お問い合わせ

お電話(平日9:00~17:30)

フリーダイヤルのアイコン 0120-00-8377 メールのアイコン メール

レガシィクラウド ナレッジ

士業事務所の「労使ミスマッチ」の解消|弁護士・社労士が知っておきたい採用と人事評価の実務

士業事務所の運営において、優秀な人材の確保と定着は最大の経営課題のひとつです。弁護士、税理士、社会保険労務士等の中心とした士業事務所は、高い専門性を持ち、少人数体制で運営される専門家集団です。

一般企業とは違う特性を持つからこそ、一人の職員のスキル・価値観・姿勢が事務所全体に与える影響が特に大きいと思います。事務所に合わない人が一人生まれてしまうと、業務効率や他の職員の士気が低下して、代表者の精神的負担にまで波及してしまうことは珍しくありません。

雇用(業務委託含む)した人と組織とのズレは「労使ミスマッチ」と呼んでいます。巷に言う「問題社員」という話も、突き詰めれば労使ミスマッチが発端のことも多いのです。社員だけの問題ではなく、ミスマッチを産んでしまうことには、組織側にも原因があるのです。

ミスマッチの発端は採用からです。単なる募集・面接での小手先のテクニックで採用することはとても危険です。そして、人を採用してからの組織の旗振りのために、人事評価制度の構築が求められます。今回お伝えするのは、こうした採用・人事評価の構築によって、労使ミスマッチを解消していくことの重要性についてです。

士業事務所のビジョンを実現するための採用活動と人事評価

士業事務所も人が集まって動く組織です。組織である以上は、全体で何を成し遂げようという目的が必ずあります。大企業が作るようなミッション・ビジョンのようなものがなくても、どんな分野に力を入れて、どんな事務所にしていきたいか等、何らかの中長期的なビジョンはあるはずです。

特に士業事務所では、業務の専門性が高く、また対外的な信用力が組織の成長に直結するため、信頼できる人材の確保が欠かせません。とはいえ、優秀な人材が集まっていても、事務所の理念、目指す方向性にあった「人」が集まっていないと、組織はバラバラです。

士業事務所では、独立した専門家が集まって、それぞれが独立採算で仕事をするという形態も多いのも事実ですので、そのこと自体が問題というわけではありません。ただ、昨今競争が激化した士業事務所の業界で生き残っていくためには、組織全体で戦えることが必要になるのではないでしょうか。

さらにもう一点、何より士業事務所の一組織で働く士業・職員に対して働きがいを与えることは、使用者の務めであると考えています。

数多くの労働事件を通じて、労使ミスマッチによって、採用トラブル、賃金トラブル、解雇や退職紛争などなど、労使双方が不幸になるケースを見てきました。「労使ミスマッチを起こさない」ということが、労使関係において最も必要なことだと痛感しています。

では、どうやって労使ミスマッチを起こさないか。ここで重要なのは「入口」となる採用活動と、「方向性を決める」人事評価制度です。

採用活動の全体は、組織にあった母集団形成から始まり、個別のミスマッチを防ぐための選考手法は重要です。採用を決めた後も、辞退されないようなフォローアップは必要ですし、さらにミスマッチに早期に気づくことができるようにもしたいものです。

ついで、事務所の方向性と同じ方向を向いてもらうこと、ズレていれば軌道修正をするための制度作りも大切です。ここで機能するのが人事評価制度なのです。

次項では、士業事務所における採用と人事評価の構築・運用について、現場で起こりやすい課題とその解決策を解説します。

その1~採用戦略で労使ミスマッチを解消する

まず採用活動についてです。
組織の経営戦略の核心に位置づけられるべきテーマですが、士業事務所特有の注意点があります。

それは、専門士業の事務所という特性から、採用の際に専門性や学歴、資格の有無といった“表面的な情報”にとらわれがちなところです。
たとえば、エージェントからの『即戦力』という言葉に惑わされ、協調性に欠ける人材を採用してしまったという声は少なくありません。

やはり、実際に働いていて問題になるのは、その人物の仕事に対する価値観や、周囲との関係性への姿勢等、「労使ミスマッチ」がないということが一番です。

組織の中で仕事をするということは、1日のほとんどの時間を事務所に捧げることを意味します。
だからこそ、結婚のように、ピッタリと合い、かつ優秀な人材と「マッチング」「マリアージュ」したい、そう思う気持ちはよくわかります。
ですが、こうした感覚が強すぎる採用活動は、期待値と現実のギャップを招くことが大半で、得てして失敗します。気負いすぎは禁物です。

むしろ「労使ミスマッチを避ける」という観点で、とにかく組織に合わない人は入れない、という姿勢がとても重要です。
なんだか消極的な印象かもしれませんが、これが肝だと思います。

以下は、具体的な採用プロセスに沿ってポイントの要点をお話しします。

採用でのミスマッチの種類

まず、採用におけるミスマッチにはどのようなものがあるのでしょうか。

それは、スキル、企業風土などの価値観、職場環境(人間関係)への適応など、ミスマッチには様々なものがあります。
これらのズレが生じると、離職リスクの上昇だけでなく、既存のチームに対する影響や、業務効率の低下など、目に見えない損失が拡大します。「合わない」人が職場にいるということによる弊害はとても大きいのです。

