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消費税の実務|駐車場・社宅・免税事業者の誤りやすい事例検討
本記事では、消費税の実務に関して、駐車場・社宅・免税事業者の事例を通して誤りやすい項目を解説しています。
駐車場の課非判定について
消費税の非課税取引とされるものは限定列挙されています。その非課税取引の中に、「土地の貸付け」が含まれていますが、実務上、駐車場の利用とともに土地が貸し付けられている場合が多いです。この駐車場に係る課非判定は、判断に迷うことがあるので、2つの事例をもとに考え方を整理します。
事例1
更地である土地に借主がアスファルト舗装をしたうえで駐車場として利用している場合、この地代は課税取引となるでしょうか。
一見すると、駐車場として利用している土地の貸付けにあたるので、課税取引として判断しそうになります。しかしながら、この場合、地面の整備(アスファルト舗装等)を借主が行っています。消費税基本通達6-1-5において、『事業者が駐車場又は駐輪場として土地を利用させた場合において、その土地につき駐車場又は駐輪場としての用途に応じる地面の整備又はフェンス、区画、建物の設置等をしていないときは、その土地の使用は、非課税とされる土地の貸付けに含まれる』とされています。
したがって、この事例における土地の使用については、土地そのものの貸付けであるため、非課税とされる土地の貸付けに該当すると判断されます。したがってこの地代については、仕入税額控除としてはいけません。
事例2
駐車場用に舗装されている土地を資材置き場として賃借した(1月以上)場合を検討してみます。この土地は、駐車場用に舗装されているため、駐車場その他の施設の利用に伴って土地が使用される場合に該当し、支払う賃料は仕入税額控除としても問題ないでしょうか。
非課税とされる土地の貸付けの範囲から、「土地の貸付けに係る期間が1月に満たない場合」及び「駐車場その他の施設の利用に伴って土地が使用される場合」を除くと規定されている(消法別表2一、消令8)。この事例の場合のその土地は、駐車場用に舗装されているものの、資材置き場として使用しています。賃貸人は、資材置き場の用地として使用するために貸付けるのであって、駐車場として舗装されているとしても、その舗装は駐車場として利用させる状態がそのままになっているに過ぎません。つまり、資材置き場の用地として使用するためのその土地の貸付けは、土地そのものの貸付けである非課税取引となり、この場合に支払われる賃料は、仕入税額控除出来ません。
なお、「土地の貸付けに係る期間が1月に満たない場合」における、1月の取り扱いにも注意しておきたいところです。契約締結時における貸付期間が1月以上であったが、契約の後に生じた何らかの事情により、結果的に1月未満の貸付けとなった場合には、契約の定めにより判断することになるため、実務上は契約書の確認もする必要があります。
社宅の課非判定について
「住宅の貸付け」について非課税取引であると限定列挙されていますが、主に社宅の取り扱いの判断に迷うことが多々あります。事例3つ目に社宅の課非判定について検討します。
事例3
従業員の長期出張の際に、月単位で部屋を借りるマンスリーマンションを社宅として2カ月間利用している場合、この利用料について、仕入税額控除の適用は可能でしょうか。
契約において居住の用に供していることが明らかな貸付けに係る対価は,非課税取引となります(消法別表2-13)。ただし、「貸付期間が1月に満たない及び旅館業法における“旅館業”に係る施設の貸付け」については、その対価には消費税が課され、課税取引となります(消令16の2)。
マンスリーマンション等は“マンション”というものの、一般的には旅館業に該当することが多く、旅館業に該当するものであれば貸付期間が1月以上でも、その費用は課税仕入れとなります。しかしながら、ウィークリーやマンスリーといった名称であっても、様々な管理、経営形態などがあるため、一概にすべて旅館業に該当するとはいえず、旅館業に該当しない(施設の衛生上の維持管理責任が利用者にある)ものとして、貸付期間が1月以上の場合には非課税、1月未満の場合には課税取引となる場合もあります。
実務上は、請求書等を確認したうえで、消費税の記載がない場合には旅館業に該当していないことが予想されるため、住宅の貸付として非課税取引となり、仕入税額控除の適用は出来ないため、注意する必要があります。
消費税の計算方法として、個別対応方式が採用される場合、社宅に係る費用の判断は慎重に行う必要があります。
事例4
小売業のA社は社宅を借上げ、社員へ社宅として使用させています。なお、社員から受領する社宅の賃貸料は非課税売上として計上しています。個別対応方式を採用している場合、
①「社員の転勤に伴う引っ越し費用」
②「社宅の借上げ時に不動産仲介業者へ支払う仲介手数料」
③「賃貸人である不動産業者へ支払う社宅の更新料」
の用途区分はどのように区別するでしょうか。
個別対応方式により仕入税額控除の計算をする場合には、「課税対応仕入」「非課税対応仕入」「共通対応仕入」を正確に区別する必要があります(消法30)。
①の「引っ越し費用」は、社員の住居の引っ越しに係るものであり、A社が課税資産の譲渡等(通常の商品販売による課税売上)と非課税資産の譲渡等(社宅の賃貸料による非課税売上)を行っているため、 「共通対応仕入」に該当します。
②の「仲介手数料」は、社員に住宅として転貸するための住宅用の建物に係る非課税売上に対応するものであるため、「非課税対応仕入」に該当します。仮に、社宅の賃貸料を収受していない場合には、「共通対応仕入」に該当します。
