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【税理士向け】相続税業務入門者のためのミス防止事例集

本記事では、長年の相続税の申告業務を体験した中で自らが「失敗した」事例を紹介しています。また同じ失敗をされないようその原因も分析して解説します。

はじめに

相続税の業務は単発事案ではありません。相続税の申告では、同じ人が二度死ぬわけではありませんので、その人の相続税の申告業務だけを捉えて判断すると「単発事案」のように思えます。

しかし、相続税は親の世代から次の世代へ財産が承継される際に課税される税金であることから、配偶者がいる場合、第一次相続開始から10年以内に配偶者の相続が開始する事例が多くあります。このことから、第一次相続の遺産分割で、配偶者が何をいくら相続するかは第二次相続対策の出発点であるとも考えられます。

そうすると第一次相続の申告業務は、遺産分割を工夫しながら、第二次相続対策の検討が同時並行して行われることになります。そして、第一次相続の申告が終了した後は、第二次相続対策を実行に移し、その後に第二次相続の申告業務が発生するというスケジュールになります。

さらに、昨今では被相続人が超高齢者であることも珍しくないことから、相続人である子の世代も既に年金受給者であったりして、早めに相続対策に取り組む必要がある方もいます。
このように相続税の申告業務は、第二次相続対策のコンサルティング業務につながり、さらに第二次相続の申告業務へと継続していくことになります。

相続税の申告に当たり相続人にきちんと分かり易く説明して、特例選択などにおいては意思決定をしていただかなければなりません。そのことを通じて相続人との間に信頼関係を醸成すれば、第二次相続対策のコンサルティング業務につながることになると思われます。

また、専門家として見落としてはいけない基本の業務などについてきちんと検証しておかなければなりません。特に、財産評価について誤りのないように、また、特例選択に当たって税務上の有利選択について相続人等に説明し、相続人等の意思決定を求めて行う必要があります。税務上有利な選択を常に相続人等が望まれるのではないことも知って対応しなければなりません。

そこで、私が長年の相続税の申告業務を体験した中で、うっかりミスで「見た、聞いた」だけでなく、自らが「失敗した」事例を、「自社株の相続税評価」、「不動産の相続税評価」及び「相続税・贈与税の課税関係」に分類して赤裸々に紹介し、同じ失敗をされないようその原因も分析して解説します。この記事では、その一部の事例を紹介することとします。
相続税の申告業務では、事実関係を正確に把握することが重要です。そのためには、複数の担当者で確認することが基本です。
また、相続税法等の特例の適用に当たっては、適用要件について慎重に検証しなければなりません。

ミス防止のための事例集

1. 自社株の相続税評価

被相続人の議決権割合が20%で相続人(同族株主)が配偶者と子2人の場合、誰が何株相続するかによって、原則的評価方式で評価される相続人と、配当還元方式によって評価される相続人に区分されます。

以下のような設例の場合、遺産分割に当たってどのようなアドバイスをすればよいか確認します。

【設例】
1. 被相続人 父(令和6年3月死亡)
2. 相続人 母・長男・長女
3. 父の相続財産
(1)A社株式 20,000株(原則的評価額 5,000円/株、配当還元価額200円/株)
(2)その他の財産 30,000万円
※ A社(7月決算)の発行済株式数と株主
発行済株式数100,000株(父の兄80,000株、父20,000株)
4. 遺産分割
(1)A社株式
① 分割案1 母10,002株、長男4,999株、長女4,999株
② 分割案2 母10,000株、長男5,000株、長女5,000株
母はA社株式を相続した後に、長男の妻とその子へそれぞれ3,400株を、長女の子へ残余の株式を令和6年7月に贈与した。
(2)その他の財産 法定相続分どおり相続する
5. 相続税の計算                          (単位:万円)

分割案1 分割案2
長男 長女 長男 長女
A社株式 5,001 100 100 5,000 2,500 2,500
その他の財産 15,000 7,500 7,500 15,000 7,500 7,500
課税価格 20,001 7,600 7,600 20,000 10,000 10,000
相続税の総額 7,540 9,220
各人の算出税額 4,284 1,628 1,628 4,610 2,305 2,305
配偶者の税額軽減 △3,770 △4,610
納付税額 514 1,628 1,628 0 2,305 2,305
合計税額 3,770 4,610

この設例の場合、母、長男及び長女は全員同族株主に該当します。

しかし、分割案1の場合、母は相続によって取得した株式数(議決権割合)は、10,002株÷100,000株≒10%で5%以上であることから、その株式は「原則的評価方式」によって評価されます。一方、長男や長女は取得後の議決権割合は5%未満で、かつ、中心的な同族株主に該当しないことから「特例的評価方式(配当還元価額)」によって評価することになります。

