お問い合わせ

お電話(平日9:00~17:30)

フリーダイヤルのアイコン 0120-00-8377 メールのアイコン メール

レガシィクラウド ナレッジ

【税理士向け】資産家のための遺言書の作り方|特有の問題とその解決方法

資産家の定義を「相続税が課税される者」とし、その場合の遺言書の活用と作成の留意点などを中心に解説することとします。
資産家といっても、超大口資産もいればプチ資産家もいます。また、会社オーナーや不動産オーナーは総じて資産家であることが多いと思われます。
そこで、資産家のための遺言書の作り方について、会社オーナー又は不動産オーナーのための遺言書と、プチ資産家と超大口資産家のための遺言書の作成についての実務上の留意点などについて解説します。

1.遺言書の作成の現状

令和6年における公正証書遺言の作成件数は128,378件、自筆証書遺言の法務局での保管件数は23,419件となっています。

日本財団が公表した「遺言・遺贈に関する意識・実態把握調査:要約版」(2023年1月5日)によると、60歳~79歳で遺言書を既に作成している人は3.5%(公正証書遺言が1.5%、自筆証書遺言は2.0%)で、近いうちに作成するつもりがある人が12.2%と報告しています。

我が国の総人口は、令和5年10月1日現在、1億2,435万人となっていて、65歳以上人口は3,623万人で、総人口に占める割合(高齢化率)も29.1%となっています。

遺言書の作成は、高齢になってから取り組まれる人が多くいるため、今後も遺言書作成のサポート業務は拡大の一途と予想されます。

2. 会社オーナーの場合

(1)会社後継者の支配権の確保

未分割遺産である株式は準共有状態にあるため、会社法106条により、株式についての権利を行使するためには、権利を行使する者を一人定め、その氏名をその会社に通知することが必要で、これをしなければ、その会社がその権利を行使することに同意した場合を除き、その株式についての権利を行使することができません。

そのため、遺言書で確実に過半数を超える議決権を、後継者が確保できるようにしておかなければ、被相続人が考える後継者以外の者が経営権を握ることになるかもしれません。

設例で検証します。

【A社の概要】
① 発行済株式総数 1,000株(すべて普通株式で1株1個の議決権)
② 株主構成 父(被相続人)600株、長男(後継予定者)400株
 なお、父の相続人は、長男、二男及び長女の三名。

父の遺産分割協議が紛糾しA社株式の分割協議が調わない場合、未分割状態の株式は準共有状態にあるため、会社法106条により、株式についての権利を行使するためには、権利を行使する者を一人定め、その氏名をその会社に通知することが必要で、これをしなければ、その会社がその権利を行使することに同意した場合を除き、その株式についての権利を行使することができません。

この場合、準共有状態にある株式600株の議決権の行使について、相続人の3人がそれぞれ1/3ずつ持分を有していることから、準共有状態にあるA社株式600株についてこの3人のうち2人が合意すれば、過半数をもって議決権を行使する者を選任することができます(平成9年1月28日、平成27年2月19日最高裁判決)。

そのため、二男及び長女が合意してA社株式の議決権を行使する者を二男と定め、A社に通知すれば、二男が600株の議決権を行使することができます。その結果、二男が有する議決権数は過半数となり、二男又は長女が会社の経営権を握ることができます。

以上のほか、後継予定者が確実に自社株を相続するための「遺言代用信託」の活用、非上場株式等についての相続税の納税猶予からこの特例の適用を受ける場合など遺言書を残しておかなければ事業承継に支障が生じることがあります。

3.不動産オーナーの場合

(1)賃料収入の帰属

遺言書が残されていないと、遺産分割協議が調うまでの間の賃料収入は、各相続人の法定相続分に応じてそれぞれ帰属するとされています。

遺産分割の効力は相続開始時点に遡って効力を生じますが、その相続財産から生じる財産は、その相続財産とは別の財産であると考えることになります。よって、遺産分割協議により確定したその相続財産と紐付きで分割されず、各相続人が法定相続分で取得することになります。

なお、賃料も相続財産から生じる果実ですので、遺産分割協議で配分方法を決めることは可能です。ただし、所得税の申告においては、遺産分割協議が確定するまでは共同相続人がその法定相続分に応じて申告することとなり、申告後に分割が確定した場合であっても、その効果は未分割期間中の所得の帰属に影響を及ぼすものではないとして、分割の確定を理由とする更正の請求や修正申告を行うことは認められていません。

以上のほか、小規模宅地等の特例の適用や相続登記などにおいても遺言書が残されていると手続がスムーズに進めることができます。

4. プチ資産家の場合

プチ資産家の定義として、遺産の総額が1億6千万円以下の場合と仮定し、プチ資産家が遺言書を作成する場合の効果として、遺産争いの防止が期待できます。

自宅以外に分けるものがない場合など遺産の多寡に関係なく、遺産争いになっている現実を司法統計などから垣間見ることができます。

また、配偶者にすべての財産を相続させるとした遺言書に基づいて、配偶者が相続税の申告書を提出した場合に、子から遺留分侵害額の請求を受け遺留分相当額を支払うことになった場合には、長男は遺留分侵害額の請求によって一定の財産を取得しても、期限後申告書の提出については義務とされていないため期限後申告書を提出する必要はありません。