③の「社宅の更新料」は、賃料を追加で支払った、というような賃料と同じ性質のものです。よって、社員に住宅として転貸するための住宅用の建物の借受けに係るものであり、その借受けが非課税とされる建物の貸付けに係るものである場合には、非課税となる家賃と同様に課税仕入れに係る支払対価に該当せず、仕入税額控除の対象となりません。
また、住宅の貸付けであるかの判定では、令和2年度税制改正前においては、契約において居住の用に供していることが明らかにされているものに限られていましたが、改正により、令和2年4月1日以後については、契約において貸付けに係ることが明らかでない場合において、その貸付け等の状況からみて居住の用に供していることが明らかであるときは、非課税取引となる住宅の貸付けに該当することとなります。契約状況及び実態も確認しながら、課非判定を行うようにしていきましょう。
免税事業者に関する事例について
消費税の納税義務判定は、慎重に行う必要があります。事例5つ目は納税義務の事例について検討します。
事例5
A社(3月決算)は、令和4年4月に設立し倉庫の賃貸業を開始しました。賃料は、契約書で月額80万円(税込88万円)と定めています。令和6年の納税義務の判定を行っています。免税期間である令和4年中の収入は1,056万円(税込88万円×12月)ですが、うち消費税部分を除いた売上高960万円(80万円×12月)を基準期間における課税売上高として、免税事業者になると判断しても問題ないでしょうか。
基準期間における課税売上高とは、「課税資産の譲渡等の対価の額の合計額」から「売上に係る税抜対価の返還等の金額の合計額」を控除した残額をいいます(消法9②③)。「課税資産の譲渡等の対価の額」とは、対価として収受する一切の金銭であり、消費税相当額及び地方消費税相当額は含まれません(消法28①、消令45①)。
ただし、基準期間である課税期間において免税事業者であった事業者が、その基準期間である課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等については消費税が課されていない(消基通1-4-5)とされています。
よって、その事業者の基準期間における課税売上高の算定は、免税事業者であった期間中にその事業者が国内において行った課税資産の譲渡等に伴って収受した金額の全額がその事業者の基準期間における課税売上高となるため、課税事業者となります。
今回の事例について詳細に納税義務の判定を検証してみます。設立1期目は基準期間及び特定期間がないため、納税義務は発生しません。設立2期目は、基準期間なし、特定期間における課税売上高は1,000万円以下のため、納税義務は発生しません。
設立3期目は基準期間が免税期間であった設立1期目ですので、消費税相当額を含む88万円×12月=1,056万円が基準期間における課税売上高となり、1,000万円超のため、課税事業者となります。設立4期目の基準期間は免税期間であった設立2期目となり、設立3期目と同様、88万円×12月=1,056万円が基準期間における課税売上高となり、課税事業者となります。
それでは設立5期目はどうでしょうか。基準期間は、設立3期目です。設立3期目・4期目の納税義務判定とは異なり、基準期間が課税期間であるため、基準期間における課税売上高は、消費税相当額は含まれません。よって、80万円×12月=960万円が基準期間における課税売上高となり、1,000万円以下のため、免税事業者となります。毎年、賃借人から収受する金銭は、毎年同額にもかかわらず、2年周期で納税義務が発生するような、少しいびつな判定となることに注意が必要です。
事例6
事例6つ目も納税義務の判定について整理します。設立2期目の免税事業者(基準期間なし、特定期間における課税売上高:500万円、特定期間における給与等の額:1,500万円)であるA社(12月決算)は、令和5年8月に1億円の商業ビルを取得しました。この取得費について仕入税額控除の適用を受けるため、還付の申告を行おうとしたところ、令和4年12月31日までに課税事業者選択届出書の提出を失念していたことが判明しました。還付を受けることはできないでしょうか。
課税事業者選択届出書の提出期限は、「課税事業者となることを選択しようとする課税期間の初日の前日まで」であるため、令和4年12月31日までに提出がない場合には、課税事業者選択届出書の提出により課税事業者となることはできません(消法9④、消規11①)。
ただし、特定期間による納税義務の免除の特例によると、特定期間における課税売上高は、「課税売上高」と「給与等の金額に相当する額」のいずれかにより判定することが可能です(消法9の2③)。「課税売上高」と「給与等」のどちらを選択して判定するかに定めはなく事業者の任意です。そのため、特定期間における課税売上高の特例の判定方法により、課税事業者を選択し、消費税の還付を受けることが可能です。
この事例において、2期目の納税義務の判定方法は、基準期間はなし、課税事業者選択届出書の提出はなし、特定期間における課税売上高は500万円である一方で、特定期間における給与等の金額は1,500万円です。つまり、給与等の判定方法を採用することにより1,000万円超となるため、課税事業者となり、商業ビルの取得に係る還付の申告をする事が可能となります。
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