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【弁護士向け】顧問契約締結の留意点とは?よくある悩みの解決策
顧問契約には、売上の安定化や新規案件の紹介ルートの構築等、様々なメリットがあるために積極的に増加させていきたいと考える先生も少なくないと思います。
私もそのうちの1人ではありますが、顧問契約数が100社を超える頃から、個別案件対応とは異なる顧問業務の難しさも実感することが増えてきました。また、顧問契約を増やしたいと考える先生のご相談をうかがっている中で、顧問業務に関連して生じる悩みには一定の共通項があることが見えてきました。
弁護士(法律事務所)の顧問契約に関するよくある悩み
顧問契約に関するよくある悩みを以下の7つに整理しました。
- 顧問契約を増やす方法がわからない
- 顧問契約の提案方法がわからない
- 顧問契約を締結するときの注意点がわからない
- 顧問契約で何を提供すればよいのかわからない
- 顧問契約を継続する方法がわからない
- 適正な顧問料の設定方法がわからない
- 顧問料の増額方法がわからない
この7つの悩みのうち、1から3は顧問契約締結までの悩みであり、4から7は顧問契約締結後の悩みに大別できます。
本記事では、顧問契約締結までの留意点(1~3)に絞ってポイントをご紹介します。
1から7までの詳細は、顧問契約の獲得を目指し、徐々に顧問契約が増加してくる一方で、顧問業務の対応に負担を感じるようになってきた法律事務所・弁護士向けに動画教材を企画しました。
詳細については動画内で解説していますので、ぜひご覧ください。
弁護士の悩み1:顧問契約を増やす方法がわからない
顧問契約を増加させる方法
顧問契約を増やそうと考えた場合、最初に直面する悩みは「顧問契約を増やす方法がわからない」ということです。
1 マーケティングの重要性
顧問契約は主に企業を対象とすることから企業法務に分類されます。
企業法務であっても、案件を獲得するためには、まずはサービスを提供する私たち自身を認知してもらう必要があります。顧問業務を提供できる存在がいるということを認知してもらうためには、マーケティングを行うことが有用です。
企業法務の場合には、個人法務と異なり、マーケティングが機能しないのではないかと考える方もいますが、企業法務・個人法務いずれであっても認知をしてもらわなければ契約はおろか、相談を受ける機会さえ発生しません。
2 BtoBとBtoCの違い
もっとも、マーケティングが重要とはいえ、顧問契約を増やすための方法を考える際には、ターゲットとする対象の違い(BtoB/BtoC)に応じたアプローチが必要です。
顧問契約を含む企業法務はBtoB (Business to Business)、個人法務はBtoC (Business to Consumer) の傾向が強く、BtoBとBtoCの間には、その特性やニーズに大きな違いがあります。
以下では、特性やニーズに関するBtoBとBtoCの主な違いを中心に、顧問契約を増やすためのポイントを整理しています。
項目 | BtoB | BtoC |
---|---|---|
目的 | ビジネス課題の解決、利益向上 | 個人のニーズや問題の解決 |
決定プロセス | 複雑で長期的、複数ステークホルダーが関与 | 直感的、迅速、個人の意志が中心 |
関係性の深さ | 長期的なパートナーシップ、信頼関係重視 | 一度の取引から継続的な関係まで多様 |
コミュニケーション手法 | セミナー、ワークショップ、専門的コンテンツ | SNS、ブログ、Youtube、ホームページ |
需要の動機 | コスト削減、紛争の予防、事業戦略 | 紛争の解決 |
価格感度 | 価格よりも価値とサービスの質を重視 | 価格感度が高い場合が多い |
3 裸足の国で靴を売るセールスマン
BtoBとBtoCの主な違いにあるように、顧問契約は個人法務の案件ほどには容易に増加しないことから、顧問契約を増やすことは難しいと考える方もいるかもしれません。