例えば、専門知識が十分でも、協調性や報連相の不足によりトラブルを引き起こすケースは後を絶ちません。士業事務所では個人能力と同様に、組織の一員としての行動が求められるため、採用段階での慎重な見極めが不可欠です。

採用段階での情報開示

採用のポイントは、相互に「聞いてなかった」「こんなはずじゃなかった」という点をいかになくしていくかがポイントです。

そのため、まず採用段階で必要なことは情報開示です。求人票、Webサイト、事前アンケート、試し出社制度など、“採る前にマッチングを確認する仕組みの構築が不可欠です。

求職者は、求人票やWebサイトを通じて事務所の第一印象を得ます。この段階で事務所の理念、求める人物像、業務内容、キャリアパス、待遇、福利厚生などの情報を明確に提示することが、良質な応募者を集める第一歩です。

また、近年では動画やSNSを活用した発信も効果的です。実際に働いている職員のインタビューや一日の業務風景などをコンテンツとして発信することで、応募者の不安を軽減し、信頼を醸成することができます。

こうして、まずは企業風土や価値観、労働条件などについてのミスマッチを防ぐことです。
決して背伸びはせず、事務所の方向を向いた方だけが応募してくれればよい、という等身大の母集団形成を目指しましょう。

採用選考で能力等のミスマッチを見極める

続いて、採用選考では、具体的な能力・協調性を見極めます。

履歴書や職務経歴書では、経歴の整合性、スキルの具体性、転職回数とその理由、退職理由の記載方法などを注意深く確認します。中でも『自己PR』欄は、応募者が自身をどのように理解し、表現しているかが如実に現れます。

志望理由書では、事務所の理念や業務内容に対する理解、なぜ他ではなくこの事務所を選んだのかという動機の明確さ、自身の成長目標との整合性を確認します。具体性に乏しい志望理由には、表面的な理解や準備不足の可能性があります。

面接は『見極め』と『伝達』の場です。事務所側は求職者のスキルや適性を評価する一方で、自社の価値観や求める姿勢を正確に伝える必要があります。

行動事例質問(STAR法)を用いた『過去の経験に基づく質問』は、応募者の行動傾向や問題解決力を把握する上で有効です。例えば『職場で衝突があった際、どのように解決しましたか?』『期限が迫る中で優先順位をどうつけましたか?』といった問いが挙げられます。

能力評価と適性検査の実施

選考段階で能力試験や適性検査を導入することで、より客観的な判断が可能になります。士業事務所では、文書作成力、情報整理能力、論理的思考、判断力が重視されるため、それらを見極める設問を設計します。

たとえば、弁護士の場合、事務所の専門分野についての興味や熱意を問うレポートを作成させることで、方向性のマッチングと文章力の両面を見ることができます。
事務職員であれば、Word・Excelで簡単な書面を作成させる、明らかにエラーのある書面のチェックをしてもらうテストなどです。

さらに、架空の事例を元に、クライアントとの模擬面談をやってもらうことで、実際の対応力・表現力を測ることができます。

あとは適性検査も馬鹿にできません。
協調性、ストレス耐性、規律性など、面接だけでは把握しにくい側面を数値として可視化できますが、結構当たっています。いわゆるポータブルスキル(持ち運び可能な素質面のスキル)を判断するために有効です。

内定から入社後のフォロー体制

さらには、内定後、入社までの期間に適切なフォローを行うことで、辞退や早期離職のリスクを大きく下げることができます。

オリエンテーションの実施、社内行事への招待、内定者同士の交流の機会などを通じて、内定者に『組織の一員としての実感』を持たせることが重要です。特に新卒や第二新卒には、不安や孤立感を軽減する効果があります。

試用期間は、求職者と事務所の双方にとって『適応可能かどうか』を確認するための重要なフェーズです。形式的にするのではなく、定期的な面談を通じて、上司との関係、業務の理解度、ストレス要因などを確認していきます。

また、入社前に数日だけ業務に触れてもらう“試し出社制度”も効果的です。拘束性のない中で事務所の文化や業務内容を体験することで、ミスマッチの早期発見が可能になります。

その2~人事評価制度の設計によって労使ミスマッチを解消

こうして、労使ミスマッチを生まない人材を採用したとしても、働いている間に溝が広がってしまっては元も子もありません。
また、既にいる人材との間でミスマッチが生まれつつある場合に、それをどのように埋めていくか、「ミスマッチの解消」も考えないといけません。
そのために活用できるのが人事評価制度なのです。

人事評価制度というのは、ある程度大規模の組織、最低でも数十人から100人規模以上で必要となる制度ではないか、数人とか10人にも満たない士業事務所ではいらないのではないか、と思われがちです。

