正ではないように思えるのですが、後述する新法の経過規定において、従前の成年後見制度の適用が続く場合であっても意向尊重、生活状況配慮義務の規定は新法が適用されることとなっています。このことからして、従前の成年後見人についても、本人の意向尊重の度合いを高めようとしている趣旨なのではないかと、筆者は理解しています。
任意後見制度の改正
任意後見についても、申立人の範囲が拡張されました。任意後見契約を締結していても、本人の判断能力が乏しくなった場合でも、任意後見監督人選任の申立てがされないという問題点がありました。というのも、いわゆる移行型の任意後見契約の場合、本人の判断能力が乏しくなってきても、任意後見監督人の介入を防ぎたい、任意後見監督人への報酬を節約したいなどの理由により、適切に任意後見がスタートされないということが生じてしまっていたのです。
そのような事態を防ぐために、任意後見の開始についても、親族や任意後見受任予定者以外の第三者を指定することができるようになります(改正後任意後見法第5条)。この指定も公正証書で行う必要があります。これにより、親族がおらず、任意後見受任者が自身の面倒くささから任意後見の開始をしてくれないというような場合に、第三者の判断で任意後見開始の申立てができるようになり、任意後見開始の適切化が図られることになります。
また、これまでは義務であった任意後見監督人の選任が、絶対条件ではなくなります。「明らかに任意後見監督人による監督の必要がないと認めるとき」(改正後任意後見法第7条5項)には、任意後見監督人を選任しないでもよくなります。
遺言分野
自筆証書遺言の捺印要件
遺言分野については、まず自筆証書遺言の捺印が省略できるようになります。自筆ではない財産目録への捺印も不要になります(改正後民法第968条)。
危急時遺言の省略可
危急時遺言が作りやすくなります。録音及び録画を同時に行う方法により記録する場合には、証人が一人でもよくなります。また、証人の立ち会いは、ビデオ通話などでもよいことになります(改正後民法第976条の2)。これにより、病床などで生命の機器が迫っているという場合の遺言は作りやすくなります。
保管証書遺言(デジタル遺言)
遺言分野での改正の目玉は、デジタル遺言の導入かと思います。これまで、自筆または公正証書で作成する必要がありましたが、今後は、デジタルデバイスで遺言を作成することができるようになります(改正後民法第968条の2)。
ただ、電子署名が必要であったり、遺言書保管官の前で、遺言全文を口述する必要があるなど、一定の要件は必要になります。一般的にデジタル遺言といわれて想像するような、手許でパソコンやスマートフォンで遺言を作成し、末尾に署名だけすればよいという形式ではないことに注意が必要です。
施行時期と経過規定
成年後見制度の改正
成年後見制度の改正は、公布から2年6か月以内に施行とされています。経過規定については、施行前に成年後見が開始されていた場合には、従前の成年後見制度が適用されることになります(附則第2条1項)。ただ、後見人や後見監督人の解任や、後見人の意向尊重・生活状況配慮義務については、新法が適用されます(附則第2条2項、3項)。
また、成年後見人または成年後見監督人は、新制度の補助を申し立てることはできます(附則第2条4項)。新制度の補助が開始された場合は、従前の後見開始審判は取り消されることになります(附則第2条6項)。補助申立てがあった場合、施行日前に後見開始の審判を受けたことは考慮をしてはならないとされています(附則第2条5項)。
新制度の補助の申立ては、成年後見人、成年後見監督人に限られており、親族は申立権者には挙げられていません。そのため、親族が新しい補助とすることを希望しても、成年後見人などが新補助の利用よりも従前の後見の方がよいと判断したら、新補助の申立てはしてくれないということもあるかと思います。
本人、配偶者、4親等内の親族、後見人、後見監督人は、後見開始審判の取り消しを請求することができます(附則第2条7項)。終了原因については未確定ですが、スポット制を導入した趣旨からすれば、財産管理上の必要性がなくなっていれば、従前の成年後見が終了できるようになるかもしれません。
しかし、終了を請求できるとするのみで、終了原因については明記されていませんので、今後の運用を見守る必要があります。
保佐は後見と同じ扱いとなります(附則第3条)。補助については、施行日前に補助開始の審判を受けていたものについては、新法が適用されます(附則第4条)。
遺言制度の改正
遺言制度の改正の施行は2段階に分かれています。自筆証書遺言の押印義務の廃止、危急時遺言の要件の緩和は、公布から1年以内に施行されることになります。なお、施行日前に作成された自筆証書遺言については、引き続き押印がなければ遺言要件を欠き無効です(附則第5条1項)。保管証書遺言(デジタル遺言)については、公布から3年以内に施行されます。
当社は、コンテンツ(第三者から提供されたものも含む。)の正確性・安全性等につきましては細心の注意を払っておりますが、コンテンツに関していかなる保証もするものではありません。当サイトの利用によって何らかの損害が発生した場合でも、かかる損害については一切の責任を負いません。利用にあたっては、利用者自身の責任において行ってください。
詳細はこちら