ですが、地方都市、中小企業であっても、顧問契約へのニーズは確実に存在します。顧問契約の必要性を正しく伝えることで、顧問契約へのニーズを喚起することは可能です。
参考となる逸話として、「裸足の国で靴を売るセールスマン」というエピソードがあります。このエピソードには、二人のセールスマンが裸足の国を訪れるというストーリーがあります。一人のセールスマンは「ここでは誰も靴を履いていない、売れるはずがない」と考えてすぐに帰国します。一方、もう一人のセールスマンは「ここでは誰も靴を履いていない、絶大な商機だ」と考え、その国での靴の普及活動を始めるのです。
法律事務所が提供する顧問契約も同じことが当てはまります。
大切なことは、顧問契約を提案し、顧問業務のサービスを提供する私たち自身が顧問業務の価値を正しく伝えることができているかどうかを把握することにあります。
顧問契約のメリット
顧問契約を締結することは、法律事務所・弁護士側にも多くのメリットがありますが、特に以下の4つのメリットが挙げられます。
1 安定収入
顧問契約は、単発の案件依頼と異なり、長期的な関係性に基づくものであるため、定期的なサービス提供に対して一定の報酬を得ることができるため、安定した収入源となります。
2 案件紹介ルート構築の期待
顧問としての信頼関係を築くことで、クライアントからの他の案件紹介や、クライアントの取引先・関連企業などからの紹介が期待できます。これにより、新たなビジネスチャンスを増やすことが期待できます。
3 事務所のブランディング
顧問契約を獲得し、高い品質のサービスを提供することで、事務所の評価やブランド価値が高まることが期待できます。また、特定の産業や分野での専門性をアピールすることで、法律事務所としての位置づけが対外的にも強化されることも期待できます。
4 参入障壁の高さによる非競争性
顧問としてのサービスを提供するためには、顧問先企業やその業界に対する深い知識や経験が必要とされる場合が少なくありません。結果として参入障壁が高くなり、他の競合事務所や弁護士との競争を避けることができます。特定のクライアントや業界に特化したサービスを提供することで、独自性を確立し、非競争的な環境を構築することが可能となります。
顧問契約のデメリット
このように、顧問契約には多くのメリットが存在する一方で、デメリットも存在します。以下では、顧問契約の5つのデメリットについて紹介します。
1 案件終了がみえない
顧問契約は通常、長期的な関係性に基づくものであるため、具体的な案件終了の時期や節目がはっきりとしづらい場合があります。その結果、継続的なサポートが求められることとなり、他の新しい案件の受注や業務への対応が難しくなる可能性があります。
2 顧問先からの紹介・要望を断ることが困難
顧問としての信頼関係を維持するため、顧問先からの紹介や要望を断ることが難しくなることがあります。これにより、本来の業務範囲を超えたサービス提供を余儀なくされる場合があります。
3 サービス過多になるおそれ
顧問としてのサービスを提供する際、クライアントの期待に応えようと過度なサービスやサポートを行ってしまい、労力やリソースの浪費につながるおそれがあります。
4 担当弁護士主導になる傾向
一定の顧問先を長期間担当する弁護士が存在する場合、その弁護士の意見や判断が重視される傾向が強まります。その結果、事務所全体としての視点や意見が疎外されるリスクがあるだけでなく、当該担当弁護士が独立や転職する場合、顧問契約を切り替えられてしまうリスクがあります。
5 個別案件よりも生産性が下がるおそれ
顧問契約の場合、一定の報酬で継続的なサービスを提供する形となるため、時間あたりの収益性が個別の案件に比べて低下する可能性があります。特に、要望が多岐にわたる大規模な顧問先の場合、このリスクは高まることがあります。
顧問契約のリスク
また、顧問契約を締結した場合、弁護士倫理上のリスクが生じることも留意する必要があります。
1 利益相反のおそれ
弁護士倫理上のリスクの一つとして、利益相反の問題が挙げられます。
