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【弁護士向け】相続法改正による遺産相続実務への影響|使途不明金問題や相続時国庫帰属制度

弁護士を取り巻く基本法の改正がラッシュのように次々と追いかけてきます。
この改正を全て完璧に把握し続けるというのは難しく、現実には実務でしばしば遭遇する論点にポイントを絞ってその分をマスターするのが合理的です。

相続後の使途不明金問題

遺産相続のうち遺産分割事件に絞ると、一番実務家としてマスターする必要があるのは、相続後の使途不明金問題です。
今回の相続法改正で、一番影響を受けたのは、この使途不明金問題のうち相続後に発生した使途不明金です。民法906条の2です。

改正前は、使途不明金問題というのは遺産相続に付随して生じた問題で、話し合いができなければ、それは遺産分割とは関係なく別に地方裁判所で訴訟してください、という扱いになっていました。
ところが、民法が改正されて906条の2の規定が新設されました。相続後に相続人が預金からお金を引きだしても、引き出した以外の相続人全員が「その引き出しは認めません」といえば、遺産分割ではその引き出した預金は「まだ預金に残高としてある」とみなして遺産分割をすることになります。

現実の遺産分割では、この問題は頻繁にでてきます。調停委員も理解していない人が結構おり、ミスがあったら大変ということで、裁判所はこの相続後の使途不明金問題については非常に緊張感をもっています。
しかし、どこまでが適用されて、どこからが適用されないのか、立法当初は予定していなかった問題がいろいろ出てきました。

906条の2第2項は、相続人が「処分」したことが前提ですから、相続人が否認したら、みなし遺産になるか否かという遺産の範囲確定問題となり、この点を地裁の訴訟で既判力をもらってくる必要が出てきます。これが確定しない間は、遺産分割調停はストップします。

これは施行前から予想されていた問題点です。
しかし改正法施行前は、相続人の払い戻し=906条の2第2項の「処分」と考えていたので、それほど論点は生じないであろうと予想されていました。
ですが実際やってみると色々問題がでてきました。払戻=処分とは言えないと考える意見がいろいろと主張されてくるようになりました。

相続人が死後事務委任として払い戻しを受けた場合も、「みなし遺産」の適用はあるのでしょうか。相続人が自己費消ではなく、全相続人が負担すべき債務を支払うために解約した場合はどうでしょうか。

遺産である普通預金口座に、相続後の家賃が振り込まれた場合

これは改正相続法とは関係ないのですが、預金に関連して、相続後に被相続人の口座に、例えば遺産であるアパートの家賃が振り込まれたら、どうするのかという問題があります。これも実務ではたびたび出てきます。

相続後に生じた法定果実は当然に法定相続分で分割されますが、それが被相続人の口座に入金されたら遺産と一体となって具体的相続分で分割される、という意見もこれまでにあります。
この問題は実務で頻繁に出てくるのですが、正面から論じた書籍があまりなく裁判官によっても意見が異なります。

遺産分割実務と相続時国庫帰属制度

最近の改正で、相続時国庫帰属制度ができました。
この制度に対する弁護士業界の関心は高いとは言えませんが、実は遺産分割実務では非常に歓迎されています。現在、地方の遺産分割で多いのですが、「負」動産の押し付け合いがかなり深刻です。東京や大阪でも、別荘地などが押し付け合いになります。

こういうときこの相続財産国庫帰属制度を利用すれば、「負」動産問題を処理できます。各管轄の法務局には専門官が配置されていますので、調停を成立させる前に必ず事前相談をしてください。

相続登記義務化で懸念される遺産共有持分買取業者によるトラブルの増加

令和6年4月1日から、遺産分割が未了でも相続登記を義務化する制度に代わりました。そのため、今後は遺産分割前の遺産共有状態がどんどん登記簿に記載されることになります。これは共有持分権買取業者にとってビジネスチャンスとなります。今後はこの共有持分権買取業者が積極的に相続人に営業をかけて遺産共有持分を買いまくり、適正な遺産分割を妨害するのではないかという深刻な懸念が生じています。

特に、具体的相続分が法定相続分より少ない相続人が、遺産共有持分を共有持分買取業者に売り払ってしまうトラブルが増えるのではないか、ここが非常に心配です。相続人が、共有持分権買取業者に渡った遺産共有持分を買い戻すためには、法定相続分の価格を支払わなければなりません。

しかもこの状態になると、一つの不動産に遺産共有状態と物権法上の通常の共有状態が混在することになります。遺産共有は遺産分割で、物権法上の共有は共有物分割で処理すべきことになりますが、どこからどうやってこのねじれた共有関係を終了させるかという、弁護士にとって非常に難しい問題がでてきます。

こういう場合も民法906条の2第2項を適用すれば、共有持分を売りはらった相続人はそれに見合う代償金を支払う必要があります。しかし、その売却した相続人が無資力の時は「代償金は支払えません」といわれればどうしようもありません。
こうした恐れがあるときは、他の相続人は売却の恐れのある相続人を債務者として、審判前の保全処分として処分禁止の仮処分をかける必要があります。

配偶者居住権の評価

配偶者居住権は改正前からいろいろと話題になりました。節税策としては利用されてきましたが、遺産分割実務では配偶者居住権もその負担付不動産も取得希望者が現実におらずほとんど利用されていません。
それでも最近はこの配偶者居住権も当事者間の話題に上るようになってきました。いざとなるとその評価が問題になります。

裁判所が考えている評価方法は、配偶者居住権が設定されたことにより所有権の価値が下がるが、その下がった価値分が配偶者居住権の価格である、というとらえ方です。これに対し不動産鑑定士のほうは、家賃の一括前払い、その間の土地の利用と考えます。

不動産鑑定士協会のほうは主に土地収用を意識しているのですが、不動産鑑定士の間でも遺産分割の場面ではむしろ裁判所の方式のほうがいいのではないのか、という意見もあります。
ですので、配偶者居住権の価格を鑑定にした場合、その鑑定士が鑑定士協会の作成した鑑定基準に従うか裁判所方式に従うか予測ができません。
また配偶者居住権は、特定財産承継遺言方式では指定できないことにも注意してください。

特別寄与料請求権

特別寄与料請求権も随分と話題になり相応に主張されています。ただ施行前に、認定は、特別寄与よりも緩やかだと言われていましたが全く同一要件で認定されています。ほとんどが療養看護型です。

遺留分侵害額請求

遺留分侵害額請求ですが弁護過誤が多発しています。改正で一番大きな影響を受けた部分なのですが、特別受益の10年制限以外は、ほとんどマスコミの関心がなく、基本的初歩的なミスが多いです。遺留分侵害請求通知をする場合の記載事項・管轄・遺産の評価時期・特別受益の10年制限、この4つの論点に関しては、これまでの経験だと、間違えていない弁護士の方が少ないです。日常的に弁護過誤が発生していますので充分気を付けてください。

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