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自社株の評価額算定や移転対策時の失敗事例・防止策
日本の相続税は、遺産取得課税方式とされていることから、相続や遺贈又は贈与する場合には相続人(又は受贈者)が同族株主か否か、同族株主に該当する者でも取得後の議決権割合などによって支配権を有する株主に該当するか否かによって自社株の相続税評価額は大きく異なります。
そのため、自社株対策においては、誰に何株移転するのか慎重に検討しなければなりません。
また、自社株対策では、自社株の評価明細書を分析すれば株価引下げ対策の効果的な方法を発見することにつながります。たとえば、評価会社の会社規模区分を大きくすれば、それだけで株価は下がる事例もあります。
自社株に関する失敗事例では、自社株の相続税評価額の算定に関する誤りと、自社株の移転対策の失敗事例に大別されます。
1. 相続税評価額の算定に関する誤り
自社株の相続税評価額の算定に関する誤りのうち、実務上重要なものや頻度の高いものについて解説します。
(1)姻族関係終了届の提出(株主の判定)
夫婦が離婚すると姻族関係は自動的に終了します。しかし、夫婦の一方が死亡しても、遺された配偶者と死亡者の親族との姻族関係は終了しません。遺された配偶者が死別後「姻族関係終了届」を、届出人の本籍地または所在地のいずれかの市区町村役場に提出すれば、届けた日からその姻族関係を終了させることができます。
そのため、取引相場のない会社の株主にとっては、同族株主のうち夫婦の一方が死亡している株主がいる場合には、姻族関係終了届の提出の有無によって、同族株主の判定に大きな影響を与えます。
例えば、A社の株主が父と母の弟の二人であれば、父が、母の弟が死亡する前に、父が「姻族関係終了届」を提出しておけば、弟の子(乙)は同族株主に該当しないことから、乙が相続したA社株式は、「特例的評価方式」によって評価することができます。
しかし、A社の株主が父・父の子(甲)及び弟の3人である場合には、「姻族関係終了届」を提出してあっても、弟の子(乙)は、甲から判定すると同族株主に該当することから、乙が相続したA社株式は「原則的評価方式」によって評価されます。この場合には、弟が死亡する前に「姻族関係終了届」を提出し、かつ、甲が所有するA社株式を、父が全株買取るなどしておけば、乙は同族株主に該当しないことから、乙が取得するA社株式は、「特例的評価方式」によって評価することができます。
(2)類似業種の判定(類似業種比準価額)
類似業種は、大分類、中分類及び小分類に区分して別に定める業種(以下「業種目」という。)のうち、評価会社の事業が該当する業種目とし、その業種目が小分類に区分されているものにあっては小分類による業種目、小分類に区分されていない中分類のものにあっては中分類の業種目によります。
ただし、納税義務者の選択により、類似業種が小分類による業種目にあってはその業種目の属する中分類の業種目、類似業種が中分類による業種目にあってはその業種目の属する大分類の業種目を、それぞれ類似業種とすることができます。
そのため、大分類のみの業種目に該当する場合以外では、2つの業種目を選択・計算し、有利選択することが重要です。
類似業種の株価だけをみると、「中分類」の株価の方が低くなっていても、比準要素を反映して類似業種比準価額を計算すると、「大分類」の類似業種比準価額の方が低く算定されることがあります。
このように、類似業種の株価だけで判定すると高く評価されることになります。
(3)課税時期3年以内取得家屋(純資産価額)
評価会社の株式に係る1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)を計算する場合において、評価会社が「課税時期前3年以内に取得又は新築した土地等及び家屋等の価額」は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価するものとされています。
例えば、法人でアパート新築後、3年以内に相続が開始し家屋を賃貸の用に供した場合には、取得時の利用区分(自用の家屋)と課税時期の利用区分(貸家)が異なることから、その家屋が自用の家屋であるとした場合の課税時期における通常の取引価額を求め、次に貸家の評価の定め(借家権30%を控除)を適用して減額した金額が通常の取引価額に相当する金額とされます。
(4)土地の無償返還に関する届出書が提出されている場合(純資産価額)
被相続人が同族関係者となっている同族会社に土地を貸し付け、賃貸借による「土地の無償返還に関する届出書」が提出されている場合には、当該同族会社の株式の評価(純資産価額方式)上、借地権の価額として、その土地の自用地としての価額の20%に相当する金額を資産の部に計上することとされています(相当地代通達8項)。
しかし、同通達なお書では、「被相続人が同族関係者となっている同族会社に対し土地を貸し付けている場合」に被相続人が所有する同社の株式を評価する際の借地権の価額についての定めであって、土地所有者と株式所有者が同一であることを前提としているものです。したがって、これらの土地の所有者が被相続人ではない(=土地所有者と株式所有者が同一でない)場合には、上記借地権相当額(20%)の計上は不要です。
