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契約書レビューのやり方|個別の契約条項をレビューする際の思考手順と視点
契約書をレビューするうえで確認すべき事項は、大別して、「契約書全体について確認すべき事項」と「個別の契約条項について確認すべき事項」に分けることができます。
前者では、取引(スキーム)自体の適法性や法定記載事項の充足性、契約書全体の整合性の確認などを行いますが、本稿では、後者、すなわち個別の契約条項をレビューする際の思考手順や視点について解説します。
個別の契約条項をレビューする際の基本的な思考手順
個別の契約条項をレビューする際の基本的な思考手順は、以下のとおりです。
① デフォルトルールを把握する
② 自社の立場(例:売主、買主)からデフォルトルールをどのように変更または具体化すべきかを検討する
③ ②で検討した内容が反映された契約文言になるように契約条項をドラフト・修正する
以下、①~③につき個別に解説を加えます。
① デフォルトルールを把握する
法律に定めのある事項については、契約で特別なルールを定めない限り、この法律上の帰結が適用されることとなります。言い換えれば、法律上の帰結がデフォルトルールになるということです。そこで、まずは、法律上の帰結を把握するようにしましょう。
損害賠償条項を例にすると、法律上は、民法415条(債務不履行による損害賠償)及び同416条(損害賠償の範囲)の規定が存在し、これらがデフォルトルールとなります。したがって、まずは、民法415条及び同416条の規定がどのような規定なのか(どのようなルールを定めているか)をきちんと把握することが出発点になります。
なお、その事項に適用される法律の規定がそもそもわからないという場合には、書籍で調べるとよいでしょう。たとえば、阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式 企業実務家視点の雛形とその解説 第2版』(有斐閣、2019年)には、契約条項ごとのデフォルトルール(法律上の帰結)が解説されています。
また、契約条項によっては、法律上の規定がそもそも存在しない場合もあります。このような場合には、法律上の帰結の代わりに、「当該契約類型における一般的な条項」をデフォルトルールとして考えるとよいでしょう。「当該契約類型における一般的な条項」が分からないという場合にも、やはり、書籍が参考になると思います。
② 自社の立場(例:売主、買主)からデフォルトルールをどのように変更または具体化すべきかを検討する
デフォルトルールを把握したら、次に、自社の立場(例:売主、買主)から、そのデフォルトルールをどのように変更または具体化すべきかを検討します。
これらを検討するうえでは、以下の5つの視点を持っておくとよいでしょう(幅野直人著『企業法務1年目の教科書 契約書作成・レビューの実務』(中央経済社、2024年)27頁より引用。括弧は本稿での加筆。)。
・当事者(クライアント)の意向を反映する
・自社(クライアント)にとって不利にならないようにする
・適法性を確保する
・紛争を予防する
・実効性を確保する
以下では、損害賠償条項をレビューする場合を例に、これらの5つの視点について解説します。
当事者(クライアント)の意向を反映する
まず、当然ながら、当事者の意向を反映する必要があります。ここでいう「当事者の意向」とは、外部の弁護士であれば、クライアントの意向になります。クライアントの意向を反映する前提として、クライアントの意向を把握しておく必要がありますので、ヒアリングが重要になってきます。
損害賠償条項の例でいえば、クライアントに「自社が負う賠償責任に上限を設定したい」という意向があれば、その意向を契約条項にどう反映していくかを検討することになります。
自社(クライアント)にとって不利にならないようにする
上記のようにクライアントに特別な意向がある場合にはもちろんのこと、仮にそういった意向がない場合にも、契約条項がクライアントにとって不利な条項となっていないかの確認・検討は必要です。
クライアントにとって不利な条項となっていないかを検討するうえでは、デフォルトルールとの比較の視点はもちろんのこと、「クライアントの立場がどのようなものなのか」を踏まえた検討をすることが必要です。
損害賠償条項の例でいえば、クライアントの立場が損害賠償義務を負いやすい側なのか(もしそうであるとすれば、損害賠償責任を負う場面を限定できないか)、損害が発生した場合に相手方に与える損害が高額になることが想定されるのか(もしそうであるとすれば、賠償範囲を限定できないか)といった点を踏まえて、クライアントにとって不利な条項となっていないかを検討します。
なお、必ずしも、クライアントに(一方的に)有利な内容にすればよいというわけではないということに留意してください。当該契約における交渉力(バーゲニングパワー)や一般的な商慣習を無視した内容の提案をすることは、契約交渉をかえって難しくしてしまうおそれがあります。
適法性を確保する
契約条項の内容が法律の規定に違反するものでないかも確認しましょう。
