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【税理士向け】不動産オーナーはインボイスを導入すべきか
開始が迫ったインボイス制度ですが、不動産オーナーの多くは適格請求書発行事業者となるのか、それとも現状のままを維持するのか判断が迫られています。不動産オーナーがどのように対応すれば良いか、また税理士としてどのように不動産オーナーの顧客をサポートすれば良いのかを解説いたします。
インボイス制度(適格請求書等保存方式)とは
複数税率に対応した仕入税額控除の方式として、令和5年10月1日から「適格請求書等保存方式」(以下「インボイス制度」といいます。)が開始されます。インボイス制度は、仕入税額控除の要件として、原則、適格請求書発行事業者から交付を受けた適格請求書の保存が必要になります。
適格請求書を交付しようとする事業者は、納税地を所轄する税務署長に適格請求書発行事業者の登録申請書を提出し、適格請求書発行事業者として登録を受ける必要があり(登録を受けることができるのは、課税事業者に限られます。)、適格請求書発行事業者の情報については、国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」において公表されます。
参考:国税庁『インボイス制度 適格請求書発行事業者公表サイト』
インボイス制度が導入される背景
消費税は、売上税法案にあった「インボイス制度」の採用を見送り、事業者の事務負担を軽減するために帳簿方式によることで消費税の成立を優先したという事情があります。しかし、消費税創設当時から、消費者が負担した税が納税されないことになるのではないかという懸念が指摘されていて、消費税の定着とともに将来はインボイス方式にしていくことが望ましいと考えられていました。
【参考】売上税と消費税
売上税 | 消費税(創設当時) | |
---|---|---|
施行(課税開始日) | 昭和63年1月1日(成立しないまま廃案となった) | 平成元年4月1日 |
納税義務者 | 事業者及び輸入者 | 事業として対価を得て資産の譲渡・貸付け又は役務の提供を行う者及び輸入者 |
非課税 | 医療、社会福祉、教育、土地の譲渡、飲食料品、不動産賃貸、旅客輸送など51品目 | 医療、社会福祉、教育、土地の譲渡・貸付け、金融・保険など ※住宅家賃は、平成年3年10月1日から非課税とされた。 |
標準税率 | 5% | 3% |
軽減税率 | なし | なし 令和元年10月から飲食料品や新聞について軽減税率適用 |
累積課税の排除 | 前段階税額控除方式(税額票による) | 前段階税額控除方式(帳簿等による) |
課税期間 | 3か月終了後2か月以内に申告・納付 | 個人は暦年、法人は事業年度(選択により3か月とすることができる。) |
免税 | 年間課税売上高1億円以下の事業者については、納税義務者から除外する。 | 課税期間の基準期間における課税売上高が3,000万円以下の場合は納税義務を免除 |
簡易課税制度 | - | その課税期間の基準期間における課税売上高が5億円以下の事業者は、みなし仕入率(卸売業90%、その他80%)を用いて簡易に計算することができる |
限界控除制度 | - | その課税期間の基準期間における課税売上高が6,000万円未満の事業者について一定の算式により納税額を軽減する。(平成9年3月31日に廃止) |
インボイス制度の採用は、事業者免税点制度などによる「益税」(免税事業者が受け取った消費税相当額)の解消に役立つものになります。また、インボイス制度は、複数税率の下で、事業者が消費税の仕入税額を正確に計算するために必要不可欠な仕組みです。
免税事業者の不動産オーナー
消費税では、その課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者は、その課税期間における課税資産の譲渡等について、納税義務が免除されます※。
※その課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下であっても特定期間における課税売上高が1,000万円を超えた場合は、その課税期間から課税事業者となります。なお、特定期間における1,000万円の判定は、課税売上高に代えて、給与等支払額の合計額により判定することもできます。
特定期間とは、個人事業者の場合は、その年の前年の1月1日から6月30日までの期間をいい、法人の場合は、原則として、その事業年度の前事業年度開始の日以後6か月の期間をいいます。
免税事業者は、課税資産の譲渡等を行っても、その課税期間は消費税が課税されないことになり、課税仕入れおよび課税貨物に係る消費税額の控除もできません(課税売上げに係る消費税額よりも課税仕入れ等に係る消費税額が多い場合でも、還付を受けることはできません)。
多くの不動産オーナーは、居住用の賃貸収入が主たるもので消費税においてそれらの収入は「非課税売上」に該当します。そのため、基準期間における課税売上高が1,000万円以下となっていて「免税事業者」となっている人が大半です。
免税事業者である不動産オーナーが適格請求書発行事業者として登録を受けると、課税事業者に該当することになり、賃借人から適格請求書等の発行を求められても対応することができます。
課税事業者の不動産オーナー
不動産オーナーの中でも、店舗などの家賃が年間1,000万円を超えていて消費税の課税事業者である人もいます。その場合には、令和5年9月30日までに納税地を所轄する税務署長に適格請求書発行事業者の登録申請書を提出し、適格請求書発行事業者として登録を受ける必要があります。
この場合に、課税期間の課税売上高が5,000万円以下である人は「簡易課税制度」を選択することができますので、「一般課税」によるか否かについて慎重に判断しなければなりません。簡易課税制度を適用する場合の仕入控除税額の計算については、該当する事業ごとの消費税額に定められたみなし仕入率を乗じて仕入控除税額を求めることになるため、消費税の還付を受けることができないことに留意しておかなければなりません。
そのため、店舗やテナントビルを建築する場合で、仕入控除税額が仮受消費税額を上回ることになると予想されるときは、簡易課税制度を取りやめて「一般課税」になっておくことが必要です。
インボイス制度が免税の不動産オーナーに与える影響は?