2. 自社株の移転対策の失敗事例
自社株の移転対策の失敗事例には、以下のようなものがあります。
(1)同族株主でも配当還元方式によって評価することができた
同族株主が取得する株式の評価方法は、原則として会社の業績や資産内容を株価に反映させた原則的評価方式(類似業種比準方式、又は純資産価額方式、あるいはそれらの併用方式)で、その他の少数株主が取得する株式の評価は、特例的評価方式(配当還元方式)により行います。
しかし、同族株主であっても、①他に中心的な同族株主がいてその者が中心的な同族株主でなく、②相続・贈与又は譲渡により株式を取得した後の議決権割合が5%未満で、かつ、③役員でなければ、原則的評価方式ではなく、配当還元方式を適用することができます。
一方、自社株を分散しすぎると同族の支配権が確保できなくなるケースや、分散した後に株を買戻そうとする場合に、その価額でトラブルになるなどの心配があります。特に買戻す場合の価額については、配当還元価額により移転した株であっても、同族株主が配当還元価額で買戻すと贈与税が課税される可能性が高いので注意が必要です。
(2)相続時精算課税贈与によって自社株を贈与したが、相続開始時の自社株の相続税評価額が値下がりしていた
相続時精算課税は60歳以上の親又は祖父母から18歳以上の子である推定相続人(代襲相続人を含みます。)及び孫への贈与について、受贈者の選択により、暦年課税による贈与税の課税に代えて適用を受けることができます。
相続時精算課税を選択した受贈者に係る相続税額は、特定贈与者が亡くなった時に、それまでに贈与を受けた相続時精算課税適用財産の価額と相続や遺贈により取得した財産の価額とを合計した金額を基に計算した相続税額から、既に納めた相続時精算課税に係る贈与税相当額を控除して算出します。
なお、相続財産と合算する相続時精算課税適用財産の価額は、原則として贈与時の価額(令和6年1月1日以後の贈与により取得した相続時精算課税適用財産については、贈与を受けた年分ごとに、相続時精算課税適用財産の贈与時の価額の合計額から相続時精算課税に係る基礎控除額を控除した残額)とされています。
そこで、評価会社の一株当たりの利益金額が大きいために類似業種比準価額が高いことが自社株の相続税評価額を引き上げている原因となっているときには、一株当たりの利益金額を引き下げる工夫(たとえば、役員退職金の支払いなど)からはじめます。そして、株価が下落したときに相続時精算課税により後継者に一括して贈与することで、その後の一株当りの利益金額が大きくなって株価が上昇しても、その影響を受けずに相続することが可能となります。
しかし、相続時精算課税による贈与を受けた財産の価額が、相続時精算課税に係る贈与者の死亡までの間に値下がりした場合には、受贈者の相続税だけでなく他の共同相続人の相続税の負担にも影響を与えますので、そのことに留意しておかなければなりません。
(3)後継予定者である長男(妻と子がある)が先に死亡したため、現経営者である父が自社株を相続することができなかった
相続の開始は、年齢順とは限りません。後継予定者が先に死亡する場合も皆無ではありません。
そこで、後継予定者に自社株の大半を移転しても、逆縁になる場合に備えて、現経営者が議決権を確保することができるようにしておくことも検討課題と考えます。
例えば、父は後継予定者の長男に自社株の大半を生前贈与や譲渡によって移転した後に、長男が先になくなったときは、長男の妻や子が相続人となり、父には相続権がありません。
そのため、自社株は長男の相続人にわたり、父は会社への支配権がなくなることになります。
このような場合に備えて、種類株式等の活用によって、「支配すれども所有せず」を実現することが相続対策のポイントです。「支配すれども所有せず」を実現するために、信託による方法や会社法に規定する種類株式等の活用が考えられます。具体的には、父が所有する自社株を後継者へ生前に移転するものの、父に議決権を残す方法を検証します。
① 信託を活用して、自社株を「受益権」と「議決権行使の指図権」に分離して、受益権は子へ贈与等を行い、議決権行使の指図権は父が保有しておく(信託法35③)
② 拒否権付種類株式(株主総会や取締役会のすべての事項に拒否権を与えることも、一部の決議事項(たとえば、合併決議など会社再編にかかわる事項)についてだけ拒否権を与えることも可能)を父が保有する(会社法108①八)
③ 議決権制限株式(例えば、無議決権株式)に組み換えて、子へその株式の贈与等を行い、父は議決権の制限のない株式(普通株式)を保有しておく(会社法108①三)
④ 属人的株式に関する規定(会社法109②)を定款に設け、父が所有する株式にだけ相当数の議決権を有する(例えば、父が保有している株式は、1株について50個の議決権があるなど)ようにしておく
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