例えば、株式会社と顧問契約を締結していながら、解任決議を受けた取締役から依頼を受けて株主総会決議取消訴訟の代理人に就任したことが弁護士職務基本規程28条2号に違反し、「戒告」処分に付された事例があります。
この他にも、顧問先企業の従業員が逮捕された場合に当該従業員の刑事弁護を担当することも、従業員と顧問先企業の間に利益相反が生じる可能性が考えられます。従業員に対する懲戒処分等を検討せざるを得ない場合には、顧問先企業から相談があったとしても、従業員の刑事弁護を引き受けるべきかどうかは慎重に考える必要があります。
2 違法行為への加担
利益相反の問題以外にも、顧問弁護士として依頼者である顧問先企業を指導監督することが求められる場合があります。
過去には、AV制作業の事業者がAV撮影目的で女性を募集していると知りながら、やめさせなかったことを理由として懲戒処分に付された事例もあります。
これらのケースから、顧問契約を締結する際には、利益相反のリスクや違法行為への加担のリスクを十分に検討し、適切な対応や指導を行うことが重要です。弁護士として専門的な知識や倫理規程を遵守し、常に公正・中立の立場を保つことが求められます。
弁護士の悩み2:顧問契約の提案方法がわからない
顧問契約を提案する際の留意点
顧問契約を提案する際の留意点として、以下の4点を紹介します。
1 「高付加価値」と「ムダ」を区別する
顧問契約を提案する際には、そのサービスがクライアントにとってどれほどの価値をもたらすのかを明確にする必要があります。高付加価値を提供するサービスとは、クライアントのビジネスや活動において実質的な影響や改善をもたらすものを指します。
一方で、「ムダ」とは、クライアントにとっての実質的なメリットが乏しいサービスや取り組みとなります。顧問としての提案は、高付加価値を持つサービスを中心に組み立てることが重要です。顧問弁護士として期待されていることはなにか、この点を考えてサービスを組み立てましょう。
2 相談者の潜在的な法的課題を具体化できるか
弁護士としての専門知識を活かし、相談者が現在抱えている問題や将来起こり得るリスクを具体的に把握し、それを明確にすることが求められます。潜在的な法的課題を具体的にすることで、相談者にその課題の深刻さや緊急性を認識させることができます。
3 具体的な解決策を提案できるか
相談者の潜在的な法的課題を具体化した上で、法的課題に対する具体的な解決策を提示することが重要です。単に問題点を指摘するだけでなく、それを解決するための手段や方法を明確に提案することで、相談者の信頼を獲得することが可能となります。
4 解決策としての顧問契約を提案できるか
法的課題やリスクを具体化し、解決策を提示した上で、その実施手段としての顧問契約を提案することにつなげていきましょう。
なぜスポットでの対応ではなく、顧問として継続的に関与することが相談企業にとってもメリットがあるのか、顧問契約のメリットやその内容をわかりやすく説明し、相談者にその価値を理解していただく必要があります。
顧問契約提案時に意識したい話法
顧問契約を提案する際の話法は、相手の信頼を得るためにも重要です。具体的な提案の仕方や言葉の選び方によって、受け手の反応や印象は大きく変わる可能性があります。
1 具体的な提案
(1) 良くない事例
「何かお困りですか?」
この提案は非常に抽象的で、相手が具体的にどのような課題やニーズに対して答えるべきかがわかりにくいです。
(2) 良い事例
「●という点でお困りではありませんか」
この提案は具体的な課題やニーズに言及しているため、相手が自身の状況や考えを具体的に共有しやすくなります。
2 解決策の提示
「〇という方法を講じたほうがよいのではありませんか」
解決策や提案内容を具体的に示すことで、相手にその有効性やメリットを理解してもらいやすくします。
3 顧問契約の価値の提示
「〇という方法であれば、継続的な相談・サポートがよいのではないですか」
顧問契約のメリットやその価値を具体的に示すことで、相手に顧問契約の意義や必要性を強調することができます。
話法のポイントとして以下の点を意識すると良いでしょう。