契約条項をクライアントにとって有利な内容とする場合にも、それが強行規定に反する内容である場合、当該内容を定めた契約条項は無効となってしまいます。特に特別法の適用があるケースの場合にはより一層注意が必要でしょう。
損害賠償条項の例でいえば、たとえば、その契約が「消費者契約」(消費者契約法2条3項)に該当するケースの場合には、消費者契約法8条ないし10条に反する内容となっていないかを確認することが必要になります。また、特別法の適用がないケースにおいても、あまりに一方的過ぎる内容、たとえば、当事者の一方のみの損害賠償義務を完全に免除するような内容の場合には、公序良俗違反(民法90条)となる可能性が高いでしょう。
紛争を予防する
契約書の内容は、後の紛争を予防できる内容としておくべきです。
実際に問題が発生した段階で話し合いによって問題を解決することは難しい場合が多く、問題が顕在化する前の契約交渉段階であらかじめ問題の処理方法を協議し契約書にその処理方法を定めておくことは、後の紛争(ないし紛争の激化)を予防することにつながります。そのため、契約条項を検討するうえでは、あらかじめ問題となる可能性のある事項とその処理方法を定めることができないか検討しておくべきでしょう。
また、曖昧な契約条項は、それ自体紛争の火種となりえます。したがって、契約条項の内容は、その要件と効果ができるだけ明確になるように定めておくことが望ましいといえます。
損害賠償条項の例でいえば、たとえば、「損害賠償については、協議して定めるものとする」というように、損害が発生した場合の処理方法をきちんと定めないような内容とすることはできるだけ避けるべきでしょう。
実効性を確保する
契約条項の内容は、実際の運用においてワークする内容となっていないとその条項を定めた意味がありません。そこで、契約条項を検討するうえでは、その内容が実効性のあるものであるかもきちんと検討するようにしましょう。
損害賠償条項の例でいえば、相手方の損害賠償義務についてきちんと定めていたとしても、相手方の資力に不安があるという場合には、(損害賠償条項に基づいて、損害賠償請求権自体は取得するとしても、)実際にクライアントが損害賠償請求をした場合に相手方から損害金を回収できる可能性は低いかもしれません。そこで、損害賠償条項に実効性をもたせるべく、たとえば、あらかじめ相手方から保証金を預託してもらい、万一クライアントに損害が生じた場合にはその保証金から損害金を差し引く形で損害賠償請求額を回収できるような内容とすることができないかを検討することが考えられます。
③ ②で検討した内容が反映された契約文言になるように契約条項をドラフト・修正する
上記②の検討結果が正しく反映されるように、契約条項をドラフト・修正していきます。他の意味に解釈されるおそれのないような明確な契約文言とすることが重要です。
もっとも、契約書の文言は、特殊な言い回しであることが多く、特に慣れないうちは、契約条項をドラフト・修正することは難しく感じてしまうかもしれません。
そこで、契約条項をドラフト・修正するうえで、意識しておくべきポイントを以下で解説します。
権利・義務の主体、要件、効果の特定
契約条項は権利または義務を定めるものがほとんどです。
したがって、まずは「①権利・義務の主体」をきちんと記載しましょう。そして、「②その権利・義務が発生するための条件(要件)」を記載します。最後に、その要件を満たす場合に、「③どのような権利・義務が発生するのか」、すなわち、「その契約条項の効果」を記載します。
たとえば、以下の契約条項を見てください。
第●条(損害賠償)
甲及び乙は、本契約の条項に違反して相手方に損害を与えた場合、相手方に生じた損害を賠償しなければならない。
この契約条項では、①義務ないし責任の主体を、甲乙の双方とし、②要件を、「本契約の条項に違反して相手方に損害を与える」こととし、③効果を、「相手方に生じた損害を賠償しなければならない」として、損害賠償義務を負うことを定めているということがわかります。
具体例
上記を踏まえ、上記の損害賠償条項例を修正する場合の具体例を紹介します。
たとえば、「・自社(クライアント)にとって不利にならないようにする」場合、上述のとおり、クライアントの立場が損害賠償義務を負いやすい側であるとすれば、損害賠償責任を負う場面を限定できないかを検討することになります。そして、損害賠償責任を負う場面を限定することは、②要件を厳格なものにすることで、契約条項に反映することが可能です。
そこで、たとえば、以下のように、「故意又は重過失のある場合に限って、」を追記し、損害賠償義務が発生するための要件として「故意又は重過失」を追加する(軽過失の場合を免責する形にする)ことで、損害賠償責任を負う場面を限定する方法が考えられます。
第●条(損害賠償)
甲及び乙は、本契約の条項に違反して相手方に損害を与えた場合、故意又は重過失のある場合に限って、相手方に生じた損害を賠償しなければならない。
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