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医業の事業承継の相談を受けたら|個人診療所と医療法人の要点を解説

医療機関経営者の高齢化が進み、事業承継や相続への対応が必要な医療機関が多くなっています。また、医療機関の経営環境が厳しくなりつつあるなか、第三者承継のニーズが高まっています。
この記事では、医業の事業承継について、現状、承継のメリット・デメリット及び検討ポイントについて解説していきます。

1.医師・医療機関の現状

(1)医療機関経営者の年齢

厚生労働省が公表している「医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、令和2年12月31日現在の医療機関経営者の平均年齢等は次のようになります。

平均年齢 60歳以上 うち70歳以上
病院の開設者又は
法人の代表者
64.7歳 3,522人 1,655人
診療所の開設者又は
法人の代表者
62.0歳 42,213人 16,616人
歯科診療所の開設者又は
法人の代表者
58.3歳 27,456人 8,517人

平成22年12月31日現在の平均年齢と比較すると、「病院の開設者又は法人の代表者」が1.1歳上昇(63.6歳→64.7歳)、「診療所の開設者又は法人の代表者」が2.3歳上昇(59.7歳→62.0歳)、「歯科診療所の開設者又は法人の代表者」が4.2歳上昇(54.1歳→58.3歳)となっており、医療機関経営者の高齢化が進んでいることがわかります。

※令和4年12月31日現在の統計は、令和6年春に公表予定となっています。

(2)医療法人数

厚生労働省が公表している「医療法人数の推移(令和5年3月31日現在)」によると、令和5年3月31日現在の医療法人数は58,005法人になります。そのうち、平成19年施行の第五次医療法改正により新たに設立することができなくなった「出資持分のある社団医療法人(以下「持分あり医療法人」という)(注1)」が36,844法人と全体の約63.5%を占めています。

昭和60年の医療法改正によって、いわゆる「一人医師医療法人」(医師若しくは歯科医師が常時1人又は2人勤務する診療所)を設立することが可能になったこと、また、昭和63年の「社会保険診療報酬の所得計算の特例(租税特別措置法第26条)」の改正によって、社会保険診療報酬が年5,000万円超の場合には適用除外とされたことから、平成元年からの5年間で医療法人数は15,163法人も純増しました。

平成30年からの5年間での純増数が4,061法人ですので、いかに多くの医療法人が設立されたのかがわかります。平成元年から5年までに設立された医療法人は設立から30年~35年を経過しており、事業承継等をすでに終えた医療法人がある一方、これから事業承継等を迎えるため対応について検討が必要な医療法人が多く見受けられます。

(注1)社団医療法人であって、定款に出資持分に関する定め(社員の退社に伴う出資持分の払戻し及び医療法人の解散に伴う残余財産の分配に関する定め)を設けているものをいいます。平成19年の第五次医療法改正前に存在する出資持分のある医療法人については、当分の間存続する旨の経過措置がとられています。そのため、「経過措置型医療法人」と表されることもあります。

(3)医療施設数

厚生労働省が公表している「医療施設調査」によると、令和5年10月31日現在の医療施設数は次のとおりであり、病院・有床診療所・歯科診療所は減少し、無床診療所は増加しています。

種類 施設数
(令和5年10月31日現在)
前年同月比
病院 8,125 △31
一般診療所 105,453 +194
有床 5,675 △264
無床 99,778 +458
歯科診療所 67,137 △586

※厚生労働省「医療施設動態調査(令和5年10月末概数)」「医療施設動態調査(令和4年10月末概数)」を基に作成

(4)現状の整理

医療機関経営者の高齢化が進んでいること、平成元年から5年までに設立された医療法人が事業承継等の時期を迎えることなどから、事業承継や相続への対応が必要な医療機関が多くなることが見込まれます。
また、人口が減少していくなか無床診療所は増加しており、診療所の競争激化や優良な開業候補地が限られてくることなどを理由に、これまで以上に第三者承継のニーズが高まることが見込まれます。

2.医療機関の事業承継のメリット・デメリット

新規開業と比較した場合の事業承継のメリット・デメリットについては、次のような事項が考えられます。
特に親族内承継の場合には、承継後のサポートを前院長や地域の方々から受けられやすいという第三者承継の場合には得にくいメリットがあります。

(1)第三者承継の場合

譲渡側 譲受側
メリット ・地域医療の継続・安定
・スタッフの雇用維持
・収入(譲渡代金など)
・患者の承継
・認知度・ブランドの承継
・収支見通しの立てやすさ
・開業コストの抑制
・スタッフの引継
デメリット ・承継時期
(譲受側との調整が必要)
・譲受側が行う医療、継続スタッフへの待遇などに対する不安
・承継時期
(譲渡側との調整が必要)
・目指す医療と承継医療機関の乖離(規模・内容など)

(2)親族内承継の場合

前院長 後継者
メリット ・地域医療の継続・安定
・認知度・ブランドの継続※
・スタッフの雇用維持
・承継後も医療に関わることができる※
・患者の承継
・認知度・ブランドの承継
・収支見通しの立てやすさ
・開業コストの抑制
・スタッフの引継
・承継後のサポート(前院長から)※
・承継後のサポート(地域の方々から)※
デメリット ・承継時期
(後継者との調整が必要)
・後継者の診療や経営が気になる※
・承継時期
(前院長との調整が必要)
・目指す医療と承継医療機関の乖離(規模・内容など)
・前院長からの診療や経営への関与※