ですが、規模の小さな士業事務所においても、組織の成長と職員の成長を連動させるためには人事評価制度がとても役に立ちます。

ここで、よくある過ちは、人事評価制度というのを、「毎年賃金を上げる年功型の制度をやめる・賃金上昇を抑制する」という目的で導入することです。
そういう一面はありますが、人事評価制度は、組織の方向に一緒に向かっていくための旗印でなければなりません。ただただ年功を脱するため、という目標に転換したとて、従業員のモチベーションが上がるかというと否です。

それではかえって事務所への忠誠心が下がってしまい、意識の面でミスマッチが生まれます。

単なる査定ではなく、職員の納得感を得ながら能力を引き出すための人事評価制度を作ることです。実際、多くの士業事務所では『それらしき制度はあるが形骸化している』という状態に陥りがちです。

組織の立ち位置やあるべき組織の形をイメージする

ということで、最初のステップは組織の立ち位置やあるべき組織の形をイメージすること。そこに向けてメンバーを走らせるというビジョンの整理です。

ここが抜けてしまうと、正に制度のための人事評価制度になってしまうのです。

その点を固めた上で、ビジョンや組織のあり方にあった等級の定義をすることがステップ2になります。

事務職・社労士・弁護士など、職域ごとに異なるキャリアパスを設計してもよいでしょう。
ただ、私の事務所では、事件専門のプロフェッショナルコース・社労士業務を含む労務顧問をメインとしたコンサルタントコース・管理職のマネジメントコースの3つに分けて、それぞれ資格者と非資格者を同じコースに入れた等級を組んでいます。
等級制度は単なるランク分けではなく、“どのような人材が評価されるのか”という事務所からのメッセージでもあります。

等級ごとに給与水準や手当の種類を設けることで、将来像が描きやすくなり、ここに合った職員の離職率が大きく下がるはずです。

スキルの明文化

そして、各コースに応じて、具体的な「スキル」の明文化です。これは事務所において必要な仕事・スキルの棚卸し作業です。事件専門のコース、顧問対応メインのコンサルタントコースでは、それぞれ求める能力や目標とするスキルが違います。これを具体的に作っていく作業です。

ここまで完成すれば、人事評価制度の枠組みはあらかた完成しています。

そして、評価制度は報酬と連動して初めて効果を発揮します。評価結果に応じて等級を変更し、役職手当、資格手当などの報酬項目を変動させる設計については、人件費率を考えた賃金シミュレーションを行いつつも、メンバーのモチベーションの上がる給与体系を作っていきたいです。

そして、最後に最も重要なことですが、人事評価制度は運用が命です。

スキルのフィードバック面談の場を設けつつ、将来の目標設定をすり合わせることで、ミスマッチに気づくことができますし、その解消に向けた話し合いができるのです。

運用をしながら、組織に合っていない、かえってミスマッチを生む人事評価制度であれば改善をしていくことです。

ミスマッチの解消のための人事評価制度導入ステップ

導入ステップは以下のとおりです。

ステップ①:理念の明文化
何のために働くのか、どのような価値を提供するかを全員で共有します。

ステップ②:等級制度とコース設計
専門職・管理職など職域ごとにキャリアパスを提示し、将来像を描けるようにします。

ステップ③:評価指標の整備
定量評価(成果・スキル)と定性評価(姿勢・価値観)を統合し、総合的に判断します。

ステップ④:②③と賃金制度を連動
等級の昇格の基準・賃金シミュレーション。

ステップ⑤:評価面談・フィードバック・目標設定・改善の実施

おわりに(ご案内)

以上のように、「労使ミスマッチの解消」という観点では採用戦略と人事評価が命です。良い人材を採ること、そしてその人材が長期にわたって活躍できるよう支援することは、事務所の持続的な発展に不可欠です。

この記事が、採用と人事評価のあり方を見直しのお役に立てれば幸いです。

なお、本記事で紹介した内容は、講義でより詳しくお伝えしています。全編を通じて、士業事務所ならでは課題について活用できるノウハウが詰めこんでおりますのでぜひご覧ください。

〇講義で得られる具体的ノウハウ

・募集段階で活用すべき求人票・募集要項の設計例
・履歴書・職務経歴書の読み方と“要注意サイン”
・問題社員を生まない、面接時の質問・適性検査の活用法
・士業事務所での理念・組織図・等級制度の考え方や作り方のヒント
・士業事務所での人事評価制度の作り方
・昇格・昇給のロジックと納得を生む伝え方

〇こんな方におすすめです

・これから士業事務所を拡大したいと考えている所長・代表者
・人事評価制度の整備に悩んでいる経営者・社労士
・顧問先への人事制度コンサルティングの一環として導入したい方
・労務や評価の基準づくりに専門的な裏付けがほしい弁護士・社労士

当社は、コンテンツ(第三者から提供されたものも含む。)の正確性・安全性等につきましては細心の注意を払っておりますが、コンテンツに関していかなる保証もするものではありません。当サイトの利用によって何らかの損害が発生した場合でも、かかる損害については一切の責任を負いません。利用にあたっては、利用者自身の責任において行ってください。

詳細はこちら