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【税理士向け】老老相続|特有の留意点と実務対応
老老相続について、昨今の相続相談における推定被相続人の多くの年齢は75歳以上で、「生涯独身」、「結婚しても子がいない」、「子はいるが障害があったり、遠方に居住して頼りにできない」など、おひとり様又はその予備軍の人も少なくありません。
そのような高齢者では相続税の節税よりも、残された人生を如何に有意義に過ごすかを重視する方も少なくありません。また、健康な高齢者がいる一方、要介護者等は増加していて、日常生活において老老介護や死後自分の財産を有効に活用するための具体的な方法など、老後の悩みは尽きません。
そこで、税理士として、お客様の意思能力が低下する前に、様々な方策を提案するために、老老相続の具体例を相続開始前の対策と、相続開始後の対策とに区分し、相談事例に基づいて解説することとします。
1. 相続開始前の対策
ケース1 認知症疑いのある配偶者との2人暮らし、今後の備えを検討したい。
甲(85歳/意思能力あり)・配偶者乙(82歳/意思能力あり)・子なし
甲は現在、配偶者乙と自己所有の自宅に居住しています。体力の衰えは感じていますが、現在意思能力に問題はなく、日常生活も支障なく暮らしています。
乙は介護認定を受けており、在宅介護にて生活しています。乙は時折会話に噛み合わない部分があり、認知症の疑いもあるのかと感じていますが、今のところ2人での生活に大きな問題はありません。
甲は複数の賃貸不動産を保有しており、その運用や確定申告等の手続は税理士と相談の上で進めていました。税理士は甲のX年の確定申告に際し、甲から乙の現在の状況を聞き、甲と乙には子がいないため、今後の対策を検討すべきと考えています。どのように対応すべきでしょうか?
対応策
1.遺言書の作成
遺言書の作成については、甲及び乙がそれぞれ作成し、かつ、遺言者よりも先に受遺者が死亡している場合(例えば、夫がすべての財産を妻に相続させるとした遺言書を作成しても妻が先に亡くなっている場合)に備えて、補充遺贈(例えば、妻に相続させるとしている財産について、妻が先に死亡していた場合には、〇〇に遺贈する)を忘れずに記載にしておくことです。
2.不動産の管理
甲の意思能力が低下しても不動産の賃貸経営をスムーズにできるように賃貸管理業者との一括借上契約を検討しておくようにします。賃貸管理業者との一括借上契約を締結するときに甲の意思能力があれば契約は成立し、定められた契約内容にしたがって賃貸管理業者が不動産の管理業務を行ってくれます。
3.断捨離
終活においての「断捨離」とは必要ない物を可能な限り処分し、最低限度の物品に囲まれて生活を続けることです。物を処分する他「自分の心を整理する」といった意味も込められています。人生を振り返りつつ思い出の品を整理することも必要と考えます。
以上のケースのほか、以下のような事例にどのように対応すればよいか検討します。
ケース2 自宅を売却して老人ホームに入居したい。どう対応する?
ケース3 配偶者と障害のある子のために生前の備えをしたい
ケース4 認知症の配偶者と同じ老人ホームに入居したい。配偶者の財産管理はどうする?
ケース5 金融機関から親の認知症疑いを伝えられた。定期的な贈与や資産管理はどうなる?
ケース6 事業承継を計画中の会社オーナーに意思能力の低下がみられる。万一の備えをしたい。
2. 相続発生後の対応
ケース1 老人ホームに認知症の配偶者だけが残された。相続手続と生活支援はどうなる?
甲(90歳/被相続人)・配偶者乙(85歳/意思能力低下)・子なしで甲の相続発生
甲と配偶者乙は体調を崩しがちになり、自宅での日常生活に支障をきたすようになったため、数年前から老人ホームに入居していましたが、最近乙に認知症の症状がみられ著しく意思能力が低下しています。甲は意思能力に問題はなかったため、乙の生活を案じ、税理士と相談しながら資産運用を続けていましたが、この度甲は病に伏し他界しました。
甲の相続開始に伴う相続人は配偶者乙だけです。この場合、甲の相続手続と乙の今後の生活支援はどのようにすればよいでしょうか?
対応策
1.成年後見人の選任を申立て
このケースでは、配偶者乙が自ら申立てをすることは困難と思われますので、乙の4親等内の親族から申立てをしてもらうことになります。そのため、税理士は乙の親族を調べて成年後見人の申立てをしてもらうようにしましょう。
2. 老人ホームの入居一時金を甲が全額支払っている場合
有料老人ホームは、その入居の際、入居一時金を支払うところが多く、入居年数に比例して償却されていきますが、未償却部分があれば亡くなった際に返還金として返還されます。
夫婦で入居している老人ホームの入居一時金を甲が全額支払っていた場合、甲が死亡しても乙は引き続き入居を継続することができます。この場合、入居一時金は返還されず、残金の償却期間等は乙が引き継ぐことになります。このような場合であっても、甲死亡時における入居一時金の未償却部分のうち甲の入居一時金の負担割合に相当する額は甲の相続財産になります。
3. 相続手続
配偶者の乙のみが相続人となるため乙がすべての財産を相続することになります。その場合の法定相続分は乙が100%であることから、相続税の申告することを要件として乙は配偶者の税額軽減の適用を受けて納付すべき相続税額はないことになります。
乙の相続税の申告は、成年後見人が乙に代わって行うことになります。
以上のケースのほか、以下のような事例にどのように対応すればよいか検討します。
ケース2 残された配偶者と子が故人の遺言書を発見。扱いはどうすればいい?
ケース3 故人の配偶者の面倒を見る予定の子が、故人の全財産を相続しても大丈夫?
ケース4 財産を寄附する意向があった依頼者が他界。相続手続はどうなる?
ケース5 認知症の親が生前に契約した、自宅不動産の売却。これって有効なの?
ケース6 故人の配偶者が体調不良で相続手続の相談ができない。相続税の申告期限はどうなる?
ケース7 配偶者を亡くした親に、自宅を売却して相続税を払い、老人ホームに入居するよう説得したい。
(※)老老相続の問題点等については、弊著「老老相続の問題点と対応策」(大蔵財務協会)を参照いただければ幸いです。
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