分割案2の場合、相続人全員が同族株主で取得後の議決権割合が5%以上となるため、「原則的評価方式」によって評価されます。

なお、母が相続した株式を長男や長女の子などへ贈与する場合の株式の評価額も、受贈者全員同族株主に該当しますが、取得後の議決権割合が5%未満になるように贈与すれば「配当還元方式」によって評価され、その価額は贈与税の基礎控除額以下の贈与になることから、贈与税も課税されません。

2. 不動産の相続税評価

生前に家屋が増改築されていて、固定資産税評価額が改訂されていない事例も少なくありません。その場合、増改築に要した費用のうち一定が家屋の固定資産税評価額に加算され相続税の申告を行う必要があったりします。

増改築等に係る家屋の状況に応じた固定資産税評価額が付されていない場合の家屋の価額は、増改築等に係る部分以外の部分に対応する固定資産税評価額に、当該増改築等に係る部分の価額として、当該増改築等に係る家屋と状況の類似した付近の家屋の固定資産税評価額を基として、その付近の家屋との構造、経過年数、用途等の差を考慮して評定した価額(ただし、状況の類似した付近の家屋がない場合には、その増改築等に係る部分の再建築価額から課税時期までの間における償却費相当額を控除した価額の100分の70に相当する金額)を加算した価額に基づき財産評価基本通達89(家屋の評価)又は93(貸家の評価)の定めにより評価します。

なお、償却費相当額は、財産評価基本通達89-2(文化財建造物である家屋の評価)の(2)に定める評価方法に準じて、再建築価額から当該価額に0.1を乗じて計算した金額を控除した価額に、その家屋の耐用年数(減価償却資産の耐用年数等に関する省令に規定する耐用年数)のうちに占める経過年数(増改築等の時から課税時期までの期間に相当する年数(その期間に1年未満の端数があるときは、その端数は、1年とします。))の割合を乗じて計算します(国税庁質疑応答事例)。

被相続人の自宅を訪ねた場合には、築年数と家屋の状況をそれとなく観察し、必要に応じて相続人に増改築等の有無を質問するなどの対応が必要です。

3. 相続税・贈与税の課税関係

相続又は遺贈によって取得した財産に係る相続税の課税価格に算入すべき価額は、財産の価額から、被相続人の債務等の金額のうち、その財産を取得した者の負担に属する部分の金額を控除した金額によることとされています(相法13①)。

その場合、特定の相続人が相続財産の価額を超えて債務を負担することとなっても、他の共同相続人や包括受遺者の相続税の課税価格を計算するに当たってその債務超過分を控除することはできません。

また、債務控除は、相続開始前3年以内に贈与により取得した財産の価額を加算する前の課税価格から行う(相基通19-5)こととされています。そのため、被相続人の正味財産が相続税の基礎控除額以下であっても、遺産分割によっては相続税が課されることもあります。

そのことを、以下の設例で検証します。
【設例】
1. 被相続人 父(令和5年4月死亡)
2. 相続人 長男・長女
3. 相続財産
① 賃貸不動産  8,000万円
② その他の財産 5,000万円
③ 借入金(賃貸不動産に係るもの)△9,000万円
4. 遺産分割
以下のいずれかの分割を行う。
① すべての財産を法定相続分どおり相続する
② 長男が賃貸不動産と借入金を、長女がその他の財産を相続する
③ 上記②に加えて、長女から長男へ代償金1,000万円を支払う
5. 生前贈与
長男は令和4年に、父から110万円の贈与を受けていた
6. 相続税の計算                          (単位:万円)

4の①による分割 4の②による分割 4の③による分割
長男 長女 長男 長女 長男 長女
賃貸不動産 4,000 4,000 8,000 8,000
その他の財産 2,500 2,500 5,000 5,000
代償金 1,000 △1,000
借入金 △4,500 △4,500 △9,000 △9,000
純資産価額 2,000 2,000 (注)0 5,000 0 4,000
生前贈与加算 110 110 110
課税価格 2,110 2,000 110 5,000 110 4,000
基礎控除額 4,200 4,200 4,200
課税遺産総額 0 910 0
相続税の総額 0 91 0
各人の算出税額 0 0 2 89 0 0

(注)純資産価額が赤字のときは、「0」とされる。

以上の設例では、4の②による分割の場合には、長男の純資産価額が赤字となっているため、赤字の部分は切捨てられます(相続税申告書等様式・相基通19-5)。そのため、課税価格の合計額は5,110万円になり相続税の基礎控除額を上回り相続税が課されることになります。

4の①又は4の③による分割の場合には、切捨てられる金額がないことから、課税価格の合計額は4,110万円になり相続税の基礎控除額以下の金額であることから、相続税は課されません。

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