また、配偶者は更正の請求(※)をすることができませんので、期限後申告をしない長男は税務署長から更正処分を受けることもありません。

(※)更正の請求は、相続税について申告書を提出した者は、一定の事由により当該申告に係る課税価格及び相続税額が過大となったときとしているため、配偶者の相続税額は配偶者の税額軽減の適用を受け当初申告の相続税額は0円であり遺留分を支払っても相続税額は過大となりませんので、更正の請求をすることができません。

5. 超大口資産家の場合

超大口資産の定義として遺産の総額が10億円超と仮定します。国税庁の統計資料によれば令和5年中の相続税の申告(課税状況)によると、10億円を超える件数が887件、20億円を超える件数はわずか305件に過ぎません。

超大口資産家は多額の贈与を積極的に実行している(令和5年中に1億円を超える贈与の件数は513件。)ものと推測されます。贈与税も最高税率は55%ですが、孫やひ孫などへの贈与であっても相続税のように2割加算の制度がないからです。

生前贈与による対策以外には、遺言書の作成も必須の対策であると考えられます。財産の額が多い場合でも、その家にとって核になる財産は特定の財産であることが予想されます。それらの財産は家を承継する者又はその財産を守ることができる者に確実に承継させる必要があるからです。

多額の相続財産を相続させる場合、相続税が高額になることから、生前対策で納税資金対策を怠りなく実行し、かつ、遺言書で相続人ごとの納税資金が不足にならないよう配慮した内容にしておかなければなりません。

● 国税局別の被相続人数(課税状況:令和5年度税務統計:出典 国税庁)(単位:人)
国税局 課税価格階級
1億円以下 1億円超 2億円超 3億円超 5億円超 7億円超 10億円超 20億円超 合 計
札幌 2,563 946 222 140 53 21 22 3 3,970
仙台 4,481 1,719 391 215 61 30 15 4 6,916
関東信越 13,357 5,174 1,227 730 214 159 95 24 20,980
東京 28,191 13,142 3,678 2,340 797 545 481 182 49,356
金沢 2,124 838 195 110 23 18 14 3 3,325
名古屋 13,480 5,868 1,509 911 263 128 90 25 22,274
大阪 15,125 6,498 1,789 1,066 357 196 103 36 25,170
広島 5,430 2,003 412 203 61 35 15 7 8,166
高松 2,867 1,098 256 126 31 17 8 5 4,408
福岡 3,898 1,631 386 222 78 33 30 6 6,284
熊本 2,443 897 212 101 31 14 7 5 3,710
沖縄 519 376 152 84 24 14 7 5 1,181
合計 94,478 40,190 10,429 6,248 1,993 1,210 887 305 155,740

(出典:国税庁統計資料)

● 贈与財産課税価格階級別(令和5年分)
取得財産
価額階級
暦年課税分 相続時精算課税分
申告状況 課税状況 課税状況
人員
(人)
取得財産価
額(百万円)
人員
(人)
取得財産価額
(百万円)
差引税額
(百万円)
人員
(人)
取得財産価
額(百万円)
差引税額
(百万円)
150万円以下 178,996 152,584 95,532 116,056 1,097 2,667 2,628 46
150万円超 44,607 83,441 44,607 83,441 3,432 1,661 3,032 25
200万円超 133,450 394,703 133,450 394,703 25,338 7,217 22,055 138
400万円超 72,474 376,062 72,474 376,062 39,152 10,297 55,927 166
700万円超 21,233 180,339 21,233 180,339 28,655 8,265 73,065 217
1,000万円超 15,599 210,486 15,599 210,486 40,177 11,104 161,480 433
2,000万円超 2,988 71,386 2,988 71,386 15,910 4,848 117,156 786
3,000万円超 1,188 45,323 1,188 45,323 17,611 1,458 55,478 3,485
5,000万円超 526 37,276 526 37,276 17,242 804 55,216 6,843
1億円超 324 53,682 324 53,682 26,841 526 86,334 14,258
3億円超 86 32,429 86 32,429 16,741 93 35,674 6,540
5億円超 61 42,805 61 42,805 21,646 57 37,671 7,202
10億円超 25 36,576 25 36,576 19,255 30 40,342 7,882
20億円超 7 16,101 7 16,101 7,442 5 11,736 2,317
30億円超 7 29,258 7 29,258 16,049 6 20,801 4,130
50億円超 3 16,385 3 16,385 6,275 2 10,331 2,061
合 計 471,574 1,778,837 388,110 1,742,308 302,863 49,040 788,926 56,528

(出典:国税庁 統計資料)

当社は、コンテンツ(第三者から提供されたものも含む。)の正確性・安全性等につきましては細心の注意を払っておりますが、コンテンツに関していかなる保証もするものではありません。当サイトの利用によって何らかの損害が発生した場合でも、かかる損害については一切の責任を負いません。利用にあたっては、利用者自身の責任において行ってください。

詳細はこちら