今回のインボイス制度の導入で、免税事業者である不動産オーナーにはどのような影響があるのでしょうか。主なポイント3点を解説します。
テナント借主が別物件に移ってしまう可能性がある
免税事業者はインボイスを発行できません。そのため、免税事業者と取引を行う課税事業者は消費税の仕入税額控除ができなくなります。ただし、激変緩和措置として、インボイス制度実施後の6年間は一定割合の控除が認められています。
① 2023年10月から2026年9月末までの3年間
課税仕入れなどの税額×80%が控除可能
② 2026年10月から2029年9月末までの3年間
課税仕入れなどの税額×50%が控除可能
③ 2029年10月以降は控除不可
しかし、店舗、事務所及び倉庫などの家賃について、賃貸人からインボイスの交付を受けることができない場合には、退去を検討する契機になるかもしれません。また、免税事業者からの仕入れに係る消費税額の控除について、経過措置が設けられていても、賃借人側の経理処理が煩雑になることから免税事業者との取引は敬遠されることも予想されます。
賃料の減額を要求される場合がある
店舗、事務所及び倉庫などの賃料には消費税が課されることから、賃借人から仕入税額控除を受けるためにインボイスの発行を求められます。その場合に、賃借人が免税事業者であるとインボイスを交付することができないため、控除できない消費税分の値下げ要求があることが予想されます。要望に応えられない場合には、その場所から代替が可能な所に、転居する契機になるかもしれません。
免税事業者が消費税を転嫁して受け取っている場合には、消費税相当額は益税となっていますが、今後は課税事業者を選択しないと、賃借人からの値下げ要求などによって実質的な収入の減少につながります。また、免税事業者に消費税を支払っていた賃借人から、過去に支払った消費税相当額について不当利得返還請求などが行われるかもしれません。
課税事業者への移行を検討する必要性が出てくる
テナントなどの比率が高い不動産オーナーは、消費税の課税事業者を選択することになると思われます。適格請求書発行事業者の登録をすることで課税事業者となりますので、令和5年9月30日までに登録をしてください。
なお、アパートなどに併設されている月極駐車場の課税売上だけしかない不動産オーナーさんで、その収入額が少ない場合には、免税事業者のままとする選択も考えられます。その場合でも、事業者が賃借人である場合には、同様にインボイスの発行が求められ、交付できないときは消費税相当額の値下げ要求があると思われますので、個別に対応することになります。
不動産オーナーのインボイス制度への対応方法
不動産オーナーは、アパートなどに併設されている駐車場収入だけが消費税の課税売上である人が大半と思われます。一方、店舗や事務所、倉庫などの賃料収入が多い場合でも免税事業者である人(夫婦で共有にして収入を各人に分散し免税事業者となっている人もいます。)は、課税事業者を選択(適格請求書発行事業者の登録)することになると思われます。
その場合でも簡易課税制度を選択するのか、難しい判断が必要となりますので、専門家に相談し適切に判断しなければなりません。不動産オーナーのインボイス制度への対応方法のほか、令和5年度の税制改正による見直しについて詳しく知りたい方は動画で解説していますので、ぜひご覧ください。
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