【具体性の意識】
提案内容や質問を具体的にすることで、相手が理解しやすくなり、反応も得やすくなります。
【相手の立場で考える】
相手の課題やニーズに焦点を当てることで、相手の立場や考えを尊重する態度を示すことができます。
【解決策の提示】
問題提起だけでなく、具体的な解決策やアクションを提案することで、相手に行動を起こすきっかけを与えることができます。
顧問契約の提案においては、これらの話法を取り入れることで、より効果的に相手に提案内容を伝えることが可能となります。
顧問契約の提案方法
顧問契約の提案方法を検討する前提として、弁護士費用の設定方法をご紹介します。私たちがクライアントに弁護士費用を提案する場合には、主に以下の3つのパターンが考えられます。
- スポット型
- ストック型
- プロジェクト型
顧問契約は、3つのパターンのうち2に該当しますが、1のスポット型、3のプロジェクト型とは異なる特徴やメリット・デメリットがあります。それぞれのパターンの特徴に応じた提案を意識することで、顧問契約の提案技術を向上させることが期待できます。
1 スポット型:着手金+報酬金
(1) 特徴
この方法は、個別の紛争案件ごとに費用を設定することが通常です。スポット型の場合には、弁護士への依頼は、個別紛争の解決を目的としています。
スポット型の提案方法では、弁護士の業務開始時に一定の着手金を受け取り、紛争の解決や業務の完了時に報酬金を受け取る形となります。
(2) メリット&デメリット
スポット型のメリットとしては、個別の紛争の解決を具体的な目的として提案することができる点です。
一方、デメリットとしては、紛争が複雑化すると報酬金の設定が難しくなることや、紛争が解決するまでは報酬金を得ることはできない、解決内容によって報酬金が大きく左右されるリスクがあることが挙げられます。
2 ストック型:顧問契約
(1) 特徴
ストック型は、一定の期間ごとに定額の費用が発生する方法です。
継続的な法的サポートやアドバイスが求められる場合に適しており、月額や年額の定額費用を基にサービスを提供します。
(2) メリット&デメリット
継続的な関与が可能となり、クライアントの法的課題やリスクを早期に察知し、対応することができるメリットがあります。
一方、デメリットとしては、定額費用の範囲内での業務が増加すると、弁護士の負担が過大となるリスクが挙げられます。
3 プロジェクト型:一定期間・特定プロジェクトへの関与
(1) 特徴
特定のプロジェクトや期間に対してのみ、弁護士が関与する方法です。
企業の特定のプロジェクトや事業に対して、例えば3ヶ月や6ヶ月といった一定期間、弁護士が関与します。
顧問契約のように長期間の関与は前提としていない場合に有用です。
(2) メリット&デメリット
プロジェクトの目的や範囲が明確であるため、具体的なサポートやアドバイスを提供することができるメリットがあります。
一方、デメリットとしては、プロジェクトが延長された場合や、予期しない問題が発生した場合には、追加の費用や対応が必要となる場合が挙げられます。
おわりに
以上が顧問契約締結時までの留意点の解説になります。
本講座は第1部と第2部の構成に分かれていますが、第1部では、顧問契約締結時までの留意点に加えて、実際に顧問契約を締結する際に使用する顧問契約書のサンプルを用いて顧問契約を締結する際の留意点についても解説します。
また、特にご注意いただきたい点として、当初は顧問契約数を増やすことに意識が向くあまり、顧問契約締結後に過剰なサービスを提供してしまい、かえって担当弁護士や事務所全体の負担が多くなりすぎてしまうことがあります。いわば顧問契約におけるムリ・ムラ・ムダが生じかねません。
本講座の第2巻では、第2部として顧問契約締結後の留意点を中心に解説します。
第1部、第2部の講座が、少しでも顧問契約締結を目指し、また顧問業務の対応にお悩みの先生方のお役に立つことができれば幸いです。
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