※は第三者承継と比べた場合の相違点

3.個人診療所の事業承継の検討ポイント

(1)親族内承継の場合

親族内承継の場合の重要な検討ポイントとして「事業形態をどうするか」が挙げられます。
個人診療所のまま承継するのか、法人化して承継するのかについて検討が必要です。
親族内承継を行うことが決まった段階で法人化シミュレーションを実施し、法人化によって利益に対する税負担(法人税・所得税等)がどう変化するか、ストックに対する税負担(相続税等)がどう変化するかを比較検討します。その際には、親族グループ内にいかにより多くの財産を残すかという点が重要視されます。

(2)第三者承継の場合

第三者承継の場合には、承継対価をどのように設定するかが重要になります。
一般的には、

 承継対価=時価純資産額+営業権評価額

という考え方をするケースが多いですが、営業権の評価については、病院・有床診療所の場合と無床診療所・歯科診療所の場合とで分けて考える必要があると思われます。

現在のところ、無床診療所・歯科診療所に関して開設規制はありません。そのため、高額な営業権を設定し承継候補者と条件面で折り合わなかった場合には、承継候補者が近隣の別の場所に開設する可能性があります。
その他、親族内承継にも共通しますが、病院・有床診療所を承継する場合には、病床引継ぎの可否について都道府県や保健所等に早い段階で確認を取ることが必要です。

(3)医療機関を廃止する場合

親族内承継・第三者承継のいずれも行わずに医療機関を廃止する場合、廃止に伴う支出面や諸手続き等について確認を行うことが重要です。
特に、支出面において、従業員の退職金や賃借物件(テナント)の場合の保証金返還額・原状回復費用・契約期間中途での解約時の違約金などを予め確認しておく必要があります。原状回復費用や違約金等が多額に及ぶ場合には、低価格での第三者承継を選択した方が良いケースもあります。

4.持分あり医療法人の事業承継の検討ポイント

(1)親族内承継の場合

親族内承継の場合の重要な検討ポイントとしては、「持分をどうするか」が挙げられます。
持分ありのまま承継するのか、持分なしに移行して承継するのか、また、持分なしに移行する際に「移行計画の認定制度(認定医療法人)」を活用するか否か、などについて検討が必要です。

遅くとも親族内承継を行うことが決まった段階で持分の評価を実施し、相続税等の負担がどのくらいになるのか、対策を取る必要があるのかを検討する必要があります。そのうえで、「移行計画の認定制度(認定医療法人)」の内容を確認するとともに、持分に対する考え方の確認などを行います。

(2)移行計画の認定制度

①期間
令和8年12月31日まで延長されています。

②税制
イ)相続人が「持分あり医療法人」の持分を相続等により取得した場合、その法人が移行計画の認定を受けた医療法人であるときは、移行計画の期間満了まで相続税の納税が猶予され、持分を放棄した場合は、猶予税額が免除されます。

ロ)出資者が持分を放棄したことにより、他の出資者の持分が増加することで、贈与を受けたものとみなして他の出資者に贈与税が課される場合、その法人が移行計画の認定を受けた医療法人であるときは、移行計画の期間満了まで贈与税の納税が猶予され、持分を放棄した場合は、猶予税額が免除されます。

ハ)「持分なし医療法人」へ移行した場合、出資者の持分放棄に伴う法人贈与税について非課税となります。

③認定要件
イ)移行計画が社員総会において議決されたものであること

ロ)出資者等の十分な理解と検討のもとに移行計画が作成され、持分の放棄の見込みが確実と判断されること等、移行計画の有効性及び適切性に疑義がないこと

ハ)移行計画に記載された移行期限が5年を超えないものであること

ニ)運営に関する要件(注2)
・法人関係者に対し、特別の利益を与えないこと
・役員に対する報酬等が不当に高額にならないような支給基準を定めていること
・株式会社等に対し、特別の利益を与えないこと
・遊休財産額は事業にかかる費用の額を超えないこと
・法令に違反する事実、帳簿書類の隠ぺい等の事実その他公益に反する事実がないこと
・社会保険診療等(介護、助産、予防接種含む)にかかる収入金額が全収入金額の80%を超えること
・自費患者に対し請求する金額が、社会保険診療報酬と同一の基準によること
・医業収入が医業費用の150%以内であること

(注2)運営に関する要件は、持分なし医療法人へ移行後6年間満たしていなければなりません。
参考:厚生労働省 医療法人・医業経営のホームページ〔持分の定めのない医療法人への移行計画の認定申請について(認定医療法人)〕

(3)第三者承継の場合

承継対価の設定については、上記個人診療所の場合と同様ですが、医療法人格や前役員の退職金支給による繰越欠損金の効果を考慮するケースもあります。
対価については、一般的には承継対価の総額を決め「退職金」「持分譲渡金額」などに区分するケースが多くみられます。区分の仕方により、税負担が異なる場合がありますので、十分な検討が必要です。

(4)医療法人を解散する場合

医療法人を解散する場合、役員退職金を支給し、なお、残余財産があるときは、定款の定めに従い、出資者に払戻を行います。
この場合も、「退職金」「持分払戻金額」などの区分の仕方により、税負担が異なる場合がありますので、十分な検討